多分今月にあと二話くらいは…………投稿したいと思って……
千棘さんを見た若は、この世の終わりのような表情をしていました。
「パパ!」
千棘さんは私達を見てすぐに振り返ると、彼女の父親らしい白人の男性に縋り付いていました。
「どっち!?」
「ん?」
「だからどっちって聞いてるの! 何で理央ちゃんと馬鹿モヤシがここにいるのだとか、色々疑問がありすぎるけど! 一番聞かないといけないのはそこよ!」
すごい剣幕です。なんと言うか、現実を受け入れることが出来ない悲壮感が千棘さんから漂って来るようです。
…………申し訳ない千棘さん。私じゃないんです。これが私だったら、自分も役得だったんですが………
「何言ってるんだい千棘。そんなの彼以外にいるわけ無いじゃないか」
そう言って若を見る白人の男性…………多分ビーハイブのボスでしょう。
彼は駄々っ子を落ち着かせるような父親の表情で千棘さんを宥めています。
「ま…………待ってくれ親父。まさか………マジで桐崎なのか?」
「なんだ。もう面識があったのか?」
「同じ学校に転入したからね」
此方もプレゼントを与えられる機会を失った子供のような表情で絶望する若がいました。
そんな様子にも気づかず、千棘さんのお父様と組長は仲の良さそうな会話を繰り広げています。
「紹介するぜ楽、理央。こっちがギャング "ビーハイブ"のボス、アーデルト・桐崎・ウォグナーと…………桐崎千棘お嬢ちゃんだ」
「お父上からは詳しく聞いているよ楽くん、理央ちゃん。よろしくね」
「よろしくお願いします、アーデルトさん」
これが組織の頭としての貫禄なのでしょうか。そう自分の子供が凄く嫌そうな表情をしているのに自分達のペースで進める二人。
そのペースに合わせては不味いと思ったのか、若と千棘さんは慌てて二人の会話に話を捻り込んでいきます。
「「ムリムリムリムリ! こいつと恋人役なんて絶対無理!!」」
「パパは知らないのよ! 私達が学校ですっごく仲悪いんだから!! だいたいなんでこんなモヤシ男と!?」
「んだとコラ!! 親父! こんな奴と上手くいくわけねえって!!」
そこから何時ものように始まる夫婦喧嘩のようなやり取り。
私、すごく蚊帳の外なのですが…………まあ、いつもの二人に戻ったので良しとしましょう。うん。
ただ、何とも言えないカオスな空間が出来上がっています。
二人のボスは自分の子供達恋人役をやらせたいようですが、当の本人達がすっごく拒否しているのには代わりありませんからね。
私は巻き込まれるのが面倒なので暫く空気と化していましょうか……なんて考えながら部屋の空気さん達とお友達になっていたのですが…………どうやらそうはいかなくなりました。
「理央ちゃん! 理央ちゃんはいいの!?」
カオスと化していた空気がピシリと凍りついた気がします。いや、私は何故そうなったのかわからないのですが、若と組長の間の空気が凍った気がしたんです。
「? どうしたんだい我が友よ」
「………あ? ぁあ、いや……なんでもねぇ」
「?」
煮え切らない組長の態度にビーハイブの頭目さん…………アーデルトさんが不思議そうにしていました。
正直私も同じ気持ちなのですが、その前に千棘さんの質問に答えねばなりません。
「千棘さん。私は集英組の一員……組長の部下です。その私が組長の考えを否定する筈がありません」
集英組の平組員の私が意見なんてそれこそ恐れ多いです。組に忠誠を誓っている私としては、自信を持ってこの作戦に同意するつもりですよ組長!
そんな気持ちでこの場にいる皆さんに聞こえるように宣言したのですが…………何故でしょう。余計に空気が悪くなった気がします。
千棘さんは今にも泣き出しそうな顔で見てきますし、若もなんか苦虫を噛み潰したような表情ですし。
特に組長なんてメチャクチャ申し訳なさそうに私を見詰めています。
え? 私何か不味い発言しちゃいましたか? 組長、その顔はどういう意味ですか? 破門ですか? その哀れみの視線は私に対して破門する同情の視線なんですか!?
私が脳内でパニックに陥っていると、組長が決意を固めたような表情で若に向き直っています。
その顔凄く怖いんですけど……私大丈夫なんですか?
「そう言うこった、楽。理央も組のために決意を決めてるんだ。男のおめぇが覚悟決めねぇでどーする」
「親父。でも俺は……」
若が躊躇っているような雰囲気で口を開き始めたところで、私と組長、そしてアーデルトさんがとある音と気配に気付きました。
音はRPGの発射音。気配はロケットが私達のいる屋敷に向かってきている事。
次の瞬間、屋敷を貫く爆発音と共に爆風が部屋の中をかき回しました。
ガラガラと音を立てて棚やら装飾品やらが崩れ落ちていき、元の原型がわからないほどにメチャクチャになった部屋。
それどころか部屋をぶち抜いた大きな穴が、廊下や隣の部屋まで貫通しています。
「な、なんなんだよ…………」
若が呆然とした様子で驚きの声を呟いた直後。
この部屋から敷地内の外まで空けられた風穴。その穴から何十人と言うマフィアの格好をした男達が、私達の部屋に向かってきているのが見えます。
そいつ等は私にとってもよく見知った男達。特に先頭に立つあの男を見た私は、袖口から愛用の得物である二本の刀を抜き放ち、私はその無法者共から皆を護るように前に出て臨戦態勢を整えます。
そう。私達の屋敷を滅茶苦茶にして現れたのは、何度も私達と抗争を続けてきた腐れマフィア共…………ビーハイブの連中でした。
「見つけましたよお嬢…………集英組のクソ共がお嬢を拐ったと言うのは本当だったようですね」
「ク……クロード!!?」
そして先頭にいるのが憎きメガネの化物・ビーハイブ大幹部のクロードという男。
しかも私達に在りもしない濡れ衣を掛けながら"出入"する始末。叩き割ってやりましょうかあの眼鏡。
というか屋敷壊されたのもそうですが、我が物顔で他人の敷地に侵入してくるのも腹立つんですけど? ねえアーデルトさん、お宅の部下共は常識も知らないんですか?
「ご安心下さいお嬢。お嬢を守るのがビーハイブ幹部としての私の役目……不肖 このクロードめがお迎えに上がりました」
「いや、私別に拐われて無いんですけど!」
それはそうとあの男は千棘さんだけに意識を向けていて、彼のボスでもあるアーデルトさんには気付いていないようなんですが……いいんでしょうか?
組織のボスに気付かないとか、正直私としては理解できないんですけど。怠慢すぎじゃありませんかね?(ドスドス)
するとちょうどその時にバタバタと足音を立てる集団の気配が。
ビーハイブの者達が現れた場所とは反対の襖の扉から集英組の皆が完全武装で現れました。当然そこには父上もいます。
そこからはやはり毎日殺し合いをする仲であって、罵詈雑言を飛ばすわ、殺気立つわ…………。今すぐ全面戦争が始まりそうな勢いです。
当然この場にはそれを望んでいない二つのボスが、若と千棘さんを使って待ったを掛けるのですが…………二人に仲良くするなんて無理ですね。わかってました。
お互いの悪口を告げた若と千棘さん。直後、どちらか一方を大切に思っている父上とクロードさんが己の得物を構えました。
「まあまあ、お二人様。若と千棘さんは恥ずかしがっているだけですよ」
「理央!?」
「む……貴様は」
今にもどちらかが凶器を振るいそうになるのを、私は若と千棘さんの前に割って入って牽制しました。
私の姿を見た父上はすぐに得物である刀を下げますが、クロードさんはむしろ私に銃口を向けて殺気立ちます。
相変わらず暴力的なまでの殺気。私の肌が粟立つ感覚と、腕を穿たれた光景がフラッシュバックして傷口が疼く感覚。
ぶっちゃけヤバいです。変な汗が背中に溜まっている気がします。今すぐあの眼鏡を叩き割って逃げ出したい。
それらを気力で押さえ付けながら私は彼にゆっくりと語りかけます。
「二人は付き合っていると言っているのは私の組長と、貴方のボスですよ? その部下である私達が上の方の意見に口を出すなど………ビーハイブとやらはどうも組織として足りないと言うか………呆れて物も言えません」
「貴様ぁ! ボスの威厳が足りていない等と、私だけでなくボスまで侮辱するか!」
別に私は不誠実な貴方を馬鹿にしただけで、アーデルトさんを貶したつもりは無いんですが。
ちなみに父上。何故悲しそうな顔をしているのかわかりませんが、私は騙されませんからね。身体が僅かに反応していたのを私は見逃していませんよ。そんな「理央、お前……」みたいな表情がすごく気になりますが、私は騙されませんよ!!
「さて、若と千棘さん。当主二人は貴方達が付き合っていると仰ってますが……事実ですね?」
話が進まないので後ろの二人に振り返ってそう尋ねます。
その時に目尻を下げてニッコリ笑って、このままだとマジでお二人の命がヤバイですがいいんですか?と目線で尋ねるのも忘れません。
その後、実に良い声でお二人のお付き合いしてます宣言が荒れた部屋の中に響き渡りったのは良い思い出です。
あ、アーデルトさんには部屋の弁償をお願いしました。貴方の部下が壊したんですからそこは上司であるアーデルトさんにきっちり支払って貰いましたよ。
良い笑顔で撤収するビーハイブの面々を見ていたので、きっと今日の私は気分良く眠りに付けると思いますね。