「やって来ましたシッケアール王国♪・・・・って言っても本当に幽香が言ってた通り、人間の気配が全く無いわね」
「だから言ったじゃないの。戦場跡地みたいだって」
白ひげに勇儀を預けて飛ぶ事数時間、紫達はクライガナ島のシッケアール王国の街に降り立った。街は大地震が起きた後の様にボロボロになっており、あちこちに死体が転がっていた。辺りを見回しながら人間の気配を探っている紫の言葉に幽香は愛用の日傘で肩をポンポンと叩きながら応えた。
「言っていたけれど、まさかここまでボロボロとは思わなかったのよ。無事な建物なんて1つも無いじゃない・・・・ってこいし?死んだ兵士落ちてた槍で突くのはやめなさい。バチが当たるわよ?」
「うん、分かった〜〜♪」
こいしは持っていた槍をポイッと捨て、こんどはフン♪フン♪と鼻唄歌いながらスキップして紫の下に戻って来た。そんなこいしの行動に紫が扇子で口元を隠しながらクスリと小さく笑っていると、パァーーン!!!と銃声が鳴り響いてライフル弾が紫の頭に向かって飛んで来た。紫は落ち着いた様子で頭を右にズラしてライフル弾を躱して弾が飛んで来た方向に視線を向けた。紫の視線の先にはスコープが付いたライフル銃を持って弾が外れて悔しそうに騒いでいる大きなヒヒがいた。しかもその周りには外したヒヒを指差したり手を叩いたりしながら笑っている仲間らしき銃や弓を持ったヒヒ達もいた。
「あら、前来た時は弓と短剣しか持っていなかったヒヒばっかりだったのに、色々な武器を扱う様になったわね」
「ちょっと幽香、来るときに言っていた猿ってあのヒューマンドリルのこと?先に言いなさいよ。もう少しで私の頭に風穴が開く所だったのだけれど?」
『ヒューマンドリル』とは、謂わば学習能力が高いヒヒの事である。人間の真似をして様々な事を学習する事が特徴で、穏やかな性格の人間を真似れば穏やかな性格になり、逆に凶暴な性格の人間を真似れば凶暴な性格になる。先程紫に向けて銃を撃ってきたヒューマンドリルやその周りにいる仲間達は、シッケアール王国で起きた戦争を見て学習し、死人の鎧や剣、槍、大鎚、銃などを身に付け使い方を学び、ほぼ一人前の戦士となっている。更に人間には出来なかったり予測が難しい野生の動物的な動きも加えて襲って来るので、普通の海兵や海賊では手も足も出ず、それなりの力を持っていても集団で襲われれば苦戦は免れないだろう・・・・普通ならばだが。
「貴女なら銃弾くらい簡単に躱せるでしょう?例え当たっても勇儀の拳受けてかなり痛いで済むなら傷1つ付きはしないわよ」
「確かにそうだけど私は前もって知っているのなら教えてくれてもいいんじゃないと言っているのだけれど?」
「あら、何?殺る気?別に私は殺りあってもいいわよ?」
「2人共喧嘩はダメだよ〜?それに2人が睨み合っている間に囲まれちゃったんだけど?」
紫と幽香が互いにフフフと笑いながら睨み合っている内にヒューマンドリル達は武器を手にして紫達を取り囲んだ。こいしの言葉を聞いて紫と幽香は目を逸らしてヒューマンドリル達を観察する。
「ふ〜〜ん?ヒヒの人間の真似事にしてはなかなかいい構えね。あの構えは戦争中の兵士達の構えを真似たのかしら?」
「別にどうでもいいじゃない。私達からしたらただの猿よ」
「それにしても武器や鎧なんかはみんなバラバラだね。あ!見て見て!あのお猿さん頭に鎧の靴被ってるよ」
こいしは1匹のヒューマンドリルを指差しながらクスクスと笑う。確かにこいしの言う通り、持っている武器は殆ど同じ武器は無い。よく見る剣や銃意外にもかなりマニアックな武器を構えている。身に付けている防具は正しいものもあれば「どうしてそうなった?」と思わず聞いてしまいそうなほど明らかに使い方間違えているものもいる。ヒューマンドリル達はこいしに笑われたのが気に食わないのか武器を振ったり鳴いたりしながら怒っているアピールをしている。
「ウキーー!!ウキャキャキャーー!!」
「うん?なになに?ウキキ〜?」
「ウキャーー!!ウキウキキ!!」
「ふむふむ。なるほど!」
「ちょっとこいし?貴女ヒヒ達の言葉分かるの?」
「ううん?全然分かんないよ?ちょっと遊んでみただけ〜」
アハハ♪と笑うこいしに紫はつい溜め息を吐いてしまった。紫の溜め息を引き金に1匹の剣を持ったヒューマンドリルが背後から紫に斬り掛かった。しかし紫はそれをヒラリと躱してから妖力を纏わせた足で回し蹴りを繰り出し、ヒューマンドリルのガラ空きだった横腹に叩き込んだ。蹴られたヒューマンドリルは数メートル飛んでから地面に激突して土煙を上げた。周りのヒューマンドリル達は仲間がやられたのを見てしばらく呆然としていたが、すぐにそれぞれ武器を鳴らしたり手を叩いて歓声をあげた。
「あら?仲間がやられたのに歓声をあげてるわよこの猿共」
「どうでもいいでしょう?ほら、次が来るわよ」
「「「「ウキャーーー!!!」」」」
紫の言葉が終わるとほぼ同時に周りのヒューマンドリル達は一斉に襲い掛かってきた。紫はふわりと宙に浮いて攻撃を躱して数発のクナイ弾を放ち、幽香はニヤリと笑いながら振り下された大剣を日傘で防ぎ、空いた拳でヒヒの顔面をぶん殴った。こいしはアハハ♪と笑いながら踊る様にヒラリヒラリと攻撃を躱し、白ひげの船からそのまま持って来てしまったティーチの鉤爪で防具ごと切り裂いた。ヒューマンドリルは初めこそ殺る気満々だったが、正体不明の攻撃を繰り出す紫と返り血が頰に少しだけ付けてニヤリと笑っている幽香、そしていつのまにか消えては別の所で現れて仲間を切り裂くこいしを見て段々戦意を無くしていき、今度は3人に恐怖し始めた。そしてまた幽香に顔面に拳をめり込まれて吹き飛んだ内のとある1匹のヒヒは紫達を襲った事を大いに後悔した。
★
「チッ!詰まらないわね。やっぱり只の真似猿じゃ遊べないわね」
「幽香ぁ。貴女もう少し優しさを花以外に分ける事出来ないの?最後辺りなんかみんな涙流しながら丁寧に白旗振って降参してたわよ?それを邪魔の一言で殴り飛ばすってどんな神経してるのよ。こいしはこいしで白ひげの船員の武器勝手に持って来た上に修復不可能にまで徹底的にぶっ壊しちゃったし」
紫は不満そうに隣を歩く幽香をジト目で見ながらボロボロになっている街を散策していた。あの後ヒューマンドリル達は幽香の無慈悲な猛攻により全滅した。死んではいないがもうちょっかいをかけて来る心配は皆無だろう。紫は心の中でヒューマンドリル達に合掌していると戦いの最中にフラフラと居なくなったこいしが戻って来た。
「お帰りなさいこいし。何か面白い物でもあったのかしら?」
「うん♪あのね、向こうの方に大きなお城があったの!しかもここみたいにボロボロじゃないヤツ♪」
「へぇ?城なんてあったのね。知らなかったわ」
「まぁシッケアール
紫はその城に興味を持ち、隣を歩く幽香に提案してみた。
「別にいいわよ?私もそろそろ退屈してたし」
「決まりね!こいし、案内してくれるかしら?」
「うん!任せて〜♪こっちだよ!」
こいしはフンフン♪と鼻唄を歌いながら来た道を戻り始め、紫と幽香は互いに日傘を差しながらその後を付いて行った。
★
紫達がしばらく歩き続けていると、立派な城が見えて来た。確かにさっきまで自分達がいた場所の様に壊れている様子も無い。紫達3人は城を見上げながら中に入るため城に近づいて行く。
「本当に何処も壊れた様子も無いわね。人間がまだ住んでますって言われても納得出来るわね」
「私は住みたく無いけどね。あんな死体だらけの街が近くにある城なんて気分最悪よ。それにこんなに霧や湿気が酷い所にいるのは死体が無くても嫌よ」
「う〜〜ん、私も嫌かなぁ〜?ちょっと中先に見てみたけど、無人だったし、書斎だったかな?そこなんてまるで殺人現場みたいだったよ?」
「それは私も嫌ね。流石の私も訳あり物件はお断りよ」
紫達は城を観察しながら城の感想を言う。そんな風に話をしながら門の前に来ると、3人に声が掛けられた。
「あ〜〜、ボロクソ言うのは別にどうでもいいが一応この門通っちゃダメだから悪いけど引き返してくれないか?」
「「「あ、すみません・・・・・・え?」」」
紫達がつい謝罪して踵を返すと、この島に人間がいない事を思い出して声の下方向を向いた。そこには何故か両手を前に突き出して直立している肩程度の長さの灰色に近い暗い藤色の髪をした少女がいた。赤い中華風の袖が広口の半袖上着を身に着け、袖口と裾はえんじ色のディティール。胸元には、蝶結びした細いリボンがついている。
下は黒色のスカートを履いており、裾にはうっすらと茶色の模様が描かれている。そのスカートの側面にはクロスさせた2本のピンク色のギザギザしたレースを巻いており、スリットがあり、隙間からはピンク色の布が覗いている。黒い靴を履いているが、靴下は履いていない。肌はまるで死人の様に白く、頭には星型のバッチを付けたハンチング帽を被り、おでこに何やら赤い文字が書かれたお札を貼り付けていた。彼女の名前は宮古 芳香。東方projectに登場する【忠実な死体】という2つ名を持ったキョンシーである。
「(てっきり火車の火焔猫 燐や妖怪ネズミのナズーリン、または小野塚 小町や四季映姫を予想してたんだけど、意外なキャラが出て来たわね)失礼。この島に人間がいるとは思わなかったから少し驚いてしまったわ。初めまして、私は八雲 紫。こっちの日傘の女が風見 幽香で、この子は古明地 こいしよ」
「ん?おー、すまないな。自己紹介を忘れていた。私は宮古 芳香。この門の門番をやっていた。まぁちょっと前にあった戦いで死んだがな」
(・・・・あれ?芳香ってこんな喋り方だったっけ?)
確か芳香って死んだ影響かどうかは分からないけれどちょっと色々腐ってるとかネットで見た事がある様な気がする。でも今目の前の芳香は普通に会話出来てるわよね?
「えっと、死んだと言うのはどういう事かしら?」
「んあ?えーっとだなー?私はここを死守するように命じられて、ずっと門番をしていたんだ、ある日武器持った連中が攻めて来てな?ほとんど返り討ちにしたんだが最後の奴がなんかの実の能力者だったらしくて、手が体にめり込んで抜けなくなったと思ったら首斬られてたんだ。で、目を覚ましたら首繋がってるし心臓止まってるしで驚いたなーアハハ」
芳香は説明しながら片手で頭をポリポリ掻いている。キョンシーは関節が固まってあまり動けない筈なのだが、普通に動かしている。その行動に紫は更に疑問符を浮かべる。
「(あっれぇ〜?キョンシーってあんな風に普通に動けたっけ?と言うか彼女をキョンシーにしたの誰よ!?)そ、そう。因みに体は普通に動くの?死後硬直とかで固くなったり、腐敗したりしてない?」
「ん〜〜?普通に動くぞ?最近はヒューマンドリルに武術教えたりしているくらいだ。それに死んでからかなり経っているが腐ったりはしてないぞ?あ、でも代わりに好き嫌い無しに物を喰える様になったな。最近はヒューマンドリルが持ってた剣を食べたぞ。美味かったぞ!」
「それ好き嫌い以前に人間は食えないわよ・・・」
ポンポンと腹を叩く芳香を見て紫は苦笑いを浮かべた。その後すぐに両手を前に突き出しているところを見ると、この行為は無意識にしている様だ。
「ちょっと紫?彼女も妖怪なの?」
「え?えぇ、彼女はキョンシーと呼ばれる妖怪で、分かりやすく言えばゾンビよ。ただ普通は今の彼女の姿勢のままジャンプして移動するのが特徴なのだけれど・・・・」
「普通に腕や足動いてるじゃない。それにさっき聞き間違いじゃなかったら剣を食べたって言わなかった?」
「言ったわね。彼女の能力は『何でも喰う程度の能力』。読んで字の如く、鉄だろうが魂だろうが何でも食べる事が出来る能力よ」
「魂ぃ〜?美味しいのかなぁ?」
「少なくとも私達は食べれないわね」
こいしの疑問に幽香は答える。芳香は紫の説明を聞いて「ほぇ〜、私はキョンシーなのか」と自分の体を見ている。取り敢えず紫はいつもの様に仲間に勧誘する事にし、理由やその他諸々の説明をした。
「コホンッ!さて、芳香さん?貴女には出来たら私の仲間になって欲しいのだけれど・・・いいかしら?」
「う〜〜ん、私はここを死守せねば・・・」
「死んでるからもういいじゃない」
腕を組んで悩む芳香に幽香がツッコミを入れた。しばらく悩み続けた芳香は紫の「仲間になってくれたら美味しい料理が食べれるわよ?」と言う言葉に反応してすぐに「仲間になる!!」と言った。試しに言ってつもりの紫は芳香の食い付きっぷりに目を見開き、準備をする為に自分の家に走って行った芳香を見送った。
「・・・・・と言うか、彼女の家は残っているのかしら?」
「「・・・・さぁ?」」
10分後、芳香は家が燃えて無くなっていた事に大層落ち込んだ様子で紫達の所に戻って来た。