大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪と無意識少女

幽香と勇儀が弾幕ごっこを行って数日経過した日の午後3時頃、紫と幽香と勇儀の3人は、穏やかな海の上を飛んで次の島を目指していた。仲間になってくれた永琳と鈴仙の2人は手早く荷物を纏めると紫のスキマを通って海軍本部へ向かった。なんでも早く人体実け・・・ゲフンッ!ゲフンッ!診察や治療をしたかったらしい。その為弾幕ごっこの翌日には海軍に入隊して医務室にて仕事を行なっている。よって、偶に手術室から断末魔の叫びの様な何かが聞こえるようになった事を除いて、海賊との戦闘や事故によって受けた怪我をしたり体調を崩した海兵達はすぐに回復して仕事に復帰するようになったのである。

 

 

 

「ねぇ紫ぃ〜〜?次の島はまだ見えないのかい?」

 

 

「この分だと今日の夜ぐらいに着くかしらね」

 

 

「と言うか紫、貴女のスキマならあっという間に次の島に行けるんじゃないの?どうして態々飛んで行く必要があるのよ」

 

 

 

海図を見ながら飛んでいる紫に少し後ろを飛んでいる幽香が疑問を口にした。その隣を飛んでいる勇儀も「それもそうだね」と言いながら星熊盃の酒をゴクゴクとジュースの様に飲む。

 

 

 

「あぁ、それは海図に載っていない島があるかもしれないからよ」

 

 

「海図に載っていない島ぁ?そんなの見つけてどうするんだい?宝物でも探すのかい?」

 

 

「勇儀、貴女私が島を巡っている理由覚えてるかしら?その海図に載っていない島に妖怪が居たらどうするのよ。実際藍を見つけたあの島だって、後から調べたら海図に載っていなかったし」

 

 

 

紫が呆れた様子で海図から視線を外して勇儀に話した。勇儀と幽香は納得して『ふぅ〜ん』と言うと興味が失せたのか海上を見回したり酒を飲んだりし出した。それから数十分飛んでいると、1つの島が見えて来た。

 

 

 

「お!紫、あれが次の島かい?それにしては人が住んでそうに見えないけど」

 

 

「いいえ。私達が目指している島はまだ先。それにその島はそれなりに広い町があるからあの島は全く別の島よ。それにこの辺りに島なんて海図に載っていないし・・・・よし!2人共、あの島に行きましょう♪」

 

 

「まぁ、今までの流れから見て当然ね。さっさと行きましょう」

 

 

 

そう言いながら島に向かって降りて行く幽香に勇儀と紫は続いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜〜ん、本当に何も無いわねぇ。この島もハズレかしら?」

 

 

 

紫は現在、3人に分かれて島を散策していた。島は思ったよりも広く、森の中に足を踏み入れてみれば様々な動物を目にする事も出来た。小さいものでリスや鈴仙・・・じゃなかった野ウサギ。大きいもので熊やトラ、チーターやゴリラなんかもいる。何故こんな島に熊は兎も角チーターやゴリラが生息しているのかは不明だが、紫はこの世界がONE PIECEと言うアニメの世界だと分かっているのであまり気にしない事にしている。最初は森に足を踏み入れた瞬間にトラなどの肉食動物が紫達に襲い掛かったが、紫がニッコリと笑いながら妖力と殺気を少し解放しながら「失せなさい」と言った瞬間に全員我先にと逃げ出した。それから3人分かれて島を散策しているのだが、今の所収穫無しだ。

 

 

 

「幽香と勇儀は何か見つけたかしら?出来たら責めて珍しい物でも見つけたいわね。打出の小槌とか宝塔とか落ちていないかしらね・・・・今一瞬本当に宝塔が落ちていそうと思ったのは何故かしら?」

 

 

 

紫がそんな事を呟きながらしばらく歩き続けていると、少し大き目の洞窟を発見した。しかもよく見るデコボコした自然に出来た物ではなく、足下は平らに整地された明らかに人工的な穴だ。

 

 

 

「へぇ?こんな所に私達より前に来た人間が居たのね。何か残って居ないかしら?」

 

 

 

紫はスキマからランタンを取り出して火を灯し、暗い洞窟の中に足を踏み入れた。ちょっとだけワクワクした様子で洞窟を進んでいると、突然足下に穴が開いて紫は穴の中へと落ちて行った。

 

 

 

「よっと!ふふふ♪よく出来た落とし穴ねぇ。やっぱりこういった洞窟って何かを保管したりしてそれを守る為に罠が張ってあるものなのかしら?」

 

 

 

紫は穴に落ちた直後にスキマを開き、穴の外に出て自分が落ちた落とし穴を興味深そうに観察した。穴を覗いてみると底の方に鉄製の針があり、2体程の骸骨があった。

 

 

 

「完全に殺しに来ているわね。ま、こんな罠なんて私には効果無いんでしょうけど『ヒュンッ!!パシッ!』・・・ほらね?」

 

 

 

紫がクスクス笑いながら呟いていると紫のこめかみを狙って1本の矢が放たれたが、片手で紫に止められた。矢を道端に放り捨てて再び歩き出すと、巨大な岩が転がって来たり、天井が落ちて来たりと色々な罠が紫に襲い掛かったが、全て無力化していた。

それにしてもこんな罠仕掛けた人間はいったい何を考えているのかしら?何かを守る為に仕掛けたって言うのは分かるけれど、これじゃあ自分も取りに来れないじゃない。それにこんな罠に守られている物が気になるわね。何かの悪魔の実?伝説の宝?それとも罠を仕掛けた奴の黒歴史ノート?・・・・ごめんなさい。最後のはちょっとふざけてみただけよ。

紫が毒ガスが充満している部屋を抜けてから10分程進むと、頑丈そうな鉄の扉があった。おそらくこの扉の先に何かあるのだろう。

 

 

 

「ふ〜ん?なかなか丈夫な扉ね。鍵が掛かってるみたいだけど、私には関係無いわ」

 

 

 

紫はコンコンと鍵の掛かった鉄の扉を叩いていたが、スキマを開き、鉄の扉完全無視して中に入った。暗い部屋をランタンの明かりで照らすと、金の延べ棒やらダイヤやルビーなどの宝石の山が部屋の大半を占めていた。

 

 

 

「あらあら、凄い数ね。これコング元帥やガープ達のお土産にしましょう。サウロが沈めた分の軍艦の補充の足しにはなるでしょう」

 

 

 

紫は部屋の中にある宝の山を全てスキマの中に放り込み、懐から懐中時計を取り出して時間を確認する。

 

 

 

(午後6時27分。そろそろ幽香達も散策を終えている頃ね。私も早く帰りましょうか)

 

 

 

紫は懐中時計を懐に戻して再びスキマを開き、洞窟内から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや?幽香、もう戻って来てたのかい?」

 

 

「あら勇儀、お帰りなさい。えぇ、面白い物を収穫したからね。そっちはどうだった?まさか手ぶら?」

 

 

 

砂浜にあった大岩に座って海を眺めていた幽香に相変わらず星熊盃に注いだ酒を飲みながら勇儀が森の中から戻って来た。幽香は手に星熊盃と酒瓶しか持っていない勇儀を見ながら収穫はどうだったか質問すると、勇儀は少し気不味そうに視線を逸らした。幽香はそれを見て訝しげな顔をする。

 

 

 

「貴女もしかして・・・今の今まで酒を飲んでサボってたりした?」

 

 

「うぇ!?あ・・えっと・・・その〜・・・・」

 

 

「あらダメよ幽香。勇儀は嘘を吐けないんだから。言い辛そうにしているなら幽香の言った通りって事よ」

 

 

「うおぉ!!?」

 

 

「ふふふ♪あら紫、お帰りなさい」

 

 

 

目の前にスキマを開いて上半身だけ出て来た紫に勇儀は驚いて距離を取り、幽香はその様子を見てクスクスと笑っていた。紫も勇儀の反応に口元を扇子で隠しながらクスリと笑って開いたスキマに腰掛けた。

 

 

 

「さてと、勇儀は手ぶらとして、幽香はどうだった?私はなんと!部屋いっぱいの宝の山を見付けたわ♪どう?凄いでしょう♪」

 

 

「えぇ!?紫はそんな物見付けたのかい!?」

 

 

「この島に宝の山なんて置く人間が居たのねぇ」

 

 

「凄いね〜♪」

 

 

 

紫が手元に開いた小さなスキマから金の延べ棒を出すのを見て勇儀と幽香は驚いた。勇儀は紫から手渡された金の延べ棒を観察しながら「これ売ったらどれくらい酒が・・・」とか呟いている。

 

 

 

「ふふふ♪それで?幽香は何を見付けたの?貴女は勇儀みたいにサボっては居なかったんでしょう?」

 

 

「なんで知ってるのよ?一応言っておくけど、私は金銀財宝を見付けた訳ではないわよ?」

 

 

「気にしなくてもいいわよ〜♪私だってこれを見付けたのはとてもラッキーだったんだ・・・」

 

 

「私なんて悪魔の実(・・・・)が1つだけだもの」

 

 

「私よりも凄いもの見つけちゃってたわこの花妖怪!!!」

 

 

 

幽香が取り出した水色をした渦巻き柄の洋梨の様な見た目の実をみて紫は先程の勇儀以上に驚いた。勇儀は口をポカンと開けて幽香の手にある悪魔の実を凝視する。

 

 

 

「ちょっと幽香!!それどうしたのよ!!?」

 

 

「どうって、森の中歩いていたら梨の木があってね。珍しかったから少し見てたらいきなり1つだけこんな風になったのよ。悪魔の実ってあんな風に出来るのね。初めて知ったわ」

 

 

「ねぇ〜ねぇ〜。それってなんの悪魔の実なの?」

 

 

「さぁ?私も悪魔の実なんて見るのは初めてだから分からないわ」

 

 

「それより幽香、貴女それ食べるの?」

 

 

 

紫は扇子を悪魔の実に向けながら幽香に聞く。悪魔の実は食べた者を一生およげない体にする代わりにその実の能力を与える海の秘宝である。売れば高値で売れるし、食べれば超人的なパワーを手に入れられるのだ。幽香は少し考えてから首を横に振って悪魔の実を紫に向けて放り投げた。紫は少し慌てたがすぐに落ち着いて飛んで来た悪魔の実をキャッチする。

 

 

 

「私は要らないわ。カナヅチになるのは嫌だし、私にはもう素敵な能力があるもの。それは貴女にあげるわ。売るなり誰かに食べさせるなり好きになさい」

 

 

「幽香だったら海に沈んでも普通に生きてそうだけどねぇ」

 

 

「あ、それ私も思ったよ」

 

 

「確かに、寧ろ無理矢理クロールとかして泳ぎそうね」

 

 

「貴女達が私をどういう風に考えているのかよ〜〜く分かったわ」

 

 

 

3人の素直な感想にイラッとした幽香は日傘を束ねてマスタースパークを撃つ為に構えた。それを見て紫と勇儀は慌てて謝った。幽香はフンッと鼻を鳴らしてから日傘を下ろした。

 

 

 

「取り敢えず、この島にあったのは私が見付けた宝の山と、幽香が見付けた悪魔の実だけかしら?」

 

 

「おう!私は酒を飲んでいたから知らないけどね」

 

 

「貴女はもう少しお酒以外の事を気にかけるようにしなさいよ。えぇ、その通りよ紫」

 

 

「むぅ〜〜・・・私も何も見付けられなかった」

 

 

「気にする事無いわ。勇儀みたいにサボって見つからなかったよりよっぽどいいから・・・・うん?1人多くないかしら?」

 

 

 

紫は口元を扇子で隠しつつ首を傾げた。先程の声は幽香や勇儀よりも幼い感じがした。幽香と勇儀もハッ!と気付いた様に辺りを見回すが、人間1人どころか鳥1匹見当たらなかった。

 

 

 

「・・・誰も居ない?おかしいわね。確かにさっき私達以外の声が聞こえたのだけど」

 

 

「間違いないよ幽香。しかし誰も居ないってのはどういう事だい?悪魔の実の能力者の襲撃か、はたまた新手の妖怪か。紫、貴女妖怪に詳しいわよね?何か心当たりは・・・・紫?」

 

 

(幼い感じの声、気配を感じられない、姿が見えない、そして誰も気付かなかった。となると、見つけるのが大変なのよねぇ。呼び掛けてみましょうか)

 

 

「えぇ、あるわよ。ただ見つけるのはかなり困難なのよね。・・・・貴女から出て来てくれたら助かるのだけれど?可愛い帽子を被ったお嬢さん?」

 

 

 

紫は少し大きめの声で誰かに呼び掛けた。幽香と勇儀はいったい誰に向けて言ったのか全く分からなかったが、ふと気付くと紫の正面に1人の少女が立っていた。左前辺りに結び目がある薄い黄色のリボンが付いた鴉羽色の帽子に、黄色い生地に二本白い線が入った緑の襟に、鎖骨の間と胸元とみぞおちあたりに一つずつ付いたひし形の水色のボタンと黒い袖。 薄く『ラナンキュラス』というキンポウゲ科の花の柄が描かれたスカートを履き、靴は黒で、紫色のハートが両足についている。 左胸に閉じた目の様な物があり、そこから伸びた二本の管が一本は右肩を通って左足のハートへつながり、もう片方は一度顔の左でハートマークを形作ってからそのまま右足のハートへつながっている。髪は黄色味がかった鮮やかな緑色のセミロング。髪と同じ色の瞳を持つが、瞳孔がなく白く発光しているように見える。彼女の名は古明地 こいし。東方projectのキャラクターで、無意識を操る覚妖怪である。

幽香と勇儀はすぐさま距離を取ってそれぞれ拳と日傘を構えた。しかし少女・・・こいしはそんな2人の様子を気にした様子も無く、少し驚いた表情をして紫を見つめていた。

 

 

 

「どうして私が帽子を被ってるって分かったの?私の事見えてたの?」

 

 

「さぁて、なんででしょうねぇ?それより貴女こそいつからつけていたの?今思えばホーライト島で感じた視線は貴女よね?」

 

 

 

紫は今はハッキリ認識出来るこいしの質問をはぐらかし、逆にこいしに自分の質問をぶつける。こいしはまたもや驚いた様子で、そしてどこか嬉しそうに笑みを浮かべながら質問に答えた。

 

 

 

「やっぱりあの時私に気付いてたんだ!えっとね?私が貴女をつけてたのは、オハラって言う島からだよ」

 

 

「あら、思ったより前からね。全然気付かなかったわ」

 

 

 

紫は「凄いわね〜」と口元を扇子で隠しながらクスクス笑いながら空いた手でこいしの頭を撫でる。こいしは可愛らしくえっへん!と胸を張りながら紫に大人しく撫でられていた。その光景を幽香と勇儀はキョトンとした様子で拳と日傘を構えたまま眺めていた。


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