ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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怪物VS魔人

グレン達を逃がす為にテラスは一人残り、魔人と対峙する。

「《強化》!」

白魔【フィジカル・ブースト】で身体能力を増幅(エンハンス)。そこにルミアの異能によって引き上げた。

『ぬっ―――――』

想像を超えた速力を発揮するテラスの動きに魔人は一瞬だけ戸惑いを見せた。

元々は素の身体力で人間を超えて、そこにルミアの異能が施されている魔術を使った。その速度は完全に魔人を上回っている。

しかし、魔人は戸惑いを見せたがそれだけだ。

如何に身体能力を上げてもそれは魔術によって強化されたもの。

それなら左の魔刀・魔術師殺し(ウィ・ザイヤ)に触れさえすればそれは強制的に解除する。

『児戯』

確かにその速力には舌を巻く。だが、それだけでは勝てない。

テラスの動きを先読みして左の魔刀を振るう。

「そう、来ますよね」

だが、それを読んでいないテラスではない。

パチン、と指を鳴らした。

『ぐぅ――――ッ!?』

突如魔人の心臓から刃が飛び出した。そして、余りにも突発的な現況に怯みその隙をテラスは見逃さない。

爪を伸ばして魔人の首を斬り飛ばす。

宙を飛ぶ魔人の首。だが、気が付けば魔人は何事もなかったようにそこにいる。

『……………人外。何時の間に我の体内に刃を仕込んだ?』

「初めからですよ。貴方に最初の一撃を与えたその時に仕込ませていただきました」

テラスのポケットには魔術によって圧縮凍結保存した爪楊枝サイズの武器をしまっている。

魔人を手刀で貫いたその時にこっそりと仕込んでおいたのが功を奏した。

「とある正義の方に酷い敗北をしまして、少し用心深く戦うよう心掛けているんですよ」

テラスは人間の枠外にいる怪物、吸血鬼だ。

不老不死であり、素の身体能力も人間を上回っている。

それなのにテラスはジャティスに完全敗北した。

自分を殺すことなどできないという慢心と用心深くあの手この手と策を用意していたジャティスの作戦勝ちだ。

もし、あの場にルミアがいたとしたら間違いなくルミアは殺されていただろう。

あの時の敗北を糧としてテラスは更なる強さを求道する。

「さて、そちらの質問には答えました。今度はこちらの質問にも答えてもらいますよ? ……………もしかして貴方は魔煌刃将アール=カーンですか?」

自分でも何を馬鹿なことを言っているのか、という自覚はある。

だけど、そう思えるほどに共通点が多すぎる。

遺跡調査前日にヴィオロに読み聞かせた童話『メルガリウスの魔法使い』を不意に思い出してまさか、という疑念を抱いた。

二振りの魔刀。死なない身体。己が真に忠誠を捧げるべき相手を求める。

絵本の挿絵にも双刀の剣士の姿がある。

独特的な創作キャラだな、とヴィオロに読み聞かせながらそう思っていたのを思い出したテラスはここで思い切って尋ねてみた。

(仮にアール=カーンなら残りの命は二つだ………………)

童話の話なら魔人はグレン達と出会う前に既に七回死んでいる。そこにセリカを助ける際に二回と先ほど二回を数えて後二つ。

それなら十分にここで殺せられる可能性はある。

尋ねらテラスを睥睨する魔人は答えた。

『我が真なる主すら知らぬ秘中を、汝がいかに知ったかは与り知らぬが……………その問いには肯定を持って答えよう』

己の正体を明かした魔人にテラスの疑念がここで確信に変わった。

後二回。後二回魔人を殺せば勝てる。

『人外よ。汝を我が障害として認めよう。……………………《■■■■―――》……………』

それは、如何なる術式なのか。

魔人が聞き慣れない響きの言葉を呟き始めると、頭上に、まるで太陽の如く燃え輝く球体が形成されていき、その場をまるで昼間のように明るく、眩く照らす―――

馬鹿げた熱量があの球体に封じられているのがわかる。それはまるで灼熱の太陽。

【人外の領域】起動。―――指定、風の攻性呪文(アサルト・スペル)

それを見たテラスは迷うことなく己の固有魔術(オリジナル)を起動させる。

「《集え暴風・戦槌となりて・撃ち据えよ》!」

『《―――■■■■》』

固有魔術(オリジナル)によってその威力は桁外れに跳ね上がった圧搾凝集した風の破城槌と全てを呑み込み、焼き尽くす灼熱の極光が衝突する。

『我が一撃をよく凌いだ!』

「っ!?」

それは魔人のフェイク。囮だった。

魔人の相手は人間ではない人の身ならざる怪物。なら、あの一撃をどうにかすると魔人は踏んだうえでテラスの背後から左の魔刀を振るう。

神速で振り下ろされるその一撃をテラスは回避したが、僅かに掠ってしまったのか増幅(エンハンス)された身体能力が打ち消された。

「《颪の風狼よ・我が四肢に纏い・疾く烈しく荒れろ》!」

黒魔【ラピッド・ストリーム】を改変した黒魔改【ラピッド・テンペスト】。

激風を身に纏い、機動力を爆発的に向上させる魔術。

帝国軍では『疾風脚(シュトロム)』と呼ばれる魔導技で、自ら起こした風の爆発に、自ら吹っ飛ばされることを連続で行って高速三次元機動する。

セラが最も得意とするこの術をテラスは両腕と両脚に激風を纏うように改変した。

『ぬぐっ!』

吹き飛ばされる魔人。態勢を整えられる前に再度吹き飛ばされる連続攻撃に囚われる。

先程の白魔【フィジカルブースト】以上の高速機動で今の魔人にはテラスを目視できない。

霊素皮膜処理(エテリオ・コーティング)が施されている遺跡の壁は破壊することができない。

壁を跳躍しては魔人を両脚と同じ機動力を保有する両腕から放たれる拳撃を炸裂。魔人に息をする暇も与えない拳と蹴りを叩きつける。

更には今のテラスは固有魔術(オリジナル)を起動中。その機動力、威力は桁外れの高い。

『――――――っ』

「あと一つ」

高速機動から鋭利な爪を用いた刺突で魔人を一回殺す。

残り一つ。あと一回殺せばテラスの勝利だが、ここで固有魔術(オリジナル)の効果が切れた。

『よくここまで我を殺し尽くした!』

「《疾》ッ!」

疾風脚(シュトロム)の連続起動で距離を取り、魔人の双刀の範囲内から逃れる。

「《穿て》――――《穿て(ツヴァイ)》ッ! 《穿て(ドライ)》ッ!」

三条の雷閃――――黒魔【ライトニング・ピアス】を的確に魔人の頭、喉、心臓を狙う。

『小賢し!』

左の魔刀によって霧散。通常の攻性呪文(アサルト・スペル)では魔人には届かない。

攻め続ける魔人の剣舞。疾風脚(シュトロム)を連続起動させて回避するテラス。

固有魔術(オリジナル)は一度使った。後一度使えばマナ欠乏症に陥る。

だがこのままではジリ貧だ。

テラスはもう一度固有魔術(オリジナル)を発動させる。

(ここで勝負をつける……………………ッ!)

「《数多の大気・颶風の刃・顕現せよ》!」

黒魔【エア・ブレード】。固有魔術(オリジナル)の力を持って無数の風の刃を顕現させる。

それを魔人に向けて一斉砲火。無数の風の刃は魔人を微塵切りにする勢いで襲う。

『フン!』

だが、魔人はその超絶技巧の剣技を持って無数の風の刃を霧散していく。

一発でも急所に当たればテラスの勝利は違いない。それでも魔人の技量、底力はテラスの想像を遥かに超えていた。

あと一つ。それが圧倒的までに遠い。

放ち続ける風の刃。それを防ぎ続ける魔人。

どちらも一歩も引かない戦いに先に地面に膝をつけたのは――――――テラスだ。

固有魔術(オリジナル)の時間制限を超えて、マナ欠乏症に陥った。

そして、全ての風の刃を防ぎ切った魔人はテラスに歩み寄る。

『……………人外よ、見事だ。地に堕ちた身なれど我を相手に一人でここまで追い詰めた汝に賛美の言葉を送ろう』

「………………………それはありがとうございます」

肩で息をするテラスの顔が苦しそうに歪めていた。

『褒美として苦痛なき死を与えん』

「そうですかっ!」

近づいてくる魔人にテラスはソレを取り出した。

取り出したのは装填済みの一丁の拳銃。遺跡調査前にテレサに頼んで買い取った物だ。

勿論テラスはグレンのように巧みは扱えない。

一定の距離内でないと相手には当てることが出来ない。

だが、その一定の距離内に魔人はいる。それも銃弾が通ることは既に証明済み。

用心の為に取っておいたテラスの最後の切札。

咆哮する銃声。一閃の火線が過る。

『……………………往生際悪し』

「………………………………ダメ、か」

しかしながらも魔人はテラスの最後の切札を防いだ。

もし、初見であれば通ったかもしれない。でも、それはもはや言い訳だ。

(ごめん、ルミア…………)

もう手は残されてはいない。ここで霧化しても右の魔刀は肉体ではなく魂に攻撃するもの。霧の上からでもその魔刀は通るだろう。なら不老不死のテラスでも案外あっさりと殺すかもしれない。

(二度目だな…………)

前世では全身をめった刺しにされて死んだ。

今度は魂を吸い取られて死ぬ。

(案外と早かったな……………………)

割と楽しい生活だった。前世ではできなかったことやこの世界でしかできないこともできた。

ここで死んでも悔いはない。

潔く諦めて瞼を閉ざす。諦念を感じ取ったのか魔人は祈りを捧げるように、刀で円を描く。

『逝ね』

振り上げられる右の魔刀。

後はそれを振り下ろせばテラスは魂を吸い取られて死ぬだろう。

(悪くない第二の人生………………怪物生だった)

全てを諦めてその魔刀が振り下ろされるのを待っていると――――

『ダメ!』

「っ!?」

『ぬ!?」

諦めたと思っていたテラスは不意に聞こえたその声に思わず身体が動いた。

「………………………………ルミア?」

視線を動かすもここにはルミアもグレンやシスティーナ達もいない。

いるのはテラスと魔人のみ。

「………………………幻聴? こんな時に?」

幻聴のはずだ。それでも確かにテラスの耳にはルミアの声が聞こえた。

死なないで、そう願っているかのような懸命な声だった。

それが幻聴なのか、もしくは走馬灯か。妄想の類が一番現実的な考えだろう。

「………………こんな時でも君のことを考えるなんてね」

前世では考えられないことだった。

自分は他の人達とは違う、異質な存在だ。

恐れられ、怖がられ、気味悪がれ、孤立し、孤独で生きていた。

前世ではそれに疑問に抱いたことさえなかった。

それを当然と受け入れ、当たり前のように応じた。自分でも恐ろしく冷めていたと思う。

だけど、この世界で吸血鬼という怪物として転生し、少しだけ周囲の考えや気持ちが理解できた気がする。

誰だって恐ろしいものに近づきたくはない。それが同じ人間でも怪物だろうと変わらない。

保身を第一に考える人間らしい行動だ。

でも―――

それでも――――

ルミアは違った。

人を殺す場面を見たのに、自分が人を襲う怪物だと知っているのに、本能に溺れて殺しかけたのに、ルミアはそれでも彼を―――テラス=ヴァンパイアを恐れることはなかった。

恐怖を引きつかせた笑顔ではなく本当の笑顔を。

怯えを交えた震えた声ではなく優しい声を。

わからない。本当にわからない。

(どうして頭から君の事が離れられないのか……………………)

この胸の奥から込み上げてくる感覚はなんだ?

どうしてこんなにもルミアのことを考えてしまう。

何もわからない。理解できない。

だけど、一つだけわかることはある。

眼前にいる魔人をルミア達のところに行かせてはならない。

何があっても、どうなろうとも魔人だけはここでなんとかしなければならない。

『………………まだ足掻くか?』

「………………………はい。貴方をルミア達のところへは行かせません」

魔晶石を取り出してマナ欠乏症で失った魔力を回復させる。

それでも状況は絶望的だ。

相手は健在。こちらは固有魔術(オリジナル)の使用回数を超えて、手数も使い切った。

魔術を使っても左の魔刀によって打ち消される。

右の魔刀に斬られたら吸い取られて一巻の終わりだ。

逃げるという選択肢を放棄した今のテラスに勝機は無に等しい。

(本当に馬鹿だな、僕は……………………)

何で自分がこんな無謀極まりない行動を取っているのか、もはや哀れみすら抱く。

(まぁ、でも悪くはないよね? ルミア)

いや、本人がここにいたら馬鹿ッ! と怒るに違いない。

怒って、泣いて、生きている事に安堵するだろう。

こんなロクでもない怪物が生きている事に喜んでくれる。

その時だった。

頭の中で何かがカチリと失った破片(パーツ)が嵌ったのは。

それと同時に流れ込んでくる何かにテラスは思わず口角を上げた。

それは邪神の気紛れか、悪戯か?

そうするように仕掛けていたのか、邪神の考えはテラスにはわからない。

ただ一つ確かなのはあの邪神はやはりロクでもない神様だ。

「………………………………それでも感謝しますよ」

これなら魔人に勝てる。

それが自分も破滅することになろうとも構わない。

(後は頼みます、グレン先生…………)

切札(ジョーカー)は既に渡してある。後は上手いことしてくれるのを願うしかない。

(ごめんね、ルミア…………)

最後にルミアに謝罪の言葉を述べてテラスは呪文を唱える。

「《―――■■■■》」

闇に沈む者の嘆きの声に聞こえる呪文。それを唱えたテラスに変化が生じる。

背中の蝙蝠の翼が二翼が四翼に変化し、その翼から闇色の霊気(オーラ)を生じさせる。血のように紅い瞳には狂気をおびて、鋭い犬歯は更に鋭利になる。

「ゥゥゥゥゥ…………………」

『……………理性さえも捨てたか、人外よ』

双刀を構える魔人はどこか哀れみを抱く思いで、双刀を強く握りしめる。

刹那、魔人の眼前にテラスは現れた。

『!?』

初動すら見えない速度で眼前にまで訪れたテラスに魔人は右の魔刀で攻撃を行おうとしたが、テラスは魔人の両腕を掴んで、魔人の攻撃と動きを封じた。

『ぬぐ―――』

そして、鋭利なその牙が首筋に突き刺さる。

『我を、吸収するというのか!? 人外!!』

動きを封じられて叫びを上げる魔人にお構いなしに吸い続けるテラスの四翼に纏う霊気(オーラ)に勢いが増していく。

魔人の右の魔刀・魂喰らい(ソ・ルート)と同じように噛みついた相手の魂を吸収して、自身の力へと転化している。

暴れても喰らいついた牙は離れない。

そして―――

『…………………無念』

塵一つ残さず完全消滅するまで魔人の魂はテラスに吸収された。

眼前の獲物がいなくなり、テラスは鼻を鳴らす。

すると、いい匂いを感じ取った。

ニヤリと嗤うテラスはその匂いがする方へ歩み出す。

 

 

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