突然だが、あなたはお化けを信じるだろうか。
私は中学に上がるまではいるものだと信じていたし、お化け屋敷なんか入る前に泣き出すほどの怖がりだった。
実は今でも結構怖い。
高校の文化祭のお化け屋敷でさえ、私にはハードルが高い。前に涙を滲ませて放心状態から立ち直れなくなってしまったために、お化け役の男子からものすごい勢いで謝られたことまである。
亜加梨は私と同じで長らくお化けの存在を信じていたが、こういったものに耐性があるのか、あまり怖がるそぶりは見せなかった。今では驚かされれば驚くけれど、お化け屋敷ではそれを楽しめるようになっているようだ。
ここで何を言いたいかというと、『お化けを本気にしているかどうかと、ホラー系が苦手かどうかは必ずしも一致しない』ということである。
さて。
由佳利は聡明な妹だ。幼稚園の時にはすでにサンタクロースの正体を暴き、小学校に上がる頃には我が家の金銭事情をしっかり把握した値段のプレゼントをお父さんに頼むようになった。
お化けについては「物をすり抜けるとかありえないし――」などとませた発言で全否定している。
この前置きから勘のいい人なら何が言いたいか分かるかもしれない。
そう――。
由佳利はホラー系が『大の苦手』なのだ。
―――
今は三人でホラー映画を見ているところだ。
由佳利は青ざめた顔でテレビを凝視している。右手で私の袖を、左手で亜加梨の袖を強く握りしめて震えている。
「そんなに怖いなら、先寝てたら」
軽い感じで笑いかける私も余裕はない。と言うより、由佳利にリタイアしてもらって、それに着いていく形で抜けようと思ってこの発言をしている。
先に一人でベッドに向かうのは長女としてのプライドが許さなかった。
由佳利は薄目でテレビを見ているが、もう遅い時間なのもあって時々眠そうに目を瞬いている。ただこの中途半端で抜ける方が逆に嫌だそうで、なかなか立ち上がるそぶりを見せていなかった。
それにしても怖すぎるんだけど!
恨めしげにこれを録画した亜加梨を見るが、気づいた様子も見せようとしない。それどころか驚かされる度に「キャー!」とかわいい叫び声をあげてけたけたと笑っている。
ずるいなあと思いながら視線をテレビに移すと、その途端画面一杯に血塗れの女性が頭が映し出された。
「っっっっ!!!」
左手が由佳利に力強く引っ張られ、そんなことに意識を向けることができないほどの驚きが私を襲う。
こーゆー系ムリだって!
叫んだはずなのに声が出ない。目は見開き、口の中が乾燥していく。
こうして致命的な不意打ちを食らった私と由佳利は、結局呆れた顔をした亜加梨に連れられて介護されるように別室へと連れて行かれた。
―――
十分ほどするとバクバクしていた心臓も落ち着きを見せ、何とか余裕のある顔を取り繕うことができるようになった。ちなみに由佳利の手は未だ私の服を掴んだままで、そこにいじらしさを感じる。
「私と一緒に寝るんだったら、どうなるか分かってるよね~」
ベッドに腰かけ、手をワキワキさせてからかって見る。
由佳利は結局私の手を放さず、「一緒に寝る!」と言い張って部屋まで付いてきてしまった。正直私としても夢にさっきのが出てきそうだしウェルカムな気分ではあるけれど、何か茶化していないとこの薄っぺらな虚勢さえ剥がれ落ちてしまいそうだった。
由佳利はその言葉に怯えるように体を震わせた。しかしその後、か細い声でこう言った。
「な、何してもいいから……一緒に寝て……」
……。
私はにやけた笑顔のまま固まった。私が返事を返さないことにより沈黙が訪れ、二人で向き合ったまま時間が過ぎた。
え……。いいんだ。
それだけさっきの映画が怖かったのかな?
ようやっと解凍された私はぎこちない笑顔で下を見下ろすが、そこにはそんな様子にも気が付かず一心不乱に握りしめた私の服の裾を見つめている由佳利がいた。
罪悪感という刃が私の心をごっそりと抉っていった。
―――
明かりを消してベットに入ると、もぞもぞと由佳利が私の腕の中に体を入れていく。すっぽりと収まるサイズでかなり抱き心地が良い。柔らかな感触と仄かな熱でリラックスした気分にさせられる。
「ひか姉」
そうして幸せな気分で目を閉じると、由佳利が顔を私のお腹に押し付けてくぐもった声を漏らした。
「その、今日は何もしてこないの……?」
その不安七割、疑問二割の中に一割だけ混じった期待の響きに私は気が付いてしまった。
あれ……?
あれれ……?
これはやらかしたか。
どこか物欲しげな表情を浮かべる由佳利を見てそう思った。
確かにこの前はやりすぎだったかな……。多分そういったことに興味もまだあまりない小学生には、ほんのちょっと、いや少し、えーと結構激しいことをしたような気がする。
小学生の妹にイケない遊びを教えてしまったのかもしれない。
由佳利は布団の中で体を私に押し付けるように動かしている。
「もしかして……『何か』されたかったの?」
「え、違――ひゃぁ」
赤らめた顔でバレバレの嘘を吐こうとした由佳利のお腹をぐにっと掴むと、蕩けるような甘い声が上がった。
うわぁ。なんていうか。
エロい。
それに尽きる。
「そっか。由佳利はそんなエッチな子になっちゃったのか。お姉ちゃん悲しいよ」
「ち、違うってば!」
無意識にしているであろう体の揺すりを止め、ぎょっと目を見開く。そして自分の中の気持ちを指摘されてしまったことで、その気持ちが表層へと表れていく。同時に自分の求めていたものがエロい、つまりは恥ずかしいことだと認識してしまい、羞恥に飲まれていくように頭から湯気が立ち上り始めた。
「あ、違う、違うの……。そうじゃ、なくて」
おろおろと視線を動かす由佳利。だんだんと自分の気持ちに自信が持てなくなってきたようで、最終的には「わたし、わたし……」と声を詰まらせていた。
このまま由佳利の様子を見ているのも面白そうだけど……。
でも期待して待っている妹を放って置くって言うのは姉として失格だよね!
そう自分の中で言い訳をするが、本音では今色々したらとても楽しいことになりそうだなぁと思っていた。
と言う訳で。
えいっ。
ちゅっ。
額にキスをすると由佳利はポカンとした表情で私を見た。
唇に感じる熱が心地良い。その熱がキスと共に私に伝わってくるような気がした。
なぜだか今まで何度もしたことがあるのに、こちらまで恥ずかしさを感じてしまう。由佳利の顔は火照っていて、その熱を吸い取った私の頬も赤くなっているのだろうか。それはわからないが、自分でも何かに興奮していることは理解できた。
「ひかねぇ――」
由佳利の口が小さく開いた。私のことを呼んだ後は口をすぼめたり開いたりしていて、何を言っているのか聞き取れなかった。
だが私の耳は勝手に幻聴を感じ取った。
『もっと……』
「何? もっとして欲しかった?」
その言葉に対して、由佳利は潤んだ眼をこちらに向けるだけで肯定も否定もしなかった。
そこで私は由佳利の肩を抱え込む様に持ち上げると、有無を言わさず鼻の頭、頬、目尻、口角、首筋と徐々に下に向かいながらキスの雨を降らしていった。
由佳利は楽しそうに「きゃはぁー」と声を上げて身を捩る。私はその抵抗を片腕で抑え込み服の裾を一気に捲り上げた。
「へっ?」
あまりの勢いに何が起こったのかわからなかったようだが、半脱ぎの状態で両腕を押さえつけられていることに気が付くと猛然と暴れだした。しかしそこは体格差もあってあまり障害にはならない。
そのまま体を被せて鎖骨の辺りに唇を落とす。
ちゅっ。
「ひぅ」
優しく、焦らすように腋の近くにもう一つ。
「ふぁ」
お臍の真ん中にも。
「っ!」
キスをする度にビクッと震え、小さな声が上がる。そんな白くて小さな身体が愛おしくて、私はいたるところに口を寄せていった。
気が付いた時には由佳利は無抵抗に私を受け入れるように寝そべっていた。私の手はなぜか無意識にゆっくりと由佳利の身体中を撫でまわしており、それが過敏な所を通る度にあられもない声を響かせる要因となっている。
私は息を整え幸せな気分に浸りながら眼下を見下ろした。服は大きく乱れて、目には涙が溜まっている。顔は火照っており、うわ言のように私の名前が囁かれた。
うん。今日はよく眠れる気がする。
得も言われぬ満足感が私を包む。
ただ、このまま寝てしまうのが惜しくて、最後に思わずスマホのカメラを起動した。
もう一度ベッドに戻ってくる頃にはすうすうとした寝息が聞こえはじめ、その音を子守歌に私の意識は深く沈んでいった。
―――
後日、その写真は亜加梨には大好評だったが、一週間もしないうちに二人で眺めてニヤニヤしている現場を抑えられてしまった。ひと悶着あったものの、最後は真っ赤な顔の由佳利にぽこぽこ叩かれながらあえなく削除されることとなってしまった。