お久しぶりです。エイプリルフール間に合いませんでした。
エイプリルフールネタのつもりが内容ほとんど関係なくなってますが。
時系列は前半が最終回から一年後の2020春。後半はどこに差し込まれてもいい感じ。すこぶる短いです。
桜の花弁の淡い桃色が、輝くように舞う遊歩道。
紛れもなく現代のそれに即していながらも、幻想的で美しい光景の中、それでもなお美しく映える空の色をそのまま写したような蒼い髪の少女が、振り向いて口を開く。
「――ごきげんよう」
たおやかなその態度と淡く儚い雰囲気と相違ない優し気な声音。
飾り気も無いはずの制服姿であるにも関わらず、輝かんばかりに彼女はその五体をもって接する者を魅了し
「色々言いたいことはあるがまずその無駄に洗練された無駄の無い無駄な演技をやめろ」
周囲に漂っていた蠱惑的で幻想的な空気は、
有体に言って、高校入学を控えた彼女は浮かれポンチだった。
@ ――― @
四月!
春真っ盛り!
短期留学の最中も国際通話でみんなと連絡を取り合い、みんなで選んだ高校へ進学する時が来た。
中学生の頃は様々な事情が重なってちゃんと全部のイベントをみんなで堪能できなかったのだけど、これからは違う。先に高校に入った先輩やこれから入ってくる後輩たち、それに外部からも校内のイベントに参加できるはずだ。なんて楽しみなことか!
勉強は……まあ、置いとこう。別にこっちはどうとでもなるし。
そんなことより!
高校と言えばイベントの宝庫。漫画やアニメみたいなことは(ボク自身がアレなことは脇に置いて)そうそう無いけど、芸能人の多い学校だからきっとそれなりに便宜もはかってくれるはず。文字通り、我が世の春が来たぁっ!
「入学式コロナの影響懸念して中止っぽいぞ」
ボクは死んだ。
――そして現在に至る。
「頭が春になったのか?」
「そうだよ……脳味噌があったまってないとこんなことするワケ無いだろ……何だよ高校入学式に向かう道で出会った同級生ごっこって……そもそも今時どんな高校でも『ごきげんよう』なんて挨拶するわけないじゃん……」
「演技力と演出力でゴリ押ししてただけだからな……」
「ちくしょおおおぉぉ……!」
ボクは他の人の姿のまるで見えない道端で、倒れ込むように呪詛を吐いた。
「エイプリルフール……文字通りの
「嘘を吐くならもうちょっとついて楽しい嘘をつこう、な!?」
泣きたい。
泣いた。
もう秩序とかいいから特効薬とか作ってその辺でバラまいてしまいたくなる。いや駄目だ。絶対どっかで変な風に広まって、偽物が出回って、闇で高額取引とかされるようになって……って未来まで見える。助けて十天衆。
いや駄目だよあっちの人たちも病気にそこまで強いわけじゃない。病に完全勝利した開祖様という例外もいるけど。こういうタイプの病気が「あっち」に行って、何か変なところで突然変異なんか起こしたら目も当てられない。だからここ最近はできるだけ行き来を避けてるのだけど……。
「開祖様に会いたーい……ルリアちゃんたちに会いたーい……」
会いたーい……会いたーい……。
……なんかどこかのJ-POPみたいだな。これ系の歌詞を書いてる時ってどんな気持ちなんだろうって思ったけど、こういう気持ちなのかな。今なら何となく分かる気がする。
「はいはい、いいから帰るぞ。キミの近くにいさえすれば感染は無いとはいえ、見られたら何を言われるか分からん」
「やだー! 入学式ー! みんなで入学式出るーっ!」
「感染リスク高めるだけだろ! やめろ、そんなことッー!」
「い、いやだーッ! これからはこのボクの黄金時代がくるーッ!」
「そもそも入学式はあるとしてももっと後だろう!? いいからとっとと帰ってぶつ森やるぞ!」
「今週みんな島のカブ価が暴落して死んでるのに? 意味無いよ」
「キミは結論を急ぎすぎる!」
世界はどうしてこんなにも無情なのだろう。
あと、何でみんなは最効率に整備しつくしたボクの島にあんまり来たがらないんだろう。
解せない。
「それ」は常に甘やかで芳しいが、同時に大きな代償を伴う代物である。
――――二宮飛鳥
深夜1時前。ここまであんまり起きているようだと明日に差し支えるような時間帯だけど、ボクらも時々はこんな時間まで起きてる人はいる。
それは例えば宿題を終わらせるためだったり、あるいはついついゲームをやりすぎてしまったり、番組の打ち合わせが長引いたりと……まあ、色々。
ボクも時には紗南さんに付き合ってそのくらいの時間に眠ることもあるし、あるいは早寝しちゃってついこんな時間に起きちゃったりすることもある。そんな時に確実に言えるのは、たいていお腹がすいているということだ。
「……たまにはいいよね」
そんな時、ボクは食堂に赴いておやつを少し食べてから眠ることにしている。
深夜の食事は太る。それは知ってるけど、むしろ個人的には望むべきところ。だからふと目が覚めてしまった今日も、なんとなしに寝間着のまま食堂へ向かうのだ。
「あ」
「あれ」
「どうも」
食堂に向かうと、そこにいたのはあきらさんだった。どうやら深夜までお兄さんとFPSでもしていたらしい。
右手には何やらスーパーなどで売っているような大学芋。半額のシールが貼ってあるだけあって、どうにも中身は湿気てて、コーティングのためにかけられている蜜も溶けてフニャフニャになってしまっている。
「こんな時間に夜食?」
「いいじゃないデスか……そう言う氷菓サンも、夜食か何か?」
「うん。今ちょっと目が覚めたんだけど、お腹空いちゃって。それは?」
「見ての通りデスけど」
「なるほど?」
微妙な表情も相まって、あんまり美味しそうには思えない。
いや、実際ああいうのボクは好きじゃない。施設にいた頃も時々食べてたけど、評判はそれほど良くはなかった。
うーん……。
「ねえあきらさん、それちょっとボクに預けてみない?」
「何でデス?」
「もうちょっと美味しくできるかも。ちょっとくれたらやってみるけど」
「それじゃあお願いします」
「ん」
寮の食堂は頻繁に利用しているだけあって、基本的な使い方は知ってる。調理器具に関しても同じくだ。
まずは小さなフライパンを取り出して、薄くバターを引く。そこへ大学芋をとろけてしまった蜜ごと投入。全体にうすく絡ませるように軽く炙っていく。
簡単に火が通ったら、あとはこれをお皿に……取る前に。冷凍庫の中からあるものを引っ張り出す。
「よいしょ」
「何デスそれ!?」
「自家製甘味控えめ豆乳アイスクリーム」
「どう見ても数リットルはある感じだけどとうとう自作するところまで行ったんデスか……」
「これを盛りつけて」
「あの……そのアイス掬うやつ……何で何種類もあるんデスか……? ここの備品デスよね……?」
「アイスクリームディッシャーね。パターンに応じて使い分けるためだよ? 勿論自前だけど」
……そんなドン引きすることないじゃん。
さて、ともかく深夜なんだから……というのを差し引いても、この本数から考えると……サイズは小さめな方がいいかな。
あとは上から軽くきなこをまぶして……。
「できたよ。和風豆乳アイスクリーム大学芋添え」
「メインが変わってる……」
「そこは気にしない」
「あ、でも美味しいデス」
「でっしょー?」
だってボクが作ったアイスだからね!
勿論こだわって作ったよ! こんな風に人にふるまうことも想定してるからね!
「へへへー」
「クールな見た目なのになんとまあ締まりのない……」
「寝起きだからねぇ」
多少締まりが無くっても仕方ないってものだよ。
緊張する必要も無いしね。やっぱり、自分で作ったものを美味しいって言ってもらえたら嬉しいよ。
@ ――― @
「君がちょくちょく深夜に食事をふるまうから太ると苦情が来ているのだが」
「それはボクが悪いのでしょうか」
「節制できていない方もいかがかと思うが、人間は必ずしも節制できる生き物でもない」
「そですか……」
あれから何度か同じようなことやったら専務さんに注意された。
解せぬ。
例の件に関しては一刻も早い事態の収束を願っております。
ところでお空と近く再コラボがあるようなので今から楽しみです。