大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪と戦争の決着

動き出したのはほぼ同時。勇儀は一気に飛び出して紫に殴り掛かり、幽香も一瞬で紫に接近して束ねた日傘を振り下ろす。紫は慌てずその振り下ろされた日傘に自分の日傘をぶつけて弾き、勇儀の拳は妖力を強めに纏わせた扇子で受ける。そして再び幽香の日傘が紫の腹部を狙って薙ぎ払われ、紫は日傘でそれを受け切り、足元に開いたスキマを通って距離を取った。支えが無くなった2人の攻撃は互いにぶつかり合い、日傘と拳では絶対にならない様な音が鳴り響く。紫はたらりと嫌な汗を流しながら2人に文句を言った。

 

 

 

「ちょっと!いきなり私1人狙いとはどう言う事よ!!?」

 

 

「気にしなさんな!!偶々私と幽香の最初の獲物が紫だっただけだよ!!なぁ?・・・幽香ぁ!!?」

 

 

 

勇儀は笑いながら幽香に回し蹴りを食らわす。幽香は片手で受け、5m程下がらせられる。しかし鬼の蹴りを受けた幽香は涼しい顔でクスリと笑う。

 

 

 

「えぇ、偶々よ。貴女の能力は回避とかに適しているから先に狙ったのよ。別にスキマとやらに落とされた恨みを晴らすわけではないわ」

 

 

「絶対最後のが本当の理由でしょう?さて、やられっぱなしは嫌だし・・・・今度はこっちから行くわよ!!?」

 

 

「よっしゃぁ!!掛かって来グハァッ!!?」

 

 

 

紫が勇儀に向かって走り出し、日傘をレイピアの様に突き出す。勇儀は正面から受けようと防御の構えをしたが、そのままスキマで移動した紫に背後を取られてモロに背中に食らった。勇儀は近くにあった巨石を砕きながら吹き飛ばされた。紫はすぐに幽香の姿を探すが、見つける前に右脇腹辺りに大砲を撃たれた様な衝撃を受けて今度は紫が吹き飛ばされる。地面に衝突する前に態勢を立て直して着地して日傘を振り抜いた幽香の姿を見る。実際は大砲が可愛く見える一撃を受けた様だ。

 

 

 

「あら?全身の骨を砕く気で振り抜いたのに・・・・意外に丈夫な体ね」

 

 

「そう簡単にやられて溜まるものですか!!」

 

 

「いててて、いいのを食らっちまったねぇ。私にも1発入れさせな紫ぃ!!」

 

 

 

突きを食らった辺りをさすりながらほぼ無傷で勇儀が戻って来て、拳を振り上げて紫に飛び掛かった。紫はチャンスとばかりに飛んで来る勇儀の前にスキマを開き、出口を幽香の側面に開く。勇儀は目を見開くが、すぐに紫の考えを見破り、そのままスキマを通り抜け、目を見開いている幽香の左頬に右ストレートを撃ち込んだ。突然開いたスキマにギョッとして防御出来なかった幽香は近くの木々や岩を砕きながら地面に衝突する。幽香が土煙で姿が見えなくなると、勇儀は狙いを紫に替えて能力で強化した脚力を使って弾丸の様な速度で肉薄する。紫はギリギリで妖力を纏わせて強度を更に上げた日傘で攻撃を防ぐ。地面に足がめり込む攻撃を何十回も防ぎ切り、再び拳と日傘が接触する瞬間。紫と勇儀は殺気を感じて飛び退いた。すると先程まで2人がいた位置を七色の極太レーザーが地面を抉りながら通過し、その先にあった山の3分の2程を削り取った。飛んできた方向を見ると、頰が少し赤くなって唇を切って少し血を流している幽香が不気味な笑みを浮かべて日傘の先をこちらに向けて立っており、傘の先からはシュ〜と煙が出ていた。

 

 

 

(ま、まさかの元祖『マスタースパーク』・・・しかも威力が半端じゃないわね。これ下手したら死ぬんじゃないかしら?)

 

 

「チッ!外したわ。今の一撃で消し飛べば良かったのに」

 

 

「良くないわよ!?貴女殺さないってルール忘れてないかしら!!?」

 

 

「これくらいじゃどうせ死にはしないでしょ?貴女達が生きてればそれでいいのよ」

 

 

「あはは・・・そう。そっちがその気なら・・・・廃線『ぶらり廃駅下車の旅』!!!」

 

 

 

紫はスペルを宣言して幽香を狙う。しかしいつもガープやクザンとやり合う様に列車1本なんて手加減していたら確実に負けるか死ぬ為、勇儀に23両、幽香に22両の計45両の列車を突撃させる。2人は突然突っ込んで来た初めて見る列車に目を見開いたが、すぐに回避する。躱された列車は次々と地面に突き刺さり、爆発する。流石の勇儀と幽香も紫が直接狙って放つ列車を全て避け切ることは出来ず、それぞれ1両ずつ直撃し、爆発に巻き込まれた。しかしやはり大妖怪。服が少しボロボロになりつつも軽傷で済んでいる。

 

 

 

「やっぱりこれぐらいじゃ無理ね」

 

 

「なんだい今の鉄の塊は?結構痛かったよ」

 

 

「よくも私の服をこんなに焦がしてくれたわね。骨の2本や3本は覚悟しなさい紫」

 

 

「やれるものならやってみなさいな。遠距離戦で私に勝てると思わないでね?結界『光と闇の網目』!!」

 

 

 

紫は再びスペルを宣言する。すると幽香と勇儀を外す大玉と、広くばら撒かれる小弾を同時発射を1セットで2発同時に放つ。2人は放たれた弾幕に驚きはしたが、先程の列車で耐性が付いた為か、すぐに回避行動をとる。なんとか躱すことは出来たが、大玉は軌道上にレーザー光源を設置しており、それが格子状に交差したレーザーを放って2人を襲った。勇儀は躱すのは難しいと考えて弾幕を殴ろうとするが、触れた瞬間に強い衝撃が勇儀に与えられて吹き飛ばされた。幽香はそれを見て当たるのは危険と判断して傘の先を1番弾幕が厚く、尚且つ紫がいる方向に向けた。

 

 

 

「やるじゃない紫!!マスタースパーク!!!」

ドゴオォォォォォォォォォォ!!!!!

 

 

「ちょっ!!?恋符『マスタースパーク』!!!」

ドゴオォォォォォォォォォォ!!!!

 

 

 

弾幕を呑み込みながら迫る幽香のマスタースパークに紫は慌ててミニ八卦炉を取り出してマスタースパークを放つ。2つの極太レーザーはぶつかり合い、周囲に暴風と衝撃波を放つ。しばらく拮抗していたが、自分のスペルではない紫のレーザーが押され始め、段々紫の方へ幽香のレーザーが迫って来た。紫はこのままではマズイとスキマで躱そうとしたが、背中から来た衝撃によってレーザーはギリギリ避けれたが地面に激突した。あまりの衝撃に地面が耐え切れず、大きなクレーターを作った上に周囲に地割れを引き起こした。

 

 

 

「カハッ!!?ケホッ!ケホッ!」

 

 

「ヘヘッ!やっと当たったな紫!!」

 

 

「ケホッ!ケホッ!やられたわね・・(くぅ〜!!物凄く痛い!ガープでもこんなにダメージ貰わないわよ!?)」

 

 

「ふふふ♪これで全員1回はいい一撃を食らったわね?」

 

 

 

幽香は濃厚な殺気を放ちながらクスクス笑う。紫も土をはたき落としながら立ち上がり、勇儀は肩をグルグル回しながら紫に感心していた。

 

 

 

「いや〜流石だね紫!今のは島をぶっ壊す気で殴ったんだけどねぇ?」

 

 

「かなり痛かったわよ。まさか私が気付かないとは思わなかったわ」

 

 

「はいはい、お喋りは終わりよ。ここからは本当に殺す気で行きましょう?貴女達なら死なないと確信したわ」

 

 

「おっ!?いいねぇ!いいねぇ!その話乗った!!」

 

 

「私は勘弁してほしいわ。まぁ勇儀は兎も角幽香の要求が忙しくなりそうで嫌だから私も乗ってあげる」

 

 

「あらそう?じゃあ・・・・行くわよ!!!」

 

 

 

幽香は再びマスタースパークを放ち、勇儀は足を振り下ろして地震を起こし、紫は空にふわりと飛んで弾幕の嵐を引き起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、俺今これから世界が滅ぶんじゃね?って思ってんだけどどう思う?」

 

 

「奇遇だな相棒、ちょうど俺もそう思っていたところだ」

 

 

 

紫達が喧嘩と言う名の戦争を起こしている島から10キロ離れた沖では、コング元帥から指示を受けて様子を観察しに来た海軍の軍艦3隻に乗った海兵達が島の様子を見てそんな事を考えていた。しかしそれは当たり前だ。何故なら紫達は気付いているかは知らないが、度々噴火のような大爆発や、津波が起きる程強い地震が立て続けに起きており、更にはまだ当たってはいないが、極太のレーザーが海を割りながら通り過ぎ、離れた場所の小島を消し飛ばしているのである。当然それは紫達がやった事であり、今もまた極太レーザーが空に放たれて曇天の空を引き裂いて行った。海兵達はこの世の終わりを表した様な状況の島から目を離せず、軍艦に乗っていた海軍少将達も苦笑いをしながら島を眺めていた。

 

 

 

「おいおい、紫の奴があんなに手こずるって・・・どんだけ強い奴等なんだ?」

 

 

「さぁな。しかしあの様子からして大将クラス・・・いや、元帥以上の力がありそうだなぁ」

 

 

「有り得ない・・・とは言えないダラァ」

 

 

 

身体中に十字傷があるのが特徴のドーベルマン少将に隣にいる葉巻を咥えて丸っこい髭をしたヤマカジ少将が答え、ドーベルマンの隣にいる角が付いた仮面を付けた大柄な男性・・・バスティーユ少将が腕を組みながら同意した。彼等は偶々近海の航路を進んでいる途中にコング元帥に命令され、紫と勇儀と幽香の3人の戦いを見届けるように言われたのだ。彼等は「まぁ、いいだろう」と軽い気持ちで引き受けたが、実際に来てみれば島には津波などが原因で近付けないし、レーザーは通り過ぎるし、隕石の様に岩が降ってくるしで大変な事になってる。あれでは島の猛獣達は全滅しているだろう。引き受けた過去の自分をぶん殴りたい気持ちになっていた。

 

 

 

「どうするダラァ?俺達はあいつ等の闘いを見届けろと言われたが、あれはどう見ても闘いじゃなくて災害ダラァ」

 

 

「確かにありゃ災害だなぁ。一応コング元帥に報告しとくか」

 

 

「それがいいだろう。しっかし、なんであんな化け物じみた女が海軍大佐なんだ?」

 

 

 

ドーベルマンの疑問にヤマカジとバスティーユは「さぁ?」と返し、コング元帥に報告する為に電伝虫がある船室に入って行った。そしてその報告を受けたコング元帥は頭を抱えて唸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・」」」

 

 

 

紫達が闘い始めて既に4時間以上は経過した。辺りは夕日に染まっており、4時間前まで緑の溢れた無人島は、山がいくつも消え、地割れやクレーターがあちこちに出来ており、木々は薙ぎ倒されて爆炎によって燃えていて、既に前の面影は全く残っていなかった。勇儀は服を穴だらけにし、額から血を流して座り込んでおり、幽香も最初の余裕は全く残っておらず、日傘を杖の様にして膝を着いていた。紫も服をボロボロにして痛めた右手を押さえて息を切らしていた。3人共満身創痍の状態ではあるが、まだ決着は付いていなかった。

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・全く、どんだけ体力あるのよ?生まれて初めてこんなに疲れたわよ」

 

 

「あはは・・はぁ・・はぁ・・それは私もそうさ。前に闘った男達でもこんなになる前には決着付いていたよ。もちろん私が勝ったけどね・・・」

 

 

「はぁ・・はぁ・・ふぅ。それより紫、貴女空飛べるなんて狡いわよ。ほとんど攻撃が当たらなかったじゃない」

 

 

「空を飛んでいるのにジャンプして私を地面に叩きつけた花妖怪が言うんじゃないわよ」

 

 

 

紫は文句を言う幽香に言い返す。紫自身空を飛べばかなり有利になると考えていたが、幽香はマスタースパークを撃ってきたり、ジャンプで紫に接近して日傘を叩きつけてくるし、勇儀も地面を殴って出来た岩石などを砲弾の様な速度で投げてくる為大して有利ではなかった。

 

 

 

(はぁ〜・・・やっぱり考えが甘かったわねぇ。もう妖力も少ないし、あと1発デカイのを撃てるかどうかね)

 

 

(まさか私がこれだけやられるとはねぇ・・・もう動くのも辛いわ)

 

 

(八雲 紫、星熊 勇儀。どちらも後一撃放つのが限界みたいね。まぁ私ももう力があまり残ってない・・・ふふふ♪こんなに楽しいのはいつぶりかしらね)

 

 

 

3人共かなり体力、妖力共に使い切っており、互いに後一撃を放つのが限界だと見破っていた。ようやく3人の息が整ってきたところで、紫が話を切り出した。

 

 

 

「ねぇ勇儀、幽香。貴女達も後1発撃つのが限界でしょ?」

 

 

「ははは・・・それは紫もじゃないかい?」

 

 

「あら、やっぱり貴女達も気付いてたのね?それで紫?それがどうかしたのかしら?」

 

 

「えぇ、もう疲れちゃったから・・・・最後に全力の一撃を放って気を失わずにいれた者の勝ちにしないかしら?」

 

 

 

紫は汗を服の裾で拭いながら幽香と勇儀に提案した。そしてそれは2人にとっても有り難い提案だった。このまま続けても埒が明かないとなんとなく分かっていたからである。

 

 

 

「ま、仕方ないね。それで行こう。幽香はどうする?」

 

 

「今更仲間外れにする気?もちろん全力でやるわよ」

 

 

「そう・・・じゃあ決まりね」

 

 

 

互いに頷き合って立ち上がり、それぞれが構えて残った妖力を出す。しばらく睨み合い、3人同時に動いた。

 

 

 

「スペルカード!!・・・」

 

 

「一歩・・・二歩・・・!!!」

 

 

「マスタァーー・・・!!!」

 

 

 

勇儀は一歩足を踏み出す毎に大地を砕いて妖力を上げ、幽香は日傘を構えて辺りに突風が起こる程の妖力をチャージし、紫は残った妖力を全て1枚のスペルを放つ為に溜め込む。そして・・・・

 

 

 

「紫奥義『弾幕結界』!!!」

 

 

「三歩必殺!!!」

 

 

「スパァーーク!!!」

 

 

 

紫のスペル、幽香のレーザー、勇儀の足の衝撃波が激突し、まるで核でも落ちたのかと勘違いする程の爆発と衝撃を発生させた。それは島から離れていた軍艦にも及び、転覆こそしなかったものの、数キロ程流された上にマストが全てへし折れ、航行不能になった。島は最早島とは呼べない程破壊され尽くし、もうもうと土煙が昇る中、1人の人影がユラユラと揺れていた。

 

 

 

「はぁ・・・はぁ・・・ふふっ。・・・私の・・勝ちね・・・」

 

 

 

土煙が風に流されて晴れると、そこにはボロ雑巾のようになり、体中怪我をしている紫が立っているのもやっとと言う状態で立っており、離れた場所には満足そうな顔をして気絶しているボロボロの勇儀と幽香の姿があった。紫はそれを確認すると、自分も崩れ落ちるように倒れて気を失った。

 

 

幽香VS勇儀VS紫

 

勝者=八雲 紫


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