【悲報】俺氏、死体に慣れる。   作:めんたんてん困難

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いちにちめ!②

「なるほど。それで僕のところに助けを求めに来たんですね?」

「はい…………」

 

 あいも変わらずの閉め切り状態の喫茶ポアロにて、テーブル席で向かい合わせに座る安室透に、俺は報道陣に追いかけ回されている事を話した。

 俺がコナンに眠らされて事件解決時の記憶が一切ない事は隠しつつ、事件解決には実はコナンの力が大きかった事を最大限にアピールした。

 

「上手い事彼に乗せられたってところですか」

 

 流石は安室透。コナンの鋭さやその他諸々小学生離れしたそのスペックに薄々気がついているだけの事はある。確か警察や毛利小五郎の事件解決の裏でコナンが糸を引いてるのを勘付いているとかなんとか。昨日の事件が本当は俺だけの力で解決したわけではないとすぐに理解してくれた。

 これで妙に頭のきれる大学生だと怪しまれたりしないで済むんじゃないだろうか。

 

「でも、どうして僕なんです?」

 

 純粋に疑問なのか、それともまだ何かを怪しんでいるのか。鋭い目を向けてくるあたり後者なのだろう。俺は一応安室透が私立探偵であるとは知らない事になってるからな。

 まあぶっちゃけこうなることは既に予想済みだったので対策は立ててある。

 

「俺、友達居ないんで……」

 

 途端、安室透の鋭かった視線が急に可哀想なものを見るような目に変わる。

 

「この前の事件で知り合った安室さんに取り敢えず相談しようかなぁなんて……」

「………なるほど」

 

 これで確実に怪しまれることは無くなった。しかし安室透の中での俺の印象がどんどんマイナスな方に行ってしまっている気がするのは気のせいでは無いだろう。

 

「本当は探偵である毛利さんの元へ行った方がいいんでしょうけど、生憎今日は事務所にいらっしゃらないようなので」

「そういえば旅行に行くとか……」

 

 本当になんで今日に限って居ないんだあの家族。俺の事を有名にした原因であるコナンには責任を取ってもらいたいところだ。

 

「まあ、取り敢えずはポアロ(ここ)で大人しくしてるってのが一番だと思います。梓さん、彼を奥の休憩室で匿ってもいいですか?」

「私は全然構いませんよー」

 

 おかわりのコーヒーを持って来てくれた梓さんは安室の提案に快く承諾してくれた。いや本当に申し訳ない。

 

「もしアレでしたら今日はお店閉めましょうか?」

「いや、それは本当に申し訳ないのでいつも通り営業してください」

 

 流石にそこまで厚かましいことはできない。一応梓さんとは初対面なのだしぶっちゃけ安室透ともそんなに仲がいいわけでも無い。

 ここは安室透の言うようにポアロの休憩所で大人しくするのが一番だろう。

 

「じゃあ取り敢えず休憩室でやり過ごすと言うことで。それでいいですか?」

「そうさせていただきますっ」

 

 と言うことで安室透に案内され、俺はポアロの休憩室で取り敢えずやり過ごすこととなった。

  休憩室と店の方はしっかり扉で仕切られているので、万が一店の中に報道陣が入って来ても俺を見つけることはできない。だから彼らは俺に気をつかうことなく店の営業に集中できるのだ。

 

 

 

 丁度昼時ということもあってか、平日の割には忙しそうな雰囲気が感じられる。さっき「席が空くまでお待ちくださーい!」という安室の声が届いて来たので、少なくとも店の席は全部埋まってるくらいには混んでいるのだろう。

 梓さんに聞いたのだが、今日のシフトは安室と梓さんの二人だけらしい。大丈夫なのだろうか。人手が足りないのか人件費削減のためにわざと二人体制にしてるのか。シフト人数の相場がよくわからんからなんともいえない。まあ俺なんかに心配されたところで余計なお世話だろう。

 

 誰も見てないのをいいことに、俺はソファーの上でふんぞり返りテレビをつけニュースを流し見しつつ、右手にスマホ、左手にタバコを装備し寛ぎまくっている。

 取り敢えずスマホを使ってネットで『大学生』『探偵』というワードで検索をかけてみた。するとブワーッと俺のことに関する情報がヒットした。

 色んなニュースサイトを開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。時々画像も載っているのだが、どう見てもこれ寝てるだけだよね? みたいな画像ばっかりなのにそれに突っ込んでいる記事が一つもない。流石は眠りの小五郎が受け入れられている世界なだけはあるようだ。変なところで感心してしまった。

 

 そして一つ、興味深いタイトルの俺のことに関する事が書いてあるサイトを見つけた。

 

『大学生探偵とか言うただの目立ちたがり屋なだけの奴wwwww』

 

 

 

 ————は?

 

 

 

『探偵の真似事とか痛すぎる』

『実は誰でも解ける簡単なトリックだったんだろ』

『警察からしたら実際迷惑じゃね?』

『俺も今から探偵目指そうかなww』

『写真見る限り頭悪そう』

 

 

 

 

 殺すぞ。

 

 

 

 

 

 怒りで震える指で画面をスライドしていき、このスレを見ていく。

 

『ワイ、コイツと大学同じなんだがwwww』

『kwsk』

『授業サボりすぎて卒業出来てない大学五年生』

『留年は草』

『探偵なんかやってないでまず大学卒業しろよwww』

 

 いや余計なお世話だわ。なんだよコイツら言いたい放題書きやがって。つか自称俺と同じ大学の奴、なに勝手に個人情報ばら撒こうとしてんだよ。

 

 こわー。ネットって怖いわー。

 一応この掲示板に俺の学部やサークル、プライベートな写真などは載ってなかった。けど本名や現場での写真なんかはテレビや新聞で取り上げられてるのでネットで書かれようが書かれまいがあんまり変わらない気がする。本当に成人済みだからってプライバシーもクソもねえな。

 

 ネットを閉じ、携帯を机の上に放り投げソファーに寝っ転がる。

 

 これではなんだか本当に芸能人になった気分だ。マスコミに追いかけられ、ニュースで報道され、ネットの一部のサイトでは叩かれて。別に悪い事をしたわけでもないのにどうして逃げ回らなければならないのか。俺だって好きで探偵になったわけじゃねえんだよ。気がついたら事件解決してたんだよ。こちとらモブキャラになるのが目標だったんだよ。

 

 クソッ。なんだかイライラして来たぞ。別にコナンに対してだとか掲示板に対してだとかマスコミに対してとかではなく。この世界そのものに対してイライラして来た。イライラのスケールがでかすぎる気もするが、一般人がこの世界に放り込まれたら誰だってこの理不尽さにイライラするだろう。よくもまあここまで耐えてると思うよ俺。

 

 理由はどうあれイライラするのは体に良くないしいざという時に正常な判断ができなくなるので、取り敢えずまたタバコを口に咥える。

 

 吐き出す煙と共にイライラした感情も体から抜けていく気がする。やっぱタバコってすげーわ。俺コイツなしじゃ生きられん(末期)

 入院中とか上手い事禁煙できてたんだけどな。最近じゃ普通に一日に二、三箱消費している。いや、俺も抑えようとは思ってるんだけどね? どうも最近は吸わざるを得ない状況に陥るというかなんというか。俺は悪くない。この世界が悪い。

 

 スパスパとタバコを吸っている事数分。どうもさっきから店の方が騒がしい。ドアを少し開け隙間から覗いて見ると、そこではせわしなく働き続ける安室と梓さんの姿があった。

 

「すいませーん」

「はーい、ただいま!」

「お水くださーい」

「少々お待ちください!」

「頼んだのまだですか?」

「すぐ持って来ます!」

 

 え、めっちゃ忙しそうやん。どうも梓さんが料理を作って安室が接客を担当しているようだが全く追いついていない。いや客来すぎだろ。どう考えても二人では無理だ。

 

 なんだかこのまま休憩室でダラダラ過ごすのも申し訳ないような。俺が店に出てしまうとマスコミに見つかる可能性は高くなる。けどマスクつけとけばなんとかなる気がする。ほら、俺って見た目だけならどこにでもいそうなモブキャラっぽさあるし。厨房に立ってれば接客をするより目立たないだろ。

 何度か飲食店でバイトしてたし多分大丈夫。

 

 

 気がつけば俺はマスクをつけて休憩室から店に飛び出していた。

 

「さ、小々波さん!? どうしたんですか?」

「大変そうだったんで手伝いに来ました。俺厨房手伝うんで安室さんはそのまま接客の方お願いします」

 

 あっけに取られている安室を放置しつつ俺は厨房に入り、壁に掛けてある予備用と思われるエプロンを身につけた。

 

「どれくらい料理できます?」

 

 何かの炒め物をしながら梓さんが聞いてくる。

 

「割となんでも作れますよっ!」

 

 一人暮らしで培って来た俺の料理スキルをここで発動する時が来たようだ。引きこもってる時インスタント飯しか食ってなかったって? 材料と器材と気力さえあれば俺は基本的に料理できるんだよ。

 

「いらっしゃいませー! 少々お待ちくださいっ!」

 

 客がドンドン入ってくる。さぁ、クッキングタイムだ!

 

 

 

 

———————————————————————————

 

 

 

 

 

「いやぁまさか小々波さんがここまで料理できるとは」

「本当に助かりましたっ! ありがとうございます小々波さん!」

 

 喫茶ポアロはピークの時間を終え、今じゃすっかり店内に客の姿は見えない。見事な料理スキルでこの場を救った俺は安室さんと梓さんからすごく感謝されている。

 

「お役に立てて何よりですよ」

「案外誰にも気がつかれないものなんですねー」

「もしマスコミやお客さんに正体がバレたらどうするつもりだったんですか?」

 

 いや正体ってどっかの指名手配犯みたいな言い方すんのやめて下さいよ。

 まあ確かに隠れてなくちゃいけなかったわけなんだが、幸いマスコミ関係者や俺に気がついたっぽい客もいなかったので良しとしよう。

 流石にあの状況で休憩室でグータラしているだけと言うのは気がひけるし、ちょっと人間性を疑う。

 

「ま、結果オーライって事で」

 

 ちょっと前の俺だったら面倒ごとに巻き込まれる可能性を少しでも減らしたいとか言って絶対店には出てこなかっただろう。成長したってことかな俺も。

 別に梓さんが可愛いから、ここでできる男をアピールしようとかそういう下心があったわけではない。決して。

 

「お客さんもいませんし休憩にしましょうか」

「そうですね。じゃあちょっと店の看板closeに変えてきます」

 

 あ、この店は休憩する時店も一旦閉めるのね。

 

 しかし、ここにいる全員がもう完全に休憩モードへと気持ちを切り替えた時、タイミングの悪いことに一人の客が店に入って来た。

 

「あー。いらっしゃいませ」

 

 空気の読めない客の来店にテンション低めのいらっしゃいませをかました安室さんによってテーブルに案内される。安室さんよ露骨すぎるぞ。

 

「あ、小々波さんはもう休憩室に戻ってもらって大丈夫ですよ。あとは二人で出来ますから」

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 梓さんから御礼としてパフェを頂き、休憩室に戻ろうとする。梓さんの作ったパフェ。やったね。

 

「あ、ちょっとそこの茶髪の人」

 

 すると急に、さっき来店して来た客が誰かを呼んだ。安室さんはベージュのような金色のような髪だし梓さんは黒髪。

 呼ばれたのは俺かな?

 

「あ、はい何ですか?」

 

「君———————、小々波漣斗君だよね?」

 

 

 

 

 俺はパフェを手に持ったまま急いでポアロを飛び出した!

 

 

 

 

 やばいやばいやばい! ちょっと調子に乗ったらこれだよ! 人助けしたんだからこのままうまく片付いてくれよ! なんで最後の最後でめちゃくちゃにしてくれんだよ神様はよぉ!

 

 後ろを振り向く事なくただひたすらに突っ走る。

 

 全力で走りながら片手にパフェ、片手にスマホでSNSを開くという器用な技を披露する。検索ワードは『大学生探偵』と『発見』だ。

 

『今話題の大学生探偵の佐々波漣斗君、喫茶ポアロでバイトしてるの発見した!(画像あり)』

 

 クッソッ! バリバリ映ってんじゃん俺! 盗撮されてんの全然気がつかなかった! まあ確かにやけに携帯ばっかいじってる女性いるなとか思ったけどまさか投稿してたとは思わんかった。マスクしてたしバレないと思ってたのに…………。この子俺のファンなのかな?

 

 —————じゃなくて。

 

 テンパりすぎてバイクを店に置きっぱなしで来てしまった。流石に歩きだと逃げられる範囲は限られてくるし、自慢じゃないが体力のなさには自信がある。伊達にタバコ吹かしとらんわ。財布も休憩室に置きっぱなしだからタクシーにも乗れない。

 

 この状況はかなりまずい。周りの人間がいつどこで俺のことを見てるかわからないし、気がついたら画像と位置情報がSNSに載せられているなんてことも考えておかなくてはいけない。

 

 ポアロを飛び出してから十分程走っただろうか。

 

 俺は人目の少ない路地裏に入り込んだ。取り敢えず走って走ってドンドン奥の方に入っていく。薄暗くもう完全に周りには人がいないところまで来てようやく俺は足を止めた。

 

 取り敢えず体力が回復するまでこの路地裏で休憩しよう。

 俺はその場に座り込んだ。

 

 それにしても息切れと汗がやばい。ずーっとタバコ吸ってたからか息を吸い込むと変な音が鳴るし。今まで交通手段と言ったらバイクだけだったから確実に体が退化している。

 

 こりゃ少し体鍛えた方がいいな。今の体の状態でコナンワールドを生き抜くのにはちょっと無理がある。

 ジムにでも通って体力と筋力を戻さないと。大学入ってから本当に運動しなくなったしな。今後の体の健康や護身的なものも含めて鍛えるに越したことはない。ある程度筋力がついたら空手やら柔道やら格闘技やらを習得しよう。あわよくば殺人KARATEを覚えたいところだ。いつか毛利蘭に教えてもらお。いつどこで凶器を持った犯人と取っ組み合いになるかわからんからな。ついでにタバコも控えよう。

 

 このまま路地裏にずっといるわけにもいかないので、反対側の通りに出ようと重い腰を上げる。

 

 しかしここで俺の耳元に誰かがこちらに走ってくる足音が聞こえて来た。

 

 え、もう来たの!? ちょっと待ってよ! 俺もう一歩も歩けないんだけど!?

 

 足音はドンドン近づいてくる。やばいやばいやばい。この状況だと流石に逃げ切れん。最近のマスコミは有る事無い事書きまくるっていうからあんまり良い印象持ってないし、やっぱり有名人になんてなりたくない。もうここはきっちりつきまとわないでくださいって言うべきか。うん、それしかねえな。しっかり話せば相手の人もこっちの意を汲んでくれるよな。

 

 

 俺は強く意志を固めて、後ろから走ってくる人物めがけてパフェを全力で投げつけた。

 

 

 

 

 

———————————————————————————

 

 

 

 

 

 

「一人で飛び出してどうするつもりだったんですか?」

「いやぁ面目無い」

 

 俺は今、安室さんの運転する車の助手席に乗っている。心なしか若干語尾が荒いような少し怒っているような気がする。

 やっぱパフェ投げつけられた事怒ってるのかな。

 

「よく俺のいる場所がわかりましたね」

「人探しは得意なんですよ」

 

 安室さんは呆れたようにため息混じりにそんなことを言った。俺が飛び出した後すぐに追いかけて来たのだろうか。それともプロファイリングとか言うやつで俺の行き先を調べ上げたのだろうか。もしかしたら体のどこかにGPS忍ばされてる……?

 まあ詳しくはよくわからんが、流石は毛利小五郎の弟子兼私立探偵兼黒の組織の一員兼公安のエースなだけはある。どんだけいろんな肩書き持ってるんだこの人は。

 

「それで、これからどこに行くんです?」

 

 わざわざ車で来たと言うことはかなり遠くの方に逃がしてくれるとかそう言う感じなのだろうか。

 

「家まで送り届けますよ」

「え、安室さんの家っすか?」

「……………、小々波さんの家ですよ」

 

 いや冗談だよ。そんな目で見ないでよ。こいつやっぱり俺のこと狙ってる!? みたいな顔すんなよ。

 

 それにしても————、

 

「俺の家にはマスコミが張り込みしてるんじゃないんですか?」

「その事なんですけど、小々波さんをポアロで見かけたと言うSNSが投稿されてからは、ほとんどの局が小々波さんの家から離れてポアロ周辺を探し始めたんですよ」

 

 成る程。でも一局に一人くらい残していかないか? いや、この世界ではあらゆる事件が起こりすぎてそっちの方にも人材を回さなきゃならないから、俺なんかのために裂けられる人材の数は限られてるのか。だから贅沢に自宅張り込みながら目撃地周辺を探すなんて事はやらないのかな。これはコナンワールド様様だな。

 

「まあ一つの局だけはそこに留まり続けたんですけど、たまたまそこの局のキャスターに知り合いがいたもので、その方に頼んで今回は手を引いてもらいました」

 

 水無玲奈(キール)さんですねわかります。

 

「何から何まで…………なんとお礼を言って良いのやら」

 

 知り合って間もないのにこんなに俺のために協力してくれて。安室透ってこんな良い奴(キャラ)だったっけ? ちょっとまあ怪しいというか、ここまで優しくされると何か裏があるんじゃないかと変な勘ぐりをしてしまう。安室さんにマークされてたり? いやそんな訳ないよな。自意識過剰はよくない。こんな使えん大学生をマークするほど彼は暇じゃないだろ。

 

 それにしても安室さんって長身だしイケメンだしなんでもできるしこんなに優しいし。後お金持ってそうだしイケメンだし。あらやだ惚れそう。

 

「気にしないでください。自宅に帰ったら数日は外に出ないほうがいいですよ。流石に家の中に無理やり入ってくることは無いと思うんで」

 

 どうやら神はどうしても俺を引きこもりにしたいらしい。ま、良いんだけどね。でもこの調子で大学卒業出来んのかな…………。

 

 

 マスコミに付けられていた場合の為、一応回り道をして俺の家に向かっているらしい。車窓から東都タワーがはっきり見える。やっぱでけーな。

 

 

 

 

 適当に数十分米花町を車で走り回り、そろそろ良いだろうと俺の家へ向かう道に入った時、渋滞に巻き込まれた。

 

「あれ? 何ですかねあれ」

 

 安室さんの指し示す方を見ると、そこには複数のパトカーが止まっており、警察が一回一回通過する車を止めては車内を点検している。

 

「え、検問?」

「みたいですね」

 

「何かあったんですかね」と言う安室さんの呟きに「さぁ?」と適当に返す。まあ事件なんだろう。関わりたくない。マジで。

 

 数分して俺たちの番がやって来た。制服を着た警官の方に車を一時的に停めるように指示される。指示通りに道路の脇へ車を停め少し待つように言われた。

 

「車内点検ってあの警官がやるんじゃないんですね」

「刑事がやるんじゃないですか?」

 

 え? 刑事……、だと?

 

「すいません車内の方を——————って安室さんじゃないですか!」

「あ、高木刑事。お疲れ様です」

「小々波さんも!」

 

 よし帰ろう。すぐ帰ろう。今帰ろう。

 

「あ、それじゃあ高木刑事、お仕事がんばってください。行きましょう安室さん」

「この検問は何で敷いてるんですか?」

 

 おおおおおおぉぉぉい! その質問だけはやめて! 興味を示さないで!

 誠に遺憾ながら、案の定俺たちの元へ車内点検をしにきた刑事は目暮警部御一行の一人、高木刑事だった。そしてさらに案の定安室さんはこの事件に首を突っ込もうとしている。

 

「ここだけの話、誘拐事件があったんですよ」

 

 ちょ、言うなよ。警察の探偵に対するその謎の信頼は何なの!? え、守秘義務的なのガバガバじゃね? そう言うの一応一般人である俺たちには言っちゃいけないんじゃないの? あ、もしかして探偵が一般人に分類されるのって俺のいた世界限定の話なの?

 

「それは大変ですね…………。因みにその誘拐された子の身元は?」

「ちょっと待っててください! 今資料持ってきます!」

 

 おい高木。やめろ高木。

 

「すいません小々波さん。どうもこれは見逃せない事件なので……」

 

 なのでなんだよ? えぇ? 自分も協力したいってか? ダメです。

 

「たしかに見逃せないっちゃ見逃せないですけど、ここは本業の警察の方達に任せて、我々はマスコミに追いつかれないうちにとっととズラかると行きましょうや」

「高木くん、本当に彼らがいるのか? —————おお、本当に小々波くんに安室くんじゃないか」

 

 高木刑事によって目暮警部が召喚されました。ありがとうございます完全に詰みました。

 

「ちょっと資料の方を見せてもらっても良いですか?」

 

 安室さんはそう言ってエンジンを止めキーを抜き、車から降りる。

 完全に協力する気満々だ。どうやら彼は当初の目的を忘れてしまったらしい。

 

「できれば昨日の怪事件を見事に解決したという貴方の力も拝見してみたいんですけどね」

 

 降りる際に助手席の方を振り向き、俺にそんなことを言ってきやがった。お前それは卑怯だぞ。コナンの影響が大きいってことは気がついてる筈だろ!? 直接俺が言ったわけではないけども。

 

「それに警察の沢山いるここにいれば、少なくともマスコミは入ってこれませんし、一番安全かもしれませんよ?」

 

 うるせーよ。事件に巻き込まれるくらいならまだマスコミと追いかけっこしてる方がマシだわ。

 つかなんでコナンいないのに事件に巻き込まれそうになってんの俺。おかしくね。奴らが旅行に行ってる三日間は平穏な日々を送れるんじゃないの?

 

「ここで事件解決なんてしたらまたマスコミに追いかけ回されるじゃないですか」

「今回はマスコミに嗅ぎ付けられる前に帰るんですよ。そうすれば警察の手柄と言うことでニュースになります。また新しいニュースが入れば小々波さんのニュースもだんだん人々の記憶から薄れて行きますよ」

 

 まあ確かに安室さんの言うことも一理ある。

 それに何だかんだ誘拐事件を見過ごすのも気がひける。これは俺の力で解決できるどうこうの話ではなく、安室さんがこの場にいれば事件が解決できるのに、俺のせいで安室さんをこの場に残すことができなくなり事件が迷宮入りになるなんて事になりかねないと言う事だ。

 それは俺がキツイ。間接的にとはいえ事件を迷宮入りに追い込んでしまう事になるのだ。そうなるとまたトラウマが増える。しかも事件が解決しなかったら誘拐された子はどうなる。俺が少し我慢すれば救えたかもしれない命を見捨てた事になる。

 

 俺のせいで誰かが不幸になるのは嫌だ。

 

「俺なんかに何が出来るかわかりませんけどね」

「すいません。ありがとうございます」

 

 この事件が警察だけで解決できるとは思えない。それにコナンのいない今、俺みたいな素人一般人に何が出来るのかもわからない。けど安室透がいればこの事件は解決する。それは絶対だ。

 俺が安室さんに助けを求めた時点でこうなることは決定していたのだろう。そう思って諦めるしかない。

 

 それに、今回の事件解決後に安室さんを使えばマスコミの興味を俺から別へと完全に移すことができるかもしれない。

 安室さんは事件解決の手柄を警察に譲り自分たちは目立たず早々に退散すればいいと言っていたが、それだとニュースのインパクトに欠ける。

 もし警察や冴えない大学生じゃなくてイケメン私立探偵が事件を解決したとなったら? どう考えてもソレが一番美味しい筈だ。

 

 俺を事件に巻き込んだんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 —————安室さん、それくらいの責任はとってもらいますよ。


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