「いッ―――――ッッたぁ……!」
「大丈夫か理央!?」
おはようございます。理央です。
先日の夜、ビーハイブの人たちと戦争と言う名の殺し合いを行い、私は左腕を銃弾で撃ち抜かれる怪我を負いました。
そのせいで、いつものように無意識に左腕を動かしただけで激痛が私を襲います。超痛いです。
ただ怪我の内容自体は組の医師しか知らないですが。
「え、ええ……左腕をあまり動かさなければ何とかなりそうなので」
「無理すんなよ。今日は俺が鞄持ってやるから。というか休めば良かったのに……」
痛みを誤魔化しながら何でもないように若に返答を返すのですが、どうやら誤魔化し切れなかったようです。心配そうに顔を覗き込んでくる若の顔が目に入り、とても申し訳なくなります。
若が私の手提げバックを持とうと手を伸ばしてくるのを右手で抑え、私は首を振って断りました。
「本当に大丈夫です若。鞄は右手で持てますし、この程度で休むような軟弱な鍛え方はしていませんので」
嘘です。痛みで背中は汗びっしょりですし正直めっちゃくちゃ休みたいですが、休んだら若や組の皆に心配を掛けてしまいますのでそれはできません。
だから私は何でもないように見せるために、痛みを我慢しながら左手を動かしてアピールします。
「――――ほら若。一応動くんですからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうか……だけどヤバくなったら俺にちゃんと言えよ?」
そう言って再び前を向く若。
どうやら上手く誤魔化せたようで、若は歩みを止めていた足を再び動かして校舎の方へ歩いていきます。
ホッとした私もそれに続いて校舎の中に入り、そのまま下駄箱へ向かいます。
……が、やはり片腕が使えないととても不便です。まさか、靴を取って上履きと交換しその上履きを履くという行為が、こんなにも手間がかかるとは………。
流れ作業のように行ういつもの行為が、今回は一度バッグを床に置くところから始まり、上履きを取り出して床に置き、その後靴を持った状態で上に開ける方式の下駄箱扉を開ける。
ツラい……そして面倒です。
この流れ作業にいつもなら10秒掛かるか掛からないかで終わるはずが、今は30秒掛かりましたからね? いつもの3倍ですよ。最悪です。
それもこれも、あの化物メガネのせいです。なんなんですかアイツ。父上と互角以上に殺り合うとかバカなんじゃ無いですか? 死んでください。
そうやって表情は取り繕いながら心ではあのメガネを罵倒していると、ようやく教室に辿り着きました。
今日は支度に時間がかかった私のせいで遅刻ギリギリです。
「あ、理央ちゃんおはよう」
「おはようございます千棘さん」
教室に入って扉から最も近くにある私の席に鞄を置けば、私に気付いた後ろの席の千棘さんが手を振って挨拶してくれます。
相変わらず容姿が驚くほど整っていて、なんだか眩しく感じてしまいます。
あれですね。このクラスの一番かわいい女の子と言えば小咲さんなんですが、彼女は別ベクトルの可愛さがあります。
小咲さんがおっとり癒し系可愛い子だとすれば、千棘さんは目の覚めるような美人さんですね。
「よう」
「………私に話しかけないでって言わなかったかしら、もやし?」
そんな彼女も、私に対してはとても友好的な感じなのに、若が挨拶すれば突然機嫌が悪くなります。
そしてそこから流れるように始まる罵倒の応酬は、逆に仲の悪さが一周して仲良く見える不思議です。
「……仲良いですね」
「「そんなわけあるか!!」」
おお……! 息もピッタリです。ますます仲がよろしく見えます。
その後授業が始まっても二人は相変わらずで、外国住みだった千棘さんが現国の授業に四苦八苦していたのを見ていた若がノートを渡せば何故か喧嘩になり。
飼育係になっている二人が動物の世話をしていれば意見が真逆に割れてまた喧嘩。
端から見ていた私はそれをコントを眺めている気持ちでした。
そして放課後。
戦闘に参加できない私は今日の抗争に不参加にさせてもらい、二人のペンダント探しを手伝うことになったのです。
「ねぇ理央ちゃん」
「なんですか?」
ペンダントを探している途中で千棘さんが話しかけてきたので彼女の方に目を向ければ、千棘さんは心配そうな目で私を見ていました。
「さっきから左腕庇ってるように見えるんだけど……怪我でもしたの?」
「あっ……」
しくじりました。普段の生活ではバレないよう振る舞っていましたが、さすがに地面に手をついて物を探す作業となると、左腕を庇うのが露骨になってしまいました。
いえ、今はそんなことよりも千棘さんが若に報告しないよう言わなければッ。
「えっと……ちょっと昨日の夜に怪我をしてしまいまして。でも大したことでも―――――」
「やっぱり! 大丈夫!?」
千棘さんが私の声を遮って慌ただしく近づいてきました。って顔が近ッ
「どこ? やっぱりすごく痛いの!?」
「いえ、そこまで痛くないですよ。ちょっと違和感があるくらいで」
千棘さんの顔が近い事に恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じながら、取り繕うように私は否定の言葉を返します。
ですが彼女は心配そうな表情を変えようともせず、じっと私の左腕を見てきて少しやりづらいです。
「………ねぇ。今日は帰った方がいいんじゃない? なんだかとても辛そうだし、我慢は良くないわ。ちょっともやし~!!」
『ああ!? なんだー!?』
遠くの方で若の声が聞こえてきます。って若に言っちゃダメです!
「理央ちゃん体ちょッ」
「なんでもないです若! ペンダントらしき物が見えただけで勘違いでした!」
私の運動神経全てを駆使して千棘さんの口を全力で塞ぎ、若を何とか誤魔化しました。
危ない。超危なかった!
どうやら上手く誤魔化せたようで、若から返事が返ってきて私はそっと息を零します。
すると手にくすぐったさを感じて少し驚きながらそちらを見れば、大人しく私に口を塞がれながら疑問の表情でこちらを見てくる千棘さんが。
冷静に考えればこれってセクハラじゃないですか?
そう気づいた私は慌てて彼女の口から手を放します。
「ご、ごめんなさい!」
「ぷはぁ……驚いた。いきなり口塞いでくるんだもん」
そう言って彼女は大きな目を丸くさせます。
ただその姿は私に対して警戒している色が見えず、逆に警戒心が無さ過ぎてこっちが心配してしまいそうです。
「で、どうしたのよ? いきなり口なんか塞いじゃって」
「えっと……若には怪我のことを報告しないで欲しいんです。あ、若とは楽さんのことです」
「………なんで?」
千棘さんがご尤もな疑問を私に尋ねてきました。まあ普通そう思いますよね。
ただ、ほとんどの学校生徒が私たちの事情を知っているとはいえ、今はあまり若のことがヤクザだと広まる話題をしたくないのです。
だから千棘さんには心苦しいですが、すべてを伝えるわけにはいきません。
「その……彼に心配を掛けたくないんです。彼とはよく一緒にいるので、そういうのをあまり伝えたくないというか……」
「ふーん。そっか」
とりあえず真実を暈しながら話せば彼女は納得してくれたようで、わかったと頷いてくれました。
「でも無理はしない方がいいわ。私が送ってあげるから今日はもう帰らない? 私も理央ちゃんが心配だし」
しかし、そう言って私を帰そうとしてくる彼女。
その千棘さんの様子に、なんだか気迫を感じてしまいます。しかも善意100%だからNOとも言えず……
結局、その圧に根負けした私が若に声を掛けて帰ることになってしまいました。
そして次の日。
今日は最悪にも体育がある日です。もちろん若に心配させないために私も参加します。
そしてさらに最悪なことにも、授業内容が鉄棒………両手を使う物です。
「理央くーん! 補助お願いしてもらっていいー?」
クラスの女の子の一人が私にそう声を掛けてきます。
私はよく女子の手伝いをさせられるのですが、何故なんでしょうかね。いえ、頼られるのは嫌いではないですし、女子の皆さんから接してもらえるのは男子として嬉しいです。
ただ………できれば今日は止めて欲しかったです。マジで左手痛い。
とはいえ断ったら若に怪しまれますし……やるしかありません。
「キャっ!!?」
「おっと」
先に女子の方から始まった鉄棒。
クラスの女子の皆さんは運動神経が良いのですが、ちょっとおっちょこちょいの人が多いみたいで補助する回数がとても多いです。
一応マットも敷いてありますが、危ないので結局私が彼女達を手助けする形になり。
今も鉄棒から落ちた一人の女子を、右腕で落ちる速度を去なしながら両手でお姫様抱っこしたばかりです。
痛い
「ッ……大丈夫、ですか?」
「はわわわッ、ひゃい大丈夫でし!」
「フフッ、噛んでますよ」
失敗した恥ずかしさからか、顔を赤く染めて腕の中に収まる女子の岩橋さん。
その姿が少し可愛らしく、噛んだことを茶目っ気を入れて指摘すればものすごく真っ赤になりました。可愛い。
私から離れて凄い速度で女子のグループの中に入っていく彼女を一通り眺めて、痛む腕を我慢しながらさあ次だと並んでいる女子の方に振り向きますと。
「はい! つぎ私です!」
ビシッと手を上げて次は自分の番だと主張する千棘さんが、列の前で立っていました。
堂々としたその姿勢に一瞬面食らいましたが、元気があって微笑ましいです。
ちなみにですがウチの鉄棒は250cmと、女子にとってみればかなり高いです。なので鉄棒を掴む人は私が一度持ち上げてから鉄棒に掴まるといった所作が入るのですが……
驚くことに千棘さんは助走して跳躍すると、250cm上にある鉄棒をしっかり掴んだのです。
そしてその勢いを利用して回転し、体操選手顔負けの大車輪を見せた後に鉄棒から手を離して地面に着地します。
その見事な技にクラスの皆が湧いて拍手の嵐を送りました。
というか、私の補助必要ありませんでした。
「凄い桐崎さん!」
「ねっ! もしかしたら理央くんと同じくらい凄いんじゃない!?」
皆が思い思いに彼女に称賛を贈る中、一人のクラスメイトがそんな話をしました。
あ、ヤバイと思った束の間。その言葉が周りの人にも聞こえていたらしく、調子の好い男子が私に野次を飛ばしてくるわけです。
「こりゃあ負けられないな理央さん」
「ああ、今度は理央さんの凄技を桐崎さんに見せてやれよ!」
そうなるとクラスの皆がそれに乗っかるわけで、今は女子の練習時間なのに私がやらなければならない雰囲気に。
私も男です。皆の期待が籠った視線を浴びてそれをしない選択しなど普段ならありません。が、今は左腕が…………
あれよあれよという間に鉄棒の前に立たされる私。
こうなったら腹を括るしかしかありません。私は男。我慢すればなんだってできる!
千棘さん同様に私も助走して跳躍し、鉄棒を掴みます。
一瞬激痛で視界が真っ白に染まりますが、なんとか堪えて手を伸ばし、そのまま回転。
回る視界の中、一瞬を狙って鉄棒から手を離し、空中で体を捻ることでクルクル回りながら最後に着地。
重い衝撃が私の足裏に伝わり、上手く大車輪宙返りが成功した事を理解させられます。
……やりきった。あの激痛の中、私はやりきりました!
汗でびっしょり濡れた背中に、張り付く体操服がまったく気になりません。後ろから聴こえる歓声も、何処か遠くの世界のように感じます。
なんだか世界が黒く染まっていくのが気になりながら、私はゆっくり瞼を閉じました。
感想、評価付け待ってます