あの子は女で、私は男で   作:ヘイ!タクシー!

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ようやく物語スタートな気がする





そして事態は悪化する

「理央ちゃぁぁん!!」

 

「ふわっ!?」

 

一週間ぶりのクラスに辿り着いた直後、教室の入り口でダイナミックに迫る千棘さんの姿にビックリさせられました。

 

相変わらず天真爛漫な様子で安心させられるこの子の魅力。近付かれてわかる女の子特有の彼女のいい香り。頬に触れる柔らかい感触………

 

「ふぁいアウトです! 」

 

「会いたかったよぉ!」

 

「ちとひぇさん! 胸が! 不味いふぁら!」

 

私の頭を抱えて自分の胸に引き寄せた千棘さんは、私の抗議を聞いているのかいないのかギューッと抱き締めてきます。

 

役得です。とても、とても役得なのですが、これは不味いです。と、友達なのに……けしからん柔らかい感触のせいでッ。けしからん欲望が私の中で溢れてしまうッ。

 

くそッ。これが母性と言うものか! 変な性癖に目覚めてしまいそうです!

 

 

「これがバブ」

 

「いい加減離れろっての桐崎」

 

若の腕が私と千棘さんの身体を強引に離しました。

人肌特有の温もりが離れるのと共に、教室の空気が私の火照った顔を冷ましてくれます。

 

…………ヤバい。多分今の私は顔が真っ赤です。いつもの明るい彼女のせいで忘れてたけど、あれほど密着されれば男の中の男である私とて意識してしまいます。というか、刺激が強すぎるッ。

 

しかも若に遮って貰わなければ、私は変なことを口走っていた気がします。なんだバ……って。落ち着け私。怪我したのは腕であって頭ではない。冷静になるんだ。

 

「ッ……何すんのよモヤシ。私の邪魔しないでくれる?」

 

「理央はまだ病み上がりなんだ。お前みたいなゴリラ女があのまま理央に抱きついてたら怪我しちまうだろーが」

 

考え込んでいた私は二人の会話に不穏を感じて強制的に現実に戻されました。

と言うか…………え? なんか以前より雰囲気悪くなってませんか? 前までは夫婦喧嘩みたいな感じだったのに、今はまるで…………

 

「あの………二人ともどうしたんですか? なんか雰囲気が……」

 

「なんでもねぇ」

 

「そうそう。それより理央ちゃん」

 

まるで冷戦状態の離婚寸前夫婦のようじゃ無いですか。

 

 

それから一日を通して二人は隣の席だと言うのに会話らしい会話をしませんでした。言葉を交えることはあっても、それは私が関係していることだけ。

お互い絶対に関わろうとしない二人の様子は見ていて悲しみを覚えます。

 

本当は口に出して尋ねたい。それで二人の仲を元の通りに戻してあげたい。

そう思うのは私のエゴなのでしょうか。

 

 

帰り際に、千棘さんが若の無くしたペンダントを見付けて若にぶん投げたと言う出来事もあったのですが、それでも二人の仲は全く良くなりませんでした。

 

「若………せっかく見付けてくれた大切なペンダントなんですよ? 今度千棘さんにお礼くらい………」

 

「…………ああ、そうだな。でも俺が桐崎に何かするより理央がした方が喜ぶんじゃないか? それに俺がアイツに何かしても気分悪くするだけだろ」

 

帰宅途中に、若にそれとなく千棘さんとの仲を取り持とうと話を持っていっても取り付く島も与えられませんでした。

 

何故、このような状態になっているのでしょうか…………今まではお互い認められなくても、自分の主張を言い合えるような関係だったのに。

 

私は二人の良いところを知っています。だからこそ、今の二人の関係が悲しくて仕方ないです。

とくに若は幼い頃から良く知っていますから、尚更です。

 

口調は、ヤクザの息子と言う肩書きのせいか荒々しいですが、それでも人には優しいんです。

物事をよく考えて選択する人ですし………少し……いや、かなり優柔不断なところもありますが……

運動神経だって人並み以上に無くて、ヤクザの家系なのに喧嘩も強くありませんが、それは彼が人に暴力を振るいたく無い心の現れだと…………思って…………いや、普通に運動音痴なだけ

 

「おい理央。お前なんか変なこと考えてねーか?」

 

「……へ? あ、いや、そんな事ありませんよ! どうしたんですかいきなり?」

 

「いや、なんか理央から邪っていうか……屈辱的な考え方をされてる感じがしたから」

 

「そ、そんな事あるわけ無いじゃないですか若! 私はいつでも若の味方ですよ! ええ!」

 

私が声を大にして主張すると、若は納得いかなそうにしながらも私の言うことを信じて頷いてくれました。

 

危なかった………。若はたまに良くわからないところで察しが良いので困ります。普段は鈍感のくせに……この察しの良さを恋愛に活かせれば今ごろは小咲さんともくっついてただろうに………おいたわしや。

 

「んー……誰か俺の陰口でも噂してんのかな? 妙な感じが」

 

「若! 見てくださいアレ! ウチの屋敷の裏手に黒塗りの外車が! 何でしょうかねアレ!」

 

これ以上察しの良すぎる若の注意を逸らすために、私は屋敷の前で止まっている車を指差して叫びました。

 

誰か組の人が買ってきたのか。だとしたらその人物は相当若い新人だろう。ただでさえビーハイブのマフィア達と戦争中なのに、外車なんて買ってきた日には…………。

 

若もそう思ったのか、珍しいものを見るような目でその外車に視線を移しました。

 

「ホントだ。なんで外車が?」

 

疑問に思いながら私達は表の門から敷地内に入り、いつもの出迎えを受けます。

そのまま屋敷に入ると、組長が私達を待っていたかのように私達に声を掛けてきました。

 

「おお帰ったか二人とも。ちょいと後で大事(でぃじ)な話があるんだ。悪いが俺の部屋にこの後来てもらえねぇか?」

 

「組長? それって私もですか?」

 

「おうよ。あー……理央は一応、着替えてきてくれねーか? ほら、いつもの普段着でよ」

 

「え? は、はぁ……わかりましたけど」

 

そう言うと組長は私達から去っていき、組長が待つ私室へと入っていきました。

疑問に残る会話に私と若は首を傾げることしか出来ませんでしたが、命令されたのでは仕方ありません。組長を待たせるわけにはいかないと、若に離れることを告げて自分の部屋に戻ります。

 

クローゼットの中にある普段着…………正直普段着と言うにはあまりにもカッチリした着物で全然寛げない服なのですが、それを身に付けていきます。

何故これが普段着なのかと言うと、組長から屋敷の中くらいはその格好でいろと言われたからです。

 

多分組長は普段からしっかりした服装を心掛けて身を引き締めろと言いたいのでしょう。私が若頭の息子だからこそ、その立場に甘えるなと。

男性の私にあえて女性物の着物を選んだのだから、つまりそう言うことなんだと。

 

慣れた手つきで帯までしっかり着付け、私は組長の部屋に向かいます。

…………屋敷だから良いですが、こんな格好を学校の人に見られたら羞恥物ですね。多分ショックで暫く引き篭るでしょう。

 

そんなあり得ないことを考えながら組長の私室まで辿り着いた私は入室の許可をとって部屋に入ります。

部屋の中には既に組長と若の姿があり、何やら話をしていました。

 

「おう来たか理央。実はお前には楽の婚約の協力をしてほしくてな」

 

「…………へ?」

 

入って早々、組長の発言に私は思考が止まりました。

 

コンヤク……婚約? はて………献立の聞き間違いだろうか。

 

「すみません組長…………もう一度言って貰えませんか?」

 

「だからよぉ。ビーハイブの所のお嬢ちゃんと楽が付き合うことになったから、その手伝いをして欲しいんだ」

 

………………………………ああ。なるほど。

私はビーハイブと言う単語に、この会話の真意をようやく理解しました。

 

「つまりこの戦争を止めるために若を使うんですね? 二代目と言う立場を糧に」

 

「良くわかってんじゃねーか理央。そう言うことだ。お前は他の若ぇモンと違って冷静でいてくれっから助かるぜ」

 

頷く組長に私は当然だと返しました。

なにせ現在のビーハイブとの抗争は拮抗しているのです。このままでは集英組が危ない………そう思っていたからこそ、私はいつか組長に打開策を考えて貰おうと考えていたのですから。

 

ただ………私はチラリと若を盗み見ます。

その顔は納得いかないことを仕方なく受けようとする苦い顔の若でした。

 

婚約と言うのは組の人達を偽るための嘘で、多分偽りの関係を築くのだと予想が付きます。だけど若は小咲さんと言う好きな人がいる。だからこそ、そんな偽りの関係を作りたく無いのでしょう。

 

私は何も若に声を掛けずに若から視線を外しました。それが最善だと私も思ったから。彼に掛ける言葉が見付からなかったから。

 

………………まあさっさと告らなかった若の自業自得とも言えますがね。私、その辺はシビアに考えているので。さっさとくっ付けよこの野郎って、るりさんと言ってましたし。

 

「つー訳でだ楽。これからお前のふぃあんせになる嬢ちゃんを呼ぶから覚悟決めろよ。おーいもういいぞ」

 

「えっ! もういんのかよ!?」

 

組長の言葉に、襖で遮られていた奥の部屋から反応する気配が伝わって来ます。

ずっと誰かいるとは思っていましたけど、私もまさか若のお相手が隣の部屋で待機しているとは思いませんでした。

 

隣の部屋から確かに男性と話す若い女性の声が聴こえてきます。

 

『ちょっパパ!? 私、まだ了承なんてしてないんだけど!?』

 

『でもお相手の彼、結構なイケメンらしいよ?』

 

『うっ…………で、でもぉ……』

 

ええ……良く聞いたことのある声です。学校で何度も聞いたような親しみのある声。

 

ああ…………

 

「楽、おめぇのふぃあんせになる千棘嬢ちゃんだ!」

 

現れたのは、よく知る凡矢理高校の制服を身に纏った親友の千棘さんだった。

 

 

 

 

 

 

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