【悲報】俺氏、死体に慣れる。   作:めんたんてん困難

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Welcome To THE Conan World!!
生きるために〇〇を探せ!


「ふぅ……」

 

 ベランダに出て柵に寄りかかり、タバコに火をつける。肺いっぱいに煙を吸い込んで空を仰ぎ見るように吐き出す。小さな白い煙がゆらゆらと夜の闇の中に消えていった。気がつくと空には無数の星が光っていた。

 タバコの煙を吸い込んでいるうちに動揺していた俺の気持ちがだんだんと落ち着いていくのがわかる。緊張や焦りといった感情が吐き出される煙と共にスーッと夜空へと無くなっていく気がした。

 煙の動きをぼんやりと眺めていると、ふと下の階の広場から声が聞こえてきたのでそっちの方へ視線を移した。

 

「ほらお父さん起きて!こんなところで寝てたら風邪ひいちゃうわよ」

「んぅ……よ、ヨーコちゃあーん……ムニャムニャ」

「今回もお手柄だったね」

「僕は言われた通りに手伝っただけだよ」

 

 視線の先には、ベンチの上で爆睡する父親の体を揺らす女子高生くらいの娘と若い細身の男の刑事と会話をする小学生の男の子。少し離れたところには茶色いコートとソフト帽を目深にかぶった肥満体型の刑事と短髪の若い女性の刑事。

 広場から目を離し道路の方へ目を向けるとそこには複数のパトカーの姿があった。

 

 俺はもう一度タバコに口をつけ深くゆっくりと息を吸い込む。煙が肺に入り込むことで頭がより鮮明になる気がするのは俺がニコチン中毒者だからだろうか。

 

 俺は視線をまた夜空いっぱいに光る星たちへと戻し、鮮明になった(気がする)頭で現状、何が起こっているのかを冷静かつ客観的に考え直すことにした。

 

 

———————————————————————————

 

 

 俺は生まれてから二十三年間ずっと今までこの世界で生きてきた。一度も死んだ記憶がないし神様に出会った覚えもない。何を言っているのかわからない? 大丈夫だ。俺もよくわかっていない。

 まあ、要は神様転生をした覚えが無いという事だ。神様転生が何かという事に関してはこの際置いておくとして、問題は今の俺の状況。

 

 たまたまテレビの温泉特集を見て行ってみたいなと思い、一人でこんな山奥の歴史ある旅館に泊まりに来た訳なんだが、ここで事件が起こった。

 俺も最初見たときは目を疑った。

 

 旅館のロビーに入った俺の目の前に映り込んだのは、毛利小五郎、毛利蘭、江戸川コナンの三人だったのだ。

 

 夢でも見てるのではないかと思い、テンプレ通り頰をつねってみたら普通に痛かった。

 

 もう訳がわからなかった。え、俺っていつ転生したの? などと思ったが、さっきも言った通り俺は死んでないし神様に出会ってない。

 気がついたら俺はコナンの世界の住人になっていたのである。

 

 もうこの時点で俺の思考回路は色々アレだったので、ここがコナンの世界だと知った途端に頭に浮かんだのは、このシチュエーション事件フラグめっちゃ立ってるじゃん!!! である。

 山奥の歴史ある旅館でコナンに遭遇? アホか。人が死ぬぞ。殺人が起こる匂いしかしない。

 本当に勘弁してほしかった。死体見るとかまじトラウマになりそうだし夢に出て来そうだし。まじですぐ帰ろうかと思った。

 

 しかしここで俺はさらに自分に降りかかる可能性を危惧した。そう、それは俺が事件の被害者になる可能性である。俺が最初に考えた危険としては死体の第一発見者となってしまう事。ぶっちゃけその線は限りなく高いし、俺のこれからの心の傷のことを考えるとそれを回避しなくてはならない。けどそれは俺がその事件の第三者として"この話"に組み込まれていた場合である。しかしそう断言してしまうのはあまりにも危険だ。もしかしたら俺は殺される側の人間である可能性もあるのだ。俺は今の今まで人から怨みを買うような事は一切してこなかったつもりだが、他人がいつどんな事を怨むのかなんてわからない。もしかしたら逆恨みをしているかもしれない。そんな奴がこの旅館で俺の事を殺そうとしている可能性も十分にあり得るのだ。

 

 やべぇ、まだ死にたくねえ。

 

 コナンに遭遇するモブキャラって毎回こんな恐怖心抱いてんのかな……。死神とか誰がつけたか知らねえけどその通りだよクソ。まさに死を運びに来てる。

 

「……………よし、帰るか」

 

 善は急げ。早速ロビーから出ようとクルッと体を百八十度回転させ出口を目指す。

 よし、とっとと帰るぞ。俺はここには来なかった。今日は一日家でゴロゴロしてた。オーケーオーケー、なんの問題もない。え? 当日キャンセル料? そんなものいくらでもくれてやる。心の傷や自分の命に比べれば安いもんだ。

 

 この死のオーラしか感じない不気味な旅館から一刻も早く出ようと出入り口の扉に手をかけたそのとき、ふと急に頭の中にある考えが浮かんだ。

 

 ここで帰ったら俺、めっちゃ怪しくね? と。

 

 もし仮にここで俺が帰り、この旅館で俺以外の誰かが殺されるとしよう。アリバイ的に俺は犯人から除外される。除外されるけども、俺めっちゃ怪しいやんけ。もし俺がコナンだったら旅館に到着してすぐキャンセルして帰る奴見たら犯人じゃないにしても何かしら事件に関わってるんじゃないかって疑う。本当に最悪の場合、あの例の犯罪組織、黒ずくめの奴らの仲間だと思われるかもしれない。

 コナンがいるって事はこの世界に奴らもいるんだろ? さらに勘違いに勘違いを重ねられて黒ずくめの組織の奴らから俺が組織の名を名乗ったとでも勘違いされてみろ。コナンから逃れられたとしても奴らに消される。

 

 まあでも黒の組織に間違えられてどうのこうのってことには流石にならないか。

 だってまず服装が——————————、

 

「あ」

 

 今日はバイクで来てるので上にはライダースーツを羽織っている。下はスキニー。しかも今日は日差しが強いって事でサングラス装着済み。

 

 顔、サングラス。

 上、黒のライダースーツ。

 下、黒スキニー。

 

 はい完全にアウトですどうもありがとうございました。

 まじフザケンナよ俺。よく考えたらバイクだとヘルメット被るからサングラス意味ねえじゃん。駐車場から旅館までの間くらい日差し我慢しろや! イキってんじゃねーよ!

 

 ヤバイヤバイヤバイ。前アニメで見た黒ずくめの奴らみたいな黒いスーツ姿ではないけど一見黒ずくめだから多分ヤバイ。サングラスとかまじヤバイ。

 

 つかよくよく考えるとこういう時に何かを察して逃げ出したやつって問答無用で死ぬよね。確実に死ぬ。もう死ぬ。こっから出た途端死ぬ。(錯乱)

 

 八方塞がりとはまさにこの事を言うのか。取り敢えず引き返して帰るのだけはやめよう。死にたくない。

 

 いや、それにしても……。

 

 このまま旅館に泊まると、『死体の第一発見者になって一生トラウマを抱えて生きていく』か『怨みを持った知人によって俺が殺害される』という可能性が出てくる。

 逆にこのまま家に帰ると、『変にコナンに怪しまれた挙げ句、服装のせいで黒ずくめの連中と勘違いされてしまう』ということが起こり、結果的に『黒ずくめの組織の奴らから組織の名を騙った男がいるという勘違いを受けて奴らに消される』という可能性が出てくる。

 

 俺めっちゃ死ぬじゃん。

 

 これはもう必然的に一生トラウマを背負って生きるしか選択肢が無い。死ぬのはごめんだ。むしろこっちから死体探してやる。

 

 そうと決まれば俺はまた体を百八十度回転させて女将の元へ行き、部屋の鍵をもらってエレベーターへ向かう。

 通りすがりにコナン御一行へガンを飛ばすのを忘れずに。

 

 もうこの旅館に俺の知人が泊まっていない事を祈るしか無い。まあ、もし見つけたらこっちから先に殺せにいけばいっか。(錯乱)

 

 俺はよくわからない決意を固めて全く楽しくない旅行生活一日目を迎えたのである。

 

 

 

———————————————————————————

 

 

 

 

 結論から言おう。俺は心に深いトラウマを負いました。

 

 自分の部屋に荷物を置いてすぐ俺は死体を探し回った。旅館内のありとあらゆる場所を探し回った。事件で一番怪しいのは第一発見者だとよく言うがそんなものは知らん。疑うなら思う存分疑えばいい。コナン様なら真実にたどり着いてくれる。彼の関わった事件で冤罪が起こるなどあり得ないのだから。

 

 だから俺は探した。コナンに真実を見つけてもらうため必死になって探した。

 

 そして、見つけた。調理室で料理長と思わしき人物が心臓を包丁で一突きされて血を流して倒れていた。一目見て死んでいるとわかった。むしろ生きているわけがなかった。コナンのいる世界で主要人物以外が急所から血を流して倒れている。これすなわち死亡確定也。

 

 勿論俺自身に死体耐性があるわけもなく、むしろ俺はそう言ったグロい系が苦手な為、胃の中の消化されきっていない昼飯が口から出かかったが、遺体にぶちまけるわけにもいかないのでどうにか喉元までに治めた。

 自ら死体を探していたとはいえ見つけた時は得体の知れない恐怖感に襲われ、体は震えたし腰も抜けそうになった。

 ぶっちゃけ今すぐに逃げたくなった。俺が殺したわけでもないのにだ。恐怖に支配された頭が正常に働くわけもなく、俺はさっきまでの決意や計画を忘れて調理室から逃げたくなった。逃げれば救われると思った。

 

 だから俺は調理室を飛び出して走った。走って走ってそして。

 

「ひ、ひと……人がッ、た、助け……ッ!」

 

 俺は未だにロビーでたむろっていたコナン御一行の元へ助けを求めた。

 毛利小五郎とコナンは俺の声を聞くや否や急いで調理室へ飛んで行った。

 

 そこからはいつもの通り。目暮警部達やいつもの警視庁メンバーが毛利蘭の通報で旅館に到着し捜査開始。第一発見者という事で色々聞かれたし、一般人の俺が調理室にいた事を怪しまれ散々疑いの目を向けられた。勿論それは覚悟していたので予め考えていた完璧な弁明を披露した。

 

「ち、ちょっと、は、はは、腹が減ってただけなんです……」

 

 キョドリすぎか俺。しかも理由がわんぱく坊やかっ!

 

 このせいで滅茶苦茶怪しまれることになったし結局最後まで犯人候補のうちの一人だったのだが、俺は何の心配もしていなかった。何故なら名探偵である眠りの小五郎(コナン)様が事を正解に導いてくれると信じていたからだ。いや、信じていたというより確信していたという方が正しいか。

 

 無論俺の確信していた通り事件は真実にたどり着き無事真犯人が捕まり、毎度お馴染みの犯人による自白ショーが始まったわけである。

 

 これで俺が"この話"の中で誰かに殺される心配は無くなったわけだ。因みにこの旅館で知人に遭遇することも無かった。

 

 しかしやはり脳裏にはまだあの遺体が鮮明に映し出されている。殺人現場なんて一生のうちに一回も見ることはないと思ってたんだけどな。

 

 いかんいかんまた気持ち悪くなってきた。

 

 気持ちを落ち着かせる為に俺は煙を肺いっぱいに吸い込んでゆっくり吐き出した。この煙と一緒にこのトラウマも俺の体から出てってくれないかな。

 明日また詳しく事情聴取されるらしいのでもう一度あの殺人現場のことを思い出さなくてはいけないのだ。そう考えると今度は胃が痛くなってきた……。

 

 こんな体験二度としたくない。

 これから先殺人現場に遭遇しないように細心の注意を払わなければならない。巻き込まれないようにこれからなるべく外出は控えよう。もう部屋に引きこもってしまえば安全じゃないのか?

 

 ん、待てよ。引きこもる……?

 

「あー」

 

 俺の間延びした声はタバコの煙と一緒に夜空へと溶けて行った。

 今更気がついたのだが、わざわざ自ら進んで死体を探す必要などなかったではないか。自分の部屋に鍵かけて事が済むまで引きこもってれば死体を見ることも、万が一自分が被害者になることも無かったではないか。何でこんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。

 多分焦ってたんだろう。山奥の古い旅館で死神(コナン)に出会ったのだ。無理もない。誰があの時の自分の判断を責められようか。

 

 もう済んだことは仕方がない。俺はコナンの世界の住人になってしまったんだ。理由や過程が一切わからないがそんなもの考えても解決できるような気がしない。これはもう黙って素直に受け入れるしかない。

 

 これから先、今日みたいな事にならないように細心の注意を払って行動しないといけない。

 もうコナンの主要人物に一切関わらないように。俺はモブだ。ストーリーとは一切関係ないただのモブ。今まで通りの平凡で普通で平和な日常を送ろう。

 

「よし。取り敢えず温泉入るか」

 

 この旅館に来た本当の目的を果たして少しでも疲れを取ろう。タバコばかりふかしてるようじゃ心も体も弱って仕方がない。

 

 俺は部屋に戻って着替えと洗面具セットを持って軽い足取りで温泉へ向かった。

 

 ———————帰ったら新聞予約しとこ。

 

 

 

———————————————————————————

 

 

 

 

 今回の事件も無事解決した。小五郎のおっちゃんを眠らせて、ネクタイ型変声機を使ってうまく俺の推理を皆んなに聞かせる事ができ、犯人逮捕につながった。他に犠牲者を出す事もなく一件落着。

 

 けど俺はこの事件の犯人とは別に、一人気になる人物を見つけた。その男からはどうも不安が拭えない。

 

 遺体第一発見者の男、小々波漣斗(さざなみれんと)だ。

 

 アイツ、俺が現場を嗅ぎまわってる間ずっとこっちを見ていた。本人と何度も目が合っていたから気のせいじゃない。

 殺人現場が珍しく色々見ちまうのは仕方がない。けど普通俺じゃなくて目暮警部や小五郎のおっちゃんを見ないか? たしかにこんなガキが現場をうろちょろしてたら目を引くかもしれないが、多分それとは別の理由で俺のことを見ていた気がする。

 

 それに調理室にいた理由。犯人じゃないから流しちまったけど、腹が減ったからって普通無断で調理室に忍び込むか? それに死体発見騒動の前に何度もロビーに顔を見せては何処かへ居なくなってたし……。キョロキョロ周りを見ながら歩くあの感じは何かを探してる雰囲気だったな。

 しかも最初旅館に入ってきた時、小五郎のおっちゃんの方を見て一度旅館から出ようとしてたな。何かやましい事があったから探偵として有名なおっちゃんを見て不味いと思って逃げようとしたのか……。

 

 いや、待てよ? まさかアイツ死体を探していた!? この旅館で誰かが死ぬのをもう知っていたのか? だから最初におっちゃんのことを見た時に咄嗟に逃げようとしたのか!?

 

 それにあの服装—————、

 

黒ずくめ(ヤツら)か!?」

 

 何でヤツらがこんな所に……ッ! 急いであの男を見つけ出さないと!

 

 ——————いや、待て。死体を発見して俺たちに知らせに来た時のあの動揺っぷりを見ただろ。あれは演技でできるレベルのものじゃない。あの目は本気で怯えていた。

 

「考えすぎか」

 

 良くないな。けど、どこか怪しいのは確かだ。用心するに越したことはねえだろ。

 

 —————小々波漣斗、要注意だな。

 




主人公イメージ
【挿絵表示】

※自分の中の主人公のイメージが崩れると思う方は閲覧非推奨です。
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