ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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イヴ=イグナイト

原因不明の高熱が収まったテラスは住処の地下にいる。

そしてその両手には紅と漆黒の魔刀。魔煌刃将アール=カーンの武器を握っている。

「どうして僕が使えるんだ……………………?」

テラス自身も感じる最もな疑問。アール=カーンは『夜天の乙女』から授かった双魔刀は伝授通り決まった手に持たないと発動しない。

試しに左右入れ替えてみたが、能力は発揮されなかった。

そもそもこの双魔刀が持てる時点でおかしいのだが、こちらには好都合だ。

「あの状態で噛みついたら相手の力も吸収できるのか……………………」

正真正銘の怪物となるあの状態をテラスは―――吸血鬼王(ヴァンパイアロード)と名称をつけた。その方が色々とわかりやすい。

全てを呑み込む闇の力。それが吸血鬼王(ヴァンパイアロード)の力だ。

それはテラス自身の理性や自我さえも呑み込むほどの強力で凶悪な力。

今こうしているのも全てはルミアのおかげだ。

「そういえばどうやって僕は自我を取り戻せたんだろう?」

首を傾げて怪訝する。

あの呪文を唱えてから戻るまでの記憶がない。気が付いたらルミアが目の前にいた。

(今度ルミアにでも聞いてみようか………………)

双魔刀を消して学院のある日にあの日のことを聞こうと決めてテラスは地下を出る。

「セラ姉さん」

「どうしたの?」

「ちょっと出かけてくるからついでに買い物も済ませておくけど、何かいる?」

「ん~……………ちょっと待ってね」

セラは羊皮紙に必要な物を記してそれをテラスに渡す。

「それじゃお願いね」

「わかった。じゃ、ちょっと出かけてくるね」

「うん、いってらっしゃい」

セラに見送られながら住処を出て行く。

「さぁ、ヴィオロちゃん。次に行ってみようか」

「が、頑張ります……………………」

教育中のヴィオロは勉強に頑張っている。

ヴィオロ=シャンブルはこの国で『嫌悪』の対象とされている異能者だ。それ故に幼くも両親に捨てられた。

偶然に出会ったテラスが拾い、今はセラから一般常識、魔術の勉強に励んでいる。

時折ではあるが、魔術限定でテラスも教えている。

「これが家族って言うのかな…………………」

同じ屋根の下で暮し、同じ食卓で同じ食事を食べて、苦楽を共にする。

■■■■だった頃にはないことだ。

そんなことを思いつつ街中を散策していると――――

「テラス=ヴァンパイアね?」

背後から声をかけられて振り返る。そこには真紅の髪をした女性がいた。

年齢はグレンと同じぐらいで、深紅の髪を、三つ編みに束ねてサイドテールにしている。

相貌は非常に精緻で目見麗しいが、どこか氷のような酷薄さを湛えている。

昏く燃えるような紫炎色を湛えた切れ長の半眼も、口元に浮かべる薄い笑みも、どこか他者に対する嘲弄のような印象を拭えない。

テラスはその女性とは初対面だが、女性が身に着けている服には見覚えがあった。

「帝国宮廷魔導士団特務分室の方ですか?」

「ええ、私は帝国宮廷魔導士団特務分室室長を務めているイヴ=イグナイトよ」

―――イヴ=イグナイト。

帝国古参の大貴族、イグナイト公爵家の姫君。

イグナイト家は数多くの優れた魔導士を輩出した帝国魔導士武門の棟梁。その当主は帝国最高決定機関たる円卓会にも席を持ち、大きな力と発言権を持っている。

セラから聞いたことのある人だ。

「初めまして。僕はアルザーノ魔術学院学士、テラス=ヴァンパイアと申します。それで僕にどのようなご用件でしょうか?」

「ここで立ち話もなんだし、どこか落ち着く場所でゆっくり話しましょう。案内するわ」

こちらの返答も聞かずに踵を返して進んで行くイヴにテラスは肩を竦めながらついて行く。

(やれやれ、断れば狙撃ですか? アルベルトさん)

建物の上から鷹のような鋭い眼差しを向けているアルベルト。それ以外にも二人。建物の影に隠れながらテラスの様子を窺っている。

吸血鬼の鋭い五感。特に嗅覚に優れているテラスはすぐに自分が今監視されている立場だと自覚して大人しくする。

向こうが警戒しているとはいえ、こちらから手を出すつもりはない。

手を出さなければテラスも何もしない。

テラスはイヴの案内の下、落ち着きのあるカフェに入る。

店の中は貸し切り状態。店員も恐らくは宮廷魔導士団の構成員。更には人払いの結界を張られている。

完全に相手に領域まで案内されたテラスだが、落ち着いた様子でイヴと対面するように腰を下ろす。

「単刀直入に言うわ。特務分室(うち)にきなさい」

淡々とした声音で勧誘するイヴにテラスは苦笑いを見せる。

「たかだか一学士を勧誘ですか? 随分と買って下さるのですね?」

「なに? 冗談? それなら笑えるわ。私が直々にたかだか一学士を勧誘にくるわけないでしょう? 不老不死の吸血鬼、テラス=ヴァンパイア」

「おや? 僕の正体がバレてましたか?」

「バラすもなにも貴方隠す気なんてないでしょう? 多くの外道魔術師を殺し、魔術競技祭では王室親衛隊を半殺し、正体を問いただせば吸血鬼と馬鹿正直に答える。これで隠しているつもりならとんだ間抜けね」

嘲笑を見せるイヴ。

全く持ってその通りですと内心で同意するテラス。

「魔術師としての腕前も文句なし。ああそれと宮廷魔導士団の方で貴方の階梯を第五階梯(クインデ)に上げておいたわ。その方が色々と都合がいいもの」

含み笑みを浮かばせながらさらりと第四階梯(クアツトルデ)の昇格が一段階上がって第五階梯(クインデ)に昇格することになっていた。

「私の情報網で集めた貴方の実力は十分に使えるわ。その力を特務分室で使いなさい」

「何故か話が勝手に進んでいるのですが、僕が断るという選択肢はないのですか?」

「いいえ、勿論あるわ。でも貴方は素直に私の勧誘を受けてくれるもの」

策士気取りの笑みを見せる。

「貴方の学院でもうすぐ『社交舞踏会』があるわよね?」

「ええ、ありますが?」

「そこで貴方の大切にしている恋人ルミア=ティンジェルの暗殺を目論んでいると聞いても貴方は断るのかしら?」

「………………………………詳しくお聞きしても?」

その言葉にイヴの笑みが深まる。

ルミアの暗殺を目論んでいるのは最早馴染みとなっている天の智慧研究会。

その組織内は今は二派に分かれている。

古参メンバーを中核とした『現状肯定派』

新参メンバーを中核とした『急進派』

今回ルミアの暗殺を目論んでいるのは『急進派』でその中核―――第二団(アデプタス)地位(・オーダー)》が直接動いている。

社交舞踏会でそいつを捕まえるのがイヴ達、特務分室の目的だ。

「貴方の実力と立場なら付きっ切りで自然に王女を護衛ができる」

「僕が社交舞踏会が終えたら即軍を除隊する可能性があるのでは?」

「ルミア=ティンジェルを守る為に貴方には軍で集めた情報と戦力が必要のはずよ。それとも貴方は自分一人だけの力でルミア=ティンジェルを守れるのかしら?」

無理だ。

一人だけでは決して守れない。

いつ、どこで、どのように、どのような敵が、攻め、狙い、襲ってくるかわからない。

それを事前に阻止する為にもテラスには情報と万が一の為の戦力が必要不可欠だ。

「私の下につきなさい。悪いようには使わないわ」

その言葉はもう覆らない決定事項だ。断れるわけがないとイヴは確信を得ている。

「………………………………いくつか条件があります」

「言ってみなさい」

「一つ、基本的の仕事はルミアの護衛。二つ、ルミアに関わる仕事は必ず僕に。三つ、ルミアに何かあれば僕は何よりもルミアを優先します」

「ええ、それで構わないわ」

「ありがとうございます」

テラスの条件を飲んだイヴはテラスの手を差し伸ばす。

「今日から貴方は帝国宮廷魔導士団特務分室執行官メンバー15、《悪魔》テラス=ヴァンパイアよ。魔導士団の礼服とルミア暗殺計画の資料は後々に渡すわ」

「わかりました」

差し伸ばされた手を掴んでテラスはルミアを守る為に特務分室に入隊した。

 




ご指摘が御座いましたので修正しました。
帝国宮廷魔導士団特務分室執行官ナンバー3、《怪物》をナンバー15、《悪魔》に変更。
タロットカードってカード番号とか決まっていたのですね……………………。
己の無知さに呆れましたよ…………。
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