ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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どちらが相応しいのか

グレンとテラス。

二人はどちらがダンス・コンペでルミアと踊るのに相応しいか勝負をする為に中庭に訪れていた。

「ふっ、テラス。恥をかく前に辞めるなら今だぞ?」

「先生こそ辞退したらどうですか? 意地を張るのも疲れるでしょう?」

互いに笑みを浮かばせながら言葉で牽制し合う。

「先生! 最低! ルミアの気持ちも少しは考えなさいよ!!」

「うるせぇ! 今日を生きる為にも俺に協力してくれそうなのはルミアしかいないだろうが! こっちは死活問題なんだよ、白猫!!」

ふぅ~と猫のように憤るシスティーナとグレンでいつもの言い争うが中庭で行われるなかでテラスはルミアの傍に歩み寄る。

「ルミア。絶対に勝つから安心して」

「う、うん………………でも、テラス君は踊れるの…………………?」

ルミアが心配するのはそこだった。

ルミアは元・王家の人間ということもあってダンスは得意だ。

だが、テラスは魔術に関しては凄いのは知っていてもダンスが得意とはお世辞にも見えない。正直ルミア自身も踊れるとは思っていない。

「少なくともシルフ・ワルツならこの学院で誰よりも踊れる自信はあるよ? まぁ、見てから判断してよ」

「え、う、うん……………………」

予想外にも自信満々に言い放つテラスの返答に呆気を取られる。

「よーしテラス! このグレン大先生がお情けぐらいくれてやるよ! お前はルミアと踊れ! 俺は白猫と踊ってやる! 審査員は二組でいいだろう?」

「構いませんよ。どうせ勝つのは僕達なのですから」

「ちょっ!? 私まだ了承してないんだけど!」

システィーナの手を強引に引っ張って中庭の中央に向かうグレンはどうやら先に踊るようだ。

(悪いな、テラス。今回ばかりは我慢してくれ…………………)

内心でグレンはテラスに謝った。

今回グレンがルミアと踊ることに固執しているのは賞金というわけではない。

『ルミア暗殺計画』を企んでいる『急進派』の天の智慧研究会からルミアを付きっきりで護衛する為にもルミアとダンス・コンペに参加する必要がある。

二人の仲を斬り裂く真似は本当はグレンもしたくはなかったが、背に腹は代えられない。

テラスと協力を得るのが最善の判断かもしれないが、グレンはテラスをこれ以上戦いに巻き込みたくはない。

グレンはわかる。

テラスはルミアの為なら平然と危険なことを冒す。それが最善だと判断したのなら殺しも厭わない。

お節介だろうがこれ以上テラスの手を血で染めたくはない。

(そういやイヴの奴、新しいメンバーも紹介するって言ってたな? どんな奴だ?)

含み笑みを見せながらイヴはグレンにそう告げた。

しかし、顔も名前も知らない奴のことを考えるよりも今は勝つことに専念する。

「システィ~、先生~、準備はいいですか? 行きますね~?」

ルミアが蓄音機を操作し、円盤コードをのせ、針を置く。

すると、蓄音機の上部に据えられた角笛(ホーン)部分から、シルフ・ワルツ用の楽曲る『交響曲シルフィード第一番』の前奏が流れてくる。

今回の『社交舞踏会』のダンスであるシルフ・ワルツは一番から七番まで。一番難しい八番は使用される曲の都合のため無い。

雄大で優雅なオーケストラの前奏が終わり、礼式通り互いに一礼し―――互いに歩み寄り、手を取って――――そして、曲を合わせて、いよいよ、ダンスが始まった。

その瞬間だった。

「――――ッ!?」

ぐん、といきなり荒々しくグレンに引き寄せられるシスティーナの身体。

「行くぞ」

戸惑うシスティーナを力強くリードするように、グレンがステップを踏み始め―――

そして、全身を生き生きと躍動させて、踊り始めた。

その踊りはお世辞にも優雅とは呼べない。

だが、それを必要としないほど熱に満ちて情熱的で荒々しい野性的な生命力に溢れている。グレン達はこの場にいる誰もが惹き付けられる踊りを披露してみせた。

周囲から自然と集まる拍手。

「どうよ?」

得意げな笑みを見せつけるグレンにテラスは小さく笑みを見せて拍手する。

「お見事です、グレン先生。まさかここまで踊れるとは予想外でした」

「ハーハッハッハッハッ! このグレン先生がちょーと本気を出せばこんなもんよ!? さぁ、どうする? テラス君」

挑発的な笑みを見せるグレンにテラスはルミアの手を取る。

「ですが、僕達の敵ではありません」

そう告げると二人は前に出て踊りを披露すると全員が言葉を失った。

その踊りはもはや完成された一つの芸術。

神秘を連想してしまうほどの舞を披露する二人の息は完璧に合い、一切の淀みすら窺えない。どちらがエスコートし、どちらが補佐しているわけもない。

二人が二人共互いの思考を読んでいるかのように舞い踊っている。

グレンでさえも見惚れ、息をすることさえ忘れるほどだ。

最後のフィニッシュが終えると二人に待っていたのは盛大な喝采と拍手の嵐と――――

「な、なんだそりゃああああああああああああああああああああああ―――――――ッッ!?」

グレンの叫びであった。

「ふぅ、勝負の結果は聞くまでもありませんね」

周囲の反応を見て己の勝利を疑わないテラスにグレンだけではなく、ルミアでさえも驚いていた。

テラスが踊れること自体でも驚くことなのに二人の踊りの完成度には驚きを隠せない。

「おま………………ッ! なんでそんなに…………………!?」

「僕の師匠が誰か忘れました? その人とほぼ毎週踊りに付き合わせれたら嫌でも上達しますよ」

「セラァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッ! あの野郎オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッ!!」

グレンは笑顔で親指を立てるセラの幻が見えた気がした。

セラは南原の遊牧民族の姫君でその戦巫女でもある。

その一族の精霊舞踏『大いなる風霊の舞(バイレ・デル・ヴィエント)』は偉大なる風の精霊と交信する特別で神聖なもの。

その踊りを忘れないようにテラスはほぼ毎週セラに付き合わされている為にダンスの腕前は知らず知らずの内に上達してしまった。

大いなる風霊の舞(バイレ・デル・ヴィエント)』を簡略されたシルフ・ワルツなんてテラスからしてみたら児戯に等しい。

それに加えて今回のパートナーはよく一緒にいるルミアだ。

ルミア自身のダンスの腕前も合わさって二人のダンスに隙はない。

「というわけでルミアと踊るには僕ですから先生は引っ込んでいてください」

「ぐぅ……………………」

勝者の微笑みと敗者の苦悶。

おまけに今回のダンスでダンス・コンペに参加しようとしていた生徒達の何人かは心が折れて出場を辞退したそうだ。

この場にいた誰もが思うだろう。

今回のダンス・コンペで優勝するのはこの二人だと。

「ルミア。僕は君の為に必ず『妖精の羽衣(ローベ・デ・ラ・フェ)』を勝ち取って見せる」

多くの人がいるなかで宣言するテラスの発言にルミアは嬉しそうに笑みを見せて頷く。

「うん。一緒に頑張って、優勝を目指そうね」

見せつけるかのような二人のやり取り。

女性陣はそんな二人のやり取りを羨ましそうに見て。

男性陣は血涙を流しながら怒りと妬みで拳を強く握りしめる。

その中でテラスはグレンを一瞥して内心で謝る。

(すみません、先生。今回ばかりは絶対に譲れません。先生よりも僕の方がルミアの護るのに適しているので)

テラスはグレンがルミアの為に強引な手段を使ってルミアと踊ろうとしていたことに気付いていた。だからグレンに合わせて挑発するように話した。それでも譲れなかった。

グレンよりも自分の方が護衛に適している。そう判断したからだ。

(ルミア、君を殺させはしない。君を殺す者がいるのなら僕はそいつを殺してでも君を守る……………………)

密かにそう誓う。

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