仲のいい三姉妹がもっと仲良くなるまでの話   作:テッポウユリ

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息を切らしている亜加梨はかなり不審に映ったらしい。

 

 ある晴れた昼下がり、私と亜加梨はベランダに通じるドアを開けた。

 

 その日はカラッとした快晴だったため、スライドドアを開けた途端にエアコンで冷えた体に心地良い温かな風が、部屋の中に吹き抜けた。

 

 ベランダには家族五人分の洗濯物がユラユラと揺れており、私たちは顔を見合わせると、慣れた手つきで服を部屋の中に取り込み始めた。

 

 家の中の亜加梨は甘えん坊な一面がある。私としてはそこがチャームポイントだと思っているのだが、亜加梨はそれを表に出したがらない。彼女はクラスではしっかり者の優等生な訳だし、一度着いたそのレッテルを容易に剥がしたくないという感情がそこにはあるようだ。

 

 そのせいか、家ではあんなに甘えてくる癖に外ではしっかり者を気取っている亜加梨は、ベランダに出た途端に雰囲気を変えていた。どうやら家の敷地を出た訳でなくても、外から見える場所ではこのキャラを壊したくないらしい。

 

 凛とした雰囲気で、しかしにこやかな笑顔を浮かべる彼女は、私なんかよりもずっと頼りがいのある見た目をしていた。その横顔は余裕のある落ち着いた風貌と相まって、とても年下には見えなかった。

 

 ……。

 

 このままでは長女の座を奪われてしまう……。

 

 そんな危惧が頭の中にふとよぎった。そして、浅はかな考えではあるとわかってはいたが、私にとって唯一頼れるパターンにもっていこうと、私は亜加梨の服の中に左手を突っ込んだ。

 

 そんなものにしか頼ることのできない自分が情けなく感じるが、この時はなぜかこれでうまくいくという根拠のない自信があったのだ。

 

 

 

―――

 

 

 

「お姉ちゃんっ」

 

 家の中ではあまり抵抗することのない亜加梨の咎めるような声に、心が浮き立った。私はその声を無視するようにお腹の方へと腕を回していく。

 

「ちょっとっ! ここ外だよ!」

 

 静かな声で器用に怒り声をあげる亜加梨。しかしそれを無視して右手を持ち上げる。

 

 触れるか触れないかの微妙な強さで脇腹を撫で上げると、そのまま顔へと手を伸ばす。首筋を撫でながら顎のラインを通って耳へと到達させる。そこから耳たぶをフニフニと揉んで、髪の毛に手を突っ込んだ。髪の毛はさらさらとして手触りがよく、それを楽しみながら手櫛で梳くように頭を撫でた。

 

 亜加梨は真っ赤な顔で小さな唸り声をあげて、妖しい刺激に耐えていた。

 

 最後にうなじをすっとなぞるとピクンと体が跳ね上がった。

 

 少し潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。さすがに周囲の目が気になって理性を捨てきれないようだが、思考が徐々に傾きつつあるのが感じられた。

 

 ねっとりと、少しずつ。理性を一枚一枚はがしていけるように、強い刺激を与えないように気を付けて手を動かす。

 

 固く握りしめていた亜加梨の拳が少しずつ緩む様が目に映った。体全身も強張りが解け、ゆるゆると力が抜けていく。

 

 そして、亜加梨の精神が侵されきった時、その手から取り込んだバスタオルが滑り落ちた。

 

「あっ」

 

 タオルがプラスチック製のベランダの床に広がり、軽く積もった砂のようなものが巻き上がる。それを拾おうと屈んだ時、下から声が聞こえた。

 

 

 

―――

 

 

 

「あれ? 亜加梨じゃーん!」

 

 空気が凍り付いた。

 

 さっきまで甘ったるい空気が流れていたはずなのに、外部からの刺激によって急激に周囲が冷え込んでいく。

 

「舞美ちゃん……」

 

 呆然とした表情で亜加梨が呟いた。なるほど、どうりで聞いたことがあると思ったら、亜加梨のクラスメイトか。

 

「さすが亜加梨、えっらいねー! 洗濯、自分でしてるの?」

 

「い、いつもしてるわけじゃないよー。……た、たまたまだってば」

 

 引き攣った笑顔を浮かべ、世間話を始める亜加梨。さすがに頭の回転が速いのか、パニックになっているはずの頭を力づくで押さえつけて、しどろもどろながらも会話を続けられていた。

 

 たった数秒で心を落ち着かせたのか、亜加梨は先ほどまでしていたことをおくびにも出さず、ベランダの下に向かって言葉を投げかける。向こうからしたら、屈んだままの私も見えないだろうし、さっきまでのことなど想像にも及ぶことはないだろう。

 

 だがそれは、なんとなくつまらない。

 

 そこで、亜加梨が話し始めた瞬間を狙って、剥き出しになっているすらっとした太腿に爪を立てた。

 

「そう言えばさ、あのぉひぅっ!」

 

「どうかした?」

 

 不思議そうな顔で見上げてくる友達に「何でもない」と答えながらも、しゃがみこんだ私の顔をキッと睨み付ける。

 

 だが頬が赤く染まっている時点で全部台無しだった。私には照れ隠しにしか見えないのだから。私は無言の抗議を無視して、爪を立てたまま五本の指をウニウニと動かした。

 

「ぅひいぃぃ」

 

「……亜加梨? ど、どうしたの?」

 

 亜加梨の友達の戸惑った声が聞こえる。

 

 そりゃあ、優等生のお友達がいきなり奇声を上げたら困惑するよね。ましてや彼女に私は見えていないのだ。私はしゃがんでベランダの柵に体を隠しながら、少しずつ手を上に持ち上げていく。

 

 亜加梨は友人の声を聴いてかろうじて意識を引き戻したのか「な、なんでもなぃ、から」と告げていた。しかし全力疾走でもしていたのかというほど顔を赤くし、息を切らしている亜加梨はかなり不審に映ったらしい。

 

「熱あるんじゃないの? 顔赤いよ」

 

 風邪をひいているのではと本気で心配するその友人に私も少し罪悪感を抱いた。だが自重はしない。遠慮なくすべすべのお肌を楽しんだ。

 

 この頃には、外面を取り繕うのに必死な亜加梨に私を咎める余裕はなく、手すりに体重を預けて、ただひたすら相槌を打ち続けていた。

 

 だがここまでなってしまうと私としてもあまり楽しめない。

 

 自己中心的な考えではあるが、反応がこうも小さくなってしまうと、やりがいもあまりないと言えるだろう。

 

 もちろん、生まれたばかりの小鹿のようなプルプル震える柔脚は見ていて飽きるものではない。しかし体力を――もしくは気力を使い果たした亜加梨からは目立った抵抗は見られず、ただ荒い息を吐くに留まっていた。

 

 しょうがないか。

 

 最後にお尻をポンと叩き、それを最後に手を止める。

 

 すると亜加梨はブルっと体を震わせ、熱いため息をつき、視線を伏せた。

 

 ちょうどその時には話もひと段落ついていたようで、舞美ちゃんは亜加梨の顔色をうかがいながら歩き出そうとしているところだった。

 

 彼女が心配そうに何度も振り返りながら去っていく中、亜加梨はそれに固まった気丈な笑顔を浮かべて手を振り続けていた。そして最後に道を曲がり、姿が隠れた瞬間、亜加梨の身体は崩れ落ちた。

 

 私の顔にはニヤニヤとした笑みが張り付いて剥がれない。

 

 「お友達にどう思われたのかな~」とからかってやろうと亜加梨の頭に口を寄せると、思いがけない程強い力で襟を掴まれ、床に押し倒された。

 

「っつ!」

 

 頭が軽くぶつかり合い、目の前に火花が散った。

 

 腰を下に強く打ってそこに手を当てると、下からぬおっと影が差した。

 

「後で覚えててね」

 

 真剣な眼差しをした妹に顔を覗き込まれ、体が固まる。

 

 神様、どうかこの言葉にきゅんとしてしまった愚かな自分を許してください……。

 

 

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