大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪と月の兎

バスターコールが発動された2日後、紫は再び仲間探しをする為に島巡りをしていた。ロビン探しもしたかったが流石に同時には出来ない為藍に探してもらう事にした。ロビンは紫の予想通りに賞金首になってしまった。バスターコールの翌日には既に手配書は世界中にばら撒かれ、手配書を見た者達は血眼になってロビンを探し始めた。最初はすぐに見つかると思っていたが、ロビン自身が上手く隠れているからかまだ見つかっていなかった。島巡りを済ませたら紫も捜索に参加するつもりだ。ただ、・・・・

 

 

 

「なんで貴女達も付いて来るのよ?」

 

 

「あら、別にいいじゃない。空を飛べるようになって島への移動が楽になったし、そろそろ珍しい花達に会いたくなったのよ」

 

 

「ゴクッゴクッゴクッぷはぁ!!いいじゃないか紫ぃ♪私だって珍しい酒を飲みたいんだよ」

 

 

「幽香は兎も角勇儀、貴女は2日前に酒を浴びる程飲んだじゃない」

 

 

「アッハッハ♪確かにあの酒は美味かったよ!ありがとうよ紫!」

 

 

 

紫は両隣を飛ぶ花妖怪と鬼をジト目で見ながら痛む頭を押さえていた。因みににとり、村沙、幽香、勇儀は既に海軍に入っている。4人共紫の直属の部下だ。バスターコールが発動された翌日に4人の書類をコング元帥に渡したのだが、にとりと村沙の書類を見た時のコング元帥の顔は非常に複雑なものだったが、幽香と勇儀の書類を見た瞬間、コング元帥は真っ白になってぶっ倒れ、胃を押さえながら担架で医務室へ運ばれて行った。

 

 

 

「『ありがとよ』じゃないわよ全く。貴女に1週間の禁酒令を出そうかしら」

 

 

「おいおい!それはないよ紫!喧嘩と酒は私の生き甲斐だよ?私の生き甲斐の1つを奪おうってのかい?」

 

 

「私は紫に賛成よ。貴女私の分のお酒まで全部飲んだじゃない」

 

 

「ちょ!?幽香までそんな事言うなよぉ〜〜」

 

 

「貴女がもう少し自重すれば出さないであげるわ。それより2人共、島が見えて来たわよ」

 

 

 

紫の視線の先には1つの島が見えた。紫が海図をスキマから取り寄せて島の名前を確認した所、どうやら『ホーライト島』と言う人が住む島らしい。紫はスキマに海図を放り込んでサッサと飛んで行った。幽香と勇儀もその後を追ってホーライト島へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

島に降り立った紫達の第1の感想は、『薬品の匂いがする』だった。島の町はそれなりに活気があり、子供が走り回る光景から老人が茶店でお茶を飲みながら「フォッ、フォッ、フォッ」と笑っている光景まで見れた。しかし店の割合は野菜や肉を売る店が2、家具や日用品を売る店が2、漢方薬などの薬屋が5、その他が1と、半分が薬関係の店なのである。

 

 

 

「なんだいなんだい?この薬屋の数は?酒を売る店なんか一軒しかないよ?」

 

 

「多分この島は薬草か何かが豊富に取れる島だから薬関係の技術が発展したんでしょうね・・・・っと!幽香?貴女変に暴れたりしないでよ?」

 

 

「しないわよ。確かに薬には花の花弁や茎、根っこなんかを使う事があるけれど、あの子達は人間を癒す薬になる事を喜んでいるから大丈夫よ。ちょっと複雑な気持ちになるけどね」

 

 

「へぇ〜?花にもいろんな考え方があるんだねぇ〜?」

 

 

 

勇儀がキョロキョロと辺りを観察しながらそう言っていると、突然幽香の目つきが変わって足元の小石を拾って一軒の薬屋に思いっきり投げた。ビュンッ!!と風を切って飛んで行った小石は店の奥の方へ消えて行き、「アベシッ!!?」と言う男性の悲鳴が聞こえ、その店の周りに何事かと沢山の人が集まり始めた。

 

 

 

「ちょ!!ちょちょちょちょっと幽香!?話が違うじゃないの!?さっき大丈夫だって言ってたわよね!!?」

 

 

「あそこの店は適当な花を磨り潰して水の中に入れて混ぜたただの色水を売っている店だったから例外よ。例外」

 

 

「いや例外だからってあんな事したらダメでしょう!?あの店の人間死んだんじゃないかしら!?」

 

 

「ちゃんと手加減したわよ?精々後頭部の裂傷程度の怪我よ」

 

 

 

慌てる紫を無視して幽香はスタスタと歩みを進めた。紫は額に右手を当てながら深い溜め息を吐いて幽香の後に続いた。勇儀もそれに続こうとしたが、先程石を投げ込まれた店の方から煙の匂いと騒がしい声が聞こえて来た為振り返った。勇儀が振り返った視線の先では先程石を投げ込まれた店が何故か大炎上しており、周りの人間達が必死に水を掛けたりしていた。

 

 

 

「なぁ幽香。なんかさっきの店が大炎上しているんだが?」

 

 

「・・・・・・離しなさい紫。私は何も悪くないわ」

 

 

「それはあの光景を見てから言ってもらいましょうか?」

 

 

「・・・・・・ッ!!!!」

 

 

「あ!!逃げたわ!!勇儀追いなさい!!」

 

 

「えぇ〜〜?私は別に気にしな「後でワノ国の美味しいお酒をあげるわ」待ちな幽香ぁ!!私の酒の生贄となれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

 

紫の手を振りほどいて逃走した幽香を勇儀は猛スピードで追いかけて行った。紫はスキマから紙とペンを取り寄せて『ワノ国で適当なお酒を1本買って来て』と書き、藍へ送った。今藍はウォーターセブンにて橙達の弾幕の練習を見ている為ここには居ないのだ。

 

 

 

「さてと、私は妖怪探しをしましょうか。・・・・あ、ちょっとそこのお爺さん?この島で能力者の噂はないかしら?」

 

 

 

紫は近くの茶店でお茶を飲んでいたお爺さんに質問した。お爺さんはズズ〜〜ッとお茶を飲んでからゆっくりとした動作で紫の方を向いた。

 

 

 

「ん〜?今日の夕飯は婆さんの特製お茶漬けじゃ」

 

 

「あぁ〜違う違う。私が聞きたいのは、この島で悪魔の実の能力者は居ないかと言う事なの」

 

 

「ん〜?今日の天気は雨じゃぞ。婆さんが言っておった」

 

 

「思いっきり晴れてるわよ?・・・・じゃなくて!この島で!悪魔の実の!能力者の!噂はありませんか!?」

 

 

「ん〜?あぁ、婆さんはずっと前に死んでおったわ。フォッフォッフォッ・・・・グスン」

 

 

「話が噛み合わない・・・・と言うかお婆さん亡くなっていたのね」

 

 

 

紫は全く話が噛み合わないお爺さんを苦笑いしながら見ていた。お茶を飲みながら泣き始めたお爺さんをどうするか迷っていると、茶店の奥から1人のお婆さんが出て来た。お盆にお茶の入った湯飲みとお菓子を乗せて持って来ているところを見るとこの茶店の主人だろう。

 

 

 

「ほれ、お爺さん。お茶とお菓子ですよ」

 

 

「おぉ、婆さん。明日の夕飯はまだかのう?」

 

 

「明日まで待って下さいお爺さん。おや?見ない顔だね。旅人かい?」

 

 

「えぇ、もうどうでもいいわ・・・・それよりお婆さん。この島で悪魔の実の能力者の噂か何かは無いかしら?」

 

 

 

先程死んだと聞いていたお婆さんが来た事に頭を抱えながらも今度はお婆さんに質問した。お婆さんはお茶とお菓子をお爺さんに渡すと顎に手を当てて考え始めた。

 

 

 

「そうじゃのう・・・・能力者の噂は無いが、化け物の噂はありますのじゃ」

 

 

「・・・・化け物?」

 

 

「そうですじゃ。姿を見た者はおらぬが、この島で1番深い森に入ると急に周りの景色が歪みだし、気を失うと森の入り口で目が覚めるのじゃ」

 

 

「成る程ねぇ・・・その森には何かあるのかしら?」

 

 

 

紫はお婆さんに再び質問した。お婆さんが快く教えてくれる隣でお爺さんがお菓子をパクパク食べている。

 

 

 

「その森には大昔に亡くなった医者が経営していた薬屋があるんじゃ。島の若い衆はそこの医者が遺したであろう薬の調合方法を手に入れようと森に入っておったが、今じゃ誰も近寄らん。今思えば、その化け物とやらはその医者の薬屋を若い衆から守っているのかもしれんのう」

 

 

「(景色が歪む、医者、薬屋・・・となるとあの2人?でも片方死んでるって事になってるし・・・どちらにせよ行くに変わりないけどね)ありがとう。その森って何処にあるのかしら?」

 

 

「あんたまさか行く気かい?まぁ止めはしないけどね・・・・・見えるじゃろう?あの山の麓にある森が・・・」

ドガアァァァァァァァァァァン!!!!!

 

 

 

お婆さんが指を差した山の麓で大爆発が起きた。お婆さんは目玉が飛び出す程驚愕し、周りの人々も噴火の様な大爆発をポカンと眺めていた。お婆さんが指を差した山の方向は・・・・幽香と勇儀が走り去って言った方向だった。

 

 

 

「あんのバカ共・・・・って言ってる場合じゃないわ!!私の予想が正しかったらあの山の麓にある森に住む化け物って!!!」

 

 

 

紫は慌ててスキマを開いて大爆発が起きた現場に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

紫がスキマから出た先で見たのは幽香と勇儀が何かと殺り合っている姿だった。紫には何も見えないが、2人は何かにイライラしながら辺りの木々や岩を拳と日傘で粉砕しまくっている。

 

 

 

「オリャアァァァァァァァァァァァア!!!!どいつが本物だい!!?サッサと出て来なぁ!!!」

 

 

「全く腹が立つわね!!いい加減にこの変な力を解きなさい!!今なら頭蓋骨粉砕で許してあげるわ!!!」

 

 

(え?何この状況?2人共何やってるのよ?)

 

 

 

紫は今も人間の倍はある大きさの巨石を粉砕する勇儀と、虚空へマスタースパークを放って遠くにある山の頂上を少し削り取っている幽香を見ながらそんな疑問を抱いた。2人は明らかに何かを睨みつけながら攻撃を繰り返しているが、紫にはその姿は全く見えなかった。じっくり辺りを観察していると、少し離れた岩の陰から飛び出す2本の白くて長い物を見つけた。それは中間辺りでへにょっと折れ曲り、ガタガタ震えていた。紫が飛びながら岩の陰を覗き込むと、ウサギの耳を生やした紫色の髪をした少女がガチ泣きして居た。近くにはベキベキに折れ曲がったライフル銃が転がっている。

 

 

 

「な、なんなんですかあの人達はぁ〜〜!?こんなデタラメな力を持った人間がなんでこの森に来てるんですかぁ〜〜!?ふえぇぇぇぇん!!」

 

 

「やっぱりこの子が犯人か・・・・ちょっとそこのウサ耳のお嬢さん?ちょっとお話しいいかしら?」

 

 

「ヒィ!!?み、見つかった!?わ、わわわ私は食べても美味しくないですよ!!?」

 

 

 

紫に声を掛けられた彼女はウサ耳をビクッと震わせてから後退りした。服装は白のブラウスに赤いネクタイを締め、黒色のブレザーをその上に着用している。ブレザーの胸元には三日月形のブローチを付けており、下は薄桃色の、膝下くらいまでのミニスカートを着用している。足元は三つ折りソックスと茶色のローファーを履いていた。髪は足元に届きそうな程長い綺麗な紫色で、黄色いボタンが付いた白いヨレヨレのウサギの耳を生やしていた。そして涙を溜めたその瞳は美しい紅い瞳をしていた。彼女は東方Projectに登場する『月の兎』。【狂気の赤い瞳】の2つ名を持つ鈴仙・優曇華院・イナバである。

紫は鈴仙を落ち着かせる様に優しく微笑みながら口を開いた。

 

 

 

「落ち着きなさい。別に貴女を食べるなんて酷い事はしないわ。私は八雲 紫。あそこで暴れている2人の連れよ」

 

 

「ふぇ?あ、ご丁寧にどうも。私は鈴仙・優曇華院・イナバです」

 

 

「そう、よろしくね鈴仙さん。急で悪いのだけれど、あの2人にかけた能力を解除してほしいのよ」

 

 

「ッ!!?何故それを知っているんですか!!?」

 

 

 

鈴仙は紫の言葉を聞いて一気に警戒心を上げ、後方へと距離を取った。紫は鈴仙の眼を見ない様に注意しながら答える。

 

 

 

「それは私や彼女達も貴女と同じだからよ。貴女、その能力を持っていても海や川で溺れる事なく泳げるし、能力を使えるでしょう?」

 

 

「それはどう言う事ですか?」

 

 

「ちゃんと説明するから先ずはあそこの2人に使っている能力を解除して頂戴。あのままじゃこの島海図から消えるわよ?」

 

 

「え?・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!しまったぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

鈴仙は紫に指摘されて幽香と勇儀の方へ視線を向けると、2人が暴れる場所を中心にクレーターや地割れが出来ていた。周りの木々や岩は粉々に粉砕され、遠くの山は既に1つ消えていた。鈴仙は慌てて能力を解除すると、2人は暴れるのを止めた。

 

 

 

「ありゃ?あのウサギ娘は何処に行った?・・・おぉ!?なんだいこの有様は?まるで怪物が暴れた後だねぇ?」

 

 

「どうやら能力は解除された様ね・・・・あら?紫と・・・ふふふ♪さっきのウサギちゃんじゃない♪あんな変な能力を使っといて逃げないなんていい度胸じゃない♪」

 

 

「ヒィ!!?」

 

 

 

幽香の物凄く怖い笑顔を見て鈴仙はビクッと肩を震わせて紫の背後に隠れた。普通初めて会う妖怪の背中に隠れるのはおかしいのだが、幽香の殺気を受けた鈴仙にとって隠れられたらなんでも良かったのである。勇儀も鈴仙を見つけてニヤリと笑いながら歩み寄り、幽香も日傘をクルクル回しながら紫達に歩み寄って来た。しかしその歩みは紫の顔を見て止まった。

 

 

 

「あらあらあら?貴女達随分派手に暴れてくれたわねぇ?」

 

 

「ゆ、紫?なんで怒ってるんだい?私が何かした?」

 

 

「自分の胸に聞いて見なさい酔っ払い鬼。貴女もよ幽香?マスタースパークで消えたあの山・・・いったいどうする気かしら?」

 

 

「あ〜・・・それは・・・」

 

 

 

幽香と勇儀はバツが悪そうに紫から視線を逸らした。しかし逸らした先には自分達が暴れた爪跡があった為何とも言えない気持ちになった。

 

 

 

「取り敢えず、幽香は1週間みんなの食事作り。勇儀は1週間の禁酒とします。異論はあるかしら?」

 

 

「「・・・・無いです」」


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