邂逅   作:マシュマシュぷるんぷるん


原作:Fate/
タグ:Fate/Grandorder ロジェロ ヘクトール
先祖と子孫の邂逅。


――――トロイアは、完全に滅んだわけではなかった。

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アキレウスとアレキサンダーの邂逅があるなら、へクトールとロジェロの邂逅があってもいいじゃない!って思いついたもの


煌く兜

「貴方が兜輝くへクトールか!お会いしたかった!」

 

「……えっと、おたく、どちら様?オジサン、心当たりないんだけどなあ」

 

 廊下で行く当てもなくふらついていると、はきはきとした声に呼び止められる。

 

 長い髪を適当に一つに結わえ、無精髭、困ったような笑みを浮かべながら、トロイアの大英雄へクトールはどことなく誰かを思い起こさせるような笑顔の似合う目の前の青年にクエスチョンマークを浮かべた。

 装いはどこかの騎士のようだが、へクトールにはその青年が誰なのかとんと見当もつかなかった。へクトールが英雄に祀り上げられた理由となったトロイア戦争の味方の顔は全員覚えているし、自身に止めを刺したアカイアの大英雄の顔なんて()()()()()()()()()()

 着崩したスーツ姿のへクトールに対し、ラフな現代的な格好の青年は浅黒い肌に焦げ茶色の髪、その表情からは敵意や腹の底に何かを抱えているといったようにも見られない。政治家としての一面もあったへクトールは、その()()()には心当たりのある家族が一人浮かんできたが、その感情を振り払った。

 

 ここは、古今東西、反英雄問わず様々な英雄のやってくるカルデアである。色んな気質の英雄が呼ばれてきてもおかしくはない。確か、最近、シャルルマ-ニュ十二勇士のアストルフォが「昔の友達が来た!」と喜んでいると言う話を聞いたことがあるが、彼のことだろうか?

 仕事はきちんとこなすが、それ以外のときはなるべく働きたくないへクトール。適当にあしらえばいいか、とため息をついた。

 

「これは失礼を!俺は貴方の子孫のロジェロと言います!幼少の頃より、誉れ高き大英雄の子孫であると聞き、育ってきました!貴方の子孫として、これほど名誉あることはありません。まさか、ここで偉大なる先祖にお会いできるとは!」

 

「ロジェロ……?」

 

 聞いたことがない名前だった。

 英雄は、世界を問わずに英霊の座に登録される。抑止力によって遣わされる赤い弓兵は世界と契約し、自らの死後を売り渡すことによって英霊となっているし、騎士王に至ってはたくさんのマスターいわく、派生シリーズが多くいたりする。

 へクトールの死後、彼の故郷であったトロイアは、どのような末路を辿ったのか知っているつもりだ。妻は捕虜にされ、まだ幼かった息子は死んだ。トロイア戦争はへクトールの死によってトロイアが陥落したと言ってもよかった。

 

 

「……それ、本気でオジサンに言ってる?」

 

 へクトールは苦笑いを浮かべたまま、ロジェロと名乗った青年に言葉を返した。彼の言葉を信じるのは、あまりにも荒唐無稽だった。自分の認識が正しければ、故郷(トロイア)は死後に滅んでいるはずなのだから。しかし、息子のアステュナクスが生き延び、トロイアの流れを受け継ぐ国を作るといった()は存在しており、突然の出来事に英霊が世界を超えて『座』に登録されると言うことが抜け落ちていた。

 

「もちろん」

 

 へクトールの凄みに似た声色を前にしても、ロジェロは退くことがなかった。

 

――――そうか、この目はあの愚弟に似ているんだ。

 

 ここで、へクトールは、ロジェロの雰囲気が誰に似ているのかと気がつくことができた。トロイア戦争の開始の原因であった、ディオスクーロイの妹でスパルタ王メネラオスの妃、ヘレネを攫ってきたへクトールの弟・パリス。

 普段はてんで駄目、しかし、自分が追い詰められたときにはじめて英雄らしさを覗かせる男。ヘレネを攫ってきたときもそうだった。メネラオス王にヘレネが心から愛されていないと知り、トロイアに連れて帰ってきた日のことを。

 どれくらい長い間、弟のことを説教していたのか分からない。しかし、パリスの目の色は決意に満ちていたし、へクトールは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――ちょっと、オジサンの部屋で話をしようか」

 

 へクトールがロジェロに場所を変えたい、と提案すると、二つ返事で首を縦に振って肯定の意思がかえってきた。それから、英霊に割り当てられている部屋のうちの自分の部屋の中へとへクトールはロジェロを連れて行った。

 自分の胸中は、複雑なものである。家族を守る為、国を守る為に戦った。自分が負けたとき、妻子がどうなるのかを最も案じていたからこそ、自分の子孫だと名乗るロジェロの言葉はロジェロの“目”を見るまで信じることができなかった。

 多く居た兄弟の中でも、よりによって、あの弟に似てしまったことはなんともいえないが、少なくとも、へクトールの守りたかった場所は、故郷(トロイア)は、完全には滅んでいなかったことを。

 

「ここがオジサンの部屋だ。何にもないところだけど、くつろいでよ。あのアーチャーみたいに上手い茶は淹れられないけどさ」

 

 へクトールの部屋はベッドの他、数冊の本が本棚に納められている程度で他には特にこれといったものが見当たらない。

 

「それでもいいんです。俺、今すごく感激してて!」

 

 ベッドに座るへクトールは適当に場所を示すが、ロジェロはがちがちのまま、動かなかった。かの未来の征服王はへクトールの仇敵で征服王の憧れであったとされる男に会うことができたというが、そのときはロジェロのようにはしゃいだのだろうか、と子孫を名乗る青年を見てへクトールは思った。

 

「まだ、あんたのことをオジサンの子孫だと認めたわけじゃない。未だに信じられずにいるんだよ、オジサンに子孫がいるなんてさ。オジサンの死んだ後のトロイアがどうなったのか、なんて知ってるよな?」

 

「もちろんです。でも、俺は、貴方の遺した武具(モノ)があったからこそ、戦えたこともあった。貴方がいたからこそ、俺は生まれることができたし、愛しのブラダマンテに出会えた。生まれてから死ぬまで、俺は貴方の子孫であることを誇りに感じている」

 

 疑いの眼差しを向ける先祖(へクトール)、疑う様子を全く見せない子孫(ロジェロ)

 

 ロジェロは、真名解放をせず、へクトールの末裔である宝具(あかし)を身に纏った。

 

「これでも、信じてもらえないか?」

 

「――ッ!」

 

 その鎧も、兜も、どれをとっても確かにへクトールのものであることは分かる。

 投げやすいように改造したドゥリンダナがないのはさておき、ロジェロの被っている兜は間違いなく異名の兜煌めくへクトールの異名の元になったもの。

 少し気に入らなかったのは、さびしそうな顔がパリスを思わせることだった。駄目な奴だとは思っている、あんなことをしなかったら怒りえなかったことだとは“政治家”として分かる。

 しかし、それをしたからこそ、パリスはへクトールの弟なのだと思う。もう少し妻や自分に似て欲しかったものだが、その顔を見せられては、突き放せない。

 

 なにより、トロイアの王子へクトールとは、家族や国を、守るべきもののために立ち上がったからこそ、へクトールを英雄たらしめているのだから。

 

「ロジェロ、もう少し、あんたは学ぶ必要がある」

 

「では、俺のことを認めてくれたというわけか!?」

 

「認めるかどうかは、これからのあんたの頑張り次第さ。オジサンの期待、裏切ってくれるなよ?」

 

 その言葉はロジェロにとっては十分すぎた、途端に顔が輝く。

 へクトールは、単純なロジェロは策謀(はらげい)が苦手なのをこのやり取りの中で感じ取り、口に下はいいものの、どうやって分かりやすく教えたものかとひやひやしていた。

 それでも、子孫――息子のような彼には手を焼かされそうだと感じつつも、触れ合いを楽しんでいることは否定できない

 

 しかし、へクトールの顔に苦笑いではない笑顔が浮かんでいた、と自身の先祖である大英雄に会いたがっていた友人を探していたアストルフォは後に語る。

 




ロジェロはへクトールの弟のパリス似なんじゃないかって。

ヘレネとメネラオスの設定は、GrandOrderのパリスの設定から。
クラスに迷ったから、ロジェロのクラスはぼかした。



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