ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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細切れと浄化

グレンは最終的にテラスの案を採用して再び訪れた大天象儀(プラネタリウム)場。

ルミアのアシストを受けてグレンは黒魔【ファンクション・アナライズ】を起動させ、天象儀(プラネタリウム)装置を魔術分析を行い、再び『扉』を出現させる。

そして、恐る恐るその扉をくぐると、その先にあったのは―――深淵の闇に煌めく無限の星々。扉と同じく光で構成された回路が、消失点に向かって、延々と真っ直ぐ続いている。

その無限とも思われる行程を、踏破しきり―――

そして――――

 

グレン達は光の扉を潜り抜けた先にて。

「な………………」

眼前に広がる光景に、グレンはただ呆然するしかなかった。

それはここが大天象儀(プラネタリウム)場と酷似したモノリスがあるからではなく、その場所が異常だった。

そこには、そこかしこに干からびた死体―――無数のミイラが転がっていたのだ。

しかも、皆一様に恐怖と無念の形相に、その顔を歪ませて――――

「ひ―――――ッ!?」

ミイラの存在に気付いたシスティーナが小さく悲鳴を上げ、グレンの腕に取り縋る。

「恰好と杖から見て全員が魔術師のようですね。それも何者かに殺された」

間近でミイラを見ながらテラスは冷静に状況の推測を口にする。

ミイラ達は例外なく、焼け焦げていたり、身体の一部を欠損していたりと外的損傷が激しかった。

「……………くっ」

不意に感じた眩暈と吐き気に、グレンは片膝をついて頭を押さえる。

漂う濃厚な『死』の匂い。こうして、ここにいるだけで背筋から熱が奪われていくような………………正気が、命が削られていくような気配…………………

ここは―――地獄。怨嗟と死の穢れに満ちた、呪われた空間だ。

「せ、先生…………」

不安げにこちらを見つめている生徒達(約二名はいつも通りだが)を前に、グレンは小さく震える拳を強引に握り固め、下腹に気合を入れた。

「さぁて、行くぞ、お前ら! さっさとセリカを探して、こんな辛気臭ぇとこ、オサラバしようぜ?」

グレンが空元気で、明るく言った…………………その時だ。

ずる、……………り……………、と、後方から何かが這うような音が響いた。

「――――ッ!?」

音に反応し、一同は咄嗟に振り返る。

グレンが指先に灯した魔術の光を、その音がした方向へ向ける。

すると、後方にある曲がり角から、長い金髪の女が這い出しているのが見えた。

「あ、先生。その人―――」

吸血鬼で夜目が効くテラスは口を開こうとしたが。

「セリカか!? おい、どうした!? しっかり――――」

グレンの声に遮られて、本人はその女に向かって駆け出して――――その足を数歩で止めた。

「死んでますよ? 多分」

セリカではない。

ずるり。

その女には左腕がなかった。

ずるり、ずるり……………

もっと言えば、その女には下半身もなく、干からびた臓腑を引きずっていた。

ずるり、ずるり、ずる……………り……………………

「この眼でリアルバ○オが見れる日が来るなんて……………………バイ○ハザードでいいのかな?」

石像のように固まるグレン達とは違い、一人そんなことを口にしている。

その女は幽鬼のように振り乱した髪の隙間から、グレン達を恨めしそうに見上げ…………

その眼窩には眼球はなく、無限の闇色が湛られていて………………

「きゃああああああああああああああああああああああああ―――――ッ!?」

システィーナの悲鳴が上がったのを皮切りに。

ガサササササササササササササ―――――――ッ!

女が右腕一本をものすごい勢いで動かし、ゴキブリの如き挙動と素早さで這い酔ってくる。

金縛りに遭ったように硬直するグレンへ、右腕一本で跳躍し―――

『憎イ――――――憎イ―――――憎ィイイイイイイ―――――ッ! ァアアアアアアアアアア――――ッ!』

古木の洞を抜けるような金切り声を上げ、グレンに掴みかかろうとする。

「なにしているのですか? 先生」

刹那。女の身体は細切れとなった。

「テ、テラス…………」

だが、首は残り、女の髪は生物のように伸びてテラスに掴みかかる。

「《燃えろ》」

『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――ッ!』

だが、黒魔【フレイム・バースト】を至近距離で当てて女を灰へと変えた。

しかし、それだけでは終わりではなかった。

壁から無数の手が生え、足元にいたミイラ達が一斉に動き出してシスティーナ達に襲いかかろうとしている。

「死体が動くとは……………」

両手の五指から鋭い爪を伸ばして次々とミイラ達を細切れに変えていくテラスは死霊を見て呪文を口にする。

「《穢れを祓え》」

祓魔の浄化呪文―――白魔【ピュアリファイ・ライト】を一節で発動させて、神々しい光は周囲を明るく照らしてミイラや亡霊達を怯ませる。

その隙にルミアが懐から香油の小瓶を取り出し―――

「《送り火よ・彼等を黄泉に導け・その旅路を照らし賜え》」

「あ、やばい」

その呪文を聞いたテラスは瞬時に翼を広げて宙に舞う。

そして、少しずつ垂らす様に振りまかれる香油に、不意に炎が引火し、明るい橙色の聖なる炎が、轟と渦巻いて燃え上がった。

それは、死者・悪霊のみを清める浄化の火。

辺りを荒れ狂う炎嵐は、グレン達に火傷一つ負わせることなく……………

キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――ッ!?

…………………ァアアアアアアア……………………

死者達だけを焼き尽くし、浄化消滅していく。

それを確認したテラスは地面に降りて翼をしまう。

「皆…………大丈夫?」

「あ、ありがとう……………………テラス、ルミア…………………」

「ん。助かった」

システィーナとリィエルは二人に礼を言う。

「お……………驚いたな………………白魔【セイント・ファイア】……………お前、そんな高位司祭が使うような高等浄化呪文を使たのか……………………?」

「はい……………昔、王室教育の一環として、お母さんから習ったんです……………」

そして、ルミアは大切そうに握りしめた香油の小瓶をグレンへ見せる。

「もっとも、私の腕ではこの香油を触媒にしないと、とても唱えられませんけど……………」

「アレシアの香油だったけ? 確か、死者に手向ける白い葬送花から精製される貴重な香油を使ってもよかったの?」

「そうよ。その香油………………こないだ、女王陛下――――貴女の本当のお母様から、お守り代わりに貰った大切なものじゃない……………それを………………」

「いいの。皆を助けるためだもの。お母さんもきっと納得してくれるよ」

気遣うようなシスティーナへ、くすりとルミアが笑いかける。

「先生、良かったですね。僕達がついて来て。先生一人だけなら今頃ミイラ達の仲間入りでしたよ?」

「……………………そ、そうだな、すまん。正直、ここの異様な雰囲気に呑まれて……………というかお前は何でルミアの魔術から避けてたんだ? あれ、死者や悪霊にしか効かねえだろう?」

「吸血鬼は聖なる力が苦手なんですよ。十字架、聖水、聖火も苦手の部類です。問題はなくても本能的に避けてしまうんですよ」

「ほう……………? 吸血鬼も意外と不便なんだな」

「本当ですよ」

はぁ、と息を吐く。

 

 

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