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私こと佐々木 理央は今、とても困ったことになっています。
「何故ですか
私の父上が、もう嫌なんです。
私の名前は佐々木 理央といいます。もう記憶には無いのですが、私は元孤児です。橋の下で捨てられていた所を、集英組というヤクザの若頭である佐々木龍之介……私の父が拾ってくれたのがきっかけで組に住まわせてもらっています。
父上や組長、組の人達皆が家族みたいなもので、とても厳しくも大切に育てられました。同い年の若……組長の息子である一条 楽とも兄弟のように親しくして貰っています。
父上からは「お前が将来、坊っちゃんを支え守るんだぞ」と毎日のように言われ、戦闘なども仕込まれたのは少しばかり辛かったですが、それも私を信頼し頼ってくれる愛情の裏返しとわかれば頑張れました。
どこの家の者ともわからない人間に、己より大切にしている若の命を預けようとしてくれる。
その信頼がとても嬉しくて、頑張ろうと思えるのです。
ただ最近………いえ、もっと昔から悩みがあります。それが……
「おい理央! お前なんて格好しているんだ! いくら身内だけとはいえ若ぇ奴等もいるんだ! はしたない格好で部屋から出るんじゃねぇ!!」
私こと男 佐々木理央は、義理の父親に女として見られているのです。
思えば違和感はありました。物心ついた時から身だしなみには注意され、若と遊んでいる時にはお淑やかにしろと怒られました。
若は良いのに何故自分だけ…と思ったこともありましたが、彼は私と違って身分が高いのだと教わっていたので素直に父の言うとおりにしていました。
それに戦闘訓練では多少服が着崩れても何も言われ無かった為、そういうものだと思っていましたし、男性にしては多すぎる礼儀作法も集英組の為にと受け入れてきました。
ただまさか……私の性別が女の子だと思われているとは気付かなかったのです。
仕方がないと思うことはあります。私は組の人や若と違って女っぽい見た目なので、知らない人から見れば女と勘違いすることもあるでしょう。
事実、身長は160cmと女の子の平均より大きいですが若よりは低く。どれだけ鍛えても線が細くクビレのある身体に、スラリと伸びる健康的でシミ一つ無い手足。アップスタイルに編み込んだ少し長めの髪型は女の子に見えなくも……いえ、自分から見てもそう見えます。
父上は私が女だという事にまったく疑いを持っていません。どんなに男だと言っても受け入れてもらえませんし、証明できる象徴を見せようにも……そう育てられた故か実行する勇気がありませんでした。
そうやってズルズルと真実を伝えられずに数年。私は戻れないところまで来てしまいました。
▽
「ここ最近、見慣れねぇギャング共がウチの島ぁ荒らしはじめやして……坊っちゃんも気を付けてください。理央、もし坊っちゃんに何かあったらそん時はしっかりやれよ」
「はい父上。若のことはこの理央が命を賭して守りますので」
いつものように若がリムジンで登校(組の人たちが無理やり)するのに便乗して、校門前で盛大に若を見送りする時に、父上からそんな言葉が届いてきました。校内では流石に襲われることは無いと思いますが、心配性な父上を安心させるためにもこう言っておきます。
実際襲われれば若の身は護るつもりではいますがね。学校内は平和ですので、警戒する心配があまり無いのは楽ですが。
ちなみに私は男子の制服を着させて貰っています。なんでも他のヤクザに侮られないように、常に男装させておくのだとか。私としては嬉しいのだけど、なんだか複雑です……。
組の人から離れて校舎に向かっていくと、隣からよく通る盛大な溜息が聴こえてきました。
「若。溜息するのはあまりよくないですよ」
「って言ってもさあ理央………俺はヤクザの頭目になるつもりはねえんだ。周囲の視線だって痛いし」
すごく嫌そうな顔でそう愚痴る若。まあ、あれだけ注目されれば私も嫌なので、若の気持ちは痛いほどわかりますが。
「まあ恥ずかしいのはわかりますけどね。でも実際、最近のここら一帯は穏やかじゃないですよ? 私もこの前戦闘に参加しましたし………父の心配もわかってあげてください」
「はぁ……いっそ、お前か竜が二代目になればいいのによ」
また溜息を洩らしながら愚痴る若。
確かに若は私の目から見てもヤクザ等の荒事には向いていないと思います。子供のころから喧嘩には弱く、スポーツも苦手でお世辞でも運動神経が良いとは言えません。性格も優しく面倒見が良いんですが、平和主義でヤクザに向いているとは思えません。
だから若がそう愚痴るのも仕方がないとは思いますし、将来の為に公務員を目指すのも理解しています。
「はぁ……静かに暮らしたい」
そう若が3度目の溜息を吐いた直後でした。
空から美少女が降ってきました。
「え」
「げ」
「ッ若! 危ない!!」
上空に何かが現れた気配を察知した私は慌てて空に顔を向けます。すると若の近くにある塀の上から、一人の少女が若の上に落ちてくるのを確認。
何とか盾になろうと若を押しのけて、若のいた位置に私が代わった時には。すでに目の前まで迫った脚とそこから見える純白のパンツが――――
「ぶッッ!!?」
「キャア!」
顔面に入るところだった蹴りをギリギリで首を動かして回避するのですが、人ひとり分の体重が顔に乗っかってきて、さすがに支えられず倒れてしまった。
「いたた……あっごめん! 急いでたから!」
胸の上あたりに乗っかっている人物から声がかかりますが、頭を痛めたせいで声が出ません……。
そしたら彼女は私の上から退くと、脱兎の如く校舎へと駆けて行きました。
「ほんとごめんなさい! 私いそいでるから!!」
ごめんなさ~い!! という言葉が遠くなっていく。それが聴こえなくなってくる頃にようやく頭が回復して、痛みが無くなりました。
「ふう……ひどい目に遭いました………あ、そういえば若は」
私はさっきの事故(集英組としての戦闘で慣れた)を片隅に追いやて、突き飛ばしてしまった若の方に慌てて目を向けます。
そこには盛大に吹っ飛ばされてボロボロで地面に突っ伏した若の姿が。
「す、すいません若~~!!」
とても悲しい事件でした……。
▽
教室にたどり着くと、私は女子の皆さんにとても驚いた反応をされてしまいました。
「おはよ~理央く…ってどうしたの!?」
「顔が真っ青じゃない! 体調悪いの?」
「いえ、大丈夫です……」
「………なんで俺のことは誰も心配してくれないんだろう」
若が小声で何か言いていたような気がしましたが、女子の皆さんの声にかき消されて聞こえませんでした。
というか、先程やってしまった私のミスのせいで若に怪我をさせてしまった私は、周りの声を聞けるほどの余裕がまったくありません。
常備していた救急キットで若のかすり傷などを治療しましたが、やってしまった事実は変えられるわけもなく………。
流石に死んで詫びようなどと重いことは思いませんし、長年一緒にいるおかげで若がそれを望まないのも知っていますが………気持ちは別です。
護衛対象を護衛が傷つけるなんて前代未聞です。父になんて言えばいいのか。
心配する声を掛けてくれる女子の皆さんになんとか挨拶を済ませ、自分の席で突っ伏します。そうすると、先に席についていた若から声を掛けられました。
「いつまで卑屈になってんだよ理央。俺は気にしていないって言ったろ?」
「そんなこと言ってさっきまで不機げ……あれ? ほんとに機嫌治ってます?」
機嫌の良い調子で掛けられた若の声に驚いてそちらを見れば、何故かデレデレ顔の若がいました。え、なんで?
疑問に思っていると若の後ろの席から声を掛けてくる人物・若の友達の舞子 集さんが、私にその答えを教えてくれました。
「おーっす理央。楽は今、小野寺に心配されて喜んでんだ。だから何があったか知んねーけどそんな落ち込むなよ」
「こ、声がでけーよ集!」
「あ、集さん……ああ、だから機嫌がいいんですね」
どうやら若の思い人の小咲さんが声を掛けてくれたことで機嫌が直ったらしいです。本当にありがとうございます!!
ちなみに小咲さんとは、とてもお淑やかで男子に人気のある女性です。
若が好意を寄せているのを知って、彼女を若に振り向かせようと近づいて声を掛けたらお友達になったという良い人過ぎる人物。
あまりにも純粋で人が好過ぎて、若の為とは言え邪な思惑で近づいたことを後悔しています。本当にすいません……
私が集さんからの朗報を聞いて胸を撫でおろしていると、担任の日原 教子先生が教室に入って来て朝のHRが始まります。
すると入って来て早々、先生から転校生の話が出てきました。
「これから転校生を紹介するから~…………はいはい、そう騒ぐな、さっさと紹介するぞー。じゃ、入ってきて桐崎さん」
先生がざわつくクラスの皆を宥めながら扉の方にそう声をかければ、ガラガラと響く扉の音。そして入ってきた人物にクラスの皆が再び歓声で荒れました。
外国人と思われる明るく自然な色合いの金髪に、スタイルが良く顔も美人な女の子。
ええ。どこかで見覚えのある顔です。
「初めまして! アメリカから転校してきた桐崎千棘です。
母が日本人で父がアメリカ人のハーフですが、日本語はこの通りバッチリなので、みなさん気さくに接してくださいね!」
声も聞き覚えがありますね。というか今さっき聞いた声です。
塀から突如現れた女の人―――――
「ん?」
ざわついているクラスの人たちを眺めていた彼女は、私の所で目が止まって何かに気付いたような反応を見せます。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
が、突然椅子を倒す音を鳴らして立ち上がり、大きな声で叫ぶおかしな人が現れたことで目がそちらに逸れてしまいました。
誰ですかいったい………曲がり角でパンを咥えた少女とぶつかって奇跡的にパンツを見てしまう空気の読めない主人公のような声を出す人は……と、私もその人物を見ようと後ろを振り返れば。
指を差した状態で、偶然今朝出会った少女がなぜ転校生としてここにいるのか驚いている鈍感系主人公みたいな反応をする男の人が。
ごめんなさい、若でした。
「はい? あんただ――――」
「朝の女通り魔!!」
桐崎さんが奇行に走る若を見て、首を傾げながら誰なのか若に尋ねようと声を出した直後。それを遮るように初対面の女性に悪口染みた言葉を放つ若が……
「わ、若? おちつ――――」
「ちょ…! なによ女通り魔って!!」
若を止めようと声を掛けるも、桐崎さんの声にかき消されました。
「いきなり塀の上から襲ってきやがっただろ!!」
「言い掛かり止めてよね! だいたい私がぶつかったのはあんたじゃないじゃない!!」
当然、桐崎さんからして見れば、あまり関わりの無い人に暴言を吐かれたので反論するでしょう。が、それに対して更に反論して言い返す若が。
若……気持ちはわかりますが、ぶつかったの私ですし……原因は間違いなく彼女ですが、桐崎さんにしてみれば若は赤の他人なんですから、そんないい方したらもっと……ああ、若。いったん落ち着きましょう。突き飛ばしたことについては本当に謝りますからもうそこらで止めましょう。桐崎さんも落ち着いて……
私の心中など知ってか知らずか、冷静さを失った二人はどんどんヒートアップして言い争い続けます。当事者であった私はおろか、クラスの皆も二人の剣幕について行けず。
そしてとうとう、桐崎さんを怒らせる若の一言が放たれました。
「それが謝っている態度かよ! この猿女!!」
その一言を最後に、若は空を飛んで物言わぬ人形へと変わってしまいました、まる。
私は、父上になんと弁明すればいいのでしょう………
顔だけなら