ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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広まる噂

遠征学修が終えてからテラスとルミアは日課のように放課後は図書室で魔術の勉強に励んでいる。

「う~ん、テラス君。ここなんだけど…………」

「ああ、これはね」

二人で共に魔術の勉強に専念している二人にはそれぞれの目的がある。

ルミアは吸血鬼であるテラスを人間にする方法を探して。

テラスは今よりも強くなってルミアを守る為に力を身に付ける。

互いの為に分厚い教本を開いては、睨めっこする仲睦まじい様子をシスティーナとグレン、それにリィエルが遠目から見守っていた。

「…………ルミア、頑張れ」

親友であり家族であるシスティーナはテラスに想いを告げて、成功したことをルミア本人から聞いている。

その時のルミアの幸せに満ちた笑みにシスティーナは感極まって泣いてしまった。

自分の事のように嬉しくて、ルミアの幸せを心から願っている。

「…………ルミアのところに行かないの?」

「駄目よ、リィエル。放課後は二人にしてあげる約束でしょ?」

「…………うん」

「にしてもよ、何で俺までお前らに付き合わなきゃならねえんだ?」

面倒そうに欠伸をするグレンにシスティーナは言う。

「何を言っているんですか? 一番張り切っていたのは先生じゃないですか?」

「いや~そうなんだけどよ…………なんかな、その、ね?」

曖昧に返すグレンの本音は美少女のルミアと距離を縮めて、頬を染めたり、恥ずかしかったり、思春期らしからぬ言動をするテラスの弱みを握り、それをネタにからかってやろうという魂胆だったのだが…………。

(もう、本当に鈍いにもほどがあんだろう!? もっと初心な反応しろよ!? 本当に魔術のことしか頭にねえのか!? あの魔術馬鹿は!?)

それらしい反応を一切見せずに、魔術のことばかり語るテラス。

それでもルミアは楽しいのか、微笑みながらテラスの話に耳を傾けている。

真面目と言えば真面目なのだが、正直つまらん。それが本音だ。

何か面白いことでも起きないかと、ふと、そう思っていると―――

「テラス=ヴァンパイアッ!!」

不意に大声が響いてグレンはその声の方に―――テラス達に視線を向けると、一人の男子生徒がテラスに左手の手袋を投げつけていた。

「君に決闘を申し込む! 僕が勝ったらルミアさんを解放しろ!!」

「…………いや、言っている意味がよくわからないんだけど?」

突然に決闘を申し込まれて、ルミアを解放しろなどと言われたテラスは戸惑いながら訊き返すと男子生徒は喚き散らす様に答えた。

「聞いたぞ!? 君はルミアさんの弱みを握って手籠めし、よからぬことをしていると! そんな卑劣で非道な君を放っておくわけにはいかない!!」

(ブフッ!?)

男子生徒の発言にグレンは思わず噴き出した。

「…………なに、それ? 初耳なんだけど…………」

「ふざけるのも大概にするんだ! 他にだって魔術を悪用してルミアさんを操っているや、心優しいルミアさんの優しさに付け込んで独占しているなど…………ッ! そんな君を僕は許すつもりはない!!」

腹を抱えて、身体を震わせているグレンは必死に込み上げてくる笑いを堪えていた。

(あいつも、災難だな…………)

恐らくは学院でも屈指の人気を誇るルミアを独占しているテラスに嫉妬して噂が噂を作り、そんな風になったんだろう。

その噂を聞いて下心か、正義感を募らせてテラスに決闘を申し込んだ。

その話を聞いたテラスは自分がどういう風に言われているのかと理解すると小さく嘆息する。

「あのさ、それって確証や証拠があって言っているの? あ、でも、恋人同士だから彼女を独占しているという意味ではあっているのかな?」

ルミアを独占しているという点では確かにそうかもしれないが、弱みを握ってもいなければ、魔術を悪用はしていない。

誹謗中傷もいいところだ。

「…………こ、恋人…………? 君、と…………ルミアさんが…………?」

「え? うん、そうだけど」

目を見開きながら指を震わせて指す男子生徒の戸惑いの問いにテラスは呆気なく肯定する。

すると―――――

「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい―――――――っっ!?」

「嘘だろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおー―――――――っっ!?」

いつもは静かで勉強が捗る図書室に男子生徒達の阿鼻叫喚が響き渡る。

「もう、テラス君! そんなにはっきりと言わないでよ!? 恥ずかしいよ!!」

「ごめんごめん、つい」

顔を赤くしてぽかぽかとテラスを叩くルミアは羞恥心で穴があったら入りたい気持ちだった。

「う、嘘だ! 君のような男に彼女が靡くわけがない!?」

「でも僕とルミアが恋人同士なのは事実だけど? それとも弱みを握って無理矢理とか、魔術でそういう風に暗示しているとか言うつもり?」

「そう以外考えられない!」

「だ、そうだけど? ルミア」

「え? えぇ!? わ、私に振らないでよ…………」

「でも、ルミアの口から言ってくれないと多分、納得してくれないよ?」

「そ、それはそうかもしれないけど…………その、私は別に酷いことはされていませんよ。テラス君、優しいですし…………むしろ、気を遣わせてばかりで」

口ごもりながらも誤解を解こうとするも、男子生徒は静かに首を横に振る。

「ルミアさん…………貴方は心優しいからその男を庇っているとは思いますが、その男は聞く限り、悪辣非道の限りを尽くす外道です。貴女の優しさを彼にまで与える必要は―――」

「やめてください」

「ッ!?」

強い意思の籠ったルミアの言葉が、気丈な瞳が男子生徒を射貫いた。

「彼を悪く言わないでください。彼は何度も私の為に危険も顧みずに私を助けてくれました。そんな彼を悪く言うのは絶対に許しません」

「う…………」

そんなルミアに気圧される男子生徒は思わず後退りする。

「…………まぁ、その、というわけで、陰で僕の事をどう言ってもいいけど、あまりルミアを甘くみないほうがいい。ルミアは僕よりも強いからね」

確かにルミアは優しい。だけど、ただ優しいだけじゃない。

芯の強い優しさを持つ、その強さにテラスは負けたのだ。

「それでも納得できないのなら決闘を受ける。だけど、ルミアは僕にとっても大切な人だから本気でするよ? それでもいい?」

「…………い、いや、僕が悪かった」

「わかってくれたのなら、いいよ」

男子生徒は手袋を拾って去っていくと、ルミアは安堵するように息を吐く。

だが――――

「うおおおおおおおおお…………ルミアちゃんが、ルミアちゃんが…………」

「くそぉぉおおおおおおおおお…………俺、ずっとルミアちゃんのことを…………」

「うぅぅううううううう……………………」

この場にいる男子生徒達はルミアの本気の発言に滂沱の涙を流して、足元に水溜りを作っていた。

それを聞いたテラスは頬を掻きながら言う。

「僕とルミアの関係…………広まるね、これ?」

事実だから遅かれ早かれ広まるとは何となくではあるが、想像はできていたテラスはともかく、ルミアは公の場で先ほどの自分の発言と周囲の反応に耳まで赤く染めて俯いていた。

「うぅ~テラス君のせいだよ~」

「僕のせいなの? …………えっと、ごめん」

涙目で睨んでくるルミアに抗えず、素直に謝罪の言葉を述べる。

この日を境にテラスは『夜、背後から刺すべき男リスト』でぶっちぎりの一位となった。

 

 


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