ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア
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魔女と吸血鬼

魔獣を退けて、システィーナは御者に詰め寄ると、その正体がセリカ=アルフォネアという衝撃な事実を目の当たりにして仰天する。

そんなシスティーナを可笑しそうに笑うセリカに詰め寄ったグレンにセリカは今回の『タウムの天文神殿』の調査に協力するつもりで雇った御者と入れ替わった。

セリカの参加に、なし崩しに決定してしまうことにグレンは訝しんではいたが……………セリカは大陸屈指の魔術師、第七階梯(セプテンデ)階位を持つ。

生徒達の安全面を考慮すれば、願ってもない話だ。

しかし、ここで問題は生じた。

正午にさしかかることで日差しが強くなり、吹きさらしの二階席にいると余計な体力を消耗してしまうということで生徒一同は馬車内に集まっていたのだが……………。

生きた伝説と称されるセリカ=アルフォネアと一緒にいるこの空間はシスティーナ達には緊張に身構えている。

しかし、それも無理はない。

セリカは良くも悪くも様々な噂や逸話、伝説がある。

おまけに魔性の領域と達している美貌、精緻すぎるがゆえに冷たさと硬質さを醸し出し、一種、近寄りがたい雰囲気を演出している。

雲の上のような存在と数日共にするともなれば、緊張するのも仕方がない。

「~♪」

当の本人は我関せずとばかりに、余裕の表情で本などを開いたりしている。

気まずい空気が馬車内に漂るなか、テラスがそんなものどうでもいいかのように口を開いた。

「それにしてもアルフォネア教授。教授が来るのでしたら僕はいらなかったのではありませんか? 一応、論文を発表するようにと言われた身なんですが……………」

「まぁそう言うな。私はこれでもお前の優秀さを買っているんだ。それぐらい片手間で済ませてみせろ」

「……………まぁ、八割は完成していますからいいですけど」

あっさりとそう言い返されるセリカに嘆息するテラス。その言葉にシスティーナは反応する。

「ちょっ待ってテラス。論文の発表ってどういう意味よ?」

「ああ、言ってなかったっけ? 僕、上の人達から論文を発表するように言われていてね。その内容次第で階位が第四階梯(クアツトルデ)まで上がるらしいんだ」

聞けば誰もが驚く内容をテラスは今日の夕飯を決めるかのようにあっさりと答えた。

当然、その事実を聞かされたシスティーナ達は目を丸くし、驚きを隠せないでいる。

「な、な、な、な……………」

「な?」

「なんでそんなにも平然としていられるのよ!? すっごいことなのよ!?」

「そうなの?」

「そうよ!! 私達の二年次生で第四階梯(クアツトルデ)になれる可能性はまずはないわ! もし、なれたらそれはアルザーノ学院の歴史のなかで初めての存在になれるかもしれないチャンスを……………どうして貴方はそんなにも平然としていられるの!?」

うんうん、とシスティーナの叫びにカッシュ達は同意するように頷いているが。

「別に階位に興味はないし、僕は趣味で魔術ができればそれでいいからね」

呆気欄とそう答えたテラスにシスティーナは口をぱくぱく動かしながら啞然とすると、がくりと肩を落とす。

「………………………そうね、そうよね。貴方はそういう人だったわね」

そう、テラスは魔術を身に付けているのはあくまで趣味の範疇。その上実力はシスティーナ達以上にあるから本気で魔術に取り込んでいるシスティーナ達にとっては酷い話である。

「きぃぃぃっ! どうして、私ではなくテラスに…………!」

「ふん、精々本番でミスをしないように気を付けるんだな」

成績上位の二人はその事実に悔しそうにしていた。

「あらあら」

「す、凄い……………」

どこか含みある笑みを見せるテレサや素直に驚くリン。

「すげぇじゃんか!? クソ! これがリア充の力なのか!? 爆発しちまえ、この野郎!!」

「あはは、まぁまぁ」

嫉妬に拳を震わせるカッシュを苦笑しながら宥めるセシル。

当の本人は困ったように頬を掻きながら話題をセリカが読んでいる本に変える。

「ところでアルフォネア教授。それは『メルガリウスの魔法使い』ですか?」

「ああ、今回の旅の道中の暇つぶしに、何か本をって思って書架をあさっていたら、これが目に留まってな…………懐かしくて、つい」

「僕も読みましたよ。童話だからと思っていましたけど割と面白いものでした。ああ、そういえばメルガリウスの天空城を舞台にした物語だったよね? システィーナ」

不意に呼ばれて目を丸くするシスティーナは周囲に視線を泳がせるテラスの考えを悟り、頷きながら肯定した。

「ええそうよ。空に浮かぶ城を舞台に、正義の魔法使いが、人々を苦しめる悪い魔王をやっつけて、囚われていた姫を助け、皆を笑顔にする……………大まかな話はこんな感じだけど、群像劇のような体にもなっていて、大人でも楽しめる作りになっているだけではなく、私達メルガリアンにとっても、この本も重要な研究資料なんだから」

生徒達とセリカの溝を失くそうとその本を話題に持ち上げて行く二人の思惑が思いのほか上手くいって、馬車内の雰囲気が良くなっていく。

 

 

 

 

 

 

「あれが……………『タウムの天文神殿』か……………」

石で造られた、巨大な半球状の本殿。周囲に並び立つ無数の柱。渦を巻くような不思議な幾何学模様が、石で構成されたその壁面にびっしりと刻まれている。

独特な建築様式で造られたその神殿は、背後に背負う圧倒的な勝景に負けることなく、その確かな存在感を誇示しながら、そこに在った。

「……………………『タウムの天文神殿』…………私……………とうとう来たんだ……………」

神殿をじっと見つめながら、システィーナが感慨深そうに呟いた。

他の生徒達も例外を除いてはその不思議な雰囲気と存在感に圧倒されている。

その例外であるテラスは馬車から荷物を下ろしたりなどしている。

神殿などどうでもいいかのようだ。

「………………………おいおい、お前ら、ぼぉ~としてる場合じゃないぜ?」

グレンが手を打ち鳴らし、さっそく指示を飛ばす。

「本格的な調査は明日から、今日はここで野営だ。野郎共は天幕(テント)を張れ。リンとテレサは夕食の準備を。セリカ、念のため野営場周辺に守護結界の敷設を頼む。白猫、ウェンディその補佐だ。ルミア………とテラスは馬の世話を。リィエル、お前は周囲を哨戒し、危険な魔獣がいないかどうか探れ、いたら遠慮なくやっつけていいからな? そして、俺は―――――」

てきぱきと卓越したリーダーシップを発揮し、指示が終えたグレンは、唐突に、ごろりとその場で横になる。

「…………………疲れたから、寝るわ…………夕飯できたら起こしてね~、ふぁ…………お休みぃ…………」

「《アンタも・何か・働きなさいよ》―――――っ!」

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああ――――っ!?」

「さて、ルミア。行こうか」

「うん、そうだね」

いつも通りの二人のやり取りを微笑ましく見守りながら二人は与えられた役割をこなしに行く。

 

 

 

 

野営中、全員が寝静まる時間帯でテラスは夜番をしている。

誰かに言われたわけではなく、吸血鬼であるテラスはむしろ夜の方が落ち着くから単なる気紛れで夜番しているだけだが。

「テラス=ヴァンパイア」

「アルフォネア教授。お休みになられないのですか?」

そんなテラスにセリカが天幕(テント)から出て来て、声をかけてきた。

「単刀直入に言う。お前は永遠者(イモータリスト)か?」

鋭い眼差しを向けながらセリカは問いかけた。

―――――永遠者(イモータリスト)

それはセリカの特異体質。

身体は歳を取らない。一つの生命体として生命活動を行いつつも、時間が止まっている。

その原因は謎。原理も不明。セリカ自身も何の心当たりもない。

言い換えてしまえば不法不死といってもいい存在だ。

その証拠にセリカは既に四百年も生きている。

だが、もう一人セリカと似た存在がこの場に、眼前にいる。

それがテラス=ヴァンパイアだ。

魔術競技祭後に知ったテラスの正体。不老不死の吸血鬼。

始めは半信半疑だったセリカだったが、テラスが自身が不老不死であることをセリカの眼前で証明した。

 

伸ばした鋭い爪で己の首を切断して。

 

瞬く間に元に戻ったテラスを見てセリカは思った。

こいつに何か自分の正体を知る手がかりがあるかもしれないと。

だからセリカは今回の調査に参加した理由の一つとしてこの場にいる。

永遠者(イモータリスト)ですか…………不老不死という点では確かにそうですね」

テラスはあっさりとそう返した。

それがセリカの苛立ちを募らせるとも知らずに。

「はっきりと言うぞ? 私はお前の優秀さを買ってはいるが、同時に危険視している」

「でしょうね。それが正しい判断だと僕も思います」

セリカの言葉を肯定した。

「………………………お前の目的はなんだ? どこで生まれた? お前以外に吸血鬼はいるのか?」

恐ろしいほどに呆気なく肯定したテラスにセリカは続けて問いかける。

「目的は特にはありませんね。強いて言えばルミアを守ることですかね。僕以外にも吸血鬼はいますが純血の吸血鬼は恐らくは僕だけですね。どこで生まれたかといえば…………少々信じられない話なのですが、聞きますか?」

「………………………………ああ」

少し考えてセリカは頷いた。

「先に言っておきますが、僕はアルフォネア教授や他の皆さんと敵対する気も意思もありません。ですので、これから話すことを言っても攻撃しないでくださいね」

「いいだろう…………」

念押しするかのように告げられたテラスの言葉にセリカは肯定を取るとテラスは己の正体について語った。

「僕はこことは別の世界で死に、邪神の手によって転生した元人間で現吸血鬼―――――いわゆる転生者というやつですよ」

「馬鹿な…………ッ!?」

思わず声を上げたセリカは咄嗟に自身の口を押えて冷静になる。

周囲を見渡してグレン達に変化がないことを確認して一息吐く。

二百年前、セリカを始めとする『六英雄』は外宇宙からの邪神の眷属達と戦った。

その邪神の手によって生まれた転生者が目の前にいる。

「邪神様は面白いと言って僕をこの世界に吸血鬼として転生しました。姿も顔もわかりませんでしたが、娯楽に餓えた感じの神様でしたね」

懐かし気に語るテラスにセリカは極力冷静さを心がける。

確かに信じられない話であり、念押しする理由も理解出来る。

だが、何が目的で邪神はテラスを転生させたのかわからない。

二百年間の魔導大戦で邪神との戦いは一応は終止符は打たれた。それからこの二百年間はそれらしい情報もセリカの耳には入っていない。

「この事を知っているのはアルフォネア教授だけです。あ、念のためにもう一度言いますが敵対する気は微塵もありません。そんなことをしたら彼女(ルミア)が悲しみますし、僕自身もせっかく知り合えた人と戦いたくはありませんので」

衝撃的な事実を告げた本人の態度には至って変化は見受けられない。

それが当たり前かのように話している。

「………………………確認するが、お前は邪神の眷属ではないのだな?」

「はい」

「………………………私やグレン達の敵に回る気もないんだな?」

「はい。そんなことをしたらルミアが悲しみますので」

その返答にセリカは顎に手を当てて思案する。

先ほどからのテラスの発言。まるでルミアの従者や眷属のような答え方だ。

(ルミア)の命令に従う従者(テラス)

少なくともこの吸血鬼の手綱はルミアが握っているということか、と結論を出すと最後に一つだけ尋ねた。

「お前にとってルミア=ティンジェルはなんだ?」

「彼女ですが?」

さも当然のように答えた。








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