ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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調査隊募集

アルザーノ魔術学院、二年次生二組の教室にて。

授業前、いつものように元気に賑わうクラスメイト達を他所にシスティーナは机に突っ伏していた。

「はぁ~~……………」

「どうしたの? システィーナ」

「えっとね、実は……………」

論文を作りながら机に突っ伏しているシスティーナの様子が気になってルミアに尋ねた。

システィーナは魔術考古学を専攻する為に遺跡調査の経験を積もうと、調査隊のメンバーに立候補して論文を提出したが、落選。

それも様々な難癖をつけられた上での落選で、これで四度目となる。

理由を聞いて落ち込んでいることに納得するも、仕方がないとテラスは思う。

遺跡調査員は慣例的に第三階梯(トレデ)以上の魔術師から選ぶ。システィーナはまだ第二階梯(デュオデ)で、今回の遺跡調査の予想危険度はB++級。

よく準備された遺跡探索隊でも、たまに死人が出るほど危険だ。

(でも、落ち込むことはないんだけどね……………)

どうせこの後、我等のグレン大先生様が人件費削減という理由で遺跡調査に行くメンバーを決めるのだから。

「ところでテラス君は何してるの? また魔術の研究?」

「ん? ああこれは論文。発表するように言われたから」

第四階梯(クアットルデ)になれるかどうかの論文を纏め上げているテラスは不意にその手を止める。

「そういえばルミア、前はごめん」

「え? なにが?」

「以前に僕の住処に泊まりに来た日のことだよ。乱暴にしたから痛かったでしょ?」

吸血鬼の本能が暴走し、乱暴に噛みついてしまった為にその痛みは相当なもののはずだ。

そのことについてまだちゃんと謝っていなかった。

「ううん、気にしないで。私も嬉しかったから」

慈悲深い微笑みを見せるルミアは自分でもテラスの力になれたことが嬉しかった。

「でも、次からは優しくしてね? 結構痛かったんだから」

気にはしていなくても、やはり痛いものは痛かったらしい。

「それは保証できない。我慢ができなかったらまたするかも」

また吸血鬼の本能が暴走したらルミアはまた我が身を犠牲にしてくるかもしれない。

ただでさえルミアの血は至高の味なんだ。あの時でもよく理性を取り戻せれたと感心しているほどだ。

などと、二人は以前のことを話しているとクラスメイト達の賑わう声がいつのまにか静まり、二人を見ていた。

「「……………?」」

どうしたんだろうと、二人は顔を見合わせて首を傾げる。

女子達は頬を赤くして、羞恥と羨望の目を二人に向けて。

男子達は嫉妬と憤怒の目で射殺さんとばかりにテラスを睨み付ける。

状況がよく呑み込めていない二人にシスティーナが頬を桜色の染めながら言った。

「二人とも。今の会話は誤解を招くわよ?」

システィーナの言葉の意味に数秒理解できなかったルミアだが、その意味を理解すると耳まで顔を赤くする。

「ち、違うから! そういう意味じゃないから!!」

慌てて否定の言葉を叫ぶルミア。

少し遅れてテラスもようやくその言葉の意味を理解した。

ここはそういうことに興味津々な年頃の学生が集まる。恋話でも盛り上がるのならそういうことも話題になるのも無理はない。

それが学院で有名な恋人同士なら尚更だ。

「えーと、ルミアの言う通り、皆が想像するようなことは一切していないからね。僕達は碌に手も繋いだこともないから」

「………………ねぇ、システィーナ。そういう意味ってどういう意味?」

「リィエルはまだ知らなくていいの」

クラスメイト達の誤解を解き、システィーナはリィエルを優しく宥める。

「………………ふっ、お早う、諸君!」

その時、教室前方の扉が開かれ、グレンが颯爽と姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうか、この哀れでゴミくずな俺に力を貸してください、お願いします―――ッ!」

身を捻りながら天井高く跳躍し、月面宙返りからの両手両膝額五点着地。

グレンの固有魔術(オリジナル)【ムーンサルト・ジャンピング土下座】を起動したグレンに生徒達は呆れ果てていた。

授業が始まると同時にグレンは熱く語った。

遺跡調査の調査隊を確保するためにそれらしいことを言って有志を募った。

だが、グレンが魔術研究の論文を提出していないことが既に噂となり、嘘を隠すのが下手なグレンの態度に生徒達は呆れ、論文を書いていないことに確信した。

なりふり構わずに恥も誇りも捨てて生徒に土下座で頼み込んだ。

「あー、僕も先生の尻拭いとして行くことになったんだけど、流石に二人だけだと大変だから……………手伝って欲しんだ」

テラスもグレンと一緒に頼み込む。……………その時である。

「どうか、お顔を上げてください、先生」

何の迷いもなく、ルミアが立ち上がっていた。

「……………その遺跡調査、私にもお手伝いさせてください」

胸元で手を組み、穏やかな笑みを浮かべ、まっすぐグレンを見つめている。

その佇まいはまるで聖女。後光が差しているかのような、神々しさだ。

「……………て、天使……………?」

グレンは土下座の体勢のまま、呆けるようにルミアを見つめていた。

「いや、天女でしょ?」

「いや、女神だ」

「では、崇めてください。ルミア女神に」

「はは~」

「ノリがいいですね、先生」

「怒るよ……………?」

「ふぉめん」

頬を膨らませてテラスの頬を抓るルミアに流石に悪ふざけが過ぎた。

「でも、ルミアが着いて来てくれるのは心強いよ。法医呪文(ヒーラー・スペル)は僕も使えるけど、僕は探知・探索に力を入れたいから」

「そうだぜ? 法医呪文(ヒーラー・スペル)は野外に出るなら必須技能さ。つーか、ぶっちゃけ言うと、生徒で調査隊を組むなら、ルミア、お前にはどうしても来て欲しかったぐらいだ。あんがとな」

「はい。先生が良い論文を書けるように、私、頑張りますね!」

そして。

「よくはわからないけど……………わたしも行く」

ルミアに続いてリィエルも立ち上がった。

これだけでも悪くはない組み合わせだ。

前衛戦力として申し分ないリィエル、前衛後衛共にこなせるテラス、法医呪文(ヒーラー・スペル)に長けているルミア、最後に臨機応変に対応できるグレン。

万が一に戦闘が起きても十分に対応できる。

続いてギイブル、カッシュ、セシル、リン、テレサが立候補してテラスはテレサに尋ねた。

「ねぇ、テレサ。確かテレサの実家は有力商家だったよね?」

「ええ、そうですが?」

「なら、欲しいものがあるんだけど、金銭的にもそこまで余裕があるわけないから厚かましいけど、融通することってできる?」

「勿論。これからもレイディ商会を頼って頂けるのであれば」

「……………抜け目がないね? 了解。これからも仲良くしようよ?」

「ええ、これからも仲良くしてくださいね?」

苦笑するテラスに微笑みを浮かべるテレサは手を交わす。

(…………テレサとは長い付き合いになりそうだ)

互いに言葉の意味を理解しているからわかる。

テレサは将来的にも一躍活躍するであろうテラスを先に自分達の商会に確保し、テラスはテレサの商会――レイディ商会で融通を効かせて貰う。

きっと近いうちに契約書でも書くことになるかも、と思いながらテラスはテレサに手に入れたいものを告げておいた。

「出来れば、遺跡調査までには」

「ええ、お任せくださいな」

取引を行っている間にグレンは最後の一人、ウェンディに声をかけていた。

暗号解読系の魔術に関して天才的なウェンディに調査隊に加えたいという考えはテラスでも理解できるのだが―――

(システィーナ……………)

真っ白になっているシスティーナにテラスは嘆息する。

あれほど遺跡調査に行きたがっていたはずなのにどうして素直に立候補しなかったのか、もはや哀れみの眼差しを向けるしかない。

(仕方がないね…………)

「先生、システィーナも連れては行きませんか?」

「え……………?」

目を丸くするシスティーナを置いてテラスはグレンにシスティーナを勧めるように話す。

「このクラスで魔導考古学に詳しいのはシスティーナです。きっと何か役に立つはずですよ?」

「いや、白猫は連れて行くに決まってんだろ? 俺、魔導考古学その者に関してはド素人だし……………首に縄をかけて引きずってでも連れて行くぞ?」

「と、いうことだからシスティーナ。僕もそこまで魔導考古学は詳しくはないから頼りにしてるよ?」

助け船を出したテラスにルミアはシスティーナの後ろで手話(魔術師の必修技能の一つ)で礼を言ってきた。

(やれやれ、手のかかる猫だよ)

いつもの活気を取り戻したシスティーナを見据えながらテラスはそう思った。

 

 

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