友人が能天気な紅白饅頭なんだがキレても良いか? 作:オティンティン大明神
「アハハハハ! やってやったよ! 僕らB組こそがA組より遥かに優れていると日本中に見せ付けてやったんだ! 誰一人必要じゃない存在はいなかった、皆が力を合わせたからこそ! 僕達はあの思考停止猿共たる憎きA組を出し抜く事が出来たんだ! 」
自分達と比べて協調性の欠片もないA組なんて烏合の衆も同然と、興奮したように息を荒らげ言葉を続けていく物間寧人をクラスメイト達は止めなかった。何故ならばあの第一関門を真っ先に乗り越えたのは自分達B組。そして、物間こそがそれを実現させた者の言葉だからだ。
結果論ではあったが物間は嘘を吐かなかった。作戦を伝えられる前に言われた言葉、不可能だと思っていたがまさか実現するとは思わなかった。だからこそ、何時も彼を止める少女も笑いながら彼の言葉を聞いていたのかもしれない。
「小森! 骨抜! 特に君達の活躍のお陰さ! あの思考停止猿共のお山の大将に一泡吹かせたのは君達の機転あってこそ! 」
特に活躍した者の名前を上げて賞賛の賛辞を送る物間の言葉を聞き、当事者達はそれぞれの態度を持ってその賛辞を受け取る。
「柔軟に対応するって、最初に言ったろ? 」
物間の賞賛を軽く受け止める少年。全ての物質を柔らかくする個性の持ち主らしく、余裕を持って対応するその姿は正しく推薦入学者と言うべきか。彼の名は骨抜柔造、B組唯一の推薦入学者である。
「キノコの事なら何でも任せて欲しいノコ……でも。そうやって大きな声で言われるのは少し……恥ずかしいノコ 」
獣の姿となり、走り続ける宍田の背中に乗る少女は物間の本心から浴びせられる賞賛に耐えられなくなり顔を隠すように宍田の背中へと突っ伏す、そんな彼女の名は小森希ノ子。背中で感じる感覚で少女の状況を理解したのだろう、宍田は物間を諌める為に声を上げた。
「……むっ物間殿。 婦女子を辱める行為は認められませぬぞ! 」
「宍田! 君の個性を活かした機動力は第一関門を超えるためにおいて必要不可欠なものだった! 」
「物間殿は、褒め上手でありますな……」
諌める為の言葉は賞賛によって掻き消される、困惑する宍田の声を掻き消すように物間は言葉を続けていく。
「それに鉄哲、やはり君はその身体を活かした突進が強い。硬さは強さ、単純だからこそ良い個性だよ! 」
「おう! サンキュー物間! 」
ガチンと音を立て鋼鉄化した顔で笑みを作る者の名は鉄哲徹鐵。個性『鋼鉄』を持ち、全身を鋼鉄化させる事が出来る力を持った少年だ。
「……あたしらはおこぼれ貰ったって感じかな? 」
「ハイ……良い所、見せられマセンデシタ」
賞賛を浴びせられる者とは対照的に、彼等とは違い、自分達はそこまで活躍出来なかったと自嘲する少女達。少し落ち込みを見せる背中が、バチンと叩かれる。
「はいそこまで! 取蔭も角取もそんな事言わない! それに……あたしだって、個性を貸すくらいしか出来なかったんだからさ! 」
背中の衝撃に前のめりになった少女達へと声が掛けられる。2人から視線を向けられた声の主は言葉を続けようとするも、耳聡い物間が彼等の会話を聞いたのか憤慨するように声を荒らげた。
「ハァ!? 言っとくけどおこぼれなんてあげたつもりはないよ! 皆で協力したからこそこの結果を掴めたんだ。これはB組全体の勝利って何度言わせれば気が済むんだい! あーあー! これだから暴力に支配されたゴリラとその取り巻きは」
「殴るよ。グーで」
巨大化した拳を見せ付けられ、突然の死刑宣告に等しい言葉に物間は口を閉ざす。入学してから大半の間、繰り返された光景に誰かが笑い声をあげた。
「ほんっと……物間って色々と惜しいよな。なぁ円場」
「だな。顔も良けりゃあ個性も良いんだがなぁ……」
物間寧人とは敵意と同じくらいに好意を隠さない少年である、彼と関わったのはまだ短い期間ではあるがクラスメイト達はその事実を良く理解していた。
「まぁ……なんだかんだ言っても僕が一番活躍したかな! アハハハハ! 」
好意も敵意も隠さなければこんな自己主張もまるで隠さない。今までどんな人生を過ごせばこんな性格になるのかと言わんばかりの態度に、クラスメイト達は心底仕方なさそうに笑った。
「……何か変な事でも言ったかい? 」
「自覚なしだもんなぁ」
「だよなぁ」
第一関門を乗り越え彼等は走り続ける。どんな困難だって自分達が協力すれば乗り越えられない事は存在しない。そう思いながら。
『YEAAAAAH! 遂に第一関門突破ァ! 残る関門は後2つ! 出来ればもう少しマトモに競走欲しいが無理なんだろうなぁ! これはちょっとした裏話なんだが俺達が想定していた第1種目の時間は今を持ってoverしたぜYEAAAAAH!ウチが貰ってる時間枠とかもう全て振り切りなァ! 責任は全て校長が取ってくれる! 多分きっとMaybe! 』
『……校長が野生に帰る日も遠くはないな』
あらゆる全ての責任を雄英高校校長 根津が背負う事となりつつあるアリーナ。司会は最早恐れる者など何も無いと言わんばかりの態度で振り切ったテンションのまま関わる全てを切り裂くレベルのキレキレトークを始める。
そんな司会を横目に。解説は後日、校長に襲い掛かるであろう責任を考え小さな溜息を吐いた。
『現時点で1番前を走ってるのは、引合でもなければ轟でもねぇ! まさかまさかの障子目蔵! 正直お前いたっけって感じ! ごめんな! 』
『おい』
その言葉と共に、スクリーン上に己のペースで走り続ける障子目蔵の姿が映し出される。その姿を見た観客達も「あぁそういえばコイツが1番前だっけ」と言わんばかりの態度を示した。スクリーン上に映し出されている少年が走る姿を見ながら司会と解説は障子について語り始めた。
『いやだってさぁ! 正直障子って引合のオマケって感じじゃねって感じでやってる事も正直あんま分かってない奴も多いと思う! なので……イレイザー! 』
司会の言葉に大半の観客達が内心同意する。彼等から見れば引合の金魚の糞の如く付き従い、1番を貰っただけの存在にしか見えない。そんな雰囲気を感じ取ったのだろう、解説のイレイザーヘッドは溜息を吐きながらゆっくりと話し始める。
『ハァ……まぁ良い。確かにアイツは目立つ行動を一切していなかった。だからオマケ程度に見えなかった者達もいるかも知れない。だが……ヒーローとして、障子の行動を観察すれば、ただのオマケではなかったという事が馬鹿でも理解出来る筈だ。例え、お前みたいな馬鹿でもな』
『シヴィーッ! それじゃあそんな馬鹿の為に1つ解説を頼むぜ! 』
徐に吐かれた毒に反応する司会のプレゼントマイクに相槌を返すように解説は話し始める、影の功労者である障子目蔵の働きぶりを。
『障子目蔵。個性『複製腕』異形型の個性であり、無尽蔵に伸ばし増やす事が出来る腕を肉体のあらゆる器官にする事が出来る力だ。今回、引合が障子に望んだのは恐らく2つ『第一関門の現状把握と他の生徒達の位置情報の伝達』だと思われる。ヒーロー共は今までの状況とこの情報だけでどれだけ障子が有用なのか理解しただろうが、横にいる馬鹿は分かっていないと思われるから話を続けるぞ』
『……あの、イレイザー? もしかして無理矢理解説させたの怒ってる? 』
『気の所為だ』
言葉の随所で吐かれる毒に流石に困惑する司会の言葉をすっとぼけるように解説の姿を見て『ヤベぇ……これ結構キレてるパターンだ』と震えるように小さく呟いた司会の言葉を掻き消すように解説は言葉を続けていく。
『戦闘能力があるのは当然として……戦闘に於いて最も必要なのは情報アドバンテージだ。これがなければ何も始まらん。
何処に誰がいるのか、そして誰がどんな個性を使っているのか、これらを知る事で戦略を立てる事が出来る。第一関門に於いて引合は、障子を除き全ての生徒達を相手取った。第一関門のありとあらゆる場所から飛んでくる仮想ヴィラン、相対する者からすればこれ程恐ろしい事はない。
だが……引合は轟と殆ど正面張って戦っていた。他に構う余裕なんて殆どなかった筈だ。正面の轟に神経を使い、見てもいない近付いてくる存在へと仮想ヴィランを放つ。こんな事が出来るか? 出来ると言い張れる馬鹿は今すぐオールマイトさんに弟子入りしてこい。お前が次代の平和の象徴だ』
話がそれたな、と解説は詫びながら言葉を続けていく。質問役である司会は既に聞き体勢に入っており、話す気配は微塵もない。
『あれだけの大暴れを見せた引合でも単独で全てを相手取るのは不可能だった。だからこそ、ここで障子が出てくる。 無尽蔵に増やせる複製腕を視覚と聴覚に集中し集めた情報を纏めあげ引合へと伝えていく、場所毎に番号を決めたりしていたのかもしれないな。障子は纏めあげた状況から仮想ヴィランを放つべき場所を引合へと伝え、引合はそれを行いながら轟と相対した』
『フゥム……つまり、障子がいなければあの戦場は維持できなかった……と? 』
司会の纏めの言葉に頷き解説は言葉を続けた。
『流石はヒーロー科と言うべきか、恐ろしい情報処理能力だ。サポート特化としてならこれ程頼れる存在はそうはいないぞ、分かったらヒーロー共はさっさと唾でもつけとけ。一部を除いて今年は使える奴らしかいないからな』
『……因みに、その一部は? 』
『……俺に言わせるな』
ヒーロー達が座っている席がざわめき立つ。解説の言葉を予想だにしていなかったのだろうか、障子の有用さについて語り始めた。
「確かに……あの乱戦の中でそこまでのサポートが出来る存在なんてプロでもそうはいないぞ。サポートも出来れば、腕を増やして物理アタッカーも可能。強いな」
「器用万能タイプの個性か……誰と組んでも力を発揮出来る存在は何処でも輝ける。縁の下の力持ちタイプはどの事務所も欲しているし……こりゃ争奪戦になるかもしれないな」
「今年の1年は冗談抜きに選り取りみどりだなぁ! 取り敢えずウチは障子と引合に指名送るか! あの二人はどんな場所でも動けるタイプみたいだし、何より第一関門の活躍がベネ! 」
プロヒーロー達は雄英体育祭後に気に入った生徒に対して指名を送り、自分の事務所で職場体験を行わせる事が出来る。故に、プロヒーロー達にとってこの場はスカウト場そのもの。心底自分の事務所に欲しいと唸らせる生徒がいれば職場体験で猛アピールし、卒業後のサイドキック確保は良くある話だ。
『サポート云々に関してなら障子よりももっと使える人材がいるんだが……まぁ、それは後で分かるだろう。マイク、取り敢えずスクリーン変えろ』
含みのある解説の言葉を聞き、司会が声をあげながらスクリーンの映像を変えた。
『OK! それじゃあリスナー共!お前らが気になって仕方ないであろう引合に映像を戻すぜ! 何が映ってもビビるなよ! 』
誰もが息を呑み次に映るであろう光景へと期待を高める。映像が一瞬だけ暗闇になり、移されるべき映像へと切り替わる。
『あー!待て待て待て引合! 落ち着け! 話せば分かる! 』
『じゃかあしい! 一撃必殺のガチガチ硬めの切島アターック! 』
『あああああああああっ! 』
そこには、鉄板の上で眼前の方向へと指を向け声を荒らげる引合と砲弾の如く宙を舞う切島の姿がそこにあった。
『甘いね! ウチの鉄哲がそんなのに負ける訳がないだろ! 』
『ウソだろおい! 正気か物間ァァァッ!? 』
それに負けじと巨大化させた掌に鉄哲を包みあげた物間は、命乞いをする声を聞かず、放たれた切島へと放った。
ガオンッと音を立て両者は空中でぶつかり合う。切島はそのまま引合の手元へと戻り、落下する鉄哲を1人の少女がその巨大な両手でキャッチした。
『 サンキュー拳藤! 』
『 どういたしまして! 良いから兎に角走って! 』
両者が無事で済んだのを確認すると、地獄の底から鳴り響く、怨嗟の声を彷彿とさせるような呻き声を発する引合が次なる一撃の準備を始めた。
『シャァァァ……許さん……許さんぞォォォォ! 第2波! 上鳴ビリビリボンバー発射準備! 』
『ウェェェェッ!? やめて! 待って! 俺はまだ死にた『──発射ァァァァッ! 』ああああああああぁぁぁッ! 』
哀れにもB組目掛けて放たれた上鳴は、着弾点に到達する、その瞬間に身体を輝かせた。数える間もなくもう着弾する。誰もがそう確信した時、夥しい量の茨が上鳴を包み込んだ。
『皆さん! 今の内に早く! 』
『助かったよ塩崎! 早く行こう! 』
その声と同時に、茨の檻から抜け出した上鳴が宙を舞い引合の元へと戻る。そして、無力化された一撃を憤るかのように身体を震わせ引合は笑う。
『フヘッ。フヒャヒャヒャヒャヒャ! フベロブホバロゲハハハ! お前らの個性、これで大体理解したぞぉ! 情報アドのせいでさっきは抜かれたんだから、今この時点でお前達の敗北は確定したァ! 爆豪! 物間の個性は恐らく3つまでしかコピー出来ん! そして今!奴の近くにいる奴らの個性では大した事は出来ん! 柔らかくする奴も生きてる奴には発動出来ん! 遠慮なく殺れィ! 』
瞬間、遥か上空から落下する1人の少年の姿が映し出される。三白眼を更に鋭く尖らせ阿修羅の如き形相を見せつけると、着弾点である物間に向かって叫び声をあげた。
『──死ねェェェッ! 』
『ボヨヨンボヨヨンっと! 山ほど出してるから任せた柳! 』
『爆豪怖。お願い小大』
爆豪の眼下にボヨヨンの小さな文字がその下にいる物間の盾となるように立ち塞がった。
『ん』
その声と共に、小さなボヨヨンの文字達が巨大化する。突然の巨大化に距離感を掴み損ねた爆豪はボヨヨンの文字へとぶつかり、文字通りボヨヨンと宙を舞った。
『──ちっ! 』
一撃を放ち損ねた爆豪は舌打ちと共に引合の元へと向かう。苛立ちを隠さず引合がいる場所へと辿り着いた爆豪の頭部がスパンッと心地よい音を立てて叩かれる。
『──良い度胸じゃねぇか……ッ! テメェ……あのクソ金髪より先に死ぬ覚悟は出来んだろうなぁ! 』
『チワワてめぇ! あれだけやってそれとかばっっっかじゃねーの!? テメェが物間殺るって言うから特別に共同戦線張ってんだぞオラァ! 』
『アァ!? 誰がチワワだ! ぶっ殺すぞオラァ! テメェだって何も出来てねぇだろうが死ね! 』
互いに胸倉を掴み合いメンチを切り合う馬鹿二人、その姿にスタジアムにいる殆どの者達が絶句した。
冗談抜きに、まじで何やってんだコイツら……と。
『えーと……うん。Heyリスナー。只今、解説のイレイザーが席を立ったから少し解説抜きで行かせて貰うけど……許して? 』
解説 イレイザーヘッド 一時脱落