八幡は魔法科高校ではぼっちでは居られない 作:sinobun
九校戦三日目。
男女バトル・ボード本戦の準決勝~決勝とアイス・ピラーズ・ブレイク本戦の三回戦~決勝までが行われる今日は九校戦における前半の山場と言われている。
「刑部少丞先輩が男子第一レース、摩利さんが女子第二レース、千代田先輩が女子第一試合で十文字先輩が男子第三試合か・・どーする深雪?」
第一試合が被っている為どちらを見に行くか八幡は隣に居る深雪に聞く。
「全くもう!八幡は!服部先輩の前で絶対言うんじゃないわよ?」
「おう。でも俺は気に入ってるんだけどな。刑部少丞・・なんかカッコよくないか?」
「私には全然わからないわ」
「それはそれで失礼だなおいっ」
そこに他のメンバーもやって来る。
「八幡君、深雪さん。服部先輩か千代田先輩、どちらを見に行くのか決まったのかしら?」
「まだだ。俺はどっちでもいーんだが・・ 刑部少丞先輩は俺に来てほしくはないかもな」
それを聞いて居た結衣が
「餃子?賞状?ヒッキー何言ってるし」
「そんな事は言ってないからな?服部先輩だ服部先輩」
「八幡いい加減にしなさい!でもそれなら千代田先輩の方を見に行きましょうか」
「そうするか。摩利さんの試合は絶対見に来いって言われてるから、取り敢えずアイス・ピラーズ・ブレイクを見るのもいいしな」
こうして八幡達はまず花音の試合を観戦する事にした。
そして試合が始まると花音は前日同様、先手必勝で危なげなく勝利を収めた。
続いて一行は予定通り摩利の出場するバトル・ボード女子第二レースの行われる会場へとやって来た。
試合開始直前になって、今まで真由美に作業の手伝いの為連れて行かれていた達也が合流した。
「よう達也、何とか間に合ったな。見逃したら摩利さんに何を言われるか分からなかったぞ?」
「ああ。会長にも困ったものだ。ギリギリまで解放してくれなかったからな」
そしてまもなく選手達がスタートラインに出揃った。
「摩利さんは準決勝でもやっぱり余裕の表情だな」
「まあ、それだけの実力があるからな」
八幡と達也がそんな会話をしているとスタートを告げるブザーが鳴った。
やはり先頭に躍り出たのは摩利だった。
「よし、スタートは順調だな」
「でもピッタリ後ろに張り付かれているわ」
「さすがは海の七高と言ったところか」
八幡、深雪、達也の会話に雫とほのかも入る。
「これ去年の決勝と同じ展開」
「さすがは九校戦マニアの雫だな」
「そうなんですよ八幡さん。雫は見た試合は内容までほとんど覚えてるんですよ」
そしてレースは八幡達の観戦するスタンド前を選手達が通り抜けて行く。
ここを抜けると次にかなり急角度のコーナーに差し掛かり、スタンドからは直視できなくなる為大型スクリーンでの観戦となる。
摩利がコーナー直前まできた時、八幡と達也は一足先にスクリーンに目を移していた。
そこで観客達の悲鳴や叫び声が聞こえた。
「危ないっ!」
「オーバースピードかっ!?」
その声に二人も視線を戻すと七高の選手が体勢を崩し、完全にボードの制御力を失って猛スピードで水面を滑って行く。そしてそのまま行けば本来フェンスへ突っ込むはずだったのだが、その先にはコーナーを曲がる為一度減速し次の加速を始めたばかりの摩利が居た。
他の人間が悲鳴を上げるか見て居るかしかできない中、八幡は摩利の名を呼ぶ。
「摩利さん後ろだっ!」
距離的に八幡の声が聞こえるはずはないのだが、摩利は何かを感じ取ったのか後ろから自分に向かって突っ込んで来る七高の選手に気が付いた。
不測の事態にも拘わらず摩利は冷静だった。加速魔法をキャンセルして七高の選手を受け止めるべくそれに適した魔法を発動して体勢を整える。
しかしここで更に予想外の事が起きた。摩利の足元の水面が僅かに沈んだのだ。そのタイミングでまず七高選手のボードが摩利の足を刈り取ろうとする。これは側方へ弾く事に成功した。次に足場を失った選手自身が突っ込んで来たのだがこれには先ほどの僅かな水面の沈みでタイミングがずれ対処できなかった。
もろに七高選手が摩利に衝突し二人はもつれ合いながらフェンスへと吹っ飛んで行く。
さらに観客達の悲鳴が大きくなる中八幡は動いた。
突っ込んで来る摩利達とフェンスの間に一瞬で移動した八幡はまず二人に減速魔法をかけ速度を落とす。
しかしこのままではまだ勢いを殺し切れていないので、以前エリカを助けた時の様に重力を操り摩利達に浮力を与える。そして殆ど勢いを失った二人を八幡は難無く受け止める事に成功した。
「摩利さんっ!?大丈夫ですか?」
「うっ、八幡・・一体どうなった・・・痛っ」
「やっぱりどこか負傷しているみたいですね。とりあえず今は動かないで下さい」
「ああ・・わかっ・・・た・・・」
摩利はそう言って気を失った。七高の選手も気を失っている。
八幡は二人をゆっくり地面に降ろすと少々荒い口調で言う。
「おいっ!何をやってるんだ!早く担架を持って来い!」
観客は勿論、大会の全係員までもが固まっていたのだ。
誰もが摩利達はフェンスに激突すると思っていたのに、突然現れた八幡の救出劇に訳が分からなくなっていた。
しかし八幡の声に係員達はさすがに動き出し救護班が直ぐに駆け付けた。
そしてここでやっと試合中止を告げるブザーが鳴った。
(くそっ!移動中のあれ以来何も起きていなかったから油断してた。もし深雪にもこんな事が起きたら・・・させてたまるか。まあ・・もう絶対に許さねえけどな・・・)
八幡は自分が甘かった事を反省しまだ見ぬ敵に鉄槌を下すことを決意した。