ピクシーによるほのかの公開処刑を終え、各々は自宅へ帰った。
智宏は相も変わらず同棲状態の美少女と茶を飲み、誰もが羨ましがる時間を過ごしていた。
一方でご近所の司波家には明かりは付いているものの、人の気配は無い。達也と深雪がどこへ行ったのかと言うと、深雪のお稽古のために外出しているのだ。
父親がFLTの重役ということもあり、良家のお嬢様という扱いになっている深雪。実際はそれを遥かに凌ぐトップクラスのお嬢様なのだが、それを知る者は少ない。
良家のお嬢様は体裁を整えるためにお稽古事が欠かせない。もちろん表立って四葉を名乗る事は無いので、今の身の丈に合うレベルの教室へ通っている。
やれ男女平等だ、とか、男だから・・・女だから・・・と決めつけるのは止めよう!という時代もあったが、やはり自らに泊をつけるにはこういった事を学ばなくてはならない。
智宏だって四葉家に来た際は、日本の作法や西洋の作法を徹底的に作法を教え込まれた。代理母と暮らしていた時も食事のマナーは徹底させられた。
達也と深雪は自家用車の中で兄妹とは思えない空気をかもし出しながらお稽古の教室へ向かいながら、今日の事を話していた。
「お兄様。ピクシーはどうなさるおつもりですか?」
「そうだな・・・・・・とりあえず情報を聞き出せるだけ聞き出そうと思う。基本的に事が済むまではロボ研のガレージで待機だな」
「そうですね。ほのかの思念が焼き付いたとはいえパラサイトですし、あそこから出す訳にはいかないですものね」
深雪は少しだけホッとした。
パラサイトが見せた達也への忠誠心。あのまま喋らせれば「家に連れてけ」くらいは言いそうだった。
そうなると自分はどうなるだろう。達也はピクシーに家事を任せておけくらいは言うかもしれないが、それは自分の役目だ。
達也の世話をするのは自分だけ。あの聖域はなんびとたりとも破らせはしない。
「さて。そろそろ到着だよ」
達也の言葉にハッとなって外を見た深雪。確かにいつも通っている建物が少し先に見える。
車が停まったのは立派な洋館の車寄だった。ここはピアノのレッスンを名家の令嬢にレッスンしている教室なのだ。
教室に通えるのは一部の人間だけ。一般の家庭では体験すらできない。
洋館の扉の前には教室の従業員が立っており、車から降りた達也と深雪を迎えた。従業員は女性のみ・・・しかも名家の使用人を経験した者が採用されていた。
「司波様。先生がお待ちです」
「はい。ではお兄様、行ってまいります」
「ああ。行っておいで」
達也が洋館の中に入ることは無い。ここは男子禁制のためだ。
深雪がお稽古をしている間は近くの喫茶店等で休憩するのが達也の日課だ。そして日課だからこそ異変に気が付きやすい。異変は店内ではなく外から。不穏な気配に達也は小さくため息をついた。
その異変の原因であるスターズは、達也のいる喫茶店から数kmを完全に包囲していた。
作戦開始の連絡を受けたバランス大佐は、ようやく訪れた襲撃の機会に意欲を高めていた。
襲撃を行うにあたり、バランス大佐は達也の行動を徹底的に調べた。
夜遊びは全くせず、外に出たとしても誰かしらと一緒にいる。妹や四葉智宏といる時に襲撃するのは論外なため、1人の時間を狙うしかない。だがその1人の時間というのが中々見つからない。
なんとか作戦決行が可能なタイミングというのが今だった。
しかも智宏に助けを求める事を前提に作戦を立てると、行動可能時間はグッと短くなる。
「シリウス少佐」
『ハイ』
「予定通り作戦を開始する。貴官はそのまま待機せよ」
『了解しました』
今回の作戦のプランは2つある。
最初に強盗を装ったスターダストのメンバーが達也を攻撃する予定だ。
ちなみにスターダストとはスターズに匹敵する力を持つが、人為的な強化によって身体が耐えきれず数年以内に死亡する事が決定している者で構成されている。
達也の拉致を主目的とし、その場で確保できれば作戦終了だが、それが不可能な場合はもう1つのプランとしてリーナの待つ公園に誘導、スターズ総隊長自らが捕縛に取り掛かるのだ。
まさか高校生に出遅れる軍人はいないだろうが、日本の九校戦を見る限り、近頃の高校生の戦闘能力を甘く見る事はできなくなっている。
とはいえこちらは文字通り戦闘のプロだ。
リーナがいれば・・・総隊長の実力があれば必ず任務を遂行できる、という暗黙の了解がスターズにはある。
バランス大佐との調整を終えたリーナは、目的の公園に停めたワゴン車の中で戦術魔法兵器【ブリオネイク】の最終点検を行っていた。この兵器はリーナの魔法を最大限に増幅させ、その威力はSFアニメにあるような戦艦の主砲に匹敵する。
(この作戦・・・上手くいくのかしら)
さすがに声には出さないが、リーナは脳内でこの作戦の成功確率に疑問を持つ。バランス大佐曰く成功確率は高いらしいが、達也や周りの人間と関わりを持ち、リーナ自身で再計算するとその確率はガクッと下がる。
軽装備だったとはいえ、リーナは深雪に負け、達也に押された。決して侮る事ができない相手だ。おそらく彼を強襲するスターダストの全滅は避けられないだろう。
智宏はどうだろうか?
前回戦った際はまだ彼は全力ではなかった。魔法でも、近接戦闘でも余力があるように思えたのだ。次に敵として会った時、向こうが全力で来ないとは限らない。できれば任務中は二度と戦いたくない。
そしてついに通信端末から作戦行動を開始する旨が報告された。
(・・・・・・始まるのね)
リーナはせめてと、スターダストの冥福を祈った。
作戦開始の連絡を受けたスターダストの男達は、達也が店から離れようとするのに気が付き、慌ててワゴン車から降りた。店の扉から出た達也に対し、短機関銃を構え間髪入れずに射撃しようとする。
この短機関銃の弾丸はただの弾丸ではない。着弾時に放電し相手の動きを封じる効果が付与されているのだ。
だがその銃口から弾丸が発射される事はなかった。分解によって短機関銃が分解されたからである。
『バカな!銃がバラバラに!』
(やっぱり達也に銃は効かないのね)
通信端末越しでも彼らの焦りが伝わってくる。
どうやら達也は接近戦をしているらしく、重い打撃音と共に隊員の悲鳴が聞こえる。さすがに監視カメラが多く、敵にも観察されているこの状況では分解を使う事はできないのだろう。
スターダストの隊員らは銃による戦闘から近接武器へ切り替えを行い、達也を捕縛しようとする。
達也も一撃で敵を沈めようと動いたが、攻撃を叩き込んだ瞬間ただの戦闘員ではない事を悟った。リーナも達也の動きが少しずつ変わっていく事に気がついた。
(スターダストの特性がバレたかしら。このままじゃ誘導もできないわ・・・・・・しょうがない)
リーナは本来の姿から赤い髪の姿へ変身し、ブリオネイクを手に待機場所から飛び出した。無線から聞こえる静止の声に耳を傾ける事なく、達也のいる戦場へ走っていった。
達也を視ていたのはスターズだけではない。彼を密かに護衛していた千葉修次は、いきなり開始された戦闘に一瞬足が動かなかった。
監視兼護衛対象から500mほど離れた場所で待機していたが、我に返った修次は左手で得物を掴み右手で父親である丈一郎に電話をかける。
「父上!司波達也が襲撃を受けた!」
『敵の規模は?』
「最低でも10名。もっといるかもしれない!」
『・・・・・・バックアップチームがいる可能性が高いとは豪勢な。ここまで緻密に動くとはやはり海外の連中だな』
丈一郎は舌打ちこそしなかったが、苛立つように語勢を強める。
ここは日本国だ。既に敗戦国の面影は無いし、防衛能力も世界トップクラスだ。いくら戦勝国と言っても、もうあの頃の日本国ではないのだ。
『修次。介入を許可する。対象を護れ』
「わかった!」
言われるまでもないが一応許可は必要だ。
修次は通話を終えると移動速度をさらに上げ、達也と対峙している勢力の中央へ突入した。
「司波君!」
「貴方は・・・エリカの?」
「ああ。兄の修次だ。加勢するよ」
「ありがとうございます」
突然現れた青年に戸惑った敵勢力だったが、修次を敵と判断し彼を排除対象と認定した。殺気が修次にも浴びせられる。
修次は相手の事を全く知らない。
だが決して油断することは無い。もちろん知っていようがいまいが油断はありえないので、どのような相手でも全力を尽くす。
一旦お互いに離れたので、スターダストの隊員は懐から拳銃を取り出した。これは先程とは違い通常の弾薬が装填されている。
魔法が全てを決めると1部の人間が論じているが、それでも銃という武器のアドバンテージは過去から今まで変わっていない。通常であれば銃とは戦いたくないだろう。
だが修次は普通の相手では無い。
引き金が引かれるより速く修次は距離を詰め小太刀を一閃・・・斥力場が骨まで貫通して身体をへし折った。
修次が動く度に敵は1人、また1人と倒れ激痛により地面に転がってしまう。
達也は魔法と身体能力の組み合わせによって生じるスピードに舌を巻く。
(さすが幻影刀。接近戦なら世界トップクラスというのも伊達ではないか)
目の前の使い捨ての敵は気がついていないだろうが、待機しているはずのバックアップチームはもう判別しているだろう。突然現れた青年が誰なのかを。
達也も戦ったとはいえ、修次が加わってからは彼がほとんど無力化してしまった。
今彼らの足元には屍(一応生きてる)が大量に転がっている。
「よし。片付いたね」
「千葉さん。ここはお任せしても?」
「いいとも。君は家に・・・なっ!」
達也が面倒なこの場を修次に任せて撤収しようとした瞬間、どこからともなく光線が2人を襲う。
完全な不意打ちだったが、狙いは達也ではなく修次だったのだろう。修次は光線がかすると身体が動かなくなってしまいその場に倒れる・・・まではいかないが膝を着く。
「くっ!?」
達也も咄嗟に避けたが、その攻撃が自分を狙ったものでは無いことに気がつくと、下手人のいる方向を見る。
そこには赤い髪の状態のリーナ・・・いや、シリウス少佐が立っていた。