仲のいい三姉妹がもっと仲良くなるまでの話   作:テッポウユリ

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唇を尖らせる由佳利はちょっとギャップがあって可愛かった。

 

「確保ー!」

 

 湯上りでほっこりとした由佳利の両脇を、後ろから抱えるようにして持ち上げた。

 

「ひゃぁ?」

 

 素っ頓狂な悲鳴を上げながらなんとか抜け出そうと身を捩る。由佳利は丁度パジャマを着終わったばかりのようで、しっとりとした肌の上にボタンが外れて前もはだけたパジャマを身に着けていた。またホカホカの体温をしており、その枝毛一つない艶やかな髪も湿らせたままだった。

 

 身を捩るたびに水分で質量の増した髪が私の頬を叩く。それを見た亜加梨がドライヤーのスイッチを入れた。

 

 さらさらと流れるようになっていく毛先を鏡越しに見つめながら、目を白黒させたままの由佳利が口を開いた。

 

「どうしたの? 二人して……」

 

 その目には少しだけ呆れの感情が浮かんでいた。だがそれだけにしては余裕がなさそうだ。

 

 不思議に感じて体を舐めるように見回すと、由佳利が私の手元をチラチラ覗き見ているのに気が付いた。

 

 なんだかんだ触っているだけとはいえ、敏感な腋に手を突っ込まれるのはくすぐったいらしい。無反応を装いながらも、眉根を寄せて何とかくすぐったくないポジションに正そうと体を揺すっている。

 

 そんな由佳利を見て悪戯心が沸き、両手をクニクニと腋に食い込ませるように動かすと「ぴゃぁぁっ」と楽しそうな悲鳴が上がった。

 

「ひぃっ、やめっ、……ぃぃゃあ!」

 

 ほれほれ、ここがええのか。

 

 思考がピンク色に染まった私の頭を、亜加梨が手でパシンと叩いた。

 

 あうっ。

 

 ゼイゼイと息を切らす由佳利が私のことを涙目で睨みつけてくる。

 

「今日はそれをするために来たんじゃないでしょ」

 

 ため息をついて亜加梨が言う。

 

「ご、ごめん」

 

 つい楽しくなってしまった……。うちの妹は魔性の女だな。

 

 そんなことを考えていると、もう一度ペシンと叩かれた。

 

 あぅ。

 

 

 

―――

 

 

 

「用が済んだなら出てってよ……」

 

 私の指に弄ばれた形になった由佳利は不貞腐れた表情でそう言った。

 

 先ほどとは違い羞恥で顔を火照らせ、体は汗でしっとりとさせている。

 

「ごめんごめん、違うの。今日はこれを一緒に見ようと思って」

 

 そう言って亜加梨の手にあるDVDを受け取り、左右に振る。すると如何にもといった胡乱げな視線を向けられた。

 

 私が巧妙にパッケージを隠して手に持っていることに、由佳利はあっさりと気が付いた。軽くため息をつきながら、じっとりと湿った半目でこちらを睨んでくる。

 

「それ、自爆するんじゃないの?」

 

 由佳利の頭の中ではこのようなストーリーができているはずだ。「なんか怖いビデオを見つけた姉が妹をからかうためにこんなものを用意しているのだ」と。

 

 そしてだからこそこう言いたいのだろう。「末妹と同じレベルでホラーが苦手な長姉が、妹をからかって怖がらせるはずなのに、結局自分も怖い思いをすることになる」と。

 

 

「大丈夫だって。私はもう一度見てるから。全然怖いやつじゃないよー」

 

「嘘!?」

 

 由佳利は驚いた顔を見せた後、何かを疑う様に私を見る。

 

「本当だってば。亜加梨もそう思うよね!」

 

「うん……。私も少しだけ見たけど、怖い感じは全くなかったかな……」

 

 歯切れの悪い言葉に、由佳利は口元をへの字にする。

 

 もじもじとして動こうとはしない由佳利に私は焦れったくなり、伸びをして体を反らす。

 

「まあ何言っても無理矢理見せるんだけどね。はいっ、連行!」

 

 私と亜加梨は妹の両脇を抱え込む様に拘束し、宙に浮かせる。由佳利はもがくように暴れていたが、抜け出すのが無理だと悟ると静かに腕の力を抜いた。

 

「ま、ひか姉が見れる程度の怖さなら平気だし」

 

 唇を尖らせる由佳利はちょっとギャップがあって可愛かった。

 

 

―――

 

 

 

 三人でテレビの前に腰を下ろす。

 

「あれ? もしかして今更になって怖くなったの?」

 

 右腕を抱え込んで拘束しながら笑いかけると、由佳利の身体がビクッと体が震えた。さすがにこの直前になることで、強がりが怖さに塗りつぶされてきたようだ。

 

「まあ、これは大人用だから、由佳利にはまだ早いかもねー」

 

 左腕を抑え込んだ亜加梨がその力を緩めながら「逃げてもいいんだよ」と告げる。

 

 多分亜加梨はこれを本心から言っているのだろうけれど、由佳利には侮辱か挑発に捕らえられたようだった。

 

「大丈夫だし! ひか姉もあか姉も子ども扱いしないで!」

 

 奇しくもこれが今日一番の子供っぽい発言になってしまった訳だが、軽い怒りで冷静さを欠いた由佳利はその発言を堂々と言い放っていた。

 

 うちの妹は怖さなどで余裕がなくなるとかなり子供っぽい反応を返すようになるようだ。一つ学んで心の中のノートにメモをする。

 

「じゃあ再生するよ」

 

 久しぶりに見た年相応の言動に微笑ましさを感じながら、リモコンに手を伸ばす。その間由佳利は手汗で湿らせた右手で私の手首を離さないようにがっしり掴んでいた。

 

 ピッ。

 

 最初に映ったのは大きなベッドと二人の女性だった。

 

「へ?」

 

 二人の女性が絡み合っている姿を見て、由佳利が困惑の声を漏らす。カメラは徐々に近づいていき、画面が肌色で覆われていく。

 

 そう。今日のテーマはホラーじゃない。

 

「なっ。……なに、これ!?」

 

 ギョッとしたように目を見開きこちらを見てくる由佳利の頭を、無理矢理テレビ画面に向けさせる。

 

「自分で見られるって言ったんだもんね。目を逸らしたりしないよね?」

 

 そう耳元で囁くと、呆然とした表情でコクコクと小さく頷き、画面に視線を戻した。

 

 しばらくすると画面の中で二人で軽くやっていたものが激しくなっていき、私よりも年上の女性の色香が匂い立つ。由佳利は「あんなとこまで」とか「うそでしょ」とか声を漏らしているが、その視線は画面から離れる気配はない。

 

 おそらく由佳利は口を押えたり、目元を塞いだり、顔を手で覆ったりしたいとは思うのだが、両腕を掴まれているせいでそれらが全くできない状態だ。そのおかげで羞恥を飲み込むほど大きい好奇心や情欲を隠しきれず、コロコロ変化するその表情を観察して楽しむことができる。

 

 なんだか、幼い子供の価値観をぶっ壊しているようで気が引けるが、それ以上の背徳感がもの凄い。

 

 このビデオには軽度のSMまで入っているらしく、次第に一方的に責められていく女性を見て、由佳利は「あっ」と声を漏らし、息を呑んだ。どちらに感情移入しているのかはわからないが、確実に今までとは違う反応に笑みがこぼれる。

 

 

 

―――

 

 

 

 十分後、さすがに小学生には刺激が強すぎたのか、由佳利は誰に言われるでもなく食い入るように画面に魅入っていた。時折腕がビクンと跳ね、無意識に体まで反応してしまっている。

 

 同じ仕掛人であるはずの亜加梨にもこのビデオは強烈だったようで、由佳利ほどではないが画面から目を逸らせないようだった。

 

 画面から嬌声が流れると、二人同時に背筋を跳ね上げる。

 

 由佳利に至ってはもぞもぞと太ももをこすり合わせていて、年に似合わない淫靡な様を晒している。その上、口は僅かに開いており、そこから熱い溜息が漏れ出ていた。

 

 亜加梨はまだ周りを気にする余裕があるようで時折こちらをチラチラ盗み見ているが、由佳利にはそれがない。由佳利は羞恥心を放り去って、一心不乱にテレビに食い入っている。

 

 

 

 そんな妹を見て、ふと思う。

 

 学習能力抜群の彼女が、性知識を手に入れたらどう使うのか。

 

 自分で試す?

 

 いいや、もっと手軽にする方法がある。なんたって、今回の件の復讐と称していつもやられていることをやり返せばいいだけなのだから。

 

 日頃から近しいことをやっているのだ。それが『ちょっと』激しくなるだけ。ビデオで得た中途半端な知識では、罪悪感とかどころか大変なことをしているという自覚すらない状態で、無邪気に実行できてしまうだろう。

 

 画面を見ると、全身をピンと伸ばした女性が一気に体中の筋肉を弛緩させたところだった。しかしそのビデオはまだ終わらない。そんなのお構いなしと言わんばかりの責めが延々と続いていく。

 

「こんなこと、できちゃうんだ……」

 

 熱っぽい目でみるみる知識を吸収していく由佳利を見て、私の額を汗が伝った。

 

 これは私たちの日常がさらにレベルアップしてやって来ることを意味していた。

 

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