仲のいい三姉妹がもっと仲良くなるまでの話   作:テッポウユリ

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亜加梨、りぷれい

「う゛ぁー、疲れたよ……」

 

 亜加梨が夏合宿から帰ってきた。文字通り疲労困憊と言った有様で、帰って来るなり制服のままソファーに倒れこんだ。

 

 しかし私は知っている。

 

 今の今まで、疲れなんて微塵も感じさせない顔で友達に手を振って別れを告げていたことを。

 

 この子はそういう見えを張るタイプなのだ。今頃亜加梨の友達は体力の底の見えない亜加梨に驚き、そして感心している頃だろう。

 

「お姉ちゃん着替えさせてー」

 

そして家の中に入るなり、お母さんがいないからと言って私に物凄い勢いで甘えだす亜加梨。でもやっぱりその姿が可愛くて、つい世話を焼きたくなってしまう。

 

 手際良くプリーツスカートとシャツをはぎ取り、部屋着を被せていく。亜加梨はもぞもぞと私の手の動きに合わせるように体を動かし、器用にTシャツの袖に手を通した。

 

 去年は家族の前でも気丈な様子を崩さなかったから、実はたいしたことのない合宿なのだろうと勝手に思っていた。しかし、この様子を見るに、前回は私たちの前でも弱音を吐かなかっただけらしい。

 

 最も、今回は少し大げさにしているみたいだけど。口元はにやけていて、目が合った瞬間さっと目をそらされた。

 

 でも可愛いから許す。

 

「マッサージもしてー」

 

 着替えも終わっていないのに、甘えた声を上げる。それでもやっぱり私は「しょうがないなぁ」と言いつつ、うつ伏せになった亜加梨に跨り、背中のあたりに手を添えた。

 

___

 

 

 背中に親指を押しこむ度に、鼻にかかった喘ぎ声のようなものと一緒に花の香りが部屋に巻き散らかされる。

 

 どうして私の妹はこんなに色っぽいのだろうか。

 

 体中がその匂いに包まれると、思考が曇り、ぼんやりとした気持ちになっていくのがわかる。

 

 だから、リビングのドアが開いたことに全く気付かなかった。

 

 気づいた時には、由佳利が私たちを見下ろすように立っていた。

 

 由佳利はドアをゆっくり閉めると人差し指を口に当てて、ベッドに寝転んだ亜加梨と視線を合わせるようにしゃがみこんだ。

 

「あか姉、気持ちよさそうだねえ」

 

「っ!」

 

 によによと口角を上げながら由佳利が言う。緩んだ顔を妹に突然覗き込まれて、亜加梨はギョッとすると同時に恥ずかしそうに顔を赤くした。そのまま慌てて立ち上がろうとソファーのひじ掛けに手をついたが、体は一ミリも浮くことなく再び沈み込んだ。

 

 疲労困憊の上、腰には私が跨っているのだ。リラックスして力の抜けきった亜加梨が立ち上がれるはずもない。

 

 亜加梨が抵抗できない様子を見ると、何かを思いついたように

 

「そっかー、今日はお疲れ様。いい子いい子ー」

 

と言い、良い笑顔を浮かべて頭を撫でだした。

 

 由佳利が赤ちゃん言葉でからかいながら頭を撫でると、見る見るうちに亜加梨の体温が上昇していった。何とかして顔を由佳利から背けようとしているのだが、由佳利は頭を抱えるようにして撫でているため、それすら叶わないようだった。

 

 由佳利は何とも上機嫌に言葉を投げかけ続けている。

 

 由佳利、楽しそうだなあ。

 

 そんなことを思いつつ、マッサージを続けながらお尻や太ももの方まで手を伸ばす。ちょっとした出来心でお尻の中心を指でなぞると、「ひゃっ」と声を漏らして、体がビクンと跳ねた。

 

 あっ、これ面白いかも。

 

 いちいち反応してくれるのが面白くて、つい続けたくなってしまう。スーッと人差し指一本でなぞるだけで、「ひはぁ」とかいじらしい声を出されると、やってるこちらも楽しくなるというものだ。

 

 由佳利は楽しそうに髪を梳き、耳の裏を引っ掻きながら首筋を撫でて遊んでいる。

 

 私がお尻を弄ると太ももにびっしりと鳥肌を立たせ、由佳利に顔をさすられると今度は二の腕に鳥肌を立て、なんだか忙しそうだ。

 

 次第に強制的に息を吐き出し続けさせられた亜加梨の呼吸が荒くなる。

 

 小動物がしていそうな「フッーー、フッーー!」という威嚇音みたいな音を上げているが、逆にそれを途切れさせるのが結構楽しかったりする。

 

 途中で詰まると「ふーーっひあぁ」のようなちょっと間の抜けた反応を返してくれるのだ。

 

 私と由佳利は夢中になって、どっちが先に音を上げさせられるかを競い合うようにこの遊びに没頭していった。

 

 

―――

 

 

「ふぁ、も、もぅ、いいでしょ……。んぁ、みゃっ、マッサージも、もーいいから……」

 

 か細い声で亜加梨が言った。

 

 丁度私が五本の指を使ってお尻の上で開いては閉じてを繰り返していた時のことだった。ちなみに由佳利は両耳の穴に小指を突っ込んでぼそぼそと小刻みに動かしていた。

 

 かわいそうなことに亜加梨は口元から垂れそうになる涎を拭えず、ぷるぷる震えることしかできていなかった。

 

 時間が経ち、息が切れると長い言葉を続けて言うことができないらしく、「あっ」とも「んっ」とも言えない声を上げ続けて虚空を見つめていた。

 

 かろうじて絞り出したその言葉に私としては十分満足したので手を止めたのだが、由佳利は違った。

 

 何か名案を思い付いたようで、私に耳打ちをしてきた。コソコソと耳に当たる息がかなりくすぐったい。

 

「なるほど。まあ、いいんじゃないの」

 

 私としてはどっちでもいいけど。でも、少し面白そうだから軽く頷いて同意を示す。

 

 亜加梨がどこか怯えたような視線を私たちに向ける。特に、によによとした笑みを浮かべ続ける妹の方を。

 

「と、言う訳で、私のこと由佳利お姉ちゃんって呼んでくれたら止めてあげる」

 

 最後にノリノリな様子で由佳利はこう言った。

 

 『お姉ちゃん』

 

 それは私にとって当たり前に掛けられる言葉だ。こう呼ばれるだけでどんなに妹たちが優秀でも、私のちっぽけな自尊心が満たされるのを感じる。

 

 逆に言うなら、絶対この立場は手放したくない。それは、亜加梨も思っているのではないだろうか。

 

 由佳利はそんな年功序列の立場に、反逆を企てたのだ。

 

 亜加梨の目には困惑の色が宿り、投げかけられた言葉の意味に気づくと羞恥でカッと瞳を燃え上がらせた。けれども、もう一度耳たぶをカリカリと引っ掻かれると「んぅ」と声を漏らし、瞳の輝きを曇らせた。

 

 抵抗は一分にも満たずに終わりを告げた。というか、ここまでの責めで精神がボロボロになりつつある亜加梨にろくな抵抗はできなかった。

 

 カリカリカリカリと指が動く度に眼の色が濁っていき、最後には蕩けきった瞳を瞬かせ、ぎゅっと真一文字に結ばれていたはずの唇がゆっくりと開く。

 

「わ、わかったから……。その、ゆかり、おねえちゃん……」

 

 ――おお、これは破壊力あるわぁ。

 

 甘えているような声なのに、どこか拗ねた様子が感じられる。いつも言動がしっかりしているからこそ、無防備に心を開いている感じがたまらない。

 

 隣の由佳利を見ると恍惚とした表情を浮かべている。お姉ちゃん歴十四年の私と違い、初めて自分に向けられた『お姉ちゃん』と言う言葉が強烈すぎたようだ。

 

 私は「もう一回……」と呆然とした様子で呟く由佳利に軽くチョップして正気に戻し、亜加梨が掻いた汗をタオルで拭きとった。

 

 

―――

 

 

 着替えの最中にこんなことを始めたせいで、ズボンを履かずに下着の見える状態のまま過ごしていた亜加梨がそのことに気づき、半ば八つ当たり気味に私の服まで脱がそうとして来るまで、あと十分。

 

 

 

 

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