あの日、私たち姉妹の仲はより一層深まることとなった。
普段からベタベタしているなかなか稀有な姉妹関係だったとは思うが、さらにスキンシップが激しくなり、両親から奇異な目で見られるようになった。
特にツンデレな由佳利がデレたことが大きく、三人で引っ付き合っていると母親から「いい加減妹離れを……」なんて言われるのも一度や二度ではなくなってきた。
でも、まだ物足りないのだ。
何がって?
だって、まだ、由佳利の可愛い顔を拝んでいない……!
確かに由佳利はまだ幼い。あんなことをしてしまえば体力的にも心配だし、もう手遅れかもしれないけど、変なものに目覚めさせてはいけない。さらに言うならば、だいぶ前にくすぐりすぎて本気で嫌われそうになったばかりだ。
それでも、それでもあの時の由佳利を忘れずにいる私は何と罪深い姉なのだろう。
今回のことで、締めていたはずの箍がまた緩み始めているのを感じていた。敷居が低くなったというか、「由佳利も責める方をやっていたんだからやられてもしょうがなくない?」と考えるようになった。
そしてとうとう亜加梨に相談をしてしまったのだ。由佳利にもあの体験をしてみてもらいたいと。
これが間違いだった。人間、一人では勇気が出ないことでも同じ考えを持つ人が複数いると、何となく流されてしまうものだ。
そう、亜加梨はこの提案に乗ってきた。小悪魔のように赤い舌をチロリと出して、「私もあんなに恥ずかしい思いを由佳利にさせられたしね」とほほ笑んだ。
弁明させてもらうとすれば、これは、由佳利を苦しめるためのものでは決してない、と言うことだ。私たちは由佳利が大好きで、大切に思っていて、だから同じ体験をして「もっと仲良くなりたいな」と言う気持ちで行動しているのだから。
だが、こういう経緯から、ここに由佳利包囲網が完成することになった。
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えー、只今の時刻は、午前六時であります。
電気をつけずにパジャマ姿のまま部屋に立つのは私と亜加梨の二人。部屋は母親の趣味でピンクに彩られているが、置いてある小物はシックな物が多い。無理矢理可愛らしさを消したような趣もあり、この部屋の持ち主が頑張って背伸びをしているのが感じ取れる。
そう、ここは由佳利の部屋である。
当の本人は幸せそうな寝息を立ててベッドの中で丸まっている。時折、枕に甘えるかのように頬をこすりつけているのが見ていて微笑ましい。
私と亜加梨はそれぞれ由佳利の頭側と足側に分かれて、ベッドの上に優しく腰掛けた。そのまま掛け布団を優しく剥ぐと、パジャマに包まれた小さな体躯が露になる。
ふと顔を上げると、いたずらっぽく笑みを浮かべた亜加梨と目が合った。「どうする?」「やっちゃおっか」「最初はゆっくりね」「お姉ちゃんこそ」こんな会話が一瞬のうちに交わされた気がした。
だからと言う訳でもないけれど、手を伸ばしたのは全く同時だった。私は羽根をもって顔の付近に行き、亜加梨は筆をもって裾を捲り上げてお腹を狙った。
「んふっ」
私の羽根が鼻の周りをくるくると動くと、由佳利は小さく息を漏らした。羽根はその後、顔中を這いずり回った。時には口を開かせようと真一文字に結ばれた唇の上を左右に往復し、時には耳の穴の中にまで侵入し、こそこそと音を立てた。
「むぅ」
由佳利がむずがって顔を左右に振る。そして、一分もしないうちに長いまつげがぴくぴくと動き出した。
とろんとした瞳を瞬かせる由佳利。さすがの由佳利でも、目覚めてすぐは頭が働かないらしい。そもそも小学生である由佳利は、朝の六時に活動する機会はほぼないだろう。
体の違和感に手足を伸ばしたり縮めたりしているが、私たちの手はその抵抗をかいくぐって体の中に潜り込んだ。
「ふんっ……んぁ」
次第に由佳利の鼻息が荒くなっていく。さらさらした髪がほつれてくしゃくしゃになりだした頃、あたしの両手がガシッと掴まれた。
「ひか姉、何してんの」
じっとりとした目を向ける由佳利。気が付けばあれからさらに五分ほどたっており、さすがに目も覚めるというものだ。覚醒してすぐ長姉にからかわれていることを悟ったようだ。置かれている状況がわからずパニックを起こしている由佳利を見れなかったのは残念ではあるものの、本番はここから。
私が視線を軽く向けると、真剣な顔で頷く亜加梨。由佳利は不思議そうにその視線の先を追い、亜加梨が手を伸ばしてきているのを見て、顔を凍り付かせた。
「ひいぃぃゃあああ」
甲高い悲鳴が鳴り響いた。
亜加梨の手は優しく腰のあたりを揉みこんでいた。腰から下に降りて行ってお尻を通り過ぎ、さらに太ももを撫でまわすと上に戻っていく。これがたまらなくくすぐったいようで、非力な体で信じられないほどの力を出して暴れまわっている。私たちはこれを押さえつけるように由佳利の身体の上に腰を下ろした。
だが馬鹿力はいつまでも続くものではない。すぐに体力は底をつき、抵抗が弱弱しくなっていく。元々非力な由佳利が脱力すると、ふにゃふにゃの寒天みたいになった。
「はふっ、はうぅ」
そのままくすぐったいところと気持ちいいところを同時に撫でてやると、顔を真っ赤にして口をパクパクと開いた。
何これかわいいんですけど。
可愛さに負けて、つい人差し指をその開閉している口の中に突っ込んだ。
「んむっ!?」
驚いたように眉を上げる由佳利。私はその反応に気を良くして、指で頬の裏をこする。
「んあっ、ふぃかねぇ」
「んー? どうしたー」
「へ、へんだよ、それぇぇ」
口蓋をさすり、歯茎をねっとりとなぞる。舌を絡め捕りながら指を引っこ抜くと、未知の感覚に目を白黒させた由佳利と目が合った。いや、なんだか焦点が合っていないようだ。
「あ、いいなー。お姉ちゃん、それ。私もやりたい」
「後でね」
私が笑いながら長女特権を利用すると、亜加梨はむうっと口を尖らせた。その間由佳利は口を半開きにして、そこから零れて伝う涎を気にすることなく、虚空を眺めていた。
結局、七時頃には私たちもすっきりとした表情を浮かべ、由佳利は解放されることになった。あれからも口の中を二人で交互にくすぐり続け、日常ではありえない初めての感覚に翻弄され続けた由佳利の情けない悲鳴をたっぷり聞くことができた。
普段弱音を吐こうとしない初心な女の子の切羽詰まった困惑の鳴き声は、素晴らしいものであった。
ふと見ると、なんだか亜加梨の顔が艶々としている。私がニヤニヤしながら指摘すると、亜加梨はこちらを指さして、「お姉ちゃんこそ」と言った。なんだ、どっちも変態じゃないか。
私たちの様子を涎と涎の跡を残して情けない格好で聞いていた由佳利は、精一杯憮然とした表情を浮かべ「目くを鼻くそを笑うだね」とぽつりと呟いて鼻で笑った。
強がりなのは見え見えだった。けれども、私たち二人は傷ついた表情をした。そしてこっそりと笑みを浮かべ、由佳利に向き直る。
この後、第二回戦が開かれたことは言うまでもないだろう。
ゆりずきがもっとふえたらうれしいです