「………………大丈夫なの? テラス君」
「まだ、理性が保つ程度だけど…………それよりもセラ姉さん、どうしてこんなことをしたの?」
拘束を解いたセラはテラスの容態を尋ねるとテラスはルミアを支えながら半眼で視る。
「人間を、ルミアを僕の前に連れてくるなんて…………理性を取り戻すのがあと少し遅かったらルミアは死んでたよ?」
「…………」
「吸血鬼の本能がどんなものか、それを知らないセラ姉さんじゃ――」
「…………私がお願いしたの。だから、怒らないで」
沈黙するセラ。ルミアはそんなセラを庇う様にテラスを宥める。
「セラさんは何度も止めてくれたけど…………私が無理を言って会わせてもらったの。だから、悪いのは私。ごめんなさい…………」
強引にテラスに会いに来たルミアは頭を下げて謝った。
「……………………はぁ、わかったよ。結果的には僕も理性は取り戻せたし、ルミアも辛うじて無事だったからこれ以上は何も言わない」
溜息を吐いてそれで強引に自身を納得させる。
「テラス君、ごめんね…………」
「もういいよ、面倒をかけたのは僕の方なんだから」
セラもルミア達を連れて来たことを謝る。
「それよりも
テラス達はとりあえず地下室から出て、
「……………………それで? 決闘はどうなったの?」
「それが…………」
腰を落ち着かせてテラスは決闘の事についてルミア達に尋ねると、その表情は芳しくはなかった。
というよりも既に決闘から数日が経過していた。
魔導兵団戦での決闘は引き分けで終わったが、レオスが改めて決闘を申し込みグレンがそれを受けた。
だが、決闘の場にグレンは現れず、システィーナはレオスと結婚することになった。
そして、その結婚式が明日だ。
「私、どうすればいいのかわからなくて…………?」
「それでリィエルはルミアの護衛?」
「ん、グレンが絶対ルミアから離れるなって…………」
二人の言葉にテラスは納得と同時に理解した。
もうジャティスの掌の上で踊るしかない、と。
テラスも理性を取り戻し、身体を動かせれるぐらいまではなったが、まだ身体は重いし、頭も痛い。精神性も完全とは言えない。
今の状態では碌に魔術も使えず、吸血鬼の能力も満足には使えない。
動きぐらいは封じておこう。あの時のジャティスの言葉はこの事だったのだと今更自覚した。
「………………今から話すことを落ち着いて聞いて欲しいんだけど、その前にセラ姉さん」
「どうしたの?」
「『今回の件に関わることを禁止』にするからね」
「ッ!? テラス君!? どうして…………ッ!?」
不意に命令を下されて目を見開いて問い詰めるセラにテラスは話す。
「グレン先生との約束。今回の件でセラ姉さんを関わらせないように言われたからね。それにルミアにリィエル。システィーナはレオス先生と結婚することはないよ。もうレオス先生は死んでいると思うし」
その言葉に三人は目を丸くする。
そして、テラスは今回の件の主犯とその計画を大雑把に話した。
「うそ…………ジャティスが生きて…………?」
「そんな…………」
「…………狙いが、グレン?」
「嘘のように聞こえるけど本当だよ。ジャティスさんの本当の狙いはグレン先生でシスティーナはグレン先生が本気を出せれるようになる為に利用しているだけ。僕を倒そうと戦ったけど、あの場で僕を倒すのはよく思わなかったらしく、僕の動きを封じてどこかに去ったよ。おかげでこの通り」
両腕を広げて動けないことをアピールする。
「それなら尚更だよ!? テラス君、グレンを助けに行かないと!?」
今すぐにでも動きたいセラだが、テラスの命令により動けない。
「お願い! 命令を解いて! テラス君が動けないのなら私が動かないと!」
「約束は約束。命令を解く気はないよ。それに…………多分だけどセラ姉さんじゃジャティスさんには勝てない。
必死に懇願するセラだが、テラスは首を縦には振らずに淡々と語る。
「素の身体能力ならセラ姉さんの方が強いよ。だけど、ジャティスさんは強いだけじゃ勝てない相手だ。セラ姉さんがグレン先生のところに駆けつけても無駄死にする可能性が高い。いや、グレン先生に本気を出させる為に真っ先に殺す可能性の方が高い」
「……………………ッ!」
「もう、僕達にできることはない。完全にジャティスさんの掌の上だ」
もしかしたらこの会話の内容自体も既に予測されているかもしれない。
仮にそうだとしてもテラスは満足に戦えず、セラも動けず。何もすることができない。
「月並みの言葉で悪いけど、グレン先生を信じるしかないね」
椅子に身体を預けながら申し訳なさそうにそう口走るテラスの言葉に誰もが口を閉ざす。
「……………ルミア、今日は泊まっていった方がいい」
「え? でも…………」
「無理をしているのはわかってるよ? もう碌に歩けないでしょ? それなりの量を吸ったんだからこれ以上は体に障る。リィエル、悪いけどルミアの護衛をお願いするよ」
「………ん、任せて」
「二階の奥に空き部屋があるからそこを使って」
「……………………ルミア、行こう」
リィエルに連れられてルミアは
それでも今は聞く余裕はない。
あのままルミアがいたらまた理性がとんで襲いかかるかもしれない。
リィエルはそれに察してルミアを
「…………………ねぇ、テラス君」
「なに?」
「もし、もしもだよ? 今回の件で狙われているのがグレン君じゃなくてルミアちゃんならテラス君はどうしたの?」
「……………グレン先生とシスティーナに攻撃を任せて僕は不死性を活かしての盾代わりになる。だけど、セラ姉さんは盾代わりにもなれないから」
「……………………自分で守ろうとは思わないんだね」
「今の状態なら無理だからね。可能な限りの最善を尽くして必要なら他から力を借りるまで。誰かを守ろうと思うのはあくまで自己満足だから」
そう自己満足。
セラがグレンを助けに行こうとするのも。
テラスがルミアを守ろうとするのもあくまで自己満足だ。
「もし、今回の件で僕に嫌気を指したのなら好きなところに行ってもいいよ? 元々魔術を教わったら自由にするつもりだったんだから」
セラを眷属にした最もな理由が魔術を教わること。
今となってはテラスは魔術を修めて、
後はどこで何をしようがセラの自由のはずなのに、セラはずっとテラスと一緒にいる。
「……………………そんな寂しいこと言わないでよ」
儚い笑みを浮かばせながらセラは後ろからテラスを抱きしめる。
「こんなことをテラス君を嫌いになったりはしない。それに約束したでしょ? 私は貴方の家族になって一緒にいるって。だから、そんな寂しいことは言わないでほしいな」
「……………………家族、か」
ぽつりと呟いた。
■■■■にとって家族はそんなものではなかった。
極力関わらない様に避けられ、無視されるのが当たり前だ。
家族というものが何なのか、彼には分らなかった。
(この世界は優しいな…………)
とびっきり残酷なほどに優しいこの世界で友達ができて、家族もできて、恋人もできた。
■■■■だった頃とはまるで違う。
(どうしてこんな怪物に当たり前のように接してくれるのだろう…………?)
それがわからない。