暴走した
仕方がなく、グレンは予定を変更し、魔術の実践授業を急遽行うことにした。
二百メトラ先にある人型のブロンズ製ゴーレムの頭、胸、両足、両腕の六ヶ所に円型の的が設置していて魔術で的を当てる授業だ。
「《バン》《バン》《バン》《バン》《バン》《バン》…………」
暗い表情で【ショック・ボルト】の切り詰めた一節詠唱の
「流石だな、お前にとっちゃこれぐらい距離でもなんでもねえか…………つーか、いい加減元気出せよ」
「努力します…………」
六発全て的中し、生徒の輪の中に戻る。
「や、やっぱ凄ぇな! 全弾命中って! 流石はテラスだ!」
「そうだね…………」
「わ、私だって負けてはおりませんわ! 次こそは私が勝利を頂きますわ!」
「そうだね…………」
「僕も競技祭のテラス君のアドバイスのおかげで僕も最近は狙撃の腕が上がったんだよ!」
「そうだね…………」
クラスメイト達が落ち込んでいるテラスを励まそうと声をかけるも効果がなかった。
よほど、あの魔術公式が燃えたのがショックだったのだろう。
「いつまで落ち込んでんのよ! シャッキとなさい!」
だが、そんなテラスの背中にシスティーナは喝を入れた。
「いつまでもその調子だと私がすぐに貴方を追い抜くわよ! それが嫌ならもっとしっかりしなさい!」
テラスに喝を入れてシスティーナも全ての的に【ショック・ボルト】を全弾命中させる。
システィーナは密かにテラスをライバル視している。
そのライバルが落ち込んでいるところを見たくはないし、無様な姿を見せたくはない。
「凄いね、システィ! ほらテラス君! システィも六発撃って、全部の的に当てたよ!」
「…………そうだね。ふぅ~、落ち込んでいる余裕もないよね」
システィーナの真剣な横顔を見て、一息ついたテラスは何とか立ち直らせる。
「…………もう一度頑張るよ」
「私にできることがあったら言ってね? 私もテラス君の力になりたいから」
「ありがとう。助かるよ」
そんな二人の会話に男子生徒は歯を噛み締め、女子生徒はひそひそと内緒話。
おのれ…………。とか、やっぱり…………。などと、聞こえては来るがもう聞く耳もない。
「よし、リィエル。お前の番だ。やれ」
「…………ん」
「いいか? 同じ的を狙ったらダメだぞ? 一つの的につき、狙っていいのは一回だけ、とりあえず今回はそういうルールだ。わかってるな?」
「ん、わかった。
「おう、そうだ」
「任せて」
グレンの促しを受けて、リィエルが定位置に立った。
その際にクラス中がリィエルの実力を持っているのか気になり、見守る。
それはテラスも同様だ。
帝国宮廷魔導師団、特務分室の一員であるリィエルの実力を知っておきたい。
(少なくとも錬成速度は目を見張るものがあるけど、魔術は…………?)
朝方、グレンを襲う際に行使した錬金術の錬成速度にはテラスも驚かされた。
錬金術はテラスも使える。その気になればその場で武器を錬成することぐらいはできても、早くて数秒は時間が有する。
だが、リィエルは秒数も掛からずに武器を錬成した。
(お手並み拝見だね…………)
魔術の場合はどうなのだろう? 興味と期待に眼差しを向ける。
「《雷精よ・紫電の衝撃以て・撃ち倒せ》」
三節で呪文を唱え、紫電は二百メトラ離れたゴーレムに放たれる。
だが、的どころか、ゴーレムそのものを大きく右に外して飛んでいった。
その後もリィエルの【ショック・ボルト】はゴーレムに掠る気配も見せない。
それにはテラスも首を傾げる。
(実力を隠すためにわざと外しているには流石におかしい。なら、本当に…………?)
よくそれで生き延びれているものだ。と思っていると。
「ねぇ、グレン。これって【ショック・ボルト】じゃないと駄目なの?」
「駄目とは言わねーが…………この距離じゃ、他の
「つまり、呪文自体はなんでもいい?」
「まぁ、一応、そうだが…………」
「わかった。なら、問題ない」
リィエルは二百メトラ先のゴーレムに対し、再び向き直ると、呪文を唱えた。
「《万象に希う・我が腕手に・十字の剣を》」
ばちん、と。リィエルが身を屈めて触れた地面に紫電が走る。
次の瞬間――――
「「「「な、なんだぁあああああああああ――――――ッ!?」」」」
リィエルの両手に
錬金術による高速錬成で、競技場の土から鋼の大剣を瞬時に作り出したのである。
「お、おい…………リィエル、お前、一体、何を…………?」
頬を引きつかせたグレンの言葉も虚しく――――
リィエルは大剣を頭上に大きく振りかぶって――――
「いいいいいいやぁあああああああああ―――――――ッ!」
乾坤一擲の気合と共に、たんっ、と地面を蹴って―――
リィエルは身の丈を超える大剣を、全身のバネを存分に振るって―――投擲する。
びゅごお、と空気を引き裂いて投じられた大剣は、嵐のように縦回転しながら二百メトラもの距離を一瞬で消し飛ばし―――
ドガンッ! と凄まじい破砕音を立てて、大剣がゴーレムの胴を貫き――――
次の瞬間、ゴーレムはバラバラに砕け散って四散した。
無論、ゴーレムに設置されていた六つの的は、全て跡形もなく粉々である。
「「「「……………………」」」」
(なるほど……………………滅茶苦茶だ…………)
グレンから聞いたリィエルという人物が話を聞いていた通りの人物だと理解して額に手を当てる。
「…………ん。六分の六」
リィエルは眠たげな表情を崩さぬも、どこか得意げに、ぼそりと呟いた。
派手なデビューをしてしまったリィエルは孤立してしまった。
話しかけようにも、先ほどの身の毛もよだつ破壊を目撃してしまったクラス生徒達は話しかけ辛くて、最初の一言のきっかけが掴めないでいる。
「つーわけで、頼む!」
そんなリィエルを放っておけないグレンは両手を合わせて頭を下げてテラスに懇願した。
「…………人選ミスですが」
懇願してくるグレンにテラスは半眼を作りながらそう答えた。
元々孤立、孤独の存在であったテラスにとってこれは非常に難しい。
遠くからリィエルを見て、こんな感じだったんだな、と。…………過去の自分を照らし合わせているほどに。
「そこはほら? お前の……………………何かでどうにか」
「ないんですか。…………まぁ、事実ですからいいですけど。僕よりも上手く立ち回れる人がいるでしょ? このクラスには、ほら」
「ご機嫌よう、リィエル」
テラスが指した先には先に行動に移っていたルミアがリィエルの昼食を誘っていた。
「流石はルミアですね…………」
「ああ」
学院で天使と呼ばれているだけはある。
ルミアの慈愛ときっかけを作ろうと行動する勇気は学院一だろう。
ルミアの誘いに応じたリィエルは二人と一緒に食堂に赴く。
「よし、俺達も行くぞ」
「…………僕もですか?」
はんば呆れながらグレンの後をしぶしぶついていくと、三人の座るテーブルから少し離れた位置にあるテーブルに腰を下ろして三人の様子を窺う。
「…………思っているより打ち解けていますね」
「だな」
苺のタルトを黙々と食べているリィエルを優しい眼差しで見据えている二人。
「…………今更なんだが、お前は交ざらなくてよかったのか?」
ルミアとシスティーナ。この二人とよく食事を共にしているテラスだが、今回は離れてグレンと一緒に食事を取っている。
「僕だって空気ぐらいは読みますよ? それに先生には聞きたいことがありましたし」
「なんだ? 恋の相談なら受け付けねえぞ?」
「はいはい、先生はそこらの動物にでも発情しといてください」
「…………お前、俺のこと嫌いだろう? 恨みでもあんのか?」
「苦労を重ねてあそこまで辿り着いた魔術公式をダメにした元凶が何を言いますか? これぐらいの愚痴は言わせて貰いますよ」
食事を進めながら軽い愚痴を溢すテラスは本題に入る。
「リィエルの実力は多少なりは理解しました。ですが、一つだけわからない点があります。…………何者なんですか? リィエルは」
「…………おいおい、何言っていやがる? どこからどう見ても可愛い女の子じゃ――」
「誤魔化さないでください、グレン先生。先生は嘘が下手だということは自分でも理解している筈です。だから先生は誤魔化すではなく隠すを選ぶ人です。つまり、先生が誤魔化したということはリィエルには何かあるのですね?」
「……………………」
「沈黙は是ですよ。それに僕は鼻がいいのですから嗅ぎ分けることができます」
鼻に指を当てる。
吸血鬼の嗅覚がリィエルの何かを嗅ぎ分けて付き合いが長いグレンに直接問いかけている。
周囲にも気を遣い、余計な言葉は使わずに語りかけてくるテラスにグレンは頭を掻き毟る。
「たくっ、わっーたよ。だけどあいつには絶対に言うなよ?」
「わかりました」
真剣な声音で告げられるその言葉に真意に頷く。
(今の言い回しだと、リィエル自身も知らないことなのかな…………?)
妙な言い回しをするグレンにそんな疑念を抱きながらテラスは立ち上がる。
「では後程に聞きに参りますので、先生も早く食べた方がいいですよ?」
「はぁ?」
その時、昼休み終了の予鈴が、学院内に響き渡る。
食事を食べ終えたテラスとは違い、グレンのトレイの上には大量の食事が残っている。
リィエルとテラスの言葉に気を取られ過ぎて食べるのを忘れていた。
「それでは失礼します。――――ふ」
慌てふためくグレンを見て鼻で笑った。