大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪とオハラの選択肢

バスターコール。海軍本部の中将5名と軍艦10隻を使用した無差別攻撃命令の事である。海軍の元帥、または大将クラスの人間しかそれを発令するのに必要な金色の電伝虫・・・ゴールデン電伝虫の殻のボタンを押す事で発令され、一般市民がいようが全てを破壊するまで砲撃が続けられる残酷な攻撃命令。

 

 

 

「・・・って言われているけれど、ハッキリ言って幽香の『マスタースパーク』や勇儀の『三歩必殺』でも本気で撃てば島の1つや2つ沈められるわよねぇ?」

 

 

「あら?貴女の『マスタースパーク』でもいけるんじゃないかしら?あれ中々の威力だったわよ?」

 

 

「私からしたらどっちもどっちだけどねぇ?なぁ、そう思わないかいお兄さん?あっははははは♪」

 

 

「あ、あははは・・・・そうっスね・・・」

 

 

 

現在紫と藍、そして「面白そうだから」と言う理由で無理矢理付いて来た幽香と勇儀の4人はクザンが乗る軍艦に乗って目的地である西の海(ウエストブルー)にあるオハラに向かって航行していた。スキマから取り寄せられたテーブルを囲むように置かれた椅子に座ってそれぞれお茶や紅茶、酒を飲みながら目的地に到着するまで雑談を楽しんでいた。クザンは紫と藍だけならまだ良かったが、数日前に聞かされた島を簡単に沈める強さの勇儀と幽香に挟まれて座っており、かなり緊張していた。幽香はそれを知っていてクザンにあれやこれや話し掛けて反応を楽しみ、勇儀はそれを知らずに星熊盃を右手に空いた左腕をクザンの首に回して豪快に笑っている。

 

 

 

「それにしてもバスターコールなんて使う必要あるのかしら?使えば使う程民間人からの信頼が無くなるわよ?ただでさえ一部の人間には天竜人の護衛なんかをしている私達海軍を恨んでいる人間がいるのに」

 

 

「あぁ、私も昔見た事あるわ。アレよね?『だえ〜』とか『ザマス』とかうるさいバカ共でしょう?」

 

 

「なんだいそれ?酒のつまみか何かかい?」

 

 

「やめておきなさい勇儀。お腹壊すわよ?」

 

 

 

勇儀はボルケガ島から出た事なかったらしいので天竜人の事を知らないらしい。一応勇儀に天竜人と民間人の見分け方を教えておこうかしらと紫は勇儀を見ながらそんな事を思った。

 

 

 

(それにしても物騒な世界よねぇ。たかが大昔の石ころ(ポーネグリフ)と歴史書に載っていない部分の研究するだけで島ごと破壊なんて・・・サカズキは当然の事だと普通に仕事しているけれど、ただ考古学者が歴史の研究するだけで皆殺しにするって言うのは嫌なのよねぇ・・・・もし発令されたらこっそり回収しちゃおうかしら?うん、そうしましょう♪そうと決まれば・・・)

 

 

「そうだお前さん!海軍じゃ中々の実力者なんだってね?今度手合わせしないかい?」

 

 

「い、いやいやいやいや!俺にも仕事あるから!ちょ〜忙しいから!だから手合わせとかそう言ったものはガープさんにでも・・・」

 

 

「へぇ?紫、そのガープって人間は強いのかしら?」

 

 

「勇儀よりも遥かに弱いわね。後クザン?貴方いつも仕事サボッて暇なんじゃないかしら?」

 

 

 

紫の言葉を聞いてクザンの首に回していた勇儀の腕に力が入る。勇儀だけに限らず、鬼と言う種族は嘘を何よりも嫌う。勇儀もそれは例外ではない。だから紫も勇儀には正直に受け答えをしている。段々力が入る腕にクザンが気付いて、引き攣った笑みを浮かべながらゆ〜っくりと隣にある勇儀の顔を見た。勇儀の顔は先程の様に笑ってはおらず、視線だけで海王類を殺せそうな目をしてクザンを見ていた。

 

 

 

「ほぉ〜〜?この私の前で嘘を付くとはいい度胸だねぇ?んん?クザンお兄さん?」

 

 

「え?あ、いや・・これはその・・・」

 

 

「紫、ちょいとスキマを開いて消してもいい島に私とこの人間を送っておくれ。ちょ〜〜っとこの嘘吐き君の根性を叩き直してくるよ」

 

 

 

勇儀はどうにか逃げようとするクザンの首をがっしり掴んで紫にお願いする。紫はどうするか少し考えていると、もうすぐオハラに到着すると言う所で突然軍艦の前の海が盛り上がり、大きな水飛沫を上げて巨大なウツボの様な海王類が現れた。海兵達は突然現れた海王類に驚いて慌てて砲塔を海王類に向けた。海王類は向けられた砲門をまるで恐れる事なく軍艦に接近し、近くの軍艦を沈めようと口を大きく開いた。しかし海王類にとっては不運な事に、その軍艦には絶賛ど怒り中の勇儀達が乗っていた。勇儀が「あ〝ぁ〝?」とドスの効いた声で振り返り、海王類が勇儀の目を見るとビクッと震えて固まった。

 

 

 

「おいお前さん。私は今非常に機嫌が悪いんだ。今お前さんに構ってる暇はない。それとも・・・・お前さんが喧嘩相手になるかい?」

 

 

 

ニヤッと笑った勇儀を見て海王類はダラダラと冷や汗を流し続けており、最後の言葉を聞いてアニメの如く体が真っ白になり、開いた口から青白い何かが泣きながら天に昇って行った。抜け殻になった海王類はブクブクと海に沈んで行き、後には静かな海が波の音を奏でていた。

 

 

 

「勇儀、悪いけどクザンの根性を叩き直すのはこの仕事を終えてからにしてくれないかしら?今クザンが居なくなったら後々面倒臭くなるのよ」

 

 

「仕方ないねぇ・・・後で覚えときなクザンお兄さん」

 

 

「あ・・・・・はい・・・後で遺書書いとこう」

 

 

 

クザンはこの時、『あ、死んだなこりゃ』と本気で思った。全てを諦めた顔で椅子に座って居た姿を見て紫は笑いを堪えるのに必死になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ〜?ここがオハラねぇ。いい島じゃない。特にあの大きな木はこの島の人間達を好いているわ。海軍はこの島を沈める気なの?軍艦全て沈めていいかしら?」

 

 

「あぁ、幽香は能力で植物と会話も出来るんだったわね。既に手は打ってあるから止めなさい。取り敢えず私達はこのまま待機よ」

 

 

 

『全知の樹』と呼ばれる巨大な木がそびえ立つ考古学者が集まる島・・・オハラの島の沿岸には軍艦が横一列に並んで停泊していた。幽香は能力でこの島の植物達の話を聞いて島自体を気に入り、紫に素晴らしく怖い笑顔で軍艦を沈めていいか聞いてきた。

全く、幽香に今暴れられたらデメリットしかないのよねぇ。今島に政府の役人のスパ・・スッパ?・・・・スッパイダン(スパンダインな?)が居るし、下手に動かれて術壊されたら元も子もないし。

 

 

 

「なぁ紫、あそこにある島の人間達が乗り込んでいる船はなんだい?」

 

 

「あれは確かクザンが言っていた一般人の避難船ね。政府の役人の狙いはこの島でポーネグリフと空白の100年を研究していた考古学者達。だから関係ない一般人達は島の外に避難させている様ね」

 

 

「ふぅ〜ん?あのお兄さんは嘘を吐くのは頂けないがいい奴みたいだねぇ。この後のお仕置きは少し軽くしてやるか」

 

 

「無しにはしないのね・・・」

 

 

 

紫は勇儀の言葉を聞いて苦笑した。しばらく雑談していると軍艦に置かれていた銀色の電伝虫・・・シルバー電伝虫が鳴き始めた。それを聞いて海兵達は慌ただしく動き始め、軍艦も島から少し距離を取って砲塔を島に向け始めた。バスターコールが発動されたのである。

 

 

 

「(いよいよ始まったわね・・・・バスターコール。コング元帥には悪いけど、ここで島を消されちゃうと幽香とおまけで勇儀が第2次戦争を起こしかねないから諦めてもらいましょう。さぁて、忙しくなるわね)・・・ちょっとそこの海兵さん。私は島から逃げようとしている考古学者がいないか調べてくるわ。幽香、後で事情は話すから何があろうと絶対に暴れたりしないで頂戴。勇儀、貴女は悪いけど今日はにとり達の所に帰って頂戴。後でお酒を沢山あげるから」

 

 

「ハッ!!分かりました!!」

 

 

 

呼び止められた海兵は紫に敬礼してすぐに走り去って行き、幽香は黙って頷いた。勇儀は沢山の酒と言う紫の言葉を聞いてゴクリと喉を鳴らし、ウキウキ気分で紫が開いたスキマに入って行った。勇儀が消えたスキマを閉じた後に別のスキマを開いて紫は中に入り、オハラの森の中にいる()の下に移動した。藍はあちこちの木に札を貼り付けており、時折地図を見ながらふむふむと頷いていたが、紫が来た事に気付いて一礼した。

 

 

 

「お待ちしておりました紫様」

 

 

「バスターコールが発動されたわ。準備はどうかしら?」

 

 

「はい、先程の札で陣は完成しました。後は発動するだけです」

 

 

「宜しい。早速発動しなさい。後は手筈通りになさい」

 

 

「畏まりました」

 

 

 

藍はそう答えると近くの木に貼った札に手をかざし、自身の妖力を流して陣を発動させた。紫はそれを確認してクスリと笑い、扇子をパチンと打ち鳴らした。

 

 

 

「さてさて、悪いけど今回は私の自由に動かせてもらうわよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「撃て撃てぇー!!砲弾が尽きるまで撃ち続けろぉー!!!」

 

 

「おい!!早く砲弾を持って来い!!もう無くなるぞ!!」

 

 

 

1人軍艦に残された幽香は砲弾の雨が降り注ぐオハラを黙って見ていた。花が好きであると同時に植物全体が好きな彼女から見ればこの光景は許せない物だ。しかし彼女の顔には怒りの感情は少しも無く、不思議な物を見ているような表情をしていた。

 

 

 

(妙ね・・・あれだけの砲弾を撃ち込まれ、爆発炎上しているのに何故・・・)

 

 

『すごい!すごい!弾来ない!』

 

 

『弾消えた!音がする!でも弾落ちてない!』

 

 

(何故・・・・島の花達の声が聞こえるの?)

 

 

 

風見 幽香は花の妖怪であり、『花を操る程度の能力』を持つ大妖怪。離れているとはいえ微かに花の声を聞く事が出来た。花だって幽香から見れば人間の様なものだ。意思があり、呼吸をし、眠りにつく。だから砲弾を撃ち込まれたともなれば悲鳴が聞こえてもおかしくないのだが、先程から悲鳴は1つも聞こえず、何かに興奮している声が聞こえてくる。

 

 

 

(それに島から・・・藍だったかしら?あの子の妖力を微かだけど感じる。となると・・・・やっぱりあのスキマ妖怪。何かやったわね?まぁ花達が問題無いなら私は何もしないわ。何かあったら軍艦は海の藻屑にしてるけど)

 

 

 

幽香はテーブルに置いてあった紅茶が入ったティーカップを手に取って飲んだ。紫が何をしたか全く見当が付かないが、幽香にとって花が傷付かないのならばそれで良かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・それで?貴方達はどうするのかしら?」

 

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

 

 

口元を扇子で隠して返答を待つ紫の前には沢山のオハラの考古学者達が居た。軍艦からはもう火の海と化している様に見えるオハラは何故か何処も異常がなく、折れたはずの全知の樹も全くの無傷だった。紫に怪我をある程度治療して貰ったオハラの考古学者達のリーダー格に当たるクローバー博士はクローバーの葉っぱの様な髭を撫でながら紫の話について考えて居た。

実は海軍が見ているのは藍が島全体に張り巡らせた札を使った陣によるただの幻である。化かすのが得意な狐の上位互換の藍からすれば偽物の光景を海兵全員に見せるのは簡単な事だった。飛んで来る砲弾は紫が話しながら片手間でスキマで別の場所に転送しており、爆音はスキマが開いた先で爆発した砲弾の音が開いたままのスキマから聞こえて来ただけだ。砲弾が空中で消える現象に驚愕しているクローバー博士達の前につい先程紫がスキマから現れて、状況を説明した後、ある選択肢を出してきた。

 

 

 

『貴方達は死んだと言うことにして、これから先島を出ずに生涯をこの島で終えるか、島を捨てて世界各地に散らばってひっそりと暮らすか、どちらがいいかしら?』

 

 

 

紫はそう言って島の考古学者達に選択肢を与えたのだ。しかし初対面の紫を信用は出来ないし、自己紹介で海軍大佐と自分が海軍である事を明かしている。今しがた政府の役人が発動させたバスターコールで島に砲弾の雨を浴びせている連中の仲間を信じていいものかどうかで迷っている。しばらくすると外からの砲撃音が止み、辺りが静かになった。紫がスキマで指示を出しているサカズキを覗き見すると今度は砲塔を避難船に向けさせていた。

 

 

 

「あらあら、サカズキったら。関係者はみんな悪人って事?まぁ問題無いわね」

 

 

 

紫はそれを見ながら大きめのスキマを開いて避難船の中に繋げた。するとスキマから次々と避難船に乗っていた民間人達が落ちて来て、ちょうど船の中が空っぽになった頃に避難船が砲撃で沈められた。

危機一髪だったわね。もう攻撃はしてこないでしょうし、一先ずは安心ね。

 

 

 

「さて、オハラの考古学者さん達?どちらにするか決まったかしら?」

 

 

 

紫が再びそう聞くと、黙ったままだった考古学者達の中から1人の白髪の女性が歩み出て来た。

 

 

 

「あら?貴女は?」

 

 

「初めましてね。海軍本部大佐の八雲 紫。私はニコ・オルビア。考古学者よ」

 

 

「あらあら、これはご丁寧にありがとう。何か用かしら?」

 

 

「どちらかと言えば質問ね。・・・貴女は何故こんな事を?貴女は海軍。何をしたかは分からないけれど、こんな事をする理由は何?」

 

 

 

あぁ、誰かに似てると思ったら原作のニコ・ロビンのお母さんじゃないこの人?と言うか自分でも自覚してるけどこんな怪しい女によくそんなに堂々と言えるわね。背後で学者達がアワアワしてるわよ?それにしても理由ねぇ・・・

 

 

 

「・・・・・・私が無罪と判断した人間が死ぬのが気に入らないから・・・かしらね♪」


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