大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

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スキマ妖怪がシャボンディ諸島で少女を勧誘?

「ん〜!終わったわ〜。藍?そっちはどうかしら?」

 

 

「すみません紫様。まだ5枚程書類が残っています」

 

 

 

マリンフォードにあるガープの執務室にて中尉に昇格した八雲 紫と正式に紫の専属部下となった式神の八雲 藍が書類整理をしていた。しかしコレは紫の物でも、ましてや藍の物でもない。既に日常化しているガープのサボり癖のせいで回って来たガープの仕事である。紫は山の様な書類の束を片付け、藍も後3枚という所まで書類を片付けていた。

 

 

 

「それにしても、何故ガープ中将の仕事が紫様に回って来るのですか?あの人本当に海兵の中将が怪しくなってきたのですが?」

 

 

「ガープはアレでも実力はあるし、『海軍の英雄』と呼ばれる程海兵達からの信頼は厚いからコング元帥も辞めさせる訳にはいかないのよ。だから仕事は一応部下に当たる私達がやっている訳」

 

 

「あの人確かに人間にしては強かったですね。以前いきなり殴り掛かってきた時は紫様に教わった弾幕とスペルカードでなんとか勝てましたが数発拳を受けてしまいましたし・・・」

 

 

「藍?それ私初耳なのだけれど?全く何人の式に殴り掛かっているのよあのガキは・・・?」

 

 

 

紫は頭に手を当てやれやれと首を振った。

本当に何考えているのか分からないわぁ。それより話だと藍ガープに勝っちゃったのよね?ガープが手加減・・・する訳ないわね。だとしたら数発受けたけどガープに勝利したのよね?私の知らない所で強くなってるのねぇ。

紫は席を立ってやっと書類を全て片付けた藍に近付き頭を撫でた。

 

 

 

「ちょ!?ゆ、紫様!!?どうしたんですか急に!?」

 

 

「よくガープに勝ったわね。流石は藍。自慢の式神だわ♪」

 

 

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

 

 

藍は頰を赤らめ毎日のブラッシングを欠かさない自慢の9本の尻尾をパタパタ左右に振り、嬉しそうに紫に撫でられていた。紫は藍が満足するまで撫で続け、手を離した。藍は少し残念そうではあったが、すぐに切り替えて元に戻った。紫はそれを見て100点ねと呟いた。

うんうん、仕事とプライベートは切り替えがちゃんと出来ているわね。

紫は電伝虫でコング元帥に仕事を済ませた事を報告し、外出許可を得た。

 

 

 

「さてと、藍。出掛けるわよ。準備なさい」

 

 

「外出ですか?いったい何処へ何をしに?」

 

 

「ちょっとした散歩よ。場所はそうねぇ・・・シャボンディ諸島よ」

 

 

 

藍はシャボンディ諸島の『シャ』の辺りでもの凄く嫌そうな顔をした。

 

 

 

「シャボンディ諸島ですか・・・私はあの島が苦手なのですが?」

 

 

「大丈夫よ藍。あの島は意外に料理が美味しいし、少しはマシな島だから。それに藍が嫌っているのは『天竜人』の連中でしょう?会ってもスキマに入ってガン無視すればいいわ」

 

 

 

実は以前仕事で紫と藍はシャボンディ諸島にて天竜人に会っているのだ。その態度、行動、喋り方に至るまで終始作り笑いを浮かべていた紫達の殺意を引き出すには十二分だった。一緒に仕事をしていたボルサリーノ中将は紫と藍の隠された濃厚な殺意を感じ取り、2人が天竜人を絶滅させないかと割と本気で心配した程だ。

 

 

 

「むぅ・・・そう、ですね。では私も同行致します」

 

 

「ありがとう藍。それじゃ、行きましょうか」

 

 

 

紫は愛用の日傘と扇子を手にし、最近藍が自由に出来るようになったスキマを通ってシャボンディ諸島に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島。そこはヤルキマンマングローブと呼ばれる巨大な木の集合体と言う珍しい島で、その名の通り島からシャボン玉が発生している。島の住民はそのシャボン玉を利用して生活に役立てている。同時に新世界に行く為のルートとして海賊達が集まる島でもある為、よく店に海賊達がいたりする。

 

 

 

「ふぅ〜・・・美味しかったわね魚介類のパスタ。藍はどうだった?」

 

 

「まぁ、確かに美味しくはありました。稲荷寿司ありませんでしたけど」

 

 

「貴女本当にアレ好きよねぇ?また作ってあげるわ」

 

 

 

やはり藍は九尾だからか油揚げを使った料理が大好物となっていた。偶々紫が暇潰しに作って食べさせてから藍は病み付きになったのだ。紫は初めて稲荷寿司を食べた時の藍を思い出しながら言うと、藍は紫をまるで女神を見るような目で本当ですか!?と聞いてきた。紫は本当よと言いながら藍を落ち着かせて再び道を歩み始めるが、ふと足が止まった。

 

 

 

「?紫様?如何しましたか?」

 

 

「・・・チッ。来ていたのね。藍、スキマを開きなさい」

 

 

「?・・・ッ!!この匂いは・・・紫様、どうぞ」

 

 

 

藍は鼻をスンスンと動かすと目を細めて尻尾を逆立たせて濃厚な殺気を放つ。その殺気を感じて周囲の海賊達はギョッと藍を見て冷や汗を流す。中には億越えの海賊も居たが恐怖で体も動かなかった。藍は殺気を放ったままスキマを開き、紫を入れてから自分も入りスキマを閉じた。一般人達や海賊達はなんだったんだと疑問符を浮かべていたが、少しして現れた一団を見付け慌ててひざまづく。それは宇宙服の様な服装のバカっぽい顔の一団で、周囲に護衛の兵士と首輪をした人間・・・奴隷を連れていた。

『天竜人』、800年前に世界政府を作ったと言われる20人の王の末裔だ。最初は中々良い王だったが、800年と言う年月が偉人を最低な人間的な何かに変えてしまったのである。しかも彼等に手を出すと海軍本部の大将クラスが軍を率いてやって来るから海賊も手を出せないでいた。

 

 

 

「んふ〜。さっさと進むだえ〜。早くしないと奴隷が売れてしまうえ〜」

 

 

「大丈夫でございます。オークション開催までまだ時間があります」

 

 

「ん〜?そうかえ〜?ならいいえ。それにしてもこいつ遅いえ!その時についでに売ってしまうえ!」

 

 

 

奴隷の男性の上に椅子を取り付け天竜人が座って道を進む。紫と藍はスキマの中からその様子を見ていた。紫は目を細めて不機嫌な雰囲気を放ち、藍は先程から濃厚な殺意を放ち続け、今にも天竜人を焼き殺しそうだ。

 

 

 

「やっぱり何度見ても気分が悪いわね」

 

 

「紫様・・・あの人間を殺す許可をください。・・・・今は他に何もいりません・・・・!!」

 

 

 

やっぱり藍はこう言った人間を人間と思わない連中が嫌いみたいね。私もこんなだえだえうるさい小僧に生きている価値があるか疑問だわ。

 

 

 

「気持ちは分かるけど我慢なさい。アレでも一応海軍の護衛対象でもあるの。私達が手を出してはダメよ?まぁ、向こうから手を出したなら話は別だけれど・・・・」

 

 

「・・・腹立たしいですが仕方ありませんね。精々私達に手を出さない事だな、人間擬き」

 

 

 

天竜人達が見えなくなったのを確認してからスキマから出る。少しは落ち着いているが藍はまだ少し殺気を放っている。紫は気分転換に散歩をしようと藍に言って街をぶらぶらと歩き始めた。10分程度歩いていると、人気の無い路地から声が聞こえて来た。紫は藍を見てみると彼女も聞こえたようで帽子に隠れた狐耳がピコピコ動いている。

 

 

 

「藍?あの路地には何かあるかしら?」

 

 

「血の匂いを発した女の声が1つ、5つの40代程度の男の声が聞こえてきます。話の内容からして女を襲っているようです」

 

 

「そう・・・藍?私は少し目を離すわ。その間は・・・貴女の自由にしなさい」

 

 

「畏まりました。紫様」

 

 

 

紫が路地から視線を外し、1番近くのヤルキマンマングローブを眺め始めたと同時に藍は声のする路地へ入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

シャボンディ諸島の裏路地で1人の少女が倒れていた。体は痣だらけで、所々怪我もしている。服もまともな物じゃなく、首には奴隷の証である首輪を付けていた。倒れる彼女の周囲には柄の悪い5人の海賊達がニヤニヤしながら立ち、少女を見下ろしていた。

 

 

 

「よぉ〜女ぁ?そんなにボロボロでどこに行くんだい?」

 

 

「ヒューマンショップに身売りかぁ?首輪まで付けてるたぁ張り切ってるなぁ?ヒッヒッヒ」

 

 

「ハァ・・ハァ・・ハァ・・」

 

 

 

少女は肩で息をしており、ろくに返事も出来ない。その様子をヘラヘラ笑いながら見ていた1人が腹部に蹴りを入れた。少女は息を吐き出し、咳き込んでしまった。

 

 

 

「ゴホッ!ゴホッ!・・・ハァ・・ハァ・・」

 

 

「チッ!積まんねぇなぁ?折角億越えの賞金首であるこの【片目】のウィラー様がお前を飼って遊ぼうと思ったってのによぉ〜?」

 

 

 

蹴りを入れた男は片目にアイパッチを付けており、腰には1本のサーベル、反対側には2丁のピストルが差してあった。彼は懸賞金1億8500万ベリーの賞金首。【片目】のウィラー・ヘリパーとその部下達だった。

 

 

 

「なんとか言ったらどうなんだ?え?おい」

 

 

「ハァ・・ハァ・・どいて・・ください。ゴホッ!・・私はまだ・・死ぬ訳には・・・」

 

 

「はぁ?なんだよ面白くねぇなぁ?奴隷の癖して命乞いかよ。んじゃあ?ここで死ねやぁ!!」

 

 

 

ウィラーが腰のサーベルを抜き放ち、地面を這いずる少女に振り下ろした。それを目にした少女は自身の死を感じて目を閉じた。最後に思い浮かぶのは、ヒューマンショップにいた時に出会った歌の大好きな少年の笑った顔だった。

 

 

 

「・・・・・そこまでにしてもらおうか?人間」

 

 

「「「「「ッ!!?」」」」」

 

 

 

ウィラーのサーベルは少女の首を撥ねる前に停止した。少女が痛みが来ない事を不思議に思って目を開けると、5人の海賊達は裏路地の出入り口の方を見て顔を青くして固まっていた。少女が同じ方向に目を向けると、そこには金髪の綺麗な少女が海賊達を睨んでいた。しかしその腰からは9本の動物の尻尾が生えており、彼女がただの人間じゃない事を物語っていた。そして少女は気付いていないが、海賊達は彼女から放たれる濃厚な殺意を受けてガタガタ震えていた。

 

 

 

「私は今気分が悪い。普段は生け捕る海賊も今は躊躇い無く消せる。大人しく去るかここで消えるか・・・どちらか選べ」

 

 

「・・・ヒィ!?て、テメェ!誰に物を言ってやがる!おお俺様は億越えの賞金首である【片目】のウィラー様だぞ!!?」

 

 

「そ、そうだそうだ!ど、どこの馬の骨とも分からねぇガキがからかってんじゃねぇぞ!!アァ!!?」

 

 

 

睨みながら警告する彼女にそれぞれ震えながらも武器を構えながら叫び返した。彼女はあぁそうかと頷きながら自己紹介をした。

 

 

 

「まだ名乗っていなかったな。私は海軍本部の八雲 藍と言う。さて、答えは出たかな?人間よ」

 

 

「か、海軍!?や、野郎ども!ぶち殺しやがれぇ!!!」

 

 

「「「「うおぉぉぉぉぉ!!!」」」」

 

 

 

彼女・・・藍が名乗るとウィラー達は血相を変えて殺しに掛かった。振り下ろされたサーベルや斧、更には放たれた銃弾を藍は完璧に避け切り、トンと地面を蹴ってフワリと浮かぶ。ウィラー達はそれを見て騒ぎ出した。

 

 

 

「と、飛んだ!?テメェいったいなんの実の能力者だ!!?」

 

 

「フンッ!貴様等の様な輩に答える義理はない!スペルカード!式神『前鬼後鬼の守護』!」

 

 

 

藍が出現させたカードを掲げると藍の左右から黄色と緑の大弾が放たれ、それが男達狙って小型の弾幕をばら撒きながら海賊達に襲い掛かる。海賊達は慌てて躱そうとするも次々と命中していく。最後に残ったウィラーも、時間差で自分を追尾して来た小型の弾幕が命中して壁を突き破る勢いで吹き飛ばされて気絶した。少女の方にも幾つか飛んで行ったが藍が前以て張った結界に守られた。藍は海賊達が完全に沈黙したのを確認して少女に近付く。

 

 

 

「おい君。大丈夫か?今怪我を治してやるからな」

 

 

 

藍はすぐさま少女に紫から習った回復術をかけて痣や傷を消していく。少女が自分の傷が消えていくのを驚きながら見ていると路地に紫が入って来た。

 

 

 

「藍、よくやったわね。その子が襲われていた子かしら?」

 

 

「そうです。賞金首の海賊達に襲われていました」

 

 

「成る程ねぇ・・・初めまして。私は海軍中尉の八雲 紫よ。あぁ〜その首輪は邪魔ね。ちょっと動いちゃダメよ?」

 

 

 

紫は扇子を開いてそれに妖力を纏い首輪を狙って一閃した。妖力を纏って刃物の様に切れ味を増した扇子は鋼鉄製の首輪を豆腐でも切るかの様に綺麗な跡を残してスパッと切れて地面に落ちた。自分の首から首輪が無くなったのを確認する様に少女は自分の首をペタペタと触り、しばらく触った後静かに涙を流して泣き始めた。

 

 

 

「あ・・・アァ・・・あぁぁぁ・・・・・」

 

 

「貴女やっぱり、天竜人に捨てられたのね?その背中の焼印も消してあげるわ。ちょっとピリッとするけど我慢してね」

 

 

 

紫が忌々しそうに少女の背中に残された天竜人が付ける奴隷の焼印に手で触れると、少女の背中にピリッとした痛みが一瞬走り、背中の焼印がまるで元から無かったかの様に跡を残さず消えた。

 

 

 

「貴女はこれで完全に自由よ。それで貴女行く宛はある?あれば送ってあげるわよ?」

 

 

「・・・・い、いいえ。私には・・会わないといけない人が居るの。その人にもう一度会う為にも、彼を探さないと・・・」

 

 

「彼?探すって・・・・もしかして同じ奴隷?」

 

 

「ッ!!・・・そう、です。私を助けようとして天竜人に歯向かって・・・一緒に奴隷にされたんです・・・」

 

 

 

成る程ねぇ。だからあれ程生きたいと願ったのね?確かにそれは心配よね。・・・・少し助け船をあげましょうか。

 

 

 

「ねぇ、貴女に選択肢をあげるわ」

 

 

「選択肢・・ですか?」

 

 

 

紫の言葉に少女は顔を上げて紫の顔を見る。紫はそうと頷きながら答えた。

 

 

 

「このまま私達からお金と食料などを貰ってその彼を探すか、海軍に入って働きながら情報を得る。後者なら私も探すのを手伝ってあげるわ。・・・どうする?」

 

 

 

紫の言葉を聞いて少女は黙り込んだ。先程会ったばかりの女性を頼って大丈夫だろうか?信じて良いのか?と言う疑問が頭の中を駆け巡る。しかし彼女はせめてもう一度、もう一度だけでいいから彼に会いたかった。その為ならと少女は差し出されていた紫の手を握った。

 

 

 

「お願いします。私を・・・海軍に入れて下さい・・!!」

 

 

 

その言葉を聞いて藍と紫は母親の様な優しい微笑みを浮かべて歓迎した。

 

 

 

「勿論よ。ようこそ海軍へ♪貴女の名前はなんて言うの?」

 

 

「私は・・・ステラ。ただのステラです」

 

 

 

ステラと名乗る少女は強い意志が宿る瞳を持ちながら紫と藍の2人に自分の名を名乗った。


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