私は思うのです。
街角で見かける彼女連れのイケメン。なんてカッコいいんだと。貴方様はさぞ女性にモテていたんでしょうね。しかもとっかえひっかえしたりして彼女に飢えたことなど一度もないんでしょう。
羨ましい。なぜ神は世の中の人間にこの様な差別を生んだのか………。イケメンは何をしても許されると言われていますが、それはイケメンが起こす行動が絵になるから。だから許されるのです。不条理すぎる。なぜイケメンは優遇されるんだ。私だって優遇されたって良いじゃないか。あー彼女欲しい。何で私には彼女いないの? 馬鹿なの? 死ぬの? とりあえず彼女いる若と関係ないけど集くんは爆発してください。理由は特にありません。それよりもアイツです。あの鶫誠士郎とかいうアイツが千棘さんに邂逅一番に抱き付いたのに何事もなかったかの様に親しげに話したり、それを見たクラスメイトの女子達は皆目を変えてかっこいいだの私もされたいだのけしからん。私が抱き付くぞコラ。いいのか? 私が抱き付いてもその後警察に連絡しないか? するでしょうねチクショウ!
まあ用は何が言いたいのかというと。
イケメンは全てが許される。そんな世の中は間違っている。
「はんたーい!! イケメンはんたーい!! モテない男達にも恋愛の自由を!!」
クラス中に轟くイケメンへの憎悪の声。非モテの怨嗟と溢れ出る狂気が若者達を刺激し、全員が一丸となって天に向けて誰にでも恋愛出来る世の中を願う声が上がる。
一斉に拳を天に突き出し、幾度となく主張をアピールし、相容れないイケメンへの抗議が形となって表れる。
「理央さんや。そんなイケメン反対運動を一人でやっていても誰も賛同しませんぞ」
「馬鹿な! 何故クラスメイトの男子は誰も着いてこない!? 特に集さんは私と『イケメン絶対許さナイジェリア同盟』を組んだ仲間じゃないですか!」
「組んだ覚えねー」
まさかのクラスメイト達と集さんの裏切りに私は絶望します。何故誰も私についてきてくれないのか。皆私の事が嫌いなのでしょうか。
「理央くん今日は元気だねー」
「珍しいよね。あんなに騒いでるの。鶫くんが来てからずっとだよ? ねぇ、もしかして………」
仲間に裏切られた私が一人虚しく抗議のデモを起こしていると、周りの女子生徒達から注目され、ヒソヒソと何かを囁かれています。恐らく、モテない男の妬みに辟易しているのでしょう。また一つモテない理由が露見した瞬間です。
くそぅ………最近私は全くツイていません。腕を撃ち抜かれるわ、千棘さん達との遊びに参加出来ないわ、貴重な水着姿を一度逃すわ………アレもコレも全てあの男が悪い!
私は自分の運の悪さを転校生のせいにして、未だに千棘さんとイチャイチャしている彼を睨み付けます。
ちなみに彼は千棘さんにカップルならではの『あーん』をしようとしている真っ最中です。今ならこの目力だけで人を殺せそうッ。
「あの、お嬢…………何故私はそこの人に涙目で睨まれているのでしょうか……?」
「ホントだ。あんなにほっぺ膨らませてどうしたんだろ…………ハッ。もしかして昼休みの私との時間を鶫に独占されて嫉妬してる!? それなら呼ばなきゃね! おーい、理央ちゃんも一緒にご飯食べよー!」
人はおろか、ゾウや鯨という言った巨大動物までも殺せるんじゃ無いかと思えるほど睨みを利かせていると、ふいに千棘さんから私を呼ぶ声と手招きをされました。
既に精神が擦り減り摩耗しきった私に千棘さんからのお昼の誘いはもはや麻薬に等しい。私に抗う力はなく、ふらふらと二人のいる席に足を進める事しか出来ませんでした。
「鶫。この子が私の友達の理央ちゃんよ。この学校に来て最初に仲良くなったの!」
「鶫 誠士郎です。いつもお嬢と仲良くしてくださりありがとうございます」
「…………………………佐々木理央です。千棘さんとは仲良くさせていただいてます」
目の前のイケメンは私の眼力に戸惑いながらも爽やかな自己紹介をしてきました。ぶっちゃけ無視したい気持ちはありましたが、わざわざ紹介の場を設けた千棘さんの顔に泥を塗る様なマネは出来ませんし、何よりそれをしたら完全に私の負けの様な気がして挨拶を返します。
「あの、佐々木様。私、何か気に触るようなことをしたでしょうか………もししていたなら謝ります。申し訳ございません」
挨拶を返したはいいけれども、それ以降睨みながら昼食を取っていると、イケメン野郎……鶫さんから謝罪をされてしまいました。
憎たらしい………憎たらしいぞ鶫誠士郎っ。何故そんなにもお前はいい奴なんだ! これじゃあ完全に私が悪役じゃないか! 謝ってしゅんとするんじゃないですよッ。イケメンの癖に仕草がなんだか可愛らしいって思っちゃったじゃないですか! 罪悪感をすごく感じちゃったじゃないですか!
フーッ、フーッ………落ち着け佐々木理央。これでは完全に悪役だ。一旦落ち着いて普段の冷静な私に戻るんだ佐々木理央!
「ご、ごめんなさい。今日はなんだか体調が悪くて………そのせいでイライラしてしまって、機嫌が悪いというか………鶫さんが何かしたから睨んでいたわけじゃないんです」
お前の存在自体が私の神経を逆撫でにしてるんですよ。そう言いたい気持ちを押し殺して私は鶫さんに謝り返しました。
嘘は吐いてません。実際、今日は普段より数段増しで気分が悪いです。なんというか、鶫さんを見ていると私の腕に風穴を空けた憎きクロードを思い出して傷が疼くのです。綺麗な姿勢、無駄のない動き、千棘さんをお嬢と呼ぶその姿があの男とダブって見えます。
まあつまり、私の機嫌が悪いのはあの男と鶫さんが原因と言うことですね。
そんな私の想いを知ってか知らずか、体調が悪いと言った私の発言に鶫さんは私の身を案じてくれました。
「だ、大丈夫なんですか? 保健室に行った方が………」
「いえ、今日中には症状も治ると思うので大丈夫です」
私が大丈夫だと言うも、鶫さんも千棘さんも心配そうに私を見ていました。
はて、そこまで私は体調が悪く見えるのでしょうか? たしかに今日の私はなんだかおかしい気がします。いくらイケメンとは言え、私はここまで会ったことも無い他人を嫌悪するなんておかしいです。
「………すいません。やはり体調が優れないようです。少し外の空気を吸ってきます」
私は二人にそう断りを入れて席から立ち上がり、教室から出ました。一度頭を冷やそうと、この学校の屋上に続く階段の踊り場まで歩きだします。
が………相変わらず腕の傷は疼くばかり。やはり体調が悪いのかもしれません。一度立ち止まって壁にもたれ掛かれば、なんだか身体に怠さを感じて歩く気力すら失せるのです。
壁冷たいなぁー……。
「理央ちゃん、大丈夫? 私もついて行くよ」
そんな気の抜けた考えをしながら私が壁に頭をくっ付けていると、背後から私を呼ぶ声が聞こえてきました。
背後を振り返ればそこには心配いそうな顔を向けてくる千棘さんがいます。あのイケメンである鶫誠士郎とのお昼ご飯より体調の悪い私が優先された事に驚きながら、そんな優しい行動を私にしてくれた千棘さんに申し訳なく思ってしまいました。
「千棘さん………あの、いいんですか? せっかく鶫さんとお話ししていたのに………」
「いいのよ。あの子とは家が同じだからいつでも話せるし………それに、私も女の子だから理央ちゃんの苦しみもわかるから」
そう言うと千棘さんは私に寄り添い私の身体を支えてくれます。いくら友達とはいえ異性と言う関係なのに、千棘さんはそんな事気にせず身体を密着させてきます。
「えっと、あの、千棘……さん?」
「やっぱりあの日よね………取り敢えず保健室行こっか! 寝てれば楽になるかもしれないし!」
思わぬラッキースケベにドギマギしている間に保健室へと連行されると、私は有無を言わせぬ勢いで千棘さんにベッドに寝かしつけられてしまいました。
これが噂のベッドインか等とおかしなことを考えている間に、意識が段々とフワフワし始めてベッドの感触に身を任せるのでした。
▽▽▽
酷い夢を見た。
私が中学生だった頃、組長に託された事業で私はとあるアメリカのマフィアと交渉の場にいた。事業を任され始めてからまだ半年も経っていなかったペーペーヤクザだった時の話だ。
その日は父上が傍に居らず、しかもその場には英語の会話ができる人間が私しか居なかった。とても重要な話し合いがあるわけではなかったが、お得意様と言う事で失敗は許されない大事なシノギの交渉の場ではあった。
酷く緊張していた。緊張していたのを覚えている。
だから私は失敗してしまった。本来なら気を付けねばならない事を疎かにしてしまった。そのせいで交渉の場は崩壊したのだ。
あの時現れたヒットマン。黒き獣の手によって────
「……………………頭痛い」
頭が痛い。恐らく変な時間に起きたからでしょう。ついでにちょっと左手も痛い。
私は周りを見てここが保健室だと気付きました。壁に取り付けられた時計は4時50分の所で針が止まっていますね………6限が終わって帰りのHRすら既に終わっている頃でしょう。私がここで寝たのが昼休みだから………3時間以上寝た事になりますか。通りで頭が痛いわけです。
私はベッドから身体を起こし立ち上がります。特に目眩はしなかったので体調は頭と手の痛み以外は万全だとわかり、着崩れた制服の身嗜み整えて教室に戻ろうとしました。
その時、校庭側の窓から集団が騒ぐ声が聞こえてきました。
運動部の声では無いでしょう。統一された掛け声と言うより、ザワザワと雑多な声だったから。加えて、なんだか聞き覚えのある集団の声が混じっていれば気にならない筈が無いです。
私は閉じられたカーテンを開けて半開きになっていた窓の向こう側を見ました。
そこには、十数人のクラスメイト達と彼等の前でお互いに向き合って対峙する若と鶫誠士郎の姿が。
私は思わず窓を開けて無作法にも窓際を飛び越えて走り出しました。良くないことだと分かっていますが、酷い焦燥感が私の背を強く押してくるのです。
あの二人の下へ駆ける。
すると鶫誠士郎が手に持ったコインを宙へ放り投げているのが見えます。何故か私にはその動作が若に危険である事に繋がるとわかりました。
だってそれは、まるで古の決闘の合図のようだったから。
コインは暫く空中を漂うと、地面に落ちていきます。直後、どこに隠していたのか大量の武器を取り出す彼。私も同様に制服の裾から2本の木刀を取り出します。
コインが地面に落ちると共に、彼が銃を構えます。その素早い動きは熟練者の動きです。若がソレを銃と認識するよりも前に彼の指は引き金を引くでしょう。
だからそれよりももっと早くに、私は彼の銃を側面からの一撃で叩き落としてやった。
「なっ!?」
「うおっ………って理央!?」
二人が同様に私の登場に驚きますが、彼は突然の事にも動きを止めなかった。叩き落とした木刀とは反対の得物で彼に一撃を与えようとしましたが、簡単に避けられて遠ざかってしまう。
本来なら間合いを詰めるのがセオリーですが、私は深追いをしませんでした。なにせこの場には護るべき若がいますから。
彼が間合いを空けて此方の様子を伺っている間に、私は驚いたまま固まる若の前に立ち、庇う様に鶫誠士郎を睨み付けました。
「やはり来ましたか……」
「えっと、あの………佐々木様?」
私の乱入に酷く狼狽えた様子を見せる彼。どうやら彼方は私のことを伝えられていないのでしょう。いえ………伝えられてはいたけれど、護衛対象を放ったらかしにして保健室で寝ている護衛など、対した障害にならないと思っていたのかもしれません。
実際今の今まで寝ていたのだから私は護衛失格でしょう。まさか、ビーハイブの刺客を若の傍に放置するなんて。
「さて…………確か、今はビーハイブと集英組で不可侵条約を結んでいる筈。なのに、これは一体どう言う事でしょうか? 鶫誠士郎………いや、『