世の中の男子高生達よ。私は今、貴様等の遥か高みにいる。いや………もっと上だ。
そう。私は今、男子高生がやってみたい憧れランキング3位・女子高生と休日デートをしています。(当社調べ)
「なるほど、日本の料理は世界でもトップクラスと聞いていましたが、あながち間違いでは無かったのですね。とても美味しい」
「実はここ日本に3つしかない支店の内の一つなんですよ。本店が銀座にあって、結構有名なんです………満足していただけたらとても良かったです」
しかも相手が鶫さん。いつもの男装制服とは違う、女の子らしい服なので可愛さが桁違いです。
現在、私は鶫さんと二人でデートをしています。場所は本海苔町駅前に店を構えるイタリアンカフェ。地元の女の子が憧れるお店と名高い。
何故、私達がそんな場所で二人きりになって食事をしているのかというと、それには大親友と言っても過言ではない千棘様の有難い一言があったからです。
たった二週間程度の入院でしたが、私は鶫さんと殆ど一緒に居たので大変仲良くなりました。偶に千棘さんやクラスの友達がお見舞いに来てくれました。
そうして漸く退院して、入院中に停学も開けてたので早速学校に登校した初日、なんだかとても居心地が悪いというべきでしょうか。良くない複雑な気配を感じました。しかし凄く悪いかというとそうでもなく………………なんと言えば良いんでしょうか。迷っている雰囲気を感じたのです。
この雰囲気がよく分からなかったし、そもそもの理由もよくわからなかったので、取りあえず近場にいた岩橋さんに声を掛けてみました。
「おはようございます岩橋さん」
「あ、理央君………………目、大丈夫?」
「大丈夫ですよ。失明したわけではないので。あと3週間くらいしたら眼帯も取れるらしいです」
「そっか………大事にならなくてよかった」
ある程度近況の話をそこそこに、私は何故今のクラスの雰囲気がギスギスしてるのか聞きます。
「なんでって…………ねえ理央くん」
「なんでしょうか」
「桐崎さんと仲良かったのは知ってるよ。でも、本当に二人が恋人になって良かったの?」
「…………はい?」
すると予想外の答えが返ってきたんです。思わず聞き返してしまうほどに。そして次に思っても見なかった返答が返ってきたのです。
「その、一条君と桐崎さんの事とか許せるのかなって………好き、だったんでしょ? あの人のこと」
「へっ?」
私は思わず目を見開いてしまいました。
それはあまりにも突拍子も無いことを言われた………からではなく、私が心に蓋をしてひた隠しにしていた感情を彼女に言い当てられたから。
天使のような笑顔に、可愛らしくも元気で綺麗な表情を向けてくれるあの子。私が困っていれば真っ先に気づいて助けてくれる優しさ。たった数ヶ月程度の関係なのに、一緒に居て安心できる彼女。
私、千棘さんの事が好きだったんです。
最初はただ可愛い人だと思っていました。でも、接していく内に彼女の優しさや明るさに惹かれていったんです。
だから組長から偽の恋人を二人が行うと聞いた時から、何処か自分を制御できなくなっていました。最初は納得出来ても、段々と辛くなってしまった。千棘さんと長く一緒にいる度に好きっていう気持ちは強くなるのに、私には彼女に釣り合わないと思えてしまう。
偽物だとわかっていても、若と千棘さんの二人は息ぴったりだから。若といる千棘さんが一番素を出していて、それが魅力的で、輝いていたから。
いくらお相手が若でも、自分が好きな人を奪われて正気では居られません。しかも本人達はその気がない。
許せるか許せないかで言えば、許したくなかった。
でも組のためにも自制しました。戦争を回避するためにも。
そのせいか若にも父上にも強く当たってしまうことが多かったし、怒りやすかったんだと思います。そして、鶫さんというイケメンが千棘さんの前に現れた時。加えてそのイケメンが嘗ての怨敵であると知った時、私は…………我慢することが出来なかった。
周りに関係ない一般人や私の友達がいるのに、私は死闘を行った。
「………いつから、知っていたんです?」
「ずっと前から………だって、理央くんわかり易いんだもん。クラスの皆知ってるよ」
クラスの皆にも知られていた。その一言で思わず私は顔が熱くなるのを感じてしまいました。恥ずかしい………ずっと隠していたと思っていた気持ちが皆にバレてるとか恥ずかしすぎる。
なるほど。だから皆、ぎこちなかったんですね。若と千棘さんが付き合って祝われる前、私にクラスの皆から何度も確認のラインが飛んできたのも。二人の仲を疑っているあの糞メガネが学校に潜入してる時、カモフラージュとしてクラスで大々的に祝いを頼んだ時のみんなの顔が辛そうだったのも。
全部、私の事を想っての事だったんだ。クラスのみんな、私の失恋に気づいていた。
それくらいクラスの皆に私は大切に思われていた。それが嬉しく思うも、同時に不安があった。主に若の安否。
「あの、そのことで誰かイジメとかはして────」
「やってないよ。だって、理央くんのお願いだし、それを望んでいないことも知ってたから。恋敵なのに二人はずっと仲いいもん。それに………私達も複雑な気持ち半分、嬉しさもあったんだ」
「嬉しさ?」
私の言葉を言い切る前に否定された。一瞬まさかと思ったけど、ホッとした。だけど……………嬉しさとは?
「皆心配してたんだ。一条君の為に無理してるんじゃないかって。だから、ようやく解放されたって」
「?」
よくわからないです。私が失恋したのに、解放されたとは。恋から解放されたと? それっていいことなんですか? わからない……
「あの日、私達に応援してって頼んできてから、ずっと苦しそうな顔してた。それも、鶫さんと喧嘩してた時は特に」
あっ………その話は止めてください。黒歴史なんです。あの時は本当にどうかしてたから、許してほしいです。
「二人共怪我だらけの時は皆、ビックリしたよ。鶫さんの性別も。でも、同時にそんな怪我をさせた鶫さんの事が許せないと思った」
「そんな事………あれは私のせいで」
「そんな事ない。それくらい理央くんの事は大事だと思ってるんだよ皆。でもね…………その怒りも吹っ飛んだんだ」
そう言って岩橋さんは少しだけ穏やかな表情を向けてくれました。
「────喧嘩の後の怪我してた理央くん。いつもの貴女に戻ってたの。普段はカッコイイけど、ちょっとあたふたしてる可愛い理央くんに。それを見て、安心したんだ」
そんな超弩級の言葉と共に向けられた笑顔が私の胸を貫いきました。
…………な、なんていい子なんだ!? 可愛すぎるよ岩橋さん!! 危うく惚れかけたよ!!
凡矢理高校は安泰ですね。千棘さんや小野寺さん以外にもこんな可愛い子がいるんですから。はー、彼女欲しー。
「で、女子の皆と考えたんだけどさ」
おっと。まだ話の途中でしたか。あまりにも岩橋さんの笑顔が鮮烈過ぎて昇天仕掛けてましたわ。
そんな私に次なる爆弾発言が投下された。
「理央くん。鶫さんのこと好きでしょ」
…………………はぅ?
「その様子だと、気付いてなかったんだね」
えっ? ちょっと待って? 今度は急になんですか?
好き? 私、鶫さんの事が好きなんですか?
た、確かに私は彼女のことが魅力的に見えますよ。男だった時は憎ったらしく見えましたが、今は礼儀正しく忠誠心の高い尊敬できる女性だと思ってます。その上美人だし、何より高校生離れしたスタイルがゲフンゲフン…………。いえ、とても綺麗な方だと。
それに鶫さんは、私の恩人です。彼女のことをそのような目で見るわけには行きません。
ああ、でも…………。彼女が私を助けてくれようとした時は、ちょっと安心したのを覚えてます。朧気だけどカッコよかったのも覚えている。
傷付けてしまったと自覚したときには、申し訳無さや罪悪感の他にも、許してくれたこの子に報いなきゃいけないって思いました。
でも、だからって…………
「お見舞いに行った時さ、二人で楽しそうにお話してたよね。それで、格好良い鶫さんにアタフタしてる理央くんを見たんだ。最初は仲良しになったんだなーと思ったけど、それにしては理央くん凄く鶫さんのこと意識した目で見てたし、それで、ピンと来ちゃった」
…………そうか。
私は鶫さんに惹かれているのでしょう。
結構不純な動機です。鶫さんが可愛いから好き。おっ○いが大きいから好き。クールビューティとかメチャクチャタイプなんです。そんな邪な気持ちが殆でした。多分、千棘さんに向けていたような心から好きというわけでは無いです。まあ千棘さんも8割見た目の影響で好きでしたが。
でもお互い本気でぶつかり合って、人となり以上の彼女を知れました。戦ったからこそわかる、彼女の凄さ。
鶫さんは女性です。なのに、私より強かった。そして、その強さを得るためにとても努力したのでしょう。
同世代で私と同じ様に努力している人なんて居なかったから。私に似ている彼女の事が…………好きに、なりかけている。
そう思うと私って単純なんでしょうね。
てか岩橋さんには私が鶫さんの身体を厭らしい目で見てたことバレてたらしい。男の欲望丸出しの目付きに気づいてたのによく引かねーなこの娘。成人か?
てかやば。自分の知らない本心に気付いたら、急に恥ずかしくなってきた。
「正直、理央くんの家の事情も、お仕事もよくわからない。でも今の二人の関係は良くないって皆思ってたから、理央くんに言われた上で、あの二人を形だけ応援してた。でも今は心が変わって違う道を歩いてるんだよね」
「ぁぅ……あの、えと…………」
「鶫さんの、凄くカッコいいもんね。私もそっちの気があったら危なかったかも…………まあ、二人はその、同じ性………じゃなかった。同じ立場だから色々と大変だと思うけど……い、いいと思うんだ! がんばって!!」
私は今、顔が真っ赤だと思います。言葉が出ません。前回の好きな人に続き、どうやら無自覚だった気になっている人の事までバレていたとは。穴があったら入りたいです。
皆もそのことを知っているのかと、いつもの朝より人が多いクラスを見渡せば、生暖かい目線がいくつも私を見てきていました。
は、恥ずい!!
私が悶えていると、背後で教室の扉が開かれる音が聞こえた。そちらを振り向くと、校門前で若を拉致っていった集さんと若、それに千棘さんと鶫さんが教室に入ってくる姿が見えました。
…………正直、元好きな人と現気になってる人が一緒にいると直視できない。
「あ、桐崎さん鶫さん。おはよー」
「皆おはよー」
「おはようございます皆さん。先日はお騒がせしてしまい、申し訳ありませんでした」
視界の外でクラスの女子達と二人が挨拶している様子が聞こえてきます。私も挨拶したいのですけど、今は顔が真っ赤でそっちを向けません。バレないよう顔を逸らさなきゃ。
「おーい理央ちゃーーん! おはよーー!」
「おはようございます佐々木様」
一瞬で存在がバレた。そして挨拶をされたからにはし返さなければならない。
平静を保て佐々木理央。お前ならやれる。いつものように軽く挨拶すればいいだけじゃないか…………よし! いくぞ!
「おはようございます………」
「佐々木様? 大丈夫ですか? 元気が無さそうですが………」
駄目だった! 全然声出なかった! 逆に心配させてしまった!!
くそ、男を見せられない。なんで私は駄目なんだ………。
そう思い俯きそうになった私の顔に綺麗で長い手が伸びてきた。
そういえば、鶫さんのキレイな手を思いっきり叩いちゃったな。にしても骨に罅入ったのに包帯解いてるとか回復はえーな。流石ブラックタイーーーー………って、えっ!!?
「ふむ、熱は無いようですね。しかし貴女は未だ病み上がりなのです。無理はしないでくださいね」
わ、わわわわ私のほっぺと額に鶫さんの手がっ!?!?!!??
てか顔近い! そしてメッチャ可愛い!! いい匂いする!! てかちょっと前に出たらキスできそうな距離なんですけど!!? どどどどどどうすれば!? 私にどうしろと!? 犯罪にならない!? 痴漢とか、セクハラとかにならない!? 大丈夫!?
「にゃぁぁぁあああああ!!!!」
「佐々木様!!?」
私は耐えられず逃げ出した。情けなくも敵前逃亡………いや、美少女前逃亡してしまった。なんだその日本語。
だけどしょうがないじゃないか。だって目の前に人気モデルも裸足で逃げ出すような美少女が至近距離まで接近してきたんだもん。
そうして私は鶫さんに会う度に何度も逃げ出してしまった。普通に会話はできます。しかし何故かあの人、距離が近いんです。思わずドキッとしてしまって、逃げちゃう。
休み時間そのような逃亡が何度も続き、ちょっと気まずくなり始めた昼休み。千棘さんがとある提案をしてきたのです。
それが、冒頭に繋がるデートだった訳です。