大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪と蓬莱人

「ところで、貴女はこの森で何してるのかしら?後人を盾にするのはどうかと思うわよ」

 

 

「ふぇ?あ、すみません!!」

 

 

 

紫は頭を抱えて「やってしまった」と自分の行いに後悔している幽香と、星熊盃とお酒を没収されてシクシク泣いている勇儀をよそに未だに自分を盾にしている鈴仙にそう質問した。紫の声にハッと気付いた様に慌てて紫から離れて謝った。

 

 

 

「えっと、私がこの森にいる理由ですよね?私はこの森でお師匠様の家に近寄る連中を追い返しているんです!」

 

 

「お師匠様?それって大昔に亡くなったって言うお医者様の事かしら?」

 

 

 

紫は茶店のお婆さんが言っていた話を思い出して鈴仙に質問した。すると鈴仙は綺麗な紅い瞳を丸くさせて「へ?」と首を傾げた。

え?何この反応?

 

 

 

「何を言っているんですか?私のお師匠様は死んでませんし、これから先絶対に死んだりしませんよ?」

 

 

「え?だって町で聞いた話だと大昔に亡くなったって・・・もしかしてその人の子孫?」

 

 

「?いいえ?お師匠様はもう2、300年以上生きてますよ?」

 

 

 

鈴仙は訳が分からないと言いたげな表情だが、紫自身も町での話と鈴仙の話が噛み合わない事に疑問符を浮かべている。しばらく紫は考えたが、とりあえず鈴仙にそのお師匠様とやらの所に案内してもらう事にした。

 

 

 

「鈴仙さん、私達をそのお師匠様の家に連れて行ってくれないかしら?」

 

 

「えぇ!!?ダメですよ!!お師匠様の所に行かせない為に私が居るんですから!!」

 

 

「さっきまで幽香と勇儀の暴れっぷりに涙目になって岩の陰でガタガタ震えていたとは思えない堂々とした言葉ね。もう一度あの2人に暴れさせましょうか?」

 

 

「だ、ダメです!わ、わわ私は・・おおおお師匠様の所にい・・・行かせる訳には・・・・」

 

 

 

鈴仙は先程の光景を思い出したのかガタガタ震えながらも案内する事を拒否する。ちょっと可愛いと微笑みながら鈴仙を見ていると、木の陰から1本の矢が紫に向かって飛んで来た。矢は紫の頭部にまっすぐ向かって飛んで行っていたが、紫と矢の間にスキマが開き、飛来する矢を呑み込んだ。

 

 

 

「ちょっと?いきなり矢を放つなんて初対面の妖怪に失礼じゃないかしら?」

 

 

「初対面だからこそ警戒して放ったのよ。それにしても面白い物が観れたわね・・・・それが貴女の悪魔の実の能力かしら?」

 

 

「ふぇ!!?お、お師匠様ぁ!!?なんでお師匠様がここにいるんですか!?」

 

 

「あれだけ爆音や地震が起きれば誰だって気付くわよ。ここに来たのは優曇華が心配になったからよ」

 

 

 

紫が少し不機嫌そうな顔をしながら矢が飛んで来た木の陰に話し掛ける。すると木の陰から綺麗な長い銀髪を三つ編みにした少女が弓と矢を手にしながら現れた。服装は青と赤から成るツートンカラー。上の服は右が赤で左が青、スカートは上の服の左右逆の配色となっており、袖はフリルの付いた半袖で、スカートには様々な星座が描かれている。頭には同じく青ベースで前面中央に赤十字マークのツートンのナース帽を被っていた。彼女の名前は八意 永琳。東方projectのキャラクターで、【月の頭脳】の2つ名を有する月人で、不老不死の蓬莱人である。

 

 

 

「よく間違えられるのだけれど、私は悪魔の実なんか食べていないわ。私の能力は鈴仙さんと同じ様なものよ」

 

 

「ッ!!へぇ?優曇華と同じなのね?・・・・ふむ、興味深いわね。ここでは話しにくいでしょう?私の家に案内するわ。ついていらっしゃい」

 

 

「うぇ!!?ちょっと師匠!?いいんですか!!?」

 

 

 

永琳は紫を興味深そうに上から下までジックリ観察してからニコリと笑いながらそう言った。鈴仙は慌てた様子で聞き返すが、永琳は答えを変えなかった。

 

 

 

「いいのよ優曇華。あぁ、自己紹介がまだだったわね。私は八意 永琳よ」

 

 

「初めまして永琳さん。私は八雲 紫。スキマ妖怪よ」

 

 

「呼び捨てでいいわ。優曇華の事も好きに呼びなさい」

 

 

 

永林は未だにオロオロしている鈴仙の腕を掴むとスタスタ歩き始めた。紫も遅れない様に復帰した幽香と一緒にまだシクシク泣き続けている勇儀を引きずりながらついて行った。

 

 

 

「ちょっと勇儀!いい加減にシャンとしなさい!」

 

 

「うぅ〜酒ぇ〜〜〜・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

ホーライト島のとある森の奥地にある小さな薬屋、そこに紫と幽香、そして勇儀は家主の八意 永琳に招待されてお邪魔していた。紫と幽香は鈴仙が入れたお茶を飲みながら永琳と鈴仙に妖怪の事や、弾幕、能力の事を一通り話していた。ちなみに勇儀は1週間の禁酒令は相当答えたのかボーッと窓から空を見上げていた。かなり重症である。

 

 

 

「月の兎・・・『玉兎』ねぇ?私は優曇華を昔この島の森の中で拾ったのだけれど・・・優曇華?貴女月にいたの?」

 

 

「う〜〜ん?どうなんでしょうか?私は気付いたら師匠に助けられてましたし・・・」

 

 

 

永琳から聞いた話なのだが、鈴仙は180年程前に森の中で血を流して倒れている所を偶々薬草採取に来ていた永琳に拾われ、治療して面倒を見ていたら永琳を『師匠!』と呼ぶようになって一緒に暮らす事になったらしい。

 

 

 

「まぁ、種族がそうなだけで別に貴女が本当に月に住んでいたかなんて知らないわ。それより私は永琳の種族の方が珍しいと思うわよ?」

 

 

「あぁ、『蓬莱人』ってやつね?確かに私は昔作った薬を飲んでから首を切り落としても死なないし、怪我をしても一瞬で治るものね」

 

 

「それより貴女はその薬を飲むまでただの人間だったのよね?人間が薬飲んだだけで妖怪になれるものなの紫?」

 

 

「ん〜〜・・・まず蓬莱人って不老不死の人間って事で、妖怪に分類されるのか微妙なのよね。まぁ人間から妖怪になる事は無い訳ではないわ。例えば、なんらかの事故で死んでしまったが、この世に未練があれば霊になるとかね?」

 

 

 

幽香の疑問に曖昧に紫は曖昧に答えた。紫はお茶をズズ〜〜ッと飲んでからふと自分がこの島に来た理由を思い出した。この島に来てからまだ2時間も経っていないのだが、火事やら島の危機やらですっかり忘れていた。

 

 

 

「あ、そうだ忘れてた。永琳と鈴仙、貴女達私の仲間にならない?」

 

 

「先ずいきなりそんな事を口にした理由を説明して頂戴」

 

 

 

永琳は紫に「何を言いだすんだ?」と言いたげな視線を向けていた。鈴仙は突然の勧誘にキョトンとしており、幽香は自分も忘れていた為「あっ」と零した。勇儀に至っては先程から一言も話していない。

 

 

 

「まぁ簡単に言うと、私達妖怪はこの世界にもう16人程しか居ないのよ。貴女は妖怪と呼んでいいのかはこの際置いといて、出来たら一緒に行動したいと思ったのよ。それに私海軍にいるんだけど、信用出来る仲間がいないから欲しいとも思って」

 

 

「成る程ね。いいわよ」

 

 

「あら?思ったよりアッサリしているわね?てっきり自分専用の研究施設とかを要求して来ると思ったわ」

 

 

 

ほぼ即答した永琳に紫は意外そうな顔をする。永琳はテーブルの上に置かれている煎餅を齧りながら理由を話した。

 

 

 

「いえね?私は薬剤師であると同時に医者なのよ。今は町になっているけれど、私も昔はあそこがまだ小さな村だった頃に住んでいて、毎日薬を作ったり、運び込まれた怪我人や病人を治療してたの。でも私がその・・・蓬莱人?になってから一緒に暮らして行く事が出来なくなっていって、ここに引っ越して来たのよ。でもこんな所にいても患者は来ないでしょ?だから海軍に入って実験だ・・・患者の治療した方がいいと思ってね」

 

 

「理由は理解したわ。それより今実験台と言おうとしなかったかしら?」

 

 

「言ってないわよ?私はただ海軍で人体実験・・・じゃなかった海兵達の傷を癒してあげようと思っているだけよ?」

 

 

「今完璧に人体実験って言ったわよね?貴女本当に医者?」

 

 

 

紫は苦笑いを浮かべながらニコニコ笑っている永琳を見る。隣の鈴仙は何故か顔を青くさせているのだが、何かあったのだろうか?

 

 

 

「あ、そうだわ。ねぇ紫、貴女達の話では私と優曇華には能力があるのよね?どんな能力なのかしら?」

 

 

「あら?言ってなかったかしら?先ず永琳、貴女は『あらゆる薬を作る程度の能力』。薬剤師や医者にはピッタリの能力ね。次に鈴仙、貴女は『波長を操る程度の能力』よ」

 

 

「あれ?てっきり私は相手に幻覚を見せる能力だと思ってました」

 

 

「貴女の能力は思ったより凄いものよ?音や光、物質の波動、精神の波動などの波の波長、位相、振幅、方向を操れるのよ。光や音の波長を操り幻覚や幻聴を引き起すのみならず、光を収束してレーザーを打ち出したり、精神破壊効果のある弾丸を放ったり、完全に見えなくなったり、逆に分身したり、バリアを張ったり、波長で人妖を感知したり、位相をずらすことで相手と全く干渉しなくなる事も出来るの。かなり便利な能力ね。あぁ、強い能力だからって調子に乗ってはだめよ?貴女さっきも幽香と勇儀に幻覚見せて危なかったじゃない」

 

 

 

紫の言葉に鈴仙は自分の手を見ながら目を輝かせていた。自分の能力がそこまで強いとは思っていなかったのだろう。しかし幽香と勇儀の名前が出た瞬間肩をビクッと震わせてからダラーッと冷や汗を流し始めたので先程の光景を思い出したのだろう。

 

 

 

「まぁ兎に角、仲間にはなってくれるのよね?」

 

 

「えぇ。後出来たら弾幕と言う物を教えてくれないかしら?」

 

 

「いいわよ。ちょうどいいから幽香、勇儀と弾幕使った勝負しなさい。結界張ってあげるから」

 

 

「はぁ!?ちょっと紫!勝手に決めないでちょうだい!!」

 

 

 

いきなり弾幕勝負を勇儀とやれと言われて幽香は抗議する。睨み付けてくる幽香を見ても紫はクスクス笑いながらお茶を飲む。

 

 

 

「別に構わないでしょう?私が結界を張っておくから周りに被害は及ばないわ」

 

 

「そう言う問題じゃないわよ!貴女私を戦闘狂だと思っているのかしら?」

 

 

「え?違うの?・・・まぁ永琳達に教える為だと思ってやって頂戴?ほら、勇儀だってやる気満々じゃない」

 

 

 

紫が勇儀の方へ畳んだ扇子の先を向けながらそう言った為幽香は勇儀の方を向いた。

 

 

 

「手に指がなんで10本もあるか知ってるかい?それはねぇ・・・」

 

 

「・・・・・・ほらね?やる気満々でしょう?」

 

 

「どこがよ!?全然関係ない事呟いてるじゃないの!!・・・・って、本当に勇儀は大丈夫?なんか誰もいない所見ながら意味の分からない事の説明し始めているけど?」

 

 

「多分大丈夫よ。じゃあそうねぇ・・・・弾幕勝負で勝った方はさっきの罰を無かった事にするのはどうかしら?」

 

 

 

紫の発案を聞いて幽香はニヤリと笑い、虚空に向かって説明を続けていた勇儀もピクッと肩を震わせて凄い目をして顔を紫の方へ向けた。

 

 

 

「成る程ね・・・乗ったわその勝負。勇儀はどうするのかしら?」

 

 

「勿論やるさ!!悪いな嬢ちゃん!お話はここまでだ!!さぁ幽香やるよ!!私のお酒の為に!!!」

 

 

「じゃあ結界を張るから外に出なさい。あ、今回は永琳と鈴仙に弾幕を見せる為だから接近戦は無しよ」

 

 

 

勇儀は肩をグルグル回しながら外へ出て行き、幽香達もその後に続いた。その時ふと誰かに見られているような感じがして紫は部屋の中を見回したが、特に変わりなかった為気にせずに外に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後・・・

 

 

「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁおらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!罰は無しだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 

 

「イタタタタタ・・・・何よこいつ?いつもより強かったわよ?」

 

 

 

30分間の弾幕勝負の結果、勇儀が勝利した。幽香は少しボロボロになりながらも天に向かって喜びの雄叫びを上げる勇儀を呆れた様子で見ている。

 

 

 

「あらら、まさか勇儀が勝っちゃうとはねぇ。まぁ約束は約束だから仕方ないわね。はい、盃とお酒」

 

 

「やったぁ!!ングッングッングッぷはぁ!!!これだよこれ!!これがないとやってられないよねぇ!!」

 

 

 

スキマから星熊盃と適当なお酒を取り出した瞬間勇儀は目にも留まらぬスピードで紫の手からお酒の瓶と星熊盃を奪う様に取って酒を飲み始めた。紫は先程まで自分の手にあった物が消えた事に目をパチクリしながら自身の手と勇儀を交互に見た。永琳と鈴仙は先程の弾幕勝負を見て感じた事を2人で話し合っていた。

 

 

 

「あれが弾幕ですか。なんだか綺麗でしたねお師匠様」

 

 

「確かに綺麗だったわね。それに銃弾程早くはないけれど密度が桁違いだから避けるのはかなり難しそうね」

 

 

「紫、新しい服を出してちょうだい」

 

 

「はいはい、ちょっと待ちなさい幽香。今出すから」

 

 

 

幽香は紫の所にやって来てボロボロになった服の替えを要求し、紫はスキマを開いて幽香の着替えを取り寄せていった。そこでふと再び誰かの視線を感じて辺りをキョロキョロ見渡した。

 

 

 

「ん?どうしたのよ紫?何かいるの?」

 

 

「・・・・なんでもないわ。はい着替え」

 

 

 

紫はしばらく一点を見つめていたが、すぐになんでもないと答えて幽香に代え着替えを与えた。


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