大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪は嫌々仕事を開始する

「ス、ステラ?本当にステラなのか!?」

 

 

「そうよ!久しぶりね、テゾーロ!無事で本当に良かった・・・!」

 

 

 

ステラは紫の側を離れ、動揺しているテゾーロに抱きついた。テゾーロの方も信じられないと言った表情で抱きしめられていたけど、次第に理解が追いついて来たのか、涙をボロボロ流しながらステラを抱きしめた。紫はそんな2人を「あらあら♪」と微笑ましそうに笑いながら眺め、こいしはバラバラになった牢屋の扉を積み木やパズルの様に組み立てて遊んでいた。

 

 

 

「どうしてここに?あいつ(天竜人)等の話じゃ、シャボンディ諸島に捨てて来たって・・・それにその服装と刀は?」

 

 

「あぁ、これはね・・・・」

 

 

「ちょっとごめんなさい。ステラ、その話は長くなるだろうから後にしてくれないかしら?」

 

 

 

紫は話が長くなると思い、2人の会話を申し訳なく思いながら中断させた。ステラはテゾーロともっと話したそうな顔をしていたが、ここが天竜人の巣窟である聖地マリージョアである事を思い出し、渋々話を中断する。

 

 

 

「仕方ありませんね。ごめんなさいテゾーロ。この話はここを離れてからゆっくり話してあげるわ」

 

 

「あ、あぁ。それはいいが・・・・彼女は?」

 

 

 

テゾーロは紫を見ながら彼女は何者なのかステラに尋ねた。

 

 

「彼女は八雲紫さん。私の命の恩人で、テゾーロを探すのに協力してくれたの。その隣の・・・あら?こいしさんは?」

 

 

ステラは紫達を紹介しようとしたが、いつの間にかそこにこいしの姿は無く、絶妙なバランスで立っている斬られた扉の残骸がポツンと放置されていた。

 

 

 

「えっと、それからさっきまであそこで遊んでた帽子をかぶった女の子は古明地こいしちゃん。あの子が貴方を見つけてくれたのよ」

 

 

「さっきの・・・?すまない、何故か思い出せない。誰かいた様な気はするんだが・・・」

 

 

 

テゾーロはなんとか思い出そうとするが、こいしの姿を思い出そうとしてもまるで頭の中に霧がかかった様にこいしに関する事を思い出せなくなって行く。難しい顔で思い出そうと努力しているステラは苦笑いする。

 

 

 

「えっと、あの子はちょっと特別な能力者で、ある程度慣れてないとまともに容姿とかも思い出す事が出来ないの。そんな事より、今は早くここを離れましょう」

 

 

 

ステラはそう言うとテゾーロから少し離れて刀の柄に手を添え、居合の構えをとった。そして自分の突然の行動に驚いた様子のテゾーロの首・・・正確には首に付けられた奴隷の首輪に鋭い視線を向ける。

 

 

 

「動かないでね?・・・フッ!」

 

 

 

静かな牢屋の中に刃物が軽く擦れた様なシャリン!という音が小さく鳴った。ステラの体の姿勢は先程とほとんど変わっておらず、唯一変わっているのは刀の刃が鞘から少しだけ出ているくらいだ。そしてステラはその出ている部分の刃をキン!と音を立てながら鞘に納めた。

 

 

 

「霧符『滑昇斬り・一閃』・・・」

 

 

「ス、ステラ?いったい何を・・・・・《ガシャン!!》な!?く、首輪が!!?」

 

 

 

テゾーロがステラに問おうとしたその時、突然テゾーロの首に付けられていた奴隷の首輪は真っ二つになって床に落ちた。テゾーロは自分の首を摩りながら床に落ちている真っ二つに斬られた鉄の首輪とステラを交互に見詰め、紫はそんなテゾーロと「ふぅ」と小さく息を吐くステラを見て扇子で口元を隠しながらクスリと笑う。

 

 

 

「ふふふ♪随分腕が上がったわね。また抜刀から納刀までの時間が短くなったんじゃないかしら?」

 

 

「あはは、やっぱり紫さんには見えてますか・・・・これでも少将クラスの方々には見えない程の速度なんですけど?」

 

 

 

ステラは苦笑しながら居合の構えを解いた。テゾーロにはステラが何をやったのか目視できなかったが、紫の目にはハッキリと見えていた。ステラが行なったのは高速の居合斬りである。ステラの刀の腕は大佐になってからも更に上がり、本来ならば今の一瞬で5回斬れる程になっている。

 

 

 

「私はこれでも中将よ?見えてないとガープを椅子に縛り付ける事も出来ないわよ。じゃ、今からスキマをステラの部屋に繋がるから、貴方達は戻りなさい。私は後から戻るから」

 

 

 

紫はそう言うと扇子を閉じ、縦に振るってスキマを開いた。スキマを初めて見たテゾーロは無数の目がスキマから覗いているのを見てビクッと肩を震わせて後退った。

 

 

 

「な、なんだそれは!?」

 

 

「あー、やっぱり初めて見たらそんな反応するわよね。安心してテゾーロ。あれは紫さんの能力なの。ちょっと・・・いえ、かなり不気味だけど、あれをくぐれば一瞬で私の住んでる部屋に行けるのよ」

 

 

「・・・・ちょっと待ってくれ。その話の流れだと、あのスキマとか言う不気味な何かの中に入るのか!?」

 

 

 

「冗談だろ!?」とテゾーロはステラの方を向くが、ただ黙って満面の笑みを浮かべる彼女を見て嘘や冗談などではないと察したテゾーロは、ガッカリと肩を落とし、恐る恐るといった様子で紫に尋ねた。

 

 

 

「本当に大丈夫なんだろうな?中に入ったら最後、2度と出る事は出来ない・・・なんて事になったりしないか?」

 

 

「あら、失礼ね。私がそんな酷い事すると思うの?いいから早く入りなさい。男の子でしょう?」

 

 

「大丈夫よテゾーロ。確かに紫さんのスキマは何度も見ている私でも未だに不気味に思うけど、本当にあのスキマを通れば一瞬で帰れるわ」

 

 

 

滅茶苦茶不安そうな顔でスキマを見詰めるテゾーロの手を握り、ニッコリと笑みを浮かべるステラの言葉を聞いて、テゾーロは渋々「分かった」と呟きながら頷いた。そしてスキマを不気味だと言われた紫はちょっと傷ついた。本人はそれなりにスキマのデザインを気に入っていたりするのだ。

 

 

 

「では紫さん、私達は先に戻りますね」

 

 

 

ステラは紫に海軍式の敬礼をすると、テゾーロの手を引いてスキマへと消えて行った。

 

 

 

「・・・・・そんなに不気味かしら?」

 

 

 

閉じて行くスキマを見ながら、少し悲しそうな声でそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、牢屋から無意識に居なくなったこいしは、鼻歌を歌いながらスキップで燃え盛るマリージョアの街道を進んでいた。彼女の通る道は、暴れたり逃げたりしている解放された奴隷達や、彼等を捕らえようと動き回っている政府の役人達、そして偶に役人達に守られながら逃げた奴隷を捕まえろと怒り狂っている天竜人共が行き来しているが、無意識に能力を使っている彼女に気付く者は誰1人としていなかった。

 

 

 

「ふん♪ふ〜ん♪・・・あれ?」

 

 

「おぉ〜〜、おっかないねぇ〜?たった数時間でここまで被害が広がるとはねぇ」

 

 

「ボルサリーノ中将!そんな事言ってる場合ですか!?早く天竜人を保護しなければ大変な事になりますよ!」

 

 

 

ふと気付くとこいしは無意識のうちに到着したばかりのボルサリーノ率いる海兵達の中に混じって整列していた。勿論燃え盛るマリージョアを見ているボルサリーノも、彼に報告している傷だらけになった現地の海兵も、彼女の隣に立って整列している海兵達ですら、こいしの存在に気付いていない。

 

 

 

「分かってるよぉ〜。ところで、センゴクさんから紫もこっちに来てるって話なんだけどぉ〜・・・何処にいるか知らないかい〜?」

 

 

「あの八雲紫中将もですか!?いえ、私共は誰も姿を見ておりませんが」

 

 

「あれぇ〜?おっかしいねぇ〜?彼女の能力を使えば、例え世界の端っこからでも一瞬で着けるはずなんだけどねぇ〜?」

 

 

 

首を傾げるボルサリーノは、腕に着けている盗聴用の黒電伝虫に話しかけ始めた。勿論これは盗聴用なので、通話は出来ない。

 

 

 

「もしもしぃ〜?こちらボルサリーノォ〜。マリージョアに到着しましたのでぇ、応答ねがいまぁ〜す」

 

 

 

ボルサリーノは話しかけるが、黒電伝虫は目も開けずただジッとしている。そしてそれが普通なのに通話できない事を不思議がるボルサリーノを見て、突然こいしは面白い事思い付いた!と言わんばかりにパッと明るい笑みを浮かべると、自分の閉じてしまったサードアイから伸びるコードの先にいつの間にか付いていた、電話の受話器(・・・・・・)を手に取って、耳に当てた。

 

 

 

「あれぇ?おっかしいねぇ〜?もしも〜〜し」

 

 

「いやだから、以前も教えた通り、それは盗聴用なので通話が出来る訳では・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*今から電話をするから出てね*

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリィィン!!

「おぉ〜繋がったみたいだねぇ〜?もしも〜し、紫かい?」

 

 

「え?そんな筈は・・・」

 

 

 

突然鳴り始めたのを見て繋がったと思ったボルサリーノは、黒電伝虫に話しかける。すると黒電伝虫から聞こえて来たのは、彼の知る八雲紫の声ではなかった。

 

 

 

『わたし、メリーさん』

 

 

「んん〜?メリーさん?紫じゃないのかい〜?それに何処かで聞いた様な声だねぇ〜」

 

 

 

ボルサリーノはてっきり紫に繋がったと思っていたので、紫ではない声に首を傾げた。彼の記憶の中には確かに同じ声を発する人物はいるのだが、それも霧がかかった様に思い出す事が出来ない。

 

 

 

『今、あなたの・・・・後ろにいるの

 

 

「えぇ〜?」

 

 

 

ボルサリーノはポカンとした表情を浮かべるが、突然背後に現れた何者かの気配を感じ、バッ!と振り返る。しかし、そこには誰もいなかった。

 

 

 

「・・・・・ふぅ〜。なんだ、気のせいk「驚けぇぇぇぇぇ!!!」うお!?」

 

 

 

突然背後から聞こえた大声に、あのボルサリーノもビクッと肩を震わせて飛び退いた。ボルサリーノの驚きの声に周囲の海兵達も警戒した様子で武器を構える。ボルサリーノも『ピカピカの実』の能力で指先に光を集め、レーザーを放とうと指先を声の主に向けるが、悪戯が成功した子供の様に楽しそうに笑っているこいしの姿を見て彼女の事を思い出し、指を下ろした。

 

 

 

「あははは♪わ〜〜い!イタズラ大成功〜♪」

 

 

「おぉ〜びっくりしたねぇ〜。君は確か紫のところの子だよねぇ?」

 

 

「うん!そうだよ♪お久しぶりだね!おじさん!」

 

 

 

ボルサリーノと仲良さげに話しているこいしを見て、やっと彼女の事を思い出した海兵達も武器を下ろした。

 

 

 

「君がここに居るって事は、紫も近くにいるんだよねぇ?」

 

 

「うーん、さっきまで一緒にいたけど、今は分かんない。無意識のうちに別れてここに来ちゃったから」

 

 

 

てっきり近くにいると思っていたボルサリーノは、紫と一緒じゃない事を知ると、ちっとも残念そうに見えない様子で「それは残念だねぇ〜」と言いながらどうしたものかと虚空を見上げながら思案する。

 

 

 

「じゃ!私はもう行くね♪バイバ〜イ!」

 

 

「あぁ〜ちょっと待っ・・・・ってもう居ない」

 

 

 

ボルサリーノが視線を下げる頃にはそこには既にこいしの姿は無かった。

 

 

 

「(恐ろしい少女だねぇ〜?あっしの見聞色の覇気にも全く引っ掛からずに姿を消すなんて、これが彼女の能力なのかねぇ〜?)さて、それじゃあ。あっし等も仕事をこなさないとねぇ〜?」

 

 

 

ボルサリーノはそう言うと、部下の海兵達に天竜人の保護並びに建物の消化、暴れている元海賊などの奴隷達の鎮圧の指示を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「紫様、ただいま戻りました」

 

 

「あら、お帰りなさい藍。思ったより時間が掛かったわね?」

 

 

 

自分のスキマのデザインについて少しの間考え込んでいた紫の下に、他の牢の鍵を破壊して奴隷達を解放して回っていた藍が戻って来た。

 

 

 

「申し訳ありません。予想以上にここの奴隷達が多かったもので」

 

 

「これでも多分、他の屋敷より少し少ない方よ?ホントに嫌になっちゃうわ」

 

 

「全くです」

 

 

「「はぁ〜〜・・・・・」」

 

 

 

2人はとても、とても深い溜息を吐いた。元々2人は今回この場所にテゾーロが居なければ、仕事なんてすっぽかして数十年間スキマの世界に引き籠るか世界旅行に行くくらいには天竜人を嫌っているのだ。

 

 

 

「さて、これからどうしましょうか?私達の目的はもう達成しちゃったし、正直こんな所にいる意味ないのよねぇ」

 

 

「紫様、惚けないで下さい。確かにそれが最優先目的ではありますが、センゴク元帥からの頼まれ事もあるでしょう?」

 

 

 

センゴクからの仕事を忘れていた事にしてすっぽかそうとしていた紫は藍にそう言われて物凄く嫌そうで面倒臭そうな顔をした。

 

 

 

「もう、藍は真面目なんだから。いっその事、襲撃者に天竜人を狩り尽くして貰った方が、私達的にも、民間人的にも幸せになるんじゃないかしら?」

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そんな事していい訳無いじゃないですか。仕事は仕事、ちゃんと済ませなければなりません」

 

 

「今結構考えたわよね?かなり真面目に考えてたわよね今?」

 

 

 

紫は口元を扇子で隠しながらジト目で藍を見詰め、藍はスッと視線を逸らした。実際彼女は紫の提案を聞いて「それはいい考えですね!」と言いそうになっていたので紫の視線に耐えられなかった。

 

 

 

「・・・・・はぁ、仕方ないわねぇ。じゃあその襲撃者にさっさと帰ってもらいましょう。行くわよ、藍」

 

 

「畏まりました、紫様」

 

 

 

紫はスキマを開くと、藍を引き連れてスキマの中へと消えて行った。そしてスキマの中から外を観察し、やがて目的の人物を見つけるとその者の前にスキマを開き、姿を現した。

 

 

 

「何者だ、貴様は?」

 

 

「初めまして、襲撃者さん?私は海軍本部中将、八雲紫と申しますわ」

 

 

 

紫は警戒した様子でこちらを睨み付けてくる大柄なタイの魚人・・・フィッシャー・タイガーに名を名乗り、優雅にお辞儀をした。


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