「ほう……………? このだだっ広い部屋が『タウムの天文神殿』が誇る大
遺跡調査から六日目。恐らくは最終日となるその日、一同は最深部――大
綺麗に磨き抜かれた半球状の大部屋の中心に、謎の巨大な魔導装置が鎮座し、その傍らには黒い石板のようなモノリスが立っている。
この魔導装置の正体は
システィーナの提案もあって一同は
誰もがその光景に言葉を失う中で一人だけ冷めた目で見ていた。
「………………………………」
テラスは星空を一瞥しただけで特にこれというものは感じない。
別に感動を覚えないわけではなく、単純にこれとは違う形で見たことがあるからだ。
(前世の現代社会で何度か見たな…………)
ここではない別世界でプラネタリウムは見たことある彼にとっては今更こんなもので感動を覚えることはない。
一同が星空を眺めた後でいつもの単純な作業に取り掛かる。
テラスも他の皆と同じように隠し部屋や魔力痕跡を探したりなどしながら昨夜の事について思い出す。
(どうしてルミアはあそこまで………………)
テラスには好きや愛しているなどそういう気持や考えがまるで理解できない。
いったい何をもって好きと言えるのか?
どうして愛の言葉を述べられるのか?
その考えが本気でわからない。
(そもそもルミアは本当に僕のことが好きなのかな…………?)
それは疑念ではなく疑問だ。
ルミアと初めて出会ったのは三年前。外道魔術師に誘拐されていた路地裏だ。
攻撃してきた外道魔術師を殺して、血を少し分けてもらおうとルミアに声をかけただけ。
普通なら嫌悪したり、恐れたりするものだとテラスは思う。
外道魔術師とはいえ目の前で人を殺した相手を好きになる動機はなんだ?
テラスがルミアを守るには自分にとって都合や考え、理屈や根拠があるからだ。
ルミアの血は極上の一言。その血を飲めるのならその代価でルミアの守護をする考えは持ち合わせているし、今はルミアを失いたくない気持ちはある。
だけど、それはこちらの都合でルミアにとってはどうでもいいことだ。
毎回のように自分から血を提供する必要も、命の危険を冒してまでテラスを助けようとする意味はなんだ?
わからない。ルミアは彼―――テラス=ヴァンパイアの何が好きなのか?
人間は究極的にまで自分主義者だ。
これはテラスの自論である。
身体的、精神的、心理的、状況、運。全てを踏まえて人間は何においても自分の事を第一優先に考えて行動する。
それが悪いとは思わないし、言わない。
それが人間にとっての当たり前だからだ。
仮にルミアがテラスを見捨てたとしても恨むことも憎むこともしない。
それを淡々と受け止めるだけだ。
(でも、多分この話をしたらルミア怒るだろうな……………………)
怒って平手打ちする気がする。
その怒ると思う理由もテラスにはわからないだろう。
乙女心は複雑怪奇。不意にそんな言葉が脳裏を過る。
「どうか……………あの
そんなことを考えている途中でシスティーナがセリカに頭を下げてそう懇願していた。
その切羽詰まった様子にセリカは応じて魔術機能の分析・解析する黒魔【ファンクション・アナライズ】を小一時間ほど使って解析を行った。
「……………………駄目だな」
しかし、その結果はなんの成果もあげられなかった。
「私もできる限り念入りに、この装置を隅々まで調べてみたが……………………
「そ、そう……………ですか…………」
「……………………ああ。残念ながらな……………………」
肩を落とすシスティーナに何故かセリカも少し表情を曇らせ、息を吐く。
大陸最高の
結果的に何もない。それを判明したテラスは再び作業に取り掛かると、不意にそれが目に留まる。
大部屋にある一部の壁にある古代の文法。古代人が誇る魔法―――
その中である一文にテラスは何故か惹かれるように目が留まった。
何故か? と問われればわからないとしか返せない。
ただ、吸血鬼が人間の血を求めているかのようにその魔術式に惹かれている。
テラスは皆に気付かれない様に黒魔【ファンクション・アナライズ】を使って解析を行うもそれらしいものはなく、もしかしたら吸血鬼としての食欲が湧いただけでそう思っただけかもしれない。
その時だった。
きん、きん、きん――――
辺りに突如、魔力反響音が響き……………一瞬、床の紋様をなぞるように蒼い光が走った。
呆気を取られているテラス達を尻目に、
それは明らかに、離れた空間同士を繋ぐワープゲートの類だ。
その虚空に出現した『扉』の奥は深淵の闇を湛え、その『扉』の向こう側が、一体、どこに続いているのかはまったくの不明だ。
そして、その『扉』を出現させたのはシスティーナだった。
カッシュ達は謎を解き明かしたことに大騒ぎになっているが、少し考えればわかる。
ありえない、と。
テラスがシスティーナの代わりに
もし、それが可能とするとしたら――――
システィーナの隣にいるルミアに視線を向けている最中。
セリカがその『扉』へ猛然と駆け出した。
グレンの声さえも無視してセリカは『扉』の向こうへ姿を消した。
慌てて後を追おうとするも、セリカを閉じ込めたまま『扉』は消えてしまった。
「…………………くそっ! セリカッ!? セリカァアアアアアアアア―――――ッ!?」
グレンが『扉』があった場所の床に飛びつき、拳を叩き、叫ぶ。
謎の『扉』の向こうへ、セリカは消えた。
この緊急事態に、グレンは一旦、生徒達をまとめ、野営地にまで戻り、システィーナから話を聞いた結果。グレンとテラスは納得した。
システィーナがルミアの異能をこっそり使って黒魔【ファンクション・アナライズ】で
ルミアの異能――『感応増幅能力』は触れている任意の相手の魔力を一時的に超増幅させる異能。ルミアのアシストを受けたシスティーナは偶然発現した例の『扉』を出現させた。
「どうします? 先生」
「決まってんだろ! セリカを連れ戻す! テラス、お前は残って他の生徒達を頼む。俺とセリカが戻らなかった時はお前が生徒達をフェジテまで連れて帰ってくれ」
システィーナとルミアに朝昼夜の一回ずつ扉の開閉を頼み、グレンは一人で『扉』の向こうに行こうとする。
その言い切った時。テラスが鋭い爪をグレンの喉元に突きつける。
「―――――っ!?」
「冷静になってください、先生。狂霊一匹でも苦戦する先生が未探索領域に一人で踏み込むなんて犬死ですよ?」
爪をグレンから離してテラスは告げる。
「ここにいるメンバーでアルフォネア教授を助けに行くべきです。システィーナの魔導考古学の知識と魔術、ルミアの
「そんなことしたら残された生徒達は誰が仕切る!? 誰が守アゴッ!?」
「先生!?」
グレンの顔面に拳を叩きつけてテラスは淡々と話す。
「落ち着いて考えてください、先生。これから先生が向かおうとしている場所は何が起こるかわからない完全に未知の領域です。なら、そちらに戦力を回すのは当たり前です。カッシュ達も危険はないわけではありませんが、自分の身ぐらい自分で守れるでしょう」
「だけど、万が一にも――」
「万が一は万が一です。どうしてもというのならここで先生を縛り上げて僕が一人でいきますが? 先生がカッシュ達を守ればいい問題ないでしょ? その間に僕がアルフォネア教授を助けに行きます。少なくとも先生が一人で行くよりかは成功率は高いと自負できますが?」
「ぐっ………………」
正論だ。確かにグレンよりもテラスの方が生存率は高い。
不老不死だから死ぬこともない。危険な場所にはテラスは打ってつけだ。
「それでも―――」
「ああ、それともこう言った方が効果的ですかね? セラ姉さんを失った時の先生の気持ちをシスティーナ達にも味合わせたいのですか?」
なんとか言葉を出そうとするグレンはその一言で言葉を失った。
「僕には理解できない感情ですけど、人間にはよほど堪えるのでしょう? なんせグレン先生でさえ一年間は引きこもるほどなんですから」
「やめろ………………」
「システィーナ達ならどうなんでしょうね? 一年? 二年? もしかして一生? システィーナに関しては初めての遺跡調査で大切な恩師を失うのですから下手をすれば引き籠るだけでなく、自分が掲げている夢も諦めてしまう程に強いショックを―――」
「テラス君!!」
言葉を遮ってルミアがテラスの口を強引に塞いだ。
「それは言い過ぎだよ。いくらグレン先生の為でもそれ以上は言っちゃ駄目」
グレンの
「これ以上、先生や皆を傷付けないで……………………」
目尻に薄っすらと涙を溜めているルミアにテラスは小さく首を縦に振った。
(本当に理解できないなぁ………………)