私はすぐヤドをボールに戻す。ハヤトさんはヤドの限界に気付いてたのに対し、私は気付いて無かったのが情けない。最後の念力や冷凍ビームも死力を尽くした攻撃だったのだろう。
私はヤドに心の中で感謝し、腰に付けているもう一つのボールを投げる。そこからは万全の状態のエレが現れる。
だが私の心は不安で一杯だ。ヤドに比べて力量の低いエレで勝てるのだろうか。
「エレ、頼むわよ…!」
「…お任せ下さい。恐らく相手のピジョンに対し私の力量は劣りますが、電気タイプである私は飛行タイプに対し有利です。それに…」
エレはいつもの様に戦力分析を行っているようだ。そして上空のピジョンを睨み付ける。
「ボールの中でヤドの戦いは見てました。これで私のシミュレーションによる勝率はぐんと上がりました」
「ふむふむ、勝率は?」
「三割です」
………
…フィールドに静寂が訪れる。相手のハヤトさんや、ピジョンの動きも少し止まったのではないか。恐らく呆れているのだろうか。その中で私はエレに静寂を破る指示を出す。三割か…
「…充分よ!行ってきなさい!」
「了解です!マスター!」
~
このバトルは先とは打って変わって機動戦の様相を示していた。ピジョンは先程と変わらず上空からのヒットアンドアウェイだが、対峙するこちらの足回りが先程とは大違いだ。
エレならあのピジョンの動きに食らい付くことが出来る。相手の電光石火、風起こしを避けつつ、エレは電気ショックを放つがピジョンもそれを避ける。
…うん、充分にエレはピジョンに勝るとは言えないが劣らない動きをしている。
ただお互いに決定打に欠けていた。しばらくしてその均衡を崩す指示がハヤトさんから放たれた。
「ピジョン、相手は電気タイプだ。…後は分かるな?」
ピジョンは頷く。指示の中身を言わずとも把握するその様子は新米である私達には真似できないものだ。
指示を受けたピジョンは上空から地面に急接近しながらエレの方へ迫る。その動きは何回か見た電光石火と変わらない…そう感じた。
しかしその私の考えは甘いものだった。
ピジョンはエレにぶつからず、地面の砂…いや、泥だろうか。それをエレに浴びせる。
「くっ…」
エレは後ろに下がり目を擦っている。…不味い!
「…また来るわ!正面、電気ショックで迎撃!」
「…っ、はい!」
エレは私の指示を受け正面に電気ショックを放つがピジョンに当たらず、接近され、再び泥を浴びせられる。
「外した!?エレ、一旦距離を…」
私は距離を取るよう指示を出す。エレは目を擦りながら私の元へとやってくる。…その様子から私は一つの予想に辿り着く。
「泥掛け…」
「へぇ、随分詳しいじゃないか」
ハヤトさんの返答からして私の予想は当たっているのだろう。しかしそれを喜ぶ余裕は私にはない。
「エレ、大丈夫…かしら?」
「不覚です。…ダメージは低いですが、目に泥が入りました。狙いがうまく定まりません…」
エレは目を擦りながらそう答える。先程の電気ショックを外したのはその為だろう。
「…分かったわ」
…なら戦い方を変えるしかない。目を潰されたエレには動き回り、相手を狙うのは厳しいだろう。ヤドの時と同じ…待ちの戦法で行く。
「…悪いがバトル中に悠々と話してる余裕は無いよ!…ピジョン!」
ハヤトさんは私の考えがしっかりと固まる前にピジョンをエレに向かわせる。私も指示を…!
「エレ、ちょっと前進してそこで待機!」
私の近くにいたエレを前進させる。…このくらいの距離なら大丈夫だろうか
先程と同じくピジョンがエレに迫ってくる。動作からか泥掛けか、電光石火…まぁ泥掛けの方だろう。更にピジョンがエレに近付き、泥を掛ける…
………今!
「電気ショック、全方位!」
「…はぁっ!」
「………っ」
泥掛けを食らいながらもエレの放つバチバチと音と光を立てる電気ショックが私の目の前まで届く。…少しだがピジョンの呻き声が聞こえた。恐らく当たっている…!
「…大丈夫だ!ピジョン、引け!」
ハヤトさんはピジョンに指示を出し引かせる。ピジョンには素早く離脱される…しかし退避先はいつもの上空ではなく、地面のようだ。
「挑戦者さん、やるじゃないか。狙えないなら狙う必要無い攻撃の指示。…そして目が見えにくい状態でマスターの指示を待てるそのエレブー…本当にジム挑戦は初めてかい?」
「えぇ…トレーナーになったのも最近です」
ハヤトさんの分析と称賛に私はそう答える。誉められるのは悪くない。只、喜んでいる場合ではない為、意識はピジョンへと向けておく。
「凄いな。…がその電気ショック一撃では俺のピジョンは落ちない。力量不足だね…ピジョン、羽休め!」
………あれは!?
「………っ!エレ!えーと…正面から若干右に電気ショック!」
「…え?り、了解!」
なんと相手のピジョンが先程から忙しなく動かしていた羽を休める動きを始めたのだ。
それを見た私はエレに指示を出し、エレも戸惑いながら電気ショックを放つが明日の方向へと飛んでいく。
…そしてピジョンは再び上空へと舞い戻り、飛び回る。先程の電気ショックのダメージなど無いような動きをしている。
…恐らくダメージを回復された。これでは先程の電気ショックが効いてないのど同じではないか…!
「…ピジョン、そろそろ止めだ」
ピジョンは三回も泥掛けを食らい、目が満足に見えていないエレに上空から接近する。
…全方位では火力が足りない。が今のエレが当てられる技はこれだけ。…エレの残り体力も少ないが有効な手は浮かばない。
「…エレ、もう一回よ!」
「…はい!」
そしてピジョンはエレの前に立ち…
「…今!」
「は………っ!」
エレの返事と電気ショックが少し発生したものの止まる。エレが膝から崩れ落ちる。
………ピジョンのあの攻撃は泥掛けではなく電光石火だ。エレに止めを刺そうとしたのか。そしてピジョンはエレから離れ………ん?
「よし、よくやったピジョン。………ん!?」
何とピジョンがエレから離れない。嫌…体が痺れて動けないというのが正しい表現なのだろうか。
…それを見た私は倒れかけのエレに最後の指示を出した。
「エレ、正面全力で電気ショック!!」
「り、了解…!」
「…っ、電気ショック…いや、静電気で麻痺したのか!?」
…電気ショックの光でしっかりとは見えないがエレの渾身の電気ショックがピジョンに直撃しているのはうっすらと見える。
そして光が止んだ時…
「………おめでとう、挑戦者セーレ」
そこには倒れかけのエレと倒れているピジョンがいた。それを見てジャッジマンが宣言をする。
「君の勝ちだ」
「ピジョン、戦闘不能!…よってこのバトル挑戦者の勝ち!」
私はその宣言を聞き、体が震える。
ジムリーダーに勝ったのだ。
~
夕方、キキョウシティを歩くトレーナーとそのトレーナーの萌えもんの姿が見える。
「ねぇねぇ、何処に付けようかしらコレ?やっぱり目立つ所がいいわよねー」
「…そ、そうですね…でもまず萌えもんセンターに…」
「バックとか如何ですかなー、マスター」
「いいわね!見える所に付けましょ!…こんな感じ?」
「おぉー!格好いいですぞー」
「…あれ?ヤド、何で貴女は元気なのですか…、私はボロボロなんですが…」
「あ、気にしないで下さいな」
「あ、エレ。今日休んだらすぐ出発だからね」
「…えぇっ。治療で怪我は治りますが、少しくらいゆっくりしましょうよ」
「いや、近くで虫取り大会とかいうのがあるらしいの。…面白そうじゃない?」
「まぁ今日は休んでいいからね…。だから」
トレーナーが連れている萌えもん二体を抱き寄せる。
「…よく頑張ったわ。ありがと」
「…はい」
「はいー」
「…あ、そういえばあれやってないわ…えーと」
トレーナーは抱き寄せていた二体を離し、こう言った。
「…ウイングバッジゲットだぜー!…ってね」