「えー、今日は雪の影響で午後の授業は行わないことになりました」
朝のホームルームで、担任の先生がそう言った。いつもより先生が教室に入って来るのが遅かったのは、対応を先生達で協議していたからだろう。
正直こうなる事は予想していた。天気予報では『数十年に一度の大雪が予想され注意が必要です』と言っていたし、今日の朝だって既に雪がちらつき始めていたからだ。
まぁなんにせよ早く帰れるのはラッキーだ。さっさと帰ってコタツに入って、蜜柑でも食べながらのんびりすることにしよう。
そう決意したところで、隣の席から声をかけられた。
「学校が午前中だけなんて、残念ね……。そう思わない、美咲?」
「そう思うのは、このクラスの中でもきっとあなたくらいのものですよ、こころさん……。少なくとも私は早く帰れて嬉しいんだけど」
「だって楽しい事があるかもしれない学校が早く終わってしまうのよ?こんな悲しいことはないわ」
「うーん、そうかな……」
「そうなのよ!どうしようかしら……」
ちょうどそのタイミングでホームルームが終わり、1限の先生が入れ替わりで入って来た。ごそごそと授業の準備をする間も、こころはずっと考え込んでいるようだった。
結局それから帰りのホームルームまでこころはずっと考え込んでいた。普段なら話しかけてくる授業と授業の間の休み時間も大人しくしていた。珍しくて雪でも降るんじゃないかと思ったら、既に降ってた。
「それでは皆さん気を付けて下校してください」
午前中の授業の後のホームルームが終わり、クラスの人達は各々帰り始めた。私もその流れに乗って帰ろうとしたところで、こころに腕を掴まれた。
「待って、美咲!今いいことを思いついたの!」
「……絶対ロクなことじゃない気がするんだけど……何を思いついたの?」
そう聞くと彼女は、満面の笑みを浮かべた。
「わぁ!雪の上を歩くのって変な感覚ね!それに音も鳴るわ!」
「はいはい、滑って転ばないようにねー」
普段見られない積もった雪にテンションの高さを隠しきれないこころを見守りつつ、後ろから付いていく。
『学校がなくなったのなら、その分おもしろいことを見つけてから帰ればいいんだわ!美咲、探すのを手伝ってちょうだい!』
こころのその発言により、私のコタツ籠城計画は夢に終わってしまった。くそう、私の蜜柑が……。
自宅で帰りを待ってくれているコタツに思いを馳せていると、先に行っていたこころが立ち止まっていた。
「こころ、なんか見つけたの?」
「これだけ広いのに、まだ何の跡もないなんて素晴らしいわ!そう思わない?」
こころが見つけたのは、小さな児童公園だ。当然誰か居るはずもなく、片隅に遊具が雪に埋もれて佇んでいるだけだった。遊具のない中央のスペースはそこそこの広さがあり、一面真っ白になっていた。
「まぁ、確かに雪だるまとか作れそうな広さだよね」
「雪だるま?!いいわねそれ!早速作りましょう!でもせっかくなら雪ミッシェルにしましょう!」
「えぇー、できるのかなそれ……」
「きっとできるわ!だって、」
そう言ってこころは笑顔で私を見つめた。
「私だけじゃなくて美咲がいるんだもの。きっとなんでもできるわ」
思わず顔を逸らした。そんな顔でこんな事言われると、本当になんでもしてしまいそうになるから困る。
「……なんでもは無理だよ」
照れ隠しにそう呟くと、こころは変わらない笑顔で言った。
「無理かどうかはやってみなければわからないと思うわ。それくらい、私は美咲を信じているもの。」
それからこころは雪玉を作りながら言った。
「それより美咲はミッシェルの上に載せる部分を作ってもらえる?私は下の部分を作っておくから」
「……はいはい、わかりましたよーっと」
こうなったらもう最後まで付き合うしかないな。
そう諦めた私は、ベンチに置いたカバンが、積もった雪で見えなくなるくらいまでの間、雪ミッシェル作りをした。
「美咲〜!できたわ!それじゃあ上の部分を載せましょう!」
「はいはい。じゃあこころ、そっち持って……うん、そこそこ。せーので上げるよ」
「わかったわ!」
「それじゃあ……せー、のっ!」
2人がかりで、作った雪玉を土台の雪玉の上に載せる。出来上がった物体は、腰の上くらいまである高さになった。
あとは帽子と耳か。ここまで来たらできるだけ完成度の高いミッシェルにしたい。
私が雪玉を練って帽子と耳の形にすると、見ていたこころはまるで手品を見る子供のようにワクワクした顔をしていた。
「わぁ!美咲ってこんな事もできるなんてまるで魔法使いね!」
「まぁフェルトとかやってるから手先はそれなりにねー。……ほい、完成っと」
出来上がった帽子と耳を載せてやる。うん、我ながらよくできたんじゃないかな。
「凄いわ!雪からミッシェルが出来上がるなんて!」
こころも満足しているみたいで、それを見て私も少し嬉しくなった。まぁ、少しは寒い中頑張った甲斐があったかな。
やがてしばらく完成した雪ミッシェルを見ていたこころが、ぽつりと呟いた。
「でもいつか溶けちゃうのが残念ね……」
「……多分、それはきっと、大丈夫だよ」
「……どうして?」
「この雪のミッシェルが笑顔にした人は、その後、本物のミッシェルが、もう一回笑顔にしてあげるから」
つい、そんなことを言ってしまった。不安そうなこころを見ていられなくて、なんか変な事を口走った気がする。
でもこころはその答えが気に入ってくれたようだった。
「……そうね。ええ、確かに、それなら大丈夫ね」
「うん、多分」
「……それにしても美咲、まるでミッシェルみたいなことを言うのね。驚いちゃったわ」
「え、いやそれは……」
「さすがミッシェルと一番の仲良しさんね!」
「……まぁ、うん、そんなところかな、ハハ……」
「それじゃあそろそろ帰りましょうか、こころさんや」
「ええ、そうね!学校がなくなった分楽しい事ができてよかったわ!」
雪からカバンを救い出して、公園を後にする。公園を出たところで、こころが此方を振り返って言った。
「ねぇ、大分手がつめたくなってしまったわね」
「そりゃまぁ、雪遊びしましたから……」
「だから、ね、こうすればいいと思わない?」
そう言って、こころが私の手を握った。さっきまで雪遊びをしていたお互いの手は冷たくて、でも段々とお互いの体温が混ざり合っていくのが分かった。それはなんだか、悪い心地はしなくて。
「まぁ、こころがいいなら」
そのまま2人帰り道の間中ずっと、そうしていた。
雪の降る寒い日の昼下がりのことだった。