次の日から、由佳利が目を合わせてくれなくなった。
まるであれだ、夜中に目を覚ましたら両親の情事を目撃してしまった思春期の女の子のようになっている。……まあ、大して違いはないどころか、由佳利が見てしまったものの方がインパクトが大きいかもしれないのだが。
さすがにお母さんにも不信感を抱かれたらしく「あんたたち、喧嘩でもしたの? 日花里、また変なこと由佳利にしていないでしょうね」と叱られてしまった。
違うの! とは思ったものの、まさか真相を話すわけにもいかず、さらに言えば全くの的外れでもないその言葉に視線を伏せることしかできなかった。
ところでだ。
問題は私ではなかった。
普段から情けない姉の、人には見せられないレベルの情けなさが露呈したとしても、ぶっちゃけなんとかはなるだろう。
しかし、頼れるもう一人の姉のエスっ気たっぷりの恍惚とした表情を見てしまった純粋な妹はどうなるのだろうか。
結論を言うと、ひたすら逃げ回るようになったのである。
リビングに亜加梨が入ってくるとそそくさと席を立つ。顔を合わせると踵を返し、家の中からはドアが勢いよく閉められる音がよく響くようになった。
そしてこのあからさまな拒絶に対し、亜加梨は精神的ダメージを積み重ねていくこととなる。
___
「と言う訳で、第一回末妹の機嫌を直そう会議を始めます」
久しぶりに見る亜加梨の半泣きの顔に、姉魂に火がついてしまった。なぜかノリノリな私に、亜加梨はすでに涙を引っ込め嘆息気味だ。
「ようは亜加梨が怖くないんだってことをわかって貰えればいいんだよ!」
亜加梨をベットに座らせて、自分は勉強用の椅子でふんぞり返る。
性格まで美人な妹は人に嫌われることも慣れていないはず。そういう意味では今回の件の解決は私の方が適任と言ってもいい。わ、私が別に嫌われ者って言う訳ではないんだけどね!
「そうは言っても……」
私怖くないのに……と亜加梨は呟いているが、あの光景を見たら怯えても仕方ないと思う。私くらいの上級者(?)になれば問題ないけど。
だから目下やるべきことは――。
「亜加梨の可愛らしさをアピールしていけばいいかな。後は亜加梨なんて指先でちょちょいのちょーいだってわかるようにするのもいいかもしれないね!」
「おねえちゃんなんで楽しそうなの……」
じっとりとした目で亜加梨が見てくる。
ち、違うの! 亜加梨にあれ着せたりこれ着せたりしたいとか思ってないから! でもやっぱ着てみない? めっちゃ可愛い服をこの前見つけたんだけど。
ちょっと思考が暴走したら、これ見よがしにため息をつかれた。
結局、変な服は用意しないと固く約束させられることとなった。
そして最終的になぜか妹から、不出来な妹を見るような眼差しで見つめられることになった「第一回末妹の機嫌を直そう会議」は、上の妹の機嫌を若干悪くして幕を閉じた。
___
「これ、どういうこと!?」
数日後、ベッドに両手足を拘束された亜加梨が、珍しく険のある表情を浮かべて私を見上げてきた。
手足はピンと伸ばされ、身体を捩じることさえ辛そうだ。衣服は薄手のキャミソールに下着のみで、下手をすると裸よりもエロティックな見た目をしている。
まあ、こうしたのは私なんですけどね!
ベッドの脇には私と由佳利が立っている。
由佳利は戸惑ったようにもじもじと身体を揺らしていた。視界に亜加梨が入ってしまうと申し訳なさを感じるのか、慌てて顔をそむけている。その様子は抱きしめてあげたいくらい可愛らしかったが、今回の目的はそれではない。
「亜加梨が怖くないことをわかって貰おう作戦」
顔を赤くして手を動かそうとするが、そこは安物とはいえ、さすがは手錠。全く抜け出せそうにない。
亜加梨が怖くないことをわかって貰おう作戦とは、無防備で可愛らしい亜加梨を由佳利に見せ、一緒に愛でて……コホン。一緒に遊んで仲良くなろう、という作戦だ。刺激的な記憶と恥ずかしさの共有で、より一層仲を深めることも目指しているため、そばに立つ私たちもキャミソールのみの着用である。
「自由に、どんなことしてもオッケーだよ」
由佳利に語り掛けると、好奇心と罪悪感に揺れた瞳をした目線を左右に揺らした。
「どんなことも……」
「ほらほら」
由佳利の手を掴んで亜加梨のふくらはぎの辺りを触らせる。
「くっ、ちょっと……」
亜加梨が眉根を寄せて、端正な顔が少し歪んだ。
滑らかな絹のような手触りに、由佳利の心が奪われたのがわかった。由佳利はそのまま手を滑らせていき、その度に拘束している手錠からカチャカチャと金属音が鳴った。
「ほら、こんなことも」
顎の下を撫でると、亜加梨は必死になって顔を振り回す。ここを触られるとだいぶきついようで、先ほどから引きつった声を上げ続けている。
由佳利の小さな手は下腹部や内もも等、なかなか際どいところを責め続けている。この子には才能があるんじゃないだろうか。
「ちょ、お姉ちゃん! 由佳利を――って、そこぉぁああぅ、ダメダメダメ!」
由佳利の指先が衣服の中にもぐりこんだ瞬間、亜加梨が悲鳴を上げた。
「あっそこは爪で優しく引っ掻くとよく効くよ」
「ん」
「うぅぅぁ、何てことを小学生に教えてぇぇぁぁあんんん!」
モミジのような小さな手がペタペタと体を撫でまわす度に、亜加梨から甘い声が滲み出る。いつの間にか由佳利も笑顔を浮かべていて、楽しそうに様々な場所へと手を伸ばしていく。
普通は同性でも躊躇してしまいそうなアンタッチャブルな所まで遠慮なく刺激して嬌声を搾り取っていく光景は、まるで自由自在に音を鳴り響かせるピアニストのようだった。
「ふぅぅっ、一旦、休憩、しによ。ういいぃぃぁぁあああ! 休憩! ストっほぉああああ」
「由佳利やるねえ」
由佳利は亜加梨に喋らせることすらさせないつもりの様だ。段々と由佳利の目に熱っぽさが生まれ、私の言葉にも反応しなくなっていく。
一方亜加梨は可愛らしい反応すら返すことができず、顔を真っ赤にしていた。口を開いている途中に遮られることで、思いがけないところから声が出てしまい、結果として「周りを意識した嬌声」ではなく、「取り繕う余裕のない悲鳴」に次第にシフトしてきていた。
十五分ほどたつと、変化が生まれ始めていた。
一心不乱に熱中して楽しんでいる由佳利はそのままだが、亜加梨の体力が尽き始めたのだ。慣れない行為に力を使い果たしたのか、ぐったりと力を抜いて由佳利の手を受け入れるようになった。時々ピクピクと反応するものの、基本的には声を垂れ流すばかりだ。思春期の女の子がしてはいけないような表情を隠すこともなくなり、視線は宙に固定されていた。
「んひぃ、ん。んあぁ」
目をとろんとさせ、無抵抗な様子の亜加梨を見て、そろそろ限界かと思い腰を上げた。
腋を掴んで由佳利の小柄な体を持ち上げると、一瞬硬直した後に耳の先から首筋までが真っ赤に染まっていった。どうやら私のことを完全に忘れていたようだ。
「どう、楽しかったでしょ」
「えっと……」
下からにやけた顔でのぞき込むと、由佳利は目をあっちこっちに向けながらも小さく頷いた。そしてその答えに私の口元がニューっと上がっていくのを見て、少しだけむっとした表情を浮かべた。でも、
「でも、まあ、あか姉、かわいかった……」
上気した頬でうっとりと言う由佳利。詰まるところ、私たち姉妹は似た者同士ということなのだろう。
亜加梨はいつの間にか気絶したように眠りについていた。私たちは手分けをして顔を拭い、拘束具を取り外し、服を着せ替えた。せっかくだからと姉妹三人、川の字で眠ることを決めた頃には、丁度正午の日差しが惰眠を貪ろうとする私たちに降り注いでいた。