だって別に需要ないもん!
「え゛? ふ、不審者って噂されてる……?
ま、待て待て!! 俺はただ家で引きこもるより外に出て就職先探そうかなって思ってただけで……」
最初の出会いはこんな感じ。
「キミは見たまんましっかりしてるだろうから大丈夫だろうけど、人間、真面目にならないと俺みたいにこの歳になっても碌に仕事が決まらず、昼間っから公園でしょぼくれる事になるぜ……」
そう言いながら缶ジュースを煽り、弱った様に笑う同い年くらいだと思っていた男性とのそもそもの出会いは何て事の無い偶然から始まった。
「おっ! 学歴不問だと!? よっしゃ応募しかねぇぜ!!」
ここ最近近所の小さな公園のベンチに座って1日中就職情報誌を何冊も読み漁ってる不審な少年が居る……というのを噂で聞き、その輩がもしかしたらよからぬ事を企んでいる可能性があるのかもしれないと思って一人確かめに行ってみたら、何て事ない――本当に就職できずに頭を抱える実年齢二十後半に入った男性というだけの人だった。
「あ、は、はい……こ、高校は卒業してなくて――――あ、ダメですか……?
はい、お時間取らせて申し訳ありませんでした……」
その時は詳しくは話さなかったし聞かなかったけど、高校に通わず『色々とやっていた』らしいその男性は毎日電話しては電話口で学歴を理由に面接すら来ずに弾かれる毎日を送っていたと聞いた時、普通にだらしのない人だと思ってしまった。
「く、ククク……! 学が無くても働けそうな仕事なんてのは昔の話で、今じゃ土木作業員すらも高卒の資格が無いと厳しいと来たもんだ。
お陰で日雇いで食いつなぎながら昼間はこうして情報誌漁りながら公園で1日中居座る。
こんなダメな大人にだけはなるなよ?」
あんまりにも情けない姿だったのと、話してみると割りと年齢のギャップ差を感じなかったので、日を追う毎にこうして話す事が多くなり、気付いたら私もこの男性が就職できる様にと手伝いをする様になり、いつしかある程度男性の正体を自然と知っていた。
「キミは――そうか、
『同類者同士は例え距離が離れていようと自然と惹かれ合う』――だなんて一度だけ会った妙な女が言ってたなぁ」
単なる就職難の男性だけじゃない……。
「前にキミは自分の家柄についてチラっと言ってたね? 詳しく聞く気は無いけど、その立ち振舞いからして多少の戦いの心得があると見た。
……………知らず知らずその扉を開けて親しき人達から離れてしまうのを防ぐ為に、ちょっとしたお礼だと思ってキミにひとつプレゼントだ」
離れてしまうのを防ぐ為に、ちょっとしたお礼だと思ってキミにひとつプレゼントだ」
スポーツでも無く、武道でも無い。
「制御を覚えたら、後はキミ次第だぜ」
本当の死を見た事がある目をした人……。
そして私はこの日を境に知る。
「卒業おめでとう! そしてキミが手伝ってくれたおかげで俺も就職先が決まった! ふふ、これでお別れだけど頑張れよ?」
単なる就職難では無い彼が見る世界の色を……。
やっと就職が決まって県外へと去ってしまうまで、確かに私はあの人の弟子だったと思う――いや思いたい。
「織斑一夏君に続いての世界で二番目の男性起動者ね。
年齢は29ですって」
「……」
まさか、こんな形でご健在な姿を見る事になるとは思いませんでしたけど。
しかも気付いてないみたいだし……。
「この顔――うん、きっとそう、あの時見た人……」
「? お嬢様?」
まあ、あの人自身も、あの人に宿る荒唐無稽にしか聞こえない龍も言ってた通り、昔から『鈍い』せいで不意打ちを貰ってしまうとの事だから何となく納得はできるけど、最近私がお仕えする主の様子がおかしいのは何故なのだろう? 二番目の起動者として遅蒔きながらの高校卒業資格を得られるチャンスを持ったあの人のプロフィールをずっと眺めてるけど……会った事なんて無い筈。
なのに何故……。
「お嬢様、何故そのように物陰から眺めてるですか? 何か調べたいのならお得意のトーク力で接触してみたらどうですか?」
「えーっと……もう少しだけ様子見に徹してみようかなって。
一応本音ちゃんが彼等と同じクラスだから探って貰いはするけど」
「はぁ……」
お嬢様は彼をそこまで気にしてるのか……。
「最近誰かに見られてる」
一誠の帰還により機嫌が良くなりまくりな一夏は、セシリアとの試合を明日に控えた朝、イラついた声で一誠と同じパンを齧りながら唐突に言い出した。
「見られてる? イチ坊が注目されるのは何時もの事だろ、今だってほら、女の子達が見てるぜお前の事」
「そうじゃない、そういう視線じゃないし、俺がじゃなくておっちゃんが見られてるんだよ」
「俺がぁ? 絶対に何かの間違いだろそんなの」
「相変わらず自分に向けられるモノに対して物凄く鈍いですねイッセーさんは」
「ええ? 箒ちゃんもそう思ってるの?」
「はい、確かにここ数日イッセーさんに対して何者かが離れた箇所から眺めてます」
一夏に同意しながら話す箒に一夏は軽く首を傾げる。
不意打ちは得意中の得意なのに、その不意打ちをされるのが物凄く苦手である一誠はそういった気配に物凄く鈍い。
それでも生き残れたのは相棒の力とゴキブリを越えた生命力があった故だった。
「別に眺めるだけなら良いだろ。多分物珍しいんだろうよ、三十路のおっさんが間抜けに学生やってる姿が」
「それだけなら良いけど、めちゃくちゃ気に入らないんだよ俺は」
「はぁ? なんでイチ坊が気に入らないんだよ?」
「昔から一夏はこんな感じですよイッセーさんの事になると。
歳の離れた兄が見知らぬ誰かに取られる的な心理です」
「なんじゃそら」
行儀悪くパンを食う一夏とは対照的に行儀よくお茶を飲む箒の言葉に一誠は力の抜ける気分になるのと同時に、あの時殴ったのは余程勝手に置いていかれたのに腹が立ったんだなと反省する。
「明日にゃ例の試合があんだし、他の事を気にしてもしょうがないだろ……? そもそも俺は未だにまともに動かせないんだからさ」
「……」
「多分明日にはイッセーさんと一夏の身体能力に合わせた機体を姉さんが送ると思います」
「だとしてもだね。箒ちゃんは既に持ってるんだもんな、紅椿だっけ?」
「ええ、断ったのに姉さんがお守り代わりと……。
なんでもイッセーさんの赤龍帝の籠手の基礎能力をコンセプトにした機体だとか」
「へぇ……あの子は相変わらず凄いな?」
『時折よくわからん小娘だった記憶しか俺にはないがな』
元の世界より皮肉にも生きやすいこの世界に戻った際は隠居する気満々だったが、一夏や千冬達を見てるとまだ先になりそうだ。
そう思うのと同時に余計に考えてしまう。
(俺みたいにアイツが来れたら、アイツもクソ野郎に滅茶苦茶にされた人生をやり直せたのにな……)
転生者によって陥れられ、惚れた主を目の前で抱かれた挙げ句能無しと見捨てられて殺された、友になれなかった少年について……。
『お、俺のことなんざ……どうでも……いい……!!
奴を……会長達をテメーの都合の良い道具にしやがったあの野郎を、俺の代わりに……お前が……!』
『さ、匙……! 待ってろ今――』
『小僧の内臓が破壊されてる……もはや手遅れだ一誠……』
『ぐっ!? な、何でお前が殺されなきゃならない! クソ野郎の仲間だったんだろ!?』
『へ、へへ……ついムカついてお前の仲間になったと言っちまった……』
『何でそんな事――』
『あんな……奴に自分を殺してまで……与したく…………………無ェ……。
お、オレは……会長があの野郎に目の前で抱かれたのを見せられた時から死んでいた…………けど……お前が……お前と出会えたおかげで……オレは生き返った……。
少ししかお前と……一緒に……仲間に……なれなかった……けど……確かに……………幸福……だった……。
だから……後は……お前に託す……そして……悪い……オレは……こ……こ…………ま……で……だ』
『オイ匙……なに弱音なんざ言ってやがるバカ野郎! 俺達で奴をブッ潰すんだろ!? 目を閉じるなよ……オイ匙! 匙ィィィッ!!!!』
友になりそびれ、死をただ見送るしかできなった自分の不甲斐なさ……。
自分の様にもし偶然この世界に居たらと何度も考えた。
勿論探した――けど居なかった。世界中を探し回ったけど居なかった……。
もしかしたら自分が探すのが下手だからなのかもしれないと何度も言い聞かせて……。
(なぁ匙……お前にもこの輪に入って欲しいぜ。
オッサンのコンビにでもなってよ、私立探偵なんかやって浮気調査とかしてさ。たまに街で良さげな女をナンパして玉砕してやけ酒したり……)
無限の進化? 一人すら救えずに笑わせる。
復讐を果たしても残ってしまった虚無感をらしくもなく思い出した一誠は自嘲した笑みを浮かべるのだった。
一夏は中々に排他的だ。
自分の認めた者にちょっかいをかける輩が居ると全力で潰したくなる。
特に自分の姉とその親友の姉の想い人を奪おうとする輩はぶちのめしたくなるし、箒にちょっかいなんて掛けたら全てを賭けて捻り潰す。そんな元気な少年だ。
「更識って苗字に聞き覚えがあるかって? 何だ藪から棒に?」
一誠本人はなぁなぁで済ませた此方を伺う様な視線についてを今日1日を使って調べ上げた一夏はまず、一誠をじーっと見る視線の正体をまず知ってるかを確認するため、一々此方を見てくる他の女子にまざりながら武装展開のトレーニング中だった一誠に聞いてみる。
「俺にそんな名前の知り合いは居ない筈だぜ?」
「そうか……いや、ここ数日おっちゃんを遠くから見ている視線が誰なのか気になって調べたら、どうやらソイツらしくてよ」
全然知らないと言う一誠の顔に隠し事をしてる様な心理は見えず、本当に一誠も身に覚えが無いと分かった一夏は一誠を見る視線の正体を調べた事についてを話した。
「ふーん? 俺はてっきりイチ坊を見てるのかと思ってたけど、本当に俺だったんだな。でも何で?」
「俺が知りたいぜそれは。さっき直接文句言ったら曖昧な事しか言わないし」
「文句言ったのかよ……良いだろ別に」
知らない間にそんな真似をしてた一夏に呆れる一誠。
すると側に居た箒が何かを考える様に腕を組んでいる。
「更識って名はどこかで聞いた様な――あ、思い出しました、確か政府のお抱え暗部の一族にそんな名前がありましたと姉さんが言ってました」
前にどこかで聞いた事があったと、思い出しながら視線を寄越す女子生徒の正体について箒が語るが、何と言うか妙に大きな背景を持つ者らしく、一誠は訝しげな顔をする。
「暗部ぅ? それってもしかしなくとも、男の起動者の監視でも国から言われたんじゃないのか?」
「………いや、あの視線はそういう類いじゃねぇ」
じゃあ仕方ないだろ、正体が箒ちゃんの言う通りなら向こうは仕事なんだから……とあくまでもどうぞご自由になスタンスの一誠だが、一夏的には何やら気に入らないらしい。
いや、というよりは単に干渉されたく無いだけだったりするわけだが。
「特に何かしてくる訳じゃないんだから良いんじゃないの?」
「…………」
「一誠さんの言うとおり、一夏は気にしすぎだぞ」
「………わかったよ」
だが当の本人は気にも止めずにジーッと見られてる事に対して放っておけと言われたら渋々従うしかないわけで。
今も訓練している一誠を、只の監視とは思えない視線を物陰から寄越す更識なる女子生徒にイライラしながら一夏は訓練に付き合うのだった。
さて、そんな状態のまま訓練を終わらせた一夏達はシャワーを浴びて汗を洗い流した後、晩御飯でも食べましょうと食堂を目指して広い学園内を歩いている。
視線についてはイライラするものの、一誠や箒となんの他愛も無い会話をするのは好きなので、少しだけ気は紛れ始めていたのだが……。
「こんばんは~ 今からご飯?」
「お、のほほんちゃん」
「そうだが、そっちもか?」
「うん!」
「………」
同じクラスでいまいち力の抜ける雰囲気からのほほんさん等と呼ばれる女子との鉢合わせにより、再び先程の話がリターンする事になる。
「折角だから私も混ぜて欲しいな~?」
「俺は別に構わないけど、なぁ箒ちゃんにイチ坊?」
「ええ、断る理由なんてありませんからね」
「別に……」
無害そうに見える少女の同行に断る理由無しと箒と一誠は歓迎し、一夏も若干渋々ながらもそれに従う。
別に単なるクラスメートなんだから――と思うのだが、どうにも一夏的にこののほほんだか布仏本音だかの行動が気に入らない。
というのもだ、妙に近いのだ……一誠に対して色々と。
「わーい、いっちーの背中大きい~!」
「テメーゴラァ!! 誰を差し置いておっちゃんにおんぶして貰っとんじゃボケが!!」
「落ち着け一夏! 良いだろうそれくらいは!」
人の警戒心の間を縫って入り込んでくる。
それが意図的なのかは今のところ分からないけど、少なくとも既に一誠の背中に飛び乗って喜んでるくらいまでは勝手に侵入してきてる。
思わず一誠におんぶをせがみながら既に背中に飛び乗ったのほほんなる人物についついキレた一夏は、このタイプが無性に嫌いだった。
「あのガキ……俺達の特権を勝手に……!」
「確かに昔は全員一度はあの人にああやって貰ってたが、別にそれくらいなら良いだろう? それに頼めば今だって絶対にしてくれるだろうし」
箒が宥めなければ殴り飛ばしてたくらいは一誠関連に対して凶暴化する一夏は、実に楽しげに一誠の背中にもたれる本音を睨み付けつつ拳を握りしめる。
「あれ、いっちーの右耳って怪我でもしたの?」
「え?」
「ここ、裂けた様な傷跡が……」
「ああこれ? まあ……しょうもない理由で危うく無くしかけたってだけだよ」
「……ふーん?」
「それよりのほほんちゃんよ? キミの苗字は確か布仏さんだったよね? そこでひとつ聞きたい事が……」
「んー? 何が聞きた―――う!?」
「? どうした?」
「ん、んーん? 別に何でもないよ~ (た、楯無お嬢様がものすごい顔して私を見てるのが見えちゃった……)」
ズケズケと人の中に入り込む奴が大嫌い。
だから一夏は一誠が一時的に失踪した時以降かなり荒れまくりでまともな友人すら作らなかった。いや――というより全く必要ともしなかった方が正しいのか。
「…………」
「単に気になっただけだろ。大丈夫だ、一誠さんは普段から首まで隠れるインナーを着ている。身体の傷についてはバレやしない」
「勝手に見てドン引きしたら殺してやるぞあの雌……」
一夏少年は割りと面倒な思春期を患っていたのだった。
さて、本音が耳の傷跡に気づいた訳だが、それとは別に実は近づいた理由が自分の主に頼まれたから――というのもあってフレンドリーに近づいたのだが、近づき過ぎたのか、既にバレてるのにも拘わらず一誠達をジーッと眺めてるその主に思いきり殺気を送りつけられてしまった。
「今日は何食うかなぁ。くくく、貯金してたおかげで割りと贅沢に食えるってのは大人の特権だぜ。
まあ、流石に酒は無いらしいが」
「いっちーと先生以外はみんな子供だからね~」
主がこっちを見てる……。
それも目が物凄く怖い……。
一定の距離を保ちながら食堂へと入っても尚見るのを止める気配が無い主に内心ビクビクしながらも結局一誠におんぶされたままの本音は割りと目立っており、偶々出くわしたクラスメートに弄られる。
「あー、のほほんさんが兵藤くんにおんぶして貰ってるー!」
「良かったわねーのほほんさん」
「うん、いっちーのおかげでらくちんだぜ~!」
「個人人力タクシー兵藤です……なーんつってな! ガハハハ!」
歳はどうであれ、見た目が詐欺に若々しいのと、『普通の人間相手』には絶大なコミュ力を持つ一誠はこの時点で既にクラスに溶け込んでおり、クラスメートの女子と冗談を言い合って笑っている。
とはいえ、その目立ちのせいで主の視線がチクチクとおんぶされる本音の背中を刺しまくる。
どうやらとっくに一夏や箒や一誠は気づいてる様だが、敢えて触れないらしい。
「という訳で到着したけど、のほほんちゃんも折角だし一緒に食うか?」
「え、良いの?」
「おう。イチ坊と箒ちゃんも良いだろ?」
「ええ」
「………まあ、別に」
主は意味不明に見るだけに留めてるのに、自分は一誠に歓迎されてる。
そのせいか知らないけど自分に向けられる視線が強くなってて後が怖い……。しかしどうであれ、一誠のキャラは嫌いでは無い本音は嬉しそうにはにかみながら夕飯を同席する事になる。
「で、おっちゃん。さっきの続きなんだけど……」
「ん? あぁ、あっちからこっち見てる子の事か?」
「すっごい見てますね今もイッセーさんのことを……」
「…………」
男子だからという理由で果たして片付けられるのか? と引くくらいの量の丼ものだの汁物だのおかずだのを一夏と一誠がガツガツ食べる隣でチビチビと食べる箒の会話を聞きつつ本音も箒と同じペースで奢って貰ったご飯を食べ、やっぱりとっくに楯無の視線に気付いてる前提の話を聞く。
「見てないでこっち来れば良いのにな?」
確かにと本音は内心、普段のあの人を食った様な性格の主とは思えない行動を考えながら頷く。
今も一誠の視線が合った瞬間、慌てた様に髪を整えてるし……。
(何なんだろ……)
思えば二番目の起動者について国から詳細データを渡された時からおかしかった気がする。
写真を見てまず固まり、1日遅れの入学をしてから運良く最初の起動者である一夏を含めて自分に探りを入れさせるだけで自分はああして見ては目が合うと慌てて引っ込む。
普段なら飄々としながらとっくにターゲットに接触するのに、何故この実年齢と釣り合わないレベルに若々しい男に対して慎重になっているのか。
まあ、一夏や千冬、篠ノ之姉妹と旧知の仲どころか少なくともこの場に居ない束以外から相当慕われてるのは驚いたが、それを抜かせばどこにでもいそうなオッサンにしか本音には見えない。
(そういえばいっちーのプロフィールをお姉ちゃんが見た時、ほんの一瞬だけ動揺してたよーな……)
一体このよくわからないおじさんは何者なのか……。
本音の抱く謎はますます深まる中、一誠が唐突に声を出す。
「おーい! そこの水色の跳ねっ毛の子! こっち来て一緒に―――むがっ!?」
そろそろ気になったのか、突然こっちに呼び寄せようとした一誠だが、即座に一夏が無理矢理手で口を抑えた。
「それはダメだ! あの女はヤバイ!」
「んが、何がだよ?」
「目がヤバイっつーか、実はさっき密かに接触して警告したんだよ俺」
「は? ………で?」
「そしたらあの女、全部曖昧な事しか言いやがらねぇが、目がおかしかった。どうも単に監視してるだけには感じなかった。
だからだよ」
「はーん?」
「姉さんに少しだけ似た様なものは感じますね」
「束ちゃまと? ………え、俺あの子に嫌われてるの?」
「いやそうじゃなくて―――というか、姉さんが本気でイッセーさんを嫌ってるとまだ思ってるのですか?」
「だってあの子、顔合わす度に俺を変態と罵るから……変態であることは否定はできないけど」
幼少期におっぱいの素晴らしさに覚醒し、両親が殺されてから復讐にのめり込んで忘れがちだが、世が世ならおっぱいドラゴンだったかもしれないくらいには、女人大好きだったりする一誠。
なのに何故今はこんな感じなのかと言われたら、それは勿論周りの女の子が若すぎるからであり、一誠的に子供でしかないのだ。
「ね、ねぇ、いっちーはあの人に会った事ないの?」
例えるなら保育園の園児に混じらされた中高生気分である一誠にタイミングを図った本音が呼ぶのを止めて再びご飯を食べ始めた一誠に聞いてみる。
楯無がああも後手に回るくらいなのだから、過去にどこかで自分の知らない間に会った事でもあるのだろう―と、予想しての事だが、手を付けてないプリンを本音に差し出した一誠は首を横に振った。
「さっきイチ坊にも聞かれたけど俺は会った事ないぜ?」
「へ、へぇ?」
「だから余計ムカつくんだよ、マジいっそ捻り潰すか?」
「イチ坊お前……ホントに餓鬼の頃の俺みたいな思考回路だな」
「最初の頃のイッセーさんは狂犬みたいな人でしたからね、懐かしい……姉さんや千冬さんをクソ餓鬼呼ばわりしたり」
「………永久に忘れたい黒歴史だぜ」
「俺と箒には最初から優しかったんだけどな」
「そりゃお前、まんま子供に当たり散らしてもしょうがないだろ」
すぐに思い出話に切り替えてしまう辺り、本当に楯無の事は知らないらしい。
けどだったら何故楯無は――と、もう一度似た質問を投げ掛けてみようとした瞬間だった。
「にしても確かにあの子は飯すら食わずに―――――――っ!?!?!?」
「うぉ!? な、なんだおっちゃん!?」
「ど、ドレッシングが溢れてますよイッセーさん!」
「な、なになに!?」
サラダにドレッシングを掛けようと瓶を傾けながら楯無の方へと一瞬視線を向けるつもりの一誠の顔がいきなり動揺したものへと切り替わり、ドロドロとサラダの入った皿じゃなくてテーブルに照準が狂ったドレッシングがぶちまけられるプチ騒ぎが起こったとしても一誠の視線は一点に釘付けにされていた。
「………」
「どうしたんだよおっちゃ――」
一夏の声すら聞こえないくらいに驚いた顔をしたまま、ほぼ空になったドレッシングを置いた一誠がフラフラとしながら水色髪の少女へと近づきだす。
「え、えっ!?」
突然こっちに近付いてくる一誠にあたふたしながら目を泳がせながらも、髪が乱れてないかと手で整える水色髪の少女――
「―――――あれ?」
――の横を通りすぎた。
「え……私じゃない?」
てっきり自分の所に来たのかと思った少女はショックを受けながらも、じゃあ一体誰に……? と一誠の姿を目で追うと、そこに居たのは……。
「もしかしなくともキミだろ? なぁ『うーちゃん』だろ?」
所属する生徒会のお仕事を押し付け――もとい頼んだ筈の会計役員にて自分の従者。
「えっと、はいそうです。
その……お久しぶりですイッセーさん」
向こうで一夏と箒……そして布仏本音が揃ってびっくりし、何気に食堂内がシーンとなって全員に見られながら恥ずかしげに頭を下げる眼鏡の少女――布仏虚の存在に一誠は驚きと歓喜を見せたのだ。
「やっぱりか! ありゃまぁ~! 暫く見ない内により可愛らしくなっちゃって! そっか、この学園の生徒だったんだな!」
知り合いと分かった瞬間、大きく手を叩きながら笑う一誠。
水色髪の少女の凄まじい視線すら気づいてない様子だ。
「私は既に知ってましたが、まさかこの様な形で再会するとは……」
「あーうん、キミに手伝って貰って漸く就職出来たのにな……ごめんな? 起動可能ってなって会社クビになっちまった」
「それは……仕方ないですよ。謝らないでください」
「………………」
しかも会話内容からしてかなり親しいと感じられ、楯無の視線は従者の虚に強く向けられるが、やはりそこら辺は一誠なのか、すぐ横で水色髪の少女に『どういう事だ?』と若干怒りの孕んだ目で睨まれて、少々居たたまれない気持ちになる眼鏡の虚に気付かず、そして再会が嬉しいのか一誠は実に爽やかに笑いながら少女――布仏虚の頭を撫でる。
「そう言って貰えると救われた気分だようーちゃん。
あの時の『お礼』はまだ持ってるんだな?」
「あの、撫でられると恥ずかしいです……」
何よりさっきから自分の主の顔が凄まじいので取り敢えずやめてもらう。
「おっとごめんごめん! あっはっはっはっ!!」
謝る一誠が手を離すが、虚の表情はとても嫌がってた様には見えない。
そう、それは寧ろ千冬の様な……。
「そうかぁ、のほほんちゃんが前に言ってたうーちゃんの妹かぁ、名字聞いてまさかとは思ってたけどよ」
「あまり似てないとよく言われますから……あの、それより――」
「おっとそうだ! イチ坊達に紹介しないと!」
「ちょ――あ……手……繋いで……」
本当に三十路なのか? と思うくらいに少年じみた笑顔で虚の手を取って何とも言えない顔をしてる一夏達の元へと連れていく一誠。
「………………………………」
おかげでより拗れる何かが勃発した気はしたが、多分気のせいなのかもしれないし、少なくとも一誠は全く気付いてなかった。
「……………。なるほどね、ふーん……へー?」
「し、知らなかった。お姉ちゃんが知り合いだったなんて」
「布仏のお姉さんですか……」
「そう、この子は虚ちゃん。
二年前に就職の手伝いを不甲斐ないことにしてくれてな? その時この子の中に同じものがあったから――まあ、ほら可愛い子だろ? 変な男に襲われない様にと自衛手段のつもりで教えたら――」
「何でだよ!? 何だそのオチ!?」
「これは色々と危険ですね、姉さんと先生が知ったら――いやもう姉さんは知っちゃってると思いますが、何て言うか……」
まさかのそんなオチに一夏はテーブルにコップを叩きつけ、箒はため息を吐き、本音はひたすらに姉と一誠がそんな前から知り合いになってた事に驚く。
「あの、うちの主が大分ご迷惑をおかけしたようで……」
「え、あぁ、それは良いがアンタの言うあそこの主とやらはおっちゃんの知り合いじゃないらしいが、何であんな目で見てるんだ?」
「それが私にもよくわからないのです。イッセーさんとお嬢様は確かに会った事など無い筈ですので」
取り敢えず一人勝手に喜びながら飲んでる一誠を放置し、主――楯無の行動について謝りつつ一夏の質問に答える虚。
「もしかしてだけど、お姉ちゃんがいっちーと会ってる当時の現場を見た事があったとか?」
「だとしたら向こうがイッセーさんの顔を知っててもおかしくは無いが、だがそれだけでああも拘るか?」
「…………。ほんの少しだけですが、お嬢様は思い込みが強すぎる面があるので――もしかしたら」
「……。それただのストーカーじゃね? おっちゃんの」
虚に対して物凄い目で睨んでる楯無の性格を聞き、一夏と箒は何とも言えない顔をする。
だって要するに単なる思い込みから来たストーカーだったのだから。
「それで、アレが単なる気色悪いストーカーだったのは良いとして、アンタ自身はおっちゃんに『教えられた』んだろ? 見りゃ大体波長が俺達側なのはわかるが」
「あ、はいスキルもイッセーさんによって自覚しました」
「姉さんと千冬さんが荒れるぞこれは……」
「スキルって? え、お姉ちゃん何かあるの?」
「あくまでも自衛の手段を教わったのよ本音。
お嬢様達をお守りできる様にって」
首を傾げる本音に、ここまで来たら隠せないと判断して一誠との繋がりの理由について少し語りながら、此方を伺う一夏と箒に見える様に、紅茶の入ったカップをテーブル上に軽く転がす様に投げた。
「!? カップの中の紅茶が……」
「溢れてない?」
「え!? な、なにこれ!?」
コロコロと対面側に座る一夏と箒に転がったカップ。
普通ならその時点で中身の紅茶がテーブルの上にぶちまけられるのだが、その紅茶はカップの中に入ったままであり、またそれが異常な事は誰が見ても明らかだった。
「落としても絶対に中身が溢れる事の無いティーカップ……それはまさに理想だと思いませんか?」
その位置に立つ新たな存在。
「言っとくが、うーちゃんも強いぜ?」
一誠のお墨付きというレベル。
「自己紹介させて頂きます、名は布仏虚。
イッセーさんから引き上げて頂き、宿したスキルは
それが布仏虚だった。
「な、すげーだろ?」
「それはわかったけど、どうすんだよ? 一応アンタに聞くけど、おっちゃんについてどう――」
「え!? あ、いえ、私は別に! ちょ、ちょっと歳の離れた先輩と思う程度で、別にそんなアレはありませんよ!?」
「………………。もう良いや、知らないかんなおっちゃん?」
「? なにが?」
終わり、
オマケ・・テスト
素養があるのか無いのか。それを調べるには一誠がジーッとその人物を見たら大体わかるが、それより早く簡潔に調べる手はある。
「どんなに抑えても、何気ないところでそういう面は必ず出てしまうもんなんだ。
例えば、こういったサイコロを六つ程同時に振ると――」
テーブルに向かって六つのサイコロを同時に一誠が振った瞬間、サイコロは信じられない事に六つ全部が縦に積み重なった。
「………と、こうなる」
やってみな? とまずは一夏がサイコロを渡され、そのまま言われた通りに振った。
すると今度は六つのサイコロが一誠の時の様に積み重なったのだが、驚くべき事に角を面にして積み重なっていた。
「……次、箒」
「わかった……それっ」
本音と何気に混ざっていた生徒会長がドン引きしてる結果を前に平然と箒にサイコロを渡した一夏は、同じく軽く振られた後の結果をジーッと観察する。
「む……サイコロがひとつ消えたな」
「大丈夫大丈夫、予備ならアホ程あるから」
その結果は六つ確かに振ったサイコロがひとつ完全に消えるという結果であり、予備を新たに取り出した一誠は最後に虚に振らせる。
「うーちゃんの場合はどうかな? そういや見た事がない」
「六つ同時に振れば良いのですね?」
「虚ちゃん、なんでうーちゃんって親しそうに呼ばれて――」
「それっ」
一誠に渡されたサイコロを受け取り、横で恨めしそうな声を出した楯無を軽くスルーしながらサイコロをテーブルの上に振った虚。
その結果は――
「……六つが七つに増えたな。箒ちゃんに似てるね」
「チッ、マジもんかよ」
「疑う理由はこれで完全に消えましたね、布仏先輩は完全に此方がわです」
「どうも……」
「「……」」
六つあったサイコロが七つに増えるという結果。
その結果にあの頑固な一夏ですら渋々認める事となり、このテストはこれにて終了――
「はいはい! 私もやってみます!!」
「私も~」
――と、思いきや、楯無と本音がサイコロを取ってやってみると言い出した。
しかし楯無は何度振ろうが普通だったのだが……、
「あれ、何度振っても六つゾロ目になる……? なんで?」
『!?』
「本音、アナタまさか……!」
「へ?」
そのテストの結果――新たな疑惑が浮上したのは果たして運命なのか。
終了。
そんなこんなで始まる総当たり試合。
その当日……事件は起きた。
「ちーちゃぁぁぁん!!!」
いきなしやってきた天災ちゃん。
「やぁやぁいーちゃん、生で見るとメチャメチャにされちゃいそうな顔してるね相変わらず?」
いきなりなじられる一誠……。
「さてと、まずはいーちゃんに持ってきたプレゼントを合わせる作業をするわけだけど――そうだね、こっち来て」
「え、何で?」
「良いから!」
物陰に連れていかれる。
「ん、脱いで?」
「は!? なんで!?」
「所謂フィッティング作業だよ。はい、勿論パンツもだから」
「はぁ!? それこそ意味が――うぉい!?」
脱げと言われる。
「や、やめっ! ねぇちょ――あひぃ!? ど、どこ触って――」
「ふーふー……! あははは……大丈夫だよ、ほんの三分で『フィッティング』は終わるから……」
「それ別の意味だろ!? な、なんのつもりでこんな――」
「そんなの勿論いーちゃんの子種が欲――いたい!?」
「束ェ……何をしてるんだお前はぁぁぁっ!!!」
「痛い痛い痛い! 痛いってばちーちゃん!」
進化してた束に危うく襲われる。
「ところでさぁ、いーちゃんの言ううーちゃんって子はどこ? ある程度浮気は許す性分だけど、あの子絶対アレでしょ?」
「な、なにがだよ? アレってなに?」
うーちゃんこと虚ちゃんが危険視される。
「……………」
「それとあの暗部の子もね」
「あぁ、今日も居るねあの子……」
ストーカーは相変わらず。
そして…………。
「どっか行けよクソ餓鬼! 俺に構うな!! 殺されてぇのかよ!!」
「良いよ、元々私の身体も命もお前に助けられてから全部お前のものだ。
どう扱おうと構わない……だから、お願いだからお前の傍に置いてくれ……頼む……」
「ほぅ? じゃあ今この場全部脱げと言ったら脱ぐのか? あぁっ!?」
「うん……お前が望むなら何でもする。いや、寧ろ私はお前にそうされるなら幸せでいっぱいだ」
「……。クソ餓鬼が……」
どこかで、生き残ってしまった男は荒んだ生活をしながら、それでも惚れ込んでしまった少女にお世話されていた。
「私の身体じゃ、お前が惚れてた女とやらには勝てないか……? ダメか?」
「全部冗談だ、もう良いからほっといて――く……れ……?」
「私はお前の傍に居たい、そしてできることはこんな事しかない……ごめん……ごめんなさい……」
「な……なんでお前が泣いて俺に謝るんだよ……」
おわり
補足
虚ちゃんは正直マジで……すごいです色々と。
例えるなら制約ほぼ無しのロベルトですからね……。
その2
基本世界との違いは、匙くんの死に際を見送ってる所か。
しかしそれによって余計に匙くんへの拘りが強くなってる感は否めない。
3
最後の誰かと誰かのやり取りは……基本世界と違って荒れに荒れており、相棒はもはや聖母を越えた何かを持ってる。