大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪と神様との月見と新しい部下?

新世界のとある海域。そこを1隻の海賊船が海を進んでいた。周りに海軍の軍艦はおろか、嵐になりそうな雲1つ無く、珍しく新世界特有の理解不能な波や風や天候になっている訳でもない。むしろ航海にはもってこいとも言える状況だ。しかしその船の上では蜂の巣を叩いた様な混乱に陥っていた。

 

 

 

「おい!いったい何人消えた(・・・)!!?」

 

 

「せ、戦闘員27名、雑用12名、船医、航海士、コック7名です!」

 

 

「畜生!まだ見つからねぇのか!?相手はたった1人の能力者だろう!?」

 

 

 

今現在、この海賊船は正体不明の敵の攻撃により、乗組員の半数以上が船から忽然と消えているのだ。犯人は分かっている。数も1人だ。しかし船のどこを探しても姿は見えず、いつの間にか仲間が1人、また1人と姿が消えて行くのだ。悲鳴も無ければ血痕も無い。本当にその場から消えている。

 

 

 

「船長!!またです!!今度は大砲の砲手が一気に全員消えました!!」

 

 

「なんだと!?クソォ!なんだってんだよ!!敵は1人だぞ!!?」

 

 

 

新たな行方不明者にこの海賊船の船長らしき男が怒鳴り声を上げる。男の自慢の人斬り包丁が怒りでワナワナ震え、本人も見つけようと辺りを見渡す。その時男の背後から女性の声が聞こえて来た。

 

 

 

「あらあら♪頑張って探してるわねぇ。探し物は見つかった?懸賞金2億8500万ベリー、【人間解体屋】ベリット・サムガイさん?」

 

 

「ッ!!?テメェ!!いつからそこに!?野郎ども!!見つけたぞ!!早く来やがれ!!」

 

 

 

目的の人物を見つけて船長ベリットは部下を呼ぶ。しかし誰1人として返事をしない。慌てて見聞色の覇気を使うも誰の気配も感じれなかった。

 

 

 

「ふふっ。もうこの船にいるのは貴方だけよ。今頃彼等は丸腰でインペルダウンに入って看守達と仲良くしてるんじゃないかしら?」

 

 

「て、テメェ・・・何者なんだよ!?い、インペルダウンって・・・」

 

 

「私?私は八雲 紫。海軍本部の准尉をしているスキマ妖怪よ。それじゃ、【人間解体屋】さん。ここまでの航海ご苦労様」

 

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」

 

 

 

紫の発した妖力を感じ、逃げようとしたが、振り返った時には既に目の前にスキマが開き、1つの海賊船の船長を呑み込んだ。誰も居なくなった甲板で紫は手配書の束をスキマから取り出してチェックを付けた。

 

 

 

「これで5隻目ね。ノルマ達成、やっと帰れるわ。船はいつも通り海軍のドックに送りましょう」

 

 

 

紫はググ〜ッと伸びを1つしてスキマを開いて海軍本部に帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

お久しぶり。海軍の中将3人を倒したら一気に准尉に昇格した八雲 紫よ。あの一件から更に1ヶ月の時間が流れたわ。流石に中将の実力者3人を無傷で無双した奴をこのままに出来ないとの事で准尉になったわ。普通なら私は誰かの部下になる事になっていたんだけど、私の戦い方の邪魔になるとゼファーさんが申し出て、形だけ海軍のガープの部下になってほぼ自由行動をしているわ。センゴク大将やコング元帥が嫌そうな顔をしていたけど、ちゃんと机仕事も済ましてあるし、海賊を普通に潰してインペルダウン送りにしているからガープより頼りになると喜んでいたわ。

 

 

 

「はぁいコング元帥。今日の分は全部済ましたわ。これはその書類よ」

 

 

「おわぁ!?なんだ紫か。もう済んだのか?仕事が早くて助かる。ガープの奴も紫みたいに仕事をしてくれれば・・・」

 

 

「あら?またガープは仕事を放ったらかしにしたのかしら?」

 

 

「まあな。・・・ふむ、確認した。この分ならもう少尉に昇格させても良さそうだな」

 

 

 

コング元帥がそんな事を渡された書類を見ながら紫に言う。紫としてはそんなにホイホイ階級が上がっていいのかと疑問を持つが、実際仕事は完璧にこなすし、自由行動中も連絡すれば仕事をしてくれる。正直ガープより仕事が出来ている為コング元帥としては中将の仕事などをして欲しいのだ。

 

 

 

「あらそう?まぁ上がるなら私も嬉しいわ。じゃ、また何かあったら呼んでちょうだい。あぁ、後ガープはおつるさんの部屋で煎餅食べてたわよ」

 

 

 

紫はそう言い残してスキマの中へ消えて行き。コング元帥は笑顔で電伝虫を手にして部下に伝える。

 

 

 

「ガープはつるの所だ。今すぐ仕事に向かわせろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。仕事を終えた紫は海軍本部の1番高い屋根の上に腰を下ろして居た。いつもの服装に日傘を差しているが、普段の彼女はこの時間は普通の人間と同じく寝ている。今日は満月。紫はこの世界に来てから仲良くなった友人に会う為にここに居る。そして手に持って居た懐中時計の針が深夜2時を指した時、紫の背後から声が掛けられた。

 

 

 

『・・・すみません。遅くなりました?』

 

 

「いいえ。時間ピッタリよ。相変わらず忙しそうね?リーリエ(・・・・)?」

 

 

 

紫が振り返るとそこには月明かりに照らされた赤髪が美しい美少女がいた。服装は最近のマイブームらしいピンクの和服。彼女と紫はこの世界に来てからよく話すようになった。なんでもリーリエは神様の中でもかなり高位の神で、仕事が忙しいらしく、偶にこうして酒を飲み交わして愚痴を聞いてあげて居るのだ。

私はスキマを開いて今日の為に仕入れたワノ国の日本酒に近い酒を取り出し、リーリエに渡した盃に注ぎ、自分のにも注いでからリーリエと乾杯し、飲み交わす。

 

 

 

「ふぅ、最近どう?やっぱり神様の仕事は大変?」

 

 

『えぇ、この前なんかなんのミスもしてないし普通の輪廻転生に行く魂が「おっしゃ俺のチートハーレム生活が始まるぜ!手始めにお前俺の物になれ!」とか言って来ましてですね。イボガエルに転生してやりました。全く他にも何万人と魂を見ないといけない身にもなって欲しいですよ』

 

 

 

リーリエは普段輪廻転生中に出てくる審査が必要な魂を見極めて居るらしい。私みたいな異世界への転生はレアケースで、転生する者は前世が不幸過ぎる者や、明らかに短い生だった者がするらしい。で、今回審査中にその様な魂が見つかったらしい。

 

 

 

「あらあら、それは大変だったわね。私の所もガープが放り出した仕事をやる羽目になったりするけど、そんな物が可愛くなるくらいだわ」

 

 

『そうでしょう?そうでしょう!私だって頑張ってるんです!遊びたいんです!それなのに最近特に変な事を言う魂が増えて来て・・・つい昨日もこの世界に来てハーレム作るんだとか泣き叫ぶ奴もいて困りましたよ』

 

 

「大丈夫よリーリエ。そんなの来たらすぐに神隠しに合わせてやるわ」

 

 

 

紫は深い溜息を吐くリーリエににっこり笑いながら自信満々に言う。その様子にリーリエもクスリと笑い、盃の酒を飲む。そんな風に2人は満月を眺めながら月見酒を楽しんでいた。

 

 

 

「あ、そうだわ。リーリエに聞きたい事があったのよ」

 

 

『ん?どうしたの紫。珍しいよね紫が私に聞きたい事って』

 

 

「えぇ、これの事なのだけれど・・・・」

 

 

 

紫はそう言うと3枚のスペルカードを出現させてリーリエに見せた。

 

 

「私・・・八雲紫には、式である藍と橙を呼び出して弾幕を放つスペルカードがあるのだけれど、私しか妖怪がいないこの世界でこれを使うとどうなるの?」

 

 

『ふぇ?ちょっと待ってね。・・・・あ〜、そのカードは使えないみたいですね。やっぱり式神の契約もしてないから出てこないみたいです』

 

 

「そう。ちょっと残念ねぇ。会ってみたかったわ」

 

 

『・・・・じゃあ、そんな世界にする?』

 

 

 

紫が残念そうに呟きながらスペルカードを虚空に消すのを見て盃を煽っていたリーリエがそう言った。

 

 

 

「え?リーリエ、今なんて言ったの?」

 

 

『えっと、一部だけだし、原作とは全く別人ではあるけど、その子達を作る事は出来ます。ちょっと運命を付け足せばその子達に会えますよ?まぁどう会うかは私にも分かりませんが』

 

 

「つまり、この世界に別人ではあるけど藍や橙に生まれていた事にするの?大丈夫なのそんな事して?」

 

 

『うん、まぁ全員は無理ですが。精々15人ぐらいかな?紫は友達だし、いつも私の愚痴聞いてくれるし、何万年も1人で仕事していた身としてはありがたい事でしたし』

 

 

 

紫はリーリエの言葉に驚いていた。何万年も1人で仕事をしていた事も凄い事だが、生命を作る上運命を付け足すと言ったので驚愕していた。

リーリエってそう言えば創造神だったわね。本物の神様はそんな事も出来ちゃうのね。いや、でも・・・・

 

 

 

「う〜ん、どうしようかしら。私としては同じ妖怪が生まれて会えるならいいけど、流石に会ってさよならって言うのはねぇ・・・」

 

 

『じゃあ仲間にしちゃったらどうです?正直今紫って信用出来る部下っていますか?いないでしょう?』

 

 

「うぐっ!?ひ、否定出来ないわね。う〜〜ん・・・・15人かぁ。じゃあ藍と橙は確定で残りの13名は貴女が決めてちょうだい」

 

 

 

紫はハッキリ言って海軍の約6割に警戒されている。まぁいきなり数百年生きた妖怪をそうほいほい信じるのはかなりの馬鹿かガープか実力を見る目を持つ者だけだ。今も海兵の支持率は0に近く、あると言っても体目的のガキ共だ。ならリーリエに頼んだ方がいい。

 

 

 

『はい!分かりました!じゃあ早速戻って原作見て良さそうな子を纏めますね。明日にはどこかに居ますから。それじゃあ今日はありがとうございました。また次の満月に・・・』

 

 

「えぇ、よろしくねリーリエ。・・・・さて、片付けしましょうか」

 

 

 

スゥっと消えて行き、気配も感じられなくなってから空の盃と酒瓶をスキマに放り込み、周囲に誰もいないのを確認し、自分もスキマで部屋に戻った。

・・・・・明日、仕事のノルマを終えたら探しに行きましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

あの満月の夜から早1週間。あの夜から紫は仕事が終わると許可を貰ってからリーリエが言っていた子達を捜している。そして今は北の海(ノースブルー)の海域上空を飛んでいる。しかし未だに発見出来ずにいた。

 

 

 

「はぁ、やっぱりそう簡単に会えるのがおかしいのかしら?リーリエは運命を付け足すみたいな事言っていたけど、う〜ん、探し方が悪いのかしら?」

 

 

 

紫は今いつもの服装の上に正義の2文字が書かれたマント・・いや、コートだなコレは。それを着ている。つい先日コング元帥に呼び出されて准尉から少尉になっていた。

 

 

 

「それにしてもこのコート、今付けてる私もどうなっているのか分からないわ。ただ肩に掛けているだけなのに落ちないなんて」

 

 

 

暇潰しにそんな事を考えながら飛んでいると、近くの島から爆発音が聞こえて来た。その島に目を凝らすと、妖怪になってから良くなった視力が海岸の陰に停泊している数隻の海賊船を捉えた。スキマから手配書リストを取り出して何処の海賊か調べる。

 

 

 

「違う、違う、コレも違う・・・あったわ。えっと

【万人攫い】のゾーン・ハルパー。懸賞金1億2000万ベリー。人間だろうが動物だろうが見つけ次第どんな手を使っても捕まえて奴隷商に売り払う。・・・・まさかねぇ?」

 

 

 

いやいやいや、幾ら何でもこんなテンプレな会い方はしないでしょう。いやでもタイミングが良すぎる気がするし・・・見に行きましょうか。

紫は半信半疑になりながらも様子を見る為スキマに入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「グッ!?クソ!悪魔の実の能力者か!!?」

 

 

動物系(ゾオン)の悪魔の実か?しかしなんの動物だ?」

 

 

 

北の海(ノースブルー)のとある島にて、海賊達が1人のボロボロの女性に苦戦をしていた。彼等は海賊と言ってもやっている事は9割は人攫いだ。島を襲っては女子供老若男女問わず攫い、奴隷商人に高値で売りつけている。それなりの実力を持っている上数が数百人の大規模海賊団だった為海軍も要注意海賊団として億越えの賞金首にしていた。そんな彼等を半数以上を倒して居るのは1人の少女だ。衣服はボロボロではあるが、スタイルも良く、顔も洗えば男はすぐに振り向くだろう。しかし、その腰から生えて居る九本の(・・・)尻尾と頭に生えた動物の耳がただの人間じゃない事を物語っている。

 

 

 

「はぁ・・はぁ・・さっさと諦めて失せればいいのだが・・・?」

 

 

「いいや?お前みたいなレア物を見逃すのは人攫いとしてありえねぇ。それにまだまだ仲間はいる。お前が諦めて捕まってくれるとありがてぇなぁ?おい」

 

 

 

流石に少女も体力の限界が来ているようで、肩で息をしていた。肩に矢も受けていて、周囲に展開している火の玉も弱々しくなっている。どうやら矢には痺れ薬が塗ってあるのか脚が震えていて今にも倒れそうだった。

 

 

 

「・・・・ッ!!?(そろそろ限界か!?)」

 

 

「どうやら薬が効いてきたみたいだな?野郎ども!体が痺れていようが注意しろよ!あいつはどんな攻撃してくるか分からねぇからな!」

 

 

 

とうとう片膝をついた少女に武器を構えながらジリジリ近づいていた。船長であるゾーン・ハルパーはニヤリと笑いながら彼女を値踏みしていた。

 

 

 

「あら?やっぱりビンゴだったわね」

 

 

 

そんな声がゾーンの背後から聞こえ、完全に包囲されていた手負いの少女は裂ける様に現れた目が沢山ある空間に飲み込まれて消えた。部下達は驚愕して女性がいた辺りを探しているが、ゾーンは冷や汗を流しながら距離を取り背後を見る。そこには日傘を差し、背中に海軍のコートを着た金髪の少女・・・八雲 紫が開いたスキマに腰掛けてゾーンを見ていた。他の海賊達も気付き武器を構えるが、その場を動けずにいた。紫から放たれている妖力と殺気が尋常じゃない量だったからである。

 

 

 

「出会い方は兎も角、私は個人的に人攫いや奴隷商人て奴が大嫌いなのよ。特に女性や子供に手を挙げる輩は・・・」

 

 

「て、テメェ何者だ!?いつの間にそこに・・・!?」

 

 

「私は八雲 紫。ただの海軍少尉のスキマ妖怪よ。

【万人攫い】ゾーン・ハルパー並びに部下の皆様。ここまでの航海ご苦労様。そして余生を牢屋で過ごしなさい。スペルカード!結界『夢と現の呪』!!」

 

 

 

その後間も無くインペルダウンの玄関に鎖でがんじがらめにされたハルパーと部下の海賊達が死にかけの状態で発見され、看守達に投獄された。


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