ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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今回は短めです…………。


安息

今回の遠征学修は、結局中止の運びになった。

なにしろ、白金魔導研究所所長、バークス=ブラウモンの突然の『失踪』。

政府上層部より突如下った研究所の一時的な稼働停止命令と、帝国宮廷魔導師団からの何の前触れもないサイネリア島内の調査探索隊―――調査隊と銘打つにはどうも装備が物々しく物騒な一隊―――の派遣。

それと同時に勧告された、島内の全観光客、全研究者への島からの退避命令。

最早、遠征学修どころではなくなった。

退避するまでの空いた一日をグレン達は自由時間に使っている。

二組の殆どがビーチバレーをしている。

その中にはリィエルやルミアも楽しそうに遊んでいる姿をテラスは離れたところから見守っていた。

「…………本当、これを見ているとあの事件があったことが嘘のようですね」

「そうだな」

リィエルも自分の正体を知り、ルミアも過酷な目にあったというのに楽しそうに笑い、遊んでいるその姿はまるでそんなことがなかったように思えてしまう。

「…………成る程。これがお前の守りたかった光景か、グレン」

「俺は何もしてねえよ」

テラスの魔術で氷の中にいるグレンへ、研究員に装っているアルベルトは淡々と言葉を投げるもグレンは手を振ってそう返す。

「テラス、と言ったな? 今回の件、お前の迅速な行動のおかげで王女を救出することが出来た。その点には感謝する」

「お気になさらず。そちらの都合関係なしで僕は勝手に動いていたでしょうから」

「だが、俺はお前を信用しているわけではない。万が一の際は俺は躊躇うことなくお前を討つつもりでいることを忘れるな」

「了解しました。肝に銘じておきます」

アルベルトの忠告に素直に応じる。

「それにしても『禁忌教典(アカシックレコード)』ってなんなんでしょうね? 唯一わかっているのは天の智慧研究会がそれに執着しているという点だけで、ロクな情報もないとは」

「それに関してはこちらも探っている。お前がこちらに協力するというのなら情報が入り次第教えることを約束しよう」

「それでルミアを守れるのなら協力します」

ルミアを守る。その一点に関してはテラスも他者との協力を惜しまない。

一つでも多くの情報を得るだけでも何か違いが出てくる。

手に入るのなら手に入れる。

協定関係を結んだ二人を置いてグレンはニヤニヤと愉快そうに笑みを見せていた。

「なんだ~、随分と熱心だな、テラス? 前々から思っていたが、やっぱお前ら付き合ってんじゃねえか?」

「ええ、付き合ってますよ? と言ってもまだ付き合い始めて一日も経ってませんが」

「だよな~、やっぱそう……………………今、なんつった?」

「ですから、正式にお付き合い、恋人同士ですよ? 僕とルミアは」

あっさりと告白するテラスにグレンはこれ以上にないぐらいに目を見開いて―――

「な、なにぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい――――――――ッッ!!」

驚きの声を上げたグレンは氷の壁を叩きながらテラスに問い詰めた。

「お前、いつからそんな関係になりやがった!? 教えろ! そこんとこの詳細を話せ!!」

「…………どうして先生がそんなに盛り上がっているんですか?」

妙に興奮しているグレンに肩を竦める。

アルベルトもそんなグレンに深いため息を吐いていた。

「まぁ、大した話ではありませんよ」

テラスの視線の先にはシスティーナとリィエルと一緒に笑っているルミアを見つめながら言う。

「ルミアは僕よりも強かった。それだけです。女性って本当に強いですよね?」

突き放しても、現実を教えても、それでも諦めずにいてくれた。

無理矢理にでも、強引にでも傍にいようとしてくれた。

テラスはルミアに負けた―――根負けだ。

「…………だな。俺も身を持って知ってるぜ? それ」

腰を下ろしてテラスの言葉に同意する。

グレンの周りにいる女性も皆強いのだから。

「僕はルミアを守りたい。その為なら誰であろうと協力は惜しみません」

「…………熱いな、氷の中にいるってんのに日焼けしそうだ」

テラスの言葉に小さく笑みを浮かべるグレンは思った。

(…………変わったな、お前も)

そう思えた。後はルミアがテラスを人としての道に導いてやればきっと――――

「テラスく~ん! あ、それに先生も皆と一緒に西瓜、どうですか~ッ!?」

「今、行くよ。先生はどうしますか?」

「ん? ああ、俺も行くとしますかね…………」

氷を解いて日傘を差すテラスとグレンは皆がいるところに足を運ぶ。

「はい、テラス君の分」

「ありがとう、ルミア」

テラスはルミアや皆と一緒に西瓜を食べる。

こんな日が続けばいいな、と心の中で本当に少しだけ思った…………。


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