大海原に転生してスキマ妖怪   作:☆桜椛★

8 / 26
スキマ妖怪が海軍基地に調査に行く

「ハァ!!ヤァ!!フッ!!」

 

 

「ダメよステラ。声は極力出さないように急所を狙って刀を振りなさい。そんなんじゃまだまだ弱いままよ?次は藍の弾幕を躱す訓練よ。手加減はされてるけど本気でかかりなさい」

 

 

「ハァ・・ハァ・・は、はい!了解しました!」

 

 

 

ステラが海軍に入ってから紫の日課にステラの訓練が追加された。最初はかなり弱っていた為しばらく入院し、退院してから紫の指導の下ステラは訓練の日々を過ごしていた。彼女は武器を持った事ない素人だったが、刀を持たせると思ったより良い動きをしたのでそのまま紫と藍が鍛えると数ヶ月で実力だけなら少佐並みには強くなった。彼女の意志の強さの賜物だろう。

 

 

 

「では私の番だな。手加減はしてやるがお前は手加減するなよ?」

 

 

「分かっています。正直お2人に勝てる気がしないですから」

 

 

「私は兎も角紫様には誰も勝てんだろう。行くぞ!?」

 

 

「はい!今日こそは躱し切って一撃与えます!」

 

 

 

その言葉を合図に藍はスペル無しの簡単な弾幕を展開してステラを狙う。ステラはそれを躱し、刀で斬り、時に被弾しながらも藍に接近して行った。紫が離れた場所で見ていると、珍しい事にクザンとボルサリーノが一緒に歩いて来た。紫は2人を見つけると意外そうな顔をした。

 

 

 

「あら?珍しいわね。貴方達が2人でいるなんて」

 

 

「いや、俺達はさっきそこでバッタリ会ったのよ。こいつもお前が連れて来たステラって嬢ちゃんの成長速度に興味があるってよ」

 

 

「そうなんだよねぇ〜。あの子入って数ヶ月なのに攻撃は重いし特に攻撃を躱すのがズバ抜けて上手いからどんな訓練してるのかと思ったんだけどぉ〜・・・あんな事してたら上手くなるよねぇ〜」

 

 

 

2人は藍の弾幕を躱しては斬るを繰り返すステラを観ながら納得した表情をしていた。紫は自分が育てているステラがそんな風に評価されてるとは思っていなかったが、コレはステラの努力の成果だ。

 

 

 

「にしてもアレだなぁ?あんな可愛い嬢ちゃんが元奴隷だったんだろ?入隊動機を聴いた時は何人か涙ぐんでたぜ?結構いい子じゃあないの」

 

 

「そうよねぇ。私も彼女の彼氏探しは手伝っているのだけれど、奴隷の数が多過ぎて見つからないのよ」

 

 

「そうだよねぇ〜・・・奴隷は日に日に増えてるからねぇ〜」

 

 

 

そんな話をしていると藍の弾幕がステラに命中し、数メートル程吹き飛ばされた。藍はフワリと着地し、ステラの治療に取り掛かる。手加減して非殺傷弾幕にしていても痛い。ステラは肩で息をしながら治療してくれている藍に礼を言った。クザンとボルサリーノは自分の仕事をする為に戻って行き。紫も藍とステラに近付いていった。

 

 

 

「2人共お疲れ様。なかなかいい動きをするようになったじゃないのステラ。でもまだ視野が足りてないわね。訓練でゼファーに覇気も特別に習ってるのでしょう?」

 

 

「ふぅ〜・・・は、はい。でも武装色は上達しましたけど見聞色の覇気はイマイチなんですよ。それに位置や数が分かってもあれだけの数は大将でも無理ですって」

 

 

「まぁ私達海軍の英雄倒しちゃってるものねぇ。あのサボリ魔は性格はアレだけど実力だけは確かだから・・・実力だけ」

 

 

 

本当にあの人から回された仕事は多い。私の1日の仕事の6割はガープの仕事なのよねぇ。

紫が遠くを見つめ始めて藍とステラは苦笑いしている。2人もセンゴク大将に頭を下げられて渋々ガープの仕事をやっている姿を何度も見ているのだ。紫も断ればいいのだが、ほぼ毎日来るセンゴクに同情してしまっているのである。

 

 

 

「もうガープを執務室に入れてから結界を張って仕事が終わるまで閉じ込めてしまおうかしら・・・・あれ?意外に名案じゃない?」

 

 

「そうですね。今度センゴク大将にその案を提案して来ます」

 

 

「よろしくね藍。さて、そろそろお昼ね?午後は3時頃から訓練するわよ」

 

 

「「分かりました」」

 

 

 

藍は一礼してスキマを開いて入って行った。おそらくセンゴクに先程の案を提案しに行ったのだろう。紫はフラフラしているステラに気を使いながら先に食堂に一緒に行っておく事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後、紫はコング元帥の指示である島の海軍基地の調査に来ていた。普通は大佐クラスでないと務まらないと許可されないが、コング元帥が紫の実力を見込んで頼んだのである。普通なら紫のスキマを使えば良いのだが、ちょうど補給船がその基地に食糧などの物資を運ぶらしく、コング元帥が部下とのコミュニケーションを取れるようにと紫を責任者にした。

余計なお世話よ!私には藍がいれば今は十分なの!

 

 

 

「はぁ・・・コング元帥も面倒な事するわねぇ。私がスキマ使えばすぐなのに。・・・・・それにしても悪趣味な基地ねぇ?」

 

 

 

紫は愚痴を言いながら補給船から見える調査予定の海軍基地を見て呆れ顔になる。基地は5階建、3m程の壁に囲まれた基地はあちこちに無駄に豪華な装飾がされている。大砲や門の扉には金箔も貼られており、軍港のあちこちにこの基地の責任者であるカネデカウ大佐の銅像がある。だがこれには全部純金が使われていた。

 

 

 

「紫様、物資を降ろす作業が終了しました。現在は食堂にて休憩を取らせています」

 

 

「お疲れ様、藍。この基地の海兵達はどうだったかしら?」

 

 

「・・・一目見ただけで海兵達に大きな差があるのが確認出来ます。痩せこけてボロボロの衣服と装備をした海兵と、衣服に宝石を付け、武器も装飾だらけの態度がデカい海兵とでこの基地は大きく分かれています。後者に至っては補給船の女海兵達に手を出そうとしていました」

 

 

 

聞いただけでも真っ黒な基地ね。後でその女海兵に差し入れを持って行ってあげましょう。シャボンディで買った高級チョコでいいかしら?

 

 

 

「そう、ありがとう藍。後でその女海兵に差し入れを持って行くわよ。さて、私達はカネデカウに書類のサインをしてもらいに行きましょうか」

 

 

「分かりました。では向かいましょう」

 

 

 

紫と藍は補給船を降りて駆け寄って来たボロボロの衣服を着た海兵に案内をしてもらった。やはり基地の中も凄まじく、あちこちにカネデカウの肖像画や銅像があり、金ピカに光っているから目が痛くなる。ウンザリした表情でしばらく歩いて、最上階の部屋の前に来た。この中にカネデカウがいるらしく、案内してくれた海兵はそそくさと去って行った。

 

 

 

「ねぇ藍?私今天竜人が目の前にいる程嫌なのだけど?」

 

 

「耐えて下さい紫様。私もこの基地を狐火で焼き尽くしたいと思っています」

 

 

 

クッ!藍がそれだけ我慢しているのに我が儘言えないわね。私は仕方なく深く、深く溜め息を吐いて豪勢すぎる扉を開いた。中は壁も天井も金ピカで、机や椅子、額縁やペンなどには高価そうな宝石が埋め込まれていた。そしてその机には横にブクブク太った男がいた。しかも指輪やネックレス、歯は全て金歯ときた。ヤバいわ・・・もの凄くぶっ飛ばしたい。

 

 

 

「本部から物資を輸送しに来ました責任者の海軍中尉の八雲 紫です」

 

 

「副責任者の八雲 藍です。書類にカネデカウ大佐のサインをしてもらいに来ました」

 

 

「ウヒョ♪なかなかいい体じゃないか。この僕ちゃんのサインが欲しいのだな?いいだろう、特別にしてやらなくもないぞ?」

 

 

((殺す・・・))

 

 

 

いきなりそんな事を言い出したカネデカウに紫と藍は殺意を持ったが、気合いで殺気を抑えつけた。カネデカウはジロジロと2人の体を見ながら出された書類に金ピカの羽根ペンでサインし始めた。

カネデカウは海軍本部から出された予算を警備や兵の食費などに回さず、約7割を自分の懐に入れている可能性があり、更には基地のある島の住民から多額の税金を払わせているとの噂があるとコング元帥は言っていたけど・・・コレ絶対に黒だわ。

 

 

 

(紫様どうします?もう証拠とか放っといてこの人間を処分しますか?)

 

 

(我慢なさい藍。もしかしたら天文学的な確率で黒に限りなく近いグレーかも知れないわ)

 

 

(それもう黒で良くないですか?私この人間消したいんですけど)

 

 

「ほれ!僕ちゃんのサインを書いてやったぞ。どうした?幸せ過ぎて声も出ないのか?ハッハッハッハッ!」

 

 

 

藍と紫が念話でカネデカウを消すかどうかの相談をしている内にカネデカウがサインを書き終えた。藍が苦笑いしながら書類を受け取り確認すると、金色のインクで下手な字でサインが書かれていた。例えるならフクロテナガザルに達筆過ぎる漢字を見せてペンで書かせた様な字だ。

 

 

 

「は、ははは。す、素晴らしい字ですね?(紫様コレなんて書いてあるんですか?見た事ない字ですけど)」

 

 

「では私達は補給船に戻ります。3日程したら本部に戻りますので、それまで島に滞在させて頂きます(多分私達の名前の部分を見ながら書いていたから『八雲 紫と八雲 藍へ。海軍大佐カネデカウ』とか書かれてるんじゃないかしら?)」

 

 

 

紫と藍は念話をしながら器用にカネデカウと会話を行う。カネデカウは藍の苦笑いを照れ笑いと勘違いしてニヤニヤと笑っており、紫の言葉に適当に答えている。

 

 

 

(紫様、コレ後で書き直して焼き尽くしておきますがよろしいですか?)

 

 

「(許可するわ。思いっきり焼きなさい)では私達はこれで失礼します」

 

 

「ウヒョヒョヒョ♪構わんぞ。精々楽しみたまえよ」

 

 

 

カネデカウは退室して行く紫と藍の体を終始ニヤニヤ見ていた。紫と藍は扉を閉めた途端スキマを開いて補給船に帰還した。藍は部屋に着いた途端今まで見た事もない速度でキチンと書類を書き写し、渡された書類を狐火を15個もぶつけて消し炭にした。

 

 

 

「紫様、補給船の海兵達には悪いですが今すぐ準備を済ませて帰りましょう」

 

 

「ダメよ。そんな事したら私達があいつに負けたみたいじゃない」

 

 

 

紫は藍の提案に乗りたかったが、カネデカウに負けた感じがして帰っても寝れなくなりそうだから断った。2人は1時間程部屋で過ごして心を落ち着かせ、今後の事を指示する為に食堂に向かった。中では海兵達が食事をしながらこの基地の愚痴を言いながら仲間達と会話していた。紫と藍は海兵達の前に立ち、3日程滞在する事を話した。

 

 

 

「・・・と言う訳で、明日私達は島にある町に行って視察してくるわ。貴方達はいつでも出港出来るように準備してちょうだい」

 

 

「「「「「えぇぇぇ〜〜〜?」」」」今すぐ帰っちゃダメですか?」

 

 

 

海兵達は全員が露骨に嫌そうな顔をして不満そうな声を上げる。どうやら物資を基地の倉庫に運んでいる間にも基地の海兵達が自分の基地の自慢を聞いてもいないのに話し出し、女海兵達はナンパされまくったらしい。

 

 

 

「私と藍もこの基地の責任者のカネデカウに気持ち悪い視線を終始向けられていたのよ?叩き潰そうにもコング元帥に証拠を見つけて持って行かないといけない私達の気持ちが分かるかしら?」

 

 

「よ〜〜しお前等!頑張って3日間滞在するぞ〜〜!」

 

 

「「「「「おぉぉ〜!」」」」」

 

 

 

紫の言葉に同情した海兵達が滞在する事を決心した。紫は少しそれを嬉しく思いながらこれからの予定を指示していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、紫は予定通り藍を連れてこの島の町を訪れていた。町はまるでゴーストタウンの様に誰1人出歩いておらず、店という店は全て閉まっていた。しかし無人ではないらしく、家の窓からこちらを伺う住民の姿が見える。

 

 

 

「さぞかし昔は豊かで賑わいのある町だったんでしょうね」

 

 

「えぇ、おそらくあの人間が多額の税金を払わせているのは本当のようですね。扉に蹴りを入れた後もあります」

 

 

 

紫と藍は町をしばらく歩いていると、何軒か扉や家の壁に刃物で切った後や、銃痕があるのに気が付いた。藍はそれを指でなぞりながら紫の方を見た。

 

 

 

「紫様・・・この傷はもしや・・・・?」

 

 

「おそらくそうでしょうねぇ・・・・」

 

 

 

紫は鋭い視線を海軍基地に向けていた。補給船に戻って電伝虫でコング元帥に連絡して報告を済ませようと考え、藍と別れて町を見て回る事にした。町はやはり無人の様に誰も出歩いていなかった。

 

 

 

「やっぱり誰もいない・・・いえ、いるにはいるけどみんな私を恐れている感じね。これ以上いても仕方ないわね・・・藍、補給船に戻るわよ?」

 

 

(ふぇ!?ゆ、紫様!?わ、分かりました。すぐそちらに向かいます)

 

 

「?藍どうかしたの?様子がおかしいけれど」

 

 

(な、なんでもないです。ちょっと驚いただけですので)

 

 

「そう?まぁいいわ。さっさと本部から許可貰ってあの人間を潰すわよ」

 

 

(ッ!!?畏まりました。すぐにそちらに向かいます)

 

 

 

藍はそう言い残して念話を切った。紫は少しして飛んで来た藍を連れて補給船に戻り、コング元帥に渡す報告書を作成し始めた。

軍隊とかっていちいち報告書作らないといけないから面倒よねぇ・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「カネデカウ大佐。あの補給船の乗組員を調べ終わりました」

 

 

「やっとか?早く僕ちゃんに話せ」

 

 

 

カネデカウの執務室では海兵達が集まり、紫達の乗って来た補給船の乗組員について報告していた。

 

 

 

「補給船には男6割女4割の割合でその全てが新人海兵。責任者の八雲 紫と八雲 藍についての情報はあまりありませんでしたが、昇格が早すぎる為おそらく金などで上司を誑かしたんでしょう」

 

 

「ほぉ?なら大丈夫そうだな。いいか?シナリオはこうだ。あの補給船は基地を出港したが運悪く沖で海獣に襲われて全滅しただ。計画は今夜奴等が寝静まった時に執行する。しくじるなよ?」

 

 

「「「「はっ!!」」」」

 

 

 

海兵達はカネデカウに敬礼して計画の為に行動を開始した。部屋に残ったカネデカウは1人ニヤニヤと笑い続けていた。

 

 

 

「ウヒョヒョヒョ♪これであの2人は僕ちゃんの物。明日の朝が楽しみだ」

 

 

 

カネデカウの笑いが執務室に響く。そして、それを観察する様に1匹の鳥が窓から覗いていたが、少しして飛び去って行った。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。