ロクでなし魔術講師と吸血鬼   作:ユキシア

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看破

「え~と、どうかな?」

「ここが綻びてるよ」

「あ、本当だ」

システィーナとの決闘を終えて、テラスは放課後にルミアに捕まって魔術実験室で魔力円環陣、法陣の構築を教えていた。

教科書を見ながら法陣の構築をしていくルミアに時々助言をしながら完成させていく。

法陣が苦手なルミアは本来ならシスティーナに教えて貰おうと思っていたらしいが、そのシスティーナは【ショック・ボルト】を受けて医務室で休んでいる。

法陣の復習がしたかったルミアはテラスに付き合ってもらっていた。

「それにしてもルミアって意外にやんちゃだね」

「えへへ…………皆には内緒だよ?」

ぺろっと舌を出して、ルミアは手に持った鍵をかざしてみせる。

事務室に忍び込んで鍵を盗み取るとは。まぁ、バレなければ問題はない。

「それよりも先生が来る前に早く済ませておこう」

「そうだね、後は…………水銀かな?」

水銀が入っている壺を持って法陣へと零していくルミアを見守りながらテラスは生唾を呑み込む。その理由はルミアにある。

(凄く、美味しそうな匂い…………)

吸血鬼としての本能が、嗅覚が、牙がうずく。

ルミアの血を飲みたい。あの柔肌に牙を突き刺してその血を啜りたいと。

これまででも牙はうずいたことはある。

その血を飲みたいと思ったことも何度かはあってもこれほどまでに強い吸血本能は初めてだ。

ここ数日、血を飲んでいないという原因もあるかもしれない。

吸血鬼といっても人間のように普通の食事でも栄養は取れる。それでも、吸血鬼としての本能が生き血を求めている。

そんなことつゆ知らずにルミアは法陣に意識を集中させて、無防備な状態。

しかも、今は二人きりという空間。

まるで誘っているかのようだ…………。

ゴクリ、と喉を鳴らす。

振り返った瞬間に魅了(チャーム)を使って血を啜ろうか?

割と本気でそんなことを考えていた。

「ねぇ、テラス君って吸血鬼って信じてるかな?」

「どうしたの? 唐突に」

法陣を構築しながらルミアは本当に唐突にそんなことを言い出した。

「実は私ね、三年前に吸血鬼に会ったことがあるんだ」

「それはまた…………で? 血でも吸われたの?」

「ううん。彼は私の血が欲しかったみたいだけど、その後に来た魔術師に気付いて血も吸わずにいなくなっちゃんだ」

「それは良かったと思うよ? 吸血鬼に血を吸われたら吸血鬼になるってよく御伽噺でもでてくるし」

「ふふ、そうだね」

何かを探っているかのように話すルミアに適当に合わせていると、ルミアは不意に立ち上がって振り返る。

「それで吸血鬼さんは今でも私の血が欲しいのかな?」

お前の正体は見抜いている。と言わんばかりの笑みで告げるルミアに苦笑する。

「僕がその吸血鬼とでも? まさか。吸血鬼は太陽の光を浴びると灰になっちゃうんだよ?」

「あれ? でも私は日光を浴びても大丈夫な吸血鬼もいるって本で読んだことあるよ」

にこにこと微笑むルミアに観念するように両手を上げた。

「はいはい、負けたよ。ルミアの言葉通り、僕があの時の吸血鬼だよ。ほら」

人間ではありえない程に発達している鋭い犬歯を見せるテラス。

「やっぱり、あの時助けてくれたのはテラス君だったんだね」

「そうだよ、偶然だけどね」

吸血鬼と誕生したその日にルミアと出会ったのは本当に偶然。美味しそうな匂いを辿ったからだ。

「それにしてもよく僕だとわかったよね?」

「だってテラス君、さっきから私のことを見過ぎだよ。女の子って異性の視線には敏感なんだからね?」

「う…………」

確かに注視し過ぎた、と項垂れる。

「それに見た目もそんなに変わってないし、転入した日から気になっていたんだ。まぁ、半分以上は女の勘なんだけどね」

女の勘って恐ろしいと、テラスは戦慄した。

「でも、やっと会えた…………」

嬉しそうに微笑むルミアはそっとテラスの頬に触れる。

「…………僕をここに呼んだのはそれを確かめるため? だとしたら不用心だよ、吸血鬼は怪物。人の血を啜り、恐れ、疎まれる存在だ。正直に言えば今すぐにでもルミアの血が飲みたい」

「テラス君は私に怖がって欲しいの? だったらごめんね、私はテラス君のことが少しも怖くはないんだ」

「だったらルミアは僕にどうして欲しいの? 正体をばらされたくはなければ―――てきな、ベタな展開でもあるのかな?」

「…………それもいいかもね」

余計な事を言ってしまった。

悪戯な笑みを浮かべているルミアを見て思わず自分の発言に後悔した。

「ふふ、冗談だよ。本当はお礼がしたかったんだ」

ルミアはそう言って首筋をテラスに差し出すかのように見せる。

「”対価”を払わせて欲しいの」

「…………いいの?」

「うん、でも、初めてだから痛くはしないで欲しいかな…………」

恥ずかしいのか、少し頬が赤い。

でも、三年前の口約束を守る為に自分から血を提供してくるとは思わなかった。

正直、了承を得ているのだから吸いたいのだが、訝しんでしまう。

そんなことの為に自分を差し出してくるような真似をすれば疑心暗鬼にもなってしまう。

躊躇いが生じるテラスにルミアが口を開いた。

「あの時、私が話したこと覚えてる?」

「…………確かお母さんに捨てられ、誘拐されて殺されかけた、だったよね?」

「うん、あの時の私はこの世界に私の味方になってくれる人なんていないって、思ってたんだ。どうして私ばかりこんな目にって何度も泣き叫んでた」

誰か助けて。そうルミアは願った。

「その時に空から現れたのがテラス君なんだよ? 人じゃなかったけど、テラス君が来てくれたおかげで私はこうしてお礼ができる」

「そんなことの為に? 運がよかったと思って忘れたらいいのにそんなこと」

「できないよ。だって約束したじゃない」

「世界中の誰もが君のことを嫌っているのなら僕が助けてあげるよってアレだよね? 律儀だね、怪物の言葉を三年間も忘れずに覚えているなんて」

「あの約束のおかげで、あの時の私は救われた。なら、私も約束を守らないと」

たったそんなことの為に血を差し出してくるとは、と内心ルミアの律義さに驚き、感謝した。もう牙がうずきすぎて我慢の限界。

「痛くはしないから」

「うん…………」

口を開けて犬歯を剥き出しにするテラスの牙はルミアの首筋に近づく。

「ん………」

生暖かい吐息がかかり、声を漏らす。

牙がルミアの柔肌に当たり、後はそのまま顎に力を入れてその柔肌に牙を突き刺す。

 

ばんっ!

 

突然、二人だけの空間だった魔術実験室の扉が外から乱暴に開けられ、中に入ってきたのはグレンだった。

「相変わらずボロ………い…………」

目が合った。

言葉を失い、静まり変える。

驚きを隠せない三人。

テラスとルミアがまるで逢引でもしているかのように抱き合っている姿を目撃したグレン。

「「「…………」」」

空気が死んだ。

それを体験した三人。いち早く正気を取り戻したテラスとルミアは耳まで顔を赤くする。

何かに察したように優しい眼差しを向けるグレン。

「「先――」」

「みなまで言うな。大丈夫だ、俺は何も見ていない。じゃ、ごゆっくり」

弁明しようとするもそれよりも速くグレンが魔術実験室から出て行った。

「ちょっと待ってください! 先生、絶対誤解しています!」

慌てて駆け出してグレンを追いかけるルミアにテラスは出て行ったルミアの血が吸えないことに悔やむ。

変なことを考えてないでさっさと吸えばよかったと思う。

「…………何があったのよ?」

「システィーナ。もう起きても大丈夫なの?」

「ええ、まだ少し身体は痺れるけど問題はないわ。それよりもルミアが慌てて先生を追いかけていったのだけど…………ルミアに変なことしてないでしょうね?」

「ちょっと先生にタイミングが悪いところを目撃されてね。誤解を解きに行ったんだ」

睨むように見据えるシスティーナにテラスは弁明する。

一応は嘘は言ってはいない。

「はぁ、まあいいわ。私はルミアを追いかけるからもし、先生が明日もあの調子なら貴方が授業をしてちょうだい。理由はどうであれ、貴方の授業は凄いもの」

「…………出来ればグレン先生がして欲しいんだけどね」

割と本気でそれを願う。

「それじゃ、また明日ね、テラス」

「ああ、また明日」

ルミアを追いかけていくシスティーナの後ろ姿を見て、テラスはすぐに住処に帰ることにした。

「ルミアの血はまたの機会にしよう…………」

そうぼやいてテラスは足を動かす。

 

 

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