大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪の幻と実体の境界

「・・・・じゃあ貴女達はこの島で残りの余生を過ごすって事でいいのかしら?」

 

 

「えぇ、私達考古学者にとって全知の樹にある資料はとても大切な物だから」

 

 

「成る程ねぇ?分かったわ。食糧などはこちらから定期的に送ってあげる。後は私達に任せて頂戴」

 

 

 

結局オルビア達はオハラに残る事になった。紫はオルビア達がその選択肢を選ぶのは想像出来ていた。最初に学者達に選択肢を与えた時も紫を警戒して返答はしなかったが、2つめの選択肢を聞いた瞬間あからさまに嫌そうな顔をした。彼等にとって歴史を研究するのは生き甲斐なのだろう。

 

 

 

「あ、言い忘れていたけど、空白の100年やポーネグリフの研究は今後絶対にしてはダメよ?元々は政府が研究してはいけないと言っているものを無視して研究したのは貴方達なのだから」

 

 

「ウッ・・・仕方ないわね。私から皆んなに言っておくわ。多分研究を止めないと全知の樹の資料を全て捨てられると言えば聞いてくれるわ」

 

 

「貴女意外と凄い事をサラリと言うわね?さっき自分で資料は大切だって言っていたのに」

 

 

 

紫がオルビアの言葉に思わず苦笑いしていると、学者達がどうするか相談している内に偵察に行かせていた藍が紫の近くに降り立って報告した。藍の報告によるとサカズキ達は海軍本部に帰って行ったらしい。念の為耳を澄ませて会話を盗み聞きしていたが、サカズキが紫がまだ戻っていない事を聞いて「紫の事じゃけぇ、どうせ後からクスクス笑いながら出るじゃろ。ほっとけ」と言っていた事ぐらいしか聞き取れなかったらしい。幽香も軍艦に乗ったままだったが、偶々幽香が乗った軍艦を盗み聞きしようとすると「後で詳しく説明して貰うからね?紫にそう言っておきなさい」と恐らく周りの海兵達に聞こえない程度の小声で話していたらしい。

 

 

 

「サカズキは後でしばき倒すとして、幽香はやっぱり藍の妖力に気付いちゃっていたみたいね。他には何か無いかしら?」

 

 

「はい、軍艦が停泊していた沿岸とは別の沿岸にて氷漬けのハグワール・D・サウロ元中将が居ました。幸い発見が早かった為私の狐火で解凍済みですが未だに意識不明のままその場で寝ています。クザン中将の仕業でしょう。後は海が1本の船の道を作るように凍らされていましたが、目的は不明です」

 

 

「(成る程ね・・・ロビンは海に出ちゃったか。流石に今は手を離せないし、今ロビンを連れ戻したら色々面倒な事になりそうね)気にする必要はないわ。あ、そうだ。藍、悪いけど今から各地の島々を回ってお酒を買い集めて来てくれないかしら?代金はガープかクザンに付けときなさい」

 

 

「お酒ですか?何故いきなりお酒なんかを?」

 

 

「勇儀に帰って貰う代わりにお酒を沢山あげるって約束しちゃったのよ。約束を忘れていたならまだしも、知ってて守らなかったら勇儀が怒って暴れ出すでしょう?だから買いに行って欲しいのよ」

 

 

 

紫の説明に藍は「あぁ〜・・・」と苦笑いし、山程積まれた酒樽を一気飲みしては豪快に笑う勇儀の姿が頭に思い描かれた。藍もまだ会ってから1週間程度しか交際は無いが、勇儀の強さと嘘が嫌いな性格、そして異常な程の酒好きな性格は知っている。藍が勇儀と会話する時勇儀は必ず片手に星熊杯を持って中身を飲んでいるし、模擬戦の時は手も足も出なかった。そんな勇儀が怒り狂って暴れる姿を思い浮かべるとゾッとする。それに絶対幽香も「面白そうじゃない♪」なんて言いながら一緒に暴れ出すのは容易に想像出来る。確実にまた島が幾つか海図から消える。

 

 

 

「わ、分かりました。では私はこれから各島々から1番美味しいと噂される様なお酒を買い集めて来ます。後の事は紫様に任せる形になってしまいますが宜しいでしょうか?」

 

 

「私が頼んでいるのだから当然よ。早く買って来なさい。万が一ウォーターセブンなんかの島を沈められたら堪ったもんじゃないわ」

 

 

「ま、まさか。いくらあの鬼でもそんな事・・・・しそうですね今すぐ買いに行って来ます失礼致します紫様!!!」

 

 

 

藍は勇儀が『三歩必殺』を使ってウォーターセブンを海に沈める姿を想像して慌ててスキマを開いてお酒を買い集めに向かった。勇儀の行動は本当に分かりやすい為、こう言った事は簡単に想像出来る。紫は藍がスキマに消えて行くのを見送りながら多額の請求書を送られたガープかクザン、または両方の驚愕する顔を思い浮かべて口元を扇子で隠しながらクスクスと笑った。オルビアは空を飛んで来た9本の狐の尻尾と耳を生やした藍を見て興味深そうに観察し、スキマに消えて行くのを見て紫に質問した。

 

 

 

「貴女達が使っているその目が沢山ある黒い穴みたいな物は何?貴女も悪魔の実の能力者?」

 

 

「これはスキマと言って、分かりやすく説明すればいつでも何処にでも瞬時に移動することが出来る扉の様なものよ。後私は悪魔の実の能力者ではないわ。私はスキマ妖怪と言う種族で、今のは種族特有の力の応用なの」

 

 

「スキマ妖怪?聞いた事ないわね・・・」

 

 

「さぁてと、藍は藍で頑張ってお酒を買い集めてくれてるし、私はサッサとやる事やって帰りましょうか」

 

 

 

紫はパチンと扇子を打ち鳴らして扇子を仕舞い、愛用の日傘を地面に突き刺す様に先端を地面に着ける。紫が静かに目を閉じて妖力を高めて行くと、オハラの沿岸から約30m程した地点から島をぐるりと囲む様に紫色の光の壁が現れた。オルビアや島の住民達はその光景に目を見開いて騒いでいるが、今の紫にはそれらに構う余裕は無かった。

 

 

 

(ッ!!!思ったよりキツイわね。正直出来るかどうか不安になって来たわね・・・・幽香や勇儀を呼んでおくべきだったかしら?)

 

 

 

紫は自身が張る結界と能力をフルに使ってオハラを小さな『幻想郷』の様なものにしようとしていた。

幻想郷とは外の世界から強力な結界で隔離されている妖怪や人間、神、亡霊などが住まう場所の事だ。そして幻想郷を作り上げたのが東方projectで【妖怪の賢者】と呼ばれるスキマ妖怪、八雲 紫だ。ならば転生したとは言え同じ八雲 紫である私でも同じ物とは行かなくても似た様なものなら作れるのでは?と考えたのだ。先ずは今張れる中で海軍の大将の攻撃を受けても傷1つ付かない強度の結界を島を囲む様に張る。言っているだけなら簡単だが、実際にやるとなると術式の作成や妖力の大量消費などでかなり大変なのである。紫の妖力の約7割を使ってなんとか結界を張る事に成功し、妖力の使い過ぎで少しフラフラする頭を押さえながら能力を使って幻と実体の境界を引く。幻想郷は『博麗大結界』と呼ばれる強力な結界を張り、『境界を操る程度の能力』で幻と実体の境界を引いて、外の世界で幻想となった物を引き入れる様にされていた。これは予想ではあるが、外の世界で幻想(・・)となった物を引き入れるとは、逆に言えば幻想にならなければ(・・・・・・)境界の内側に入れなくなるのではと紫は考えていた。ただこれだけやれば海兵達は入る事は出来ないが、念の為に原作同様に結界を張ったのだ。

しばらくの間紫の光の壁は輝きを放っていたが、紫が玉の様な汗を流し始めた頃にそれらは周りの景色に溶け込む様に消えて行った。

 

 

 

「はぁ〜〜・・・・なんとか出来たわぁ。2度とやりたくないけど、もう一度やるとなると勇儀と幽香に手伝って貰いましょう。代わりに割りに合わない様な要求して来そうだけれど・・・」

 

 

「ねぇ、今何をしたの?」

 

 

「うん?島まるごと結界で囲って、外から海兵達や海賊達が侵入出来なくしたのよ。かなり疲れたけれどね」

 

 

 

だらし無くその場に座り込んで休んでいる紫にオルビアが先程の結界について質問したが、紫の説明を聞いても全く理解出来ていない様だった。しばらく紫は妖力が回復するまでスキマで取り寄せたガープのお茶を飲みながら座って休みつつ集まって来た住民達に結界などの事を説明し、妖力が回復した頃には夕方になってしまっていた。

 

 

 

「じゃあ私は結界を確認してから帰る事にするわ。呉々も空白の100年やポーネグリフなんかの研究をしてはダメよ?」

 

 

「分かってるわ。紫に救われた命ですもの。私とクローバー博士で管理しておくわ」

 

 

「うむ、儂もお主には救われたからのう。歴史を解き明かす事が出来ぬのは誠に残念じゃが、此度の一件で若い学者達も大人しくなるじゃろう」

 

 

 

紫とオルビアは妖力を回復させるまでの会話ですっかり意気投合し、今ではお互いに名前で呼ぶ様になった。他の人々もオルビアが紫と楽しそうに話しているのを見て紫との距離を縮ませてくれていた。

 

 

 

「じゃ、また会いましょうオルビア。今度は私の式の藍と橙も連れて来てあげるわ」

 

 

「えぇ、楽しみにしているわ。紫」

 

 

 

オルビアは笑みを浮かべながらフワリと空に舞い上がる紫を見送った。紫は早く帰らないと藍が勇儀の酒飲み相手にされて酔い潰れてしまうと思い、すぐに結界を確認しに行った。20分程で一通り綻びが無いのを確認し、後もう少しで終わると思っていたのも束の間。1人の巨人族の男が巨大な筏を結界の外に出そうと奮闘していた。

 

 

 

「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉ!!!!なんで島から出れねぇデヨ!?いったいどうなってるデヨ!!?」

 

 

「サウロ?そこから先には出れないわよ?」

 

 

「うおぉい!!?ゆ、紫!!?なんでオメェがここにいるデヨ!?この島でいったい何やってるデヨ!?」

 

 

「それはこっちのセリフよ。何やってるのよ貴方は?」

 

 

 

紫の言葉に驚愕してドシンッ!!と地響きを立てて尻餅をついた無人島で5年程サバイバルした様なボロボロの服を着た髭面の巨人族は、紫とそこそこ仲が良かったハグワール・D・サウロだ。サウロは紫に何をしているのかを聞かれてその大きな顔を紫に近付けて大声で話し出した。

 

 

 

「そうだデ!!聞いてくれ紫!!お前が入っている海軍が避難船を・・・」

 

 

「そんな近くで馬鹿デカい声で話すんじゃ無いわよ!!!」

 

 

バキィ!!!「ボンゴレビアンコ!!?」

 

 

 

紫はサウロの頰に妖力を纏わせた日傘を叩き込み、サウロはなぜそんな風になったか分からないがそう言いながらぶっ倒れた。普通の海兵や海賊ならば全身複雑骨折間違い無しの一撃だが、そこは巨人族。日傘を叩きつけられた部分をパンパンに腫らした程度で済んでいた。しかしやはり痛かったらしく、倒れたままシクシク泣いている。

 

 

 

「いでぇデヨ〜〜・・・何も本気で殴らなくても良かったデねぇか?」

 

 

「あら?本気の一撃が欲しかったのかしら?いいわ。好きなだけ叩き込んであげるからそこに正座しなさい」

 

 

「じょ、冗談!!冗談デヨ!!全く、紫は冗談が通じないデヨ!!デレシシシシシシシシ!!!」

 

 

 

再び日傘を振り上げた紫を見てザザザッと後ずさりしながらサウロは笑って誤魔化す。紫はジト目でサウロを見つめていたが、しばらくしてサウロが素直に「すみませんでした。だから勘弁して欲しいデヨ」と謝った為溜め息を吐いて日傘を下ろした。

 

 

 

「はぁ・・・で?貴方は本当に何やってるのよ?一応言っておくけどこの島からは出る事も外から入る事も出来ないわよ?」

 

 

「ん?またオメェの不思議パワーか?いやそれどころじゃねぇデヨ!!早く行かねぇとロビンが・・・」

 

 

「あぁ、ロビンって女の子なら貴方を凍らせた後にクザンが逃したわよ?後避難船がどうのこうの言っていたけど、サカズキが沈めた避難船なら私が中の人間をスキマで移動させたから全員無事よ?」

 

 

「・・・・へ?」

 

 

 

紫がサウロを落ち着かせる為に言った原作知識と自分が行った事は、サウロを落ち着かせるどころか驚愕させるのには十分過ぎた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「デレシシシシシシ♪なんだそうだったデか!そりゃあ良かったデヨ!!デレシシシシシシ♪」

 

 

「良かったじゃないわよ全く・・・」

 

 

 

紫がサウロに氷漬けにされていた間の出来事を一通り教え終わると、サウロは心底嬉しそうに笑った。紫はそんなサウロを見て呆れ果てて額に手を当てながら首を振った。本当に良くなかった。主に先程ついでで教えてもらったサウロが軍艦を数隻沈めたと言う話が。

 

 

 

「なんデヨ紫?島の連中も避難船の連中もみんな無事だったんだろ?なら何も問題ねぇデヨ!!デレシシシシ♪」

 

 

「問題大有りよ。貴方がさっき言っていたロビンって女の子は既に海に出てしまって見つけるのは難しい。それに彼女はオハラの人間よ?ポーネグリフが読める可能性があるあの子を政府が見逃すと思ってるのかしら?」

 

 

「あ〝ッ!!!!」

 

 

「それに貴方、確か軍艦数隻沈めたって言ったわよね?多分政府は彼女が軍艦を沈めたと言って賞金首にするでしょうね」

 

 

「うおぉぉぉぉぉん!!ずまねぇロビン!!俺のぜいでオメェがじょうぎんぐびにぃぃぃぃ!!」

 

 

 

紫が自分の予想をサウロに話したら今度は噴水の様な勢いで涙を流して泣き始めた。耳を塞いでも聞こえる泣き声に紫は嫌そうな顔をして仕方無さそうに自分の提案を挙げた。

 

 

 

「サウロ!!泣き止みなさい!!私がロビンを見つけて出来るだけサポートしてみるから!貴方はこの島で大人しくしなさい!!」

 

 

「うおぉぉぉぉぉ・・ホントだデか?」

 

 

「泣き止むの速いわね・・・本当よ。だから貴方はこの島で大人しく過ごしなさい。あの大きな木の所に行けばオハラの人達がいるから、事情を話して住まわせて貰いなさい。いいわね?」

 

 

「おぉ、おぉ!分かったデヨ!!早速行くデ!!ありがとうデヨ紫ぃ!!感謝するデヨ!!」

 

 

 

紫がロビンをサポートすると聞いた途端にサウロは元気になり、すぐにドシンドシンと足音を出してオルビア達の元へ去って行った。

 

 

 

「はぁ〜〜・・・・これから忙しくなりそうねぇ。早く帰りましょう」

 

 

 

紫は深い溜め息を吐いてからスキマを開いて橙達がいる新しく改装されたにとりの家に向かった。その後、酔っ払った勇儀と忘れ去られて藍が迎えに行った幽香を相手に軽い喧嘩になったのは言うまでもない。


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