[雑記メモ]
参加者の多さにより急遽開かれたというルーキーカップの予選。内容は幾つかのグループ分けからの総当たり戦だ。そこから成績上位の選手が本戦に出場出来るらしい。当然だが俺は姫さんがいるグループの予選の観戦だ。
そこで俺は『事実上の決勝戦』レベルの試合を目の当たりにした。…確か本戦はラジオ放送するらしいがこの試合を放送しないってのは勿体無いんじゃないか?まぁ見に来てた会場の僅かな客が役得だったってことか。
[ケイブ]
俺はペンを止め、先程の試合を思い出す…
~
「よ、よろしくお願いします」
「えぇ、よろしく」
姫さんが対戦相手の少年の挨拶に応える。相手の少年は俺も見覚えのある顔…あのリュックの少年だ。
両者が挨拶をし、バトルフィールドの指定位置に立つとジャッジが試合開始の合図をした。ジャッジも何試合も大変なことだ。まぁこのグループの試合も後少しだから気は楽だろうが…
「ではホロ選手対ドラ選手試合開始!」
ジャッジの宣言で両者がボールを投げる。あの少年…ドラって名前か…
「行けっ!ろすろす!」
「お願い!ツヴァイ!」
少年がカイロスを繰り出し、姫さんがワニノコを繰り出す。
そしてワニノコの方は直ぐ様カイロスに対して接近していく。体格差など関係無いと言わんばかりの速度だ。
「ツヴァイ、噛み付く!」
「…えっとろすろす!挟むで応戦…」
姫さんの指示が素早く入り、カイロス対して噛み付く。一方、少年の方は指示が遅れ、迎撃が間に合わない…
噛み付いているワニノコをカイロスが振り払うがその振り払いは大したダメージにはなっていない。直ぐにワニノコは体勢を立て直し、再び噛み付く。
…少年は後手後手だ。カイロスにリベンジの指示を出し、ワニノコに攻撃は入るがその攻撃を食らっても尚ワニノコは攻め手を休めない。姫さんもワニノコもそのつもりみたいだ。
…前に姫さんが意外と強いと言ったがそれは撤回した方が良さそうだな。ワニノコの小回りを生かした足回りで試合の主導権を握っている。
そして試合の主導権を握っているのを自覚した上でワニノコと姫さんは攻め手を休めていない。状況判断がしっかりしているじゃないか。
一方の少年は…バトルは大したことなさそうだな。俺は最初に持っていた警戒を解きかけていた。
しかし俺の考えは甘かった。彼のカイロスが体力の減少からか懐から丸い何かを口にする。
よく見えないが恐らく木の実か…メジャーなものならオレンかオボン…そんな所だろう。
少年は萌えもんの持ち物が使用可能であり、その有用性には気付いているらしい。そういう所には知恵が回るようだ。
「…よし!ろすろす、挟む!」
「…うむ!」
少年の指示を受け、カイロスがワニノコに向かっていく。
ん?
…ちょっと待て。
何だあのカイロスの動きは………
少年のカイロスはワニノコの動きに追い付いた上で相手の噛み付くを優々と受け止める。優々と受け止められたことにワニノコは驚いているようだ。
その上で挟むで攻撃。………ワニノコが吹き飛ばされる。今度は直ぐには起き上がらず、ゆっくりと起き上がった。ワニノコが呻いている。
「ううっ…痛い…」
「…よし!」
………少年がぐっと拳を作る。それに対し姫さんの顔が固まるのが目に見えて分かる。
…いや、ちょっと待て。どうしたんだ?あのカイロス?今まで手加減…いや、そんな素振りは無かった…
あの傷の治りは恐らくオボンとか?………だがあの攻撃、防御、素早さの上昇は説明がつかない。
…何だ?丸い…
………
…まさかな。俺は少年が虫取り大会で持っていた箱を思い出すがそれは考え過ぎか…そう思ってると解決の糸口は相手から見つかった。
「ろすろす、切れる前に…」
「うむ、分かっている!」
「ツヴァイ、来るわよ!横に回避!」
「う、うん!」
カイロスがワニノコ目掛けて突っ込んでいる。ワニノコは横に動き、突進を避けようとしているが…俺はその場よりも先程の言葉に意識を向けていた。
『切れる前に』………俺の先程の予想は当たってるかもしれない。もう一度少年が持っていた箱…薬箱が頭をよぎる。
………あの少年やっぱりバトルでも問題児だ。
俺が思考を巡らせている間に動いた場を見て………
倒れるワニノコと最後っ屁で噛み付くを食らいながらも立つカイロスの風景が俺をそう確信させた。
~
しかし少年の恐ろしさはそれだけでは無かった。
試合の全容を見た俺は実感する。
「っ………すみません。降参します」
「…了解しました。この試合ドラ選手の勝ち!」
ジャッジの試合終了の宣言後、姫さんが毒に蝕まれ倒れかけのジュプトル…ドライをボールに戻す。その後、少年もツボツボをボールに戻した。
「負けたわ…ありがとう」
「いや、こちらこそ…」
少年はペコペコと姫さんに挨拶している。勝った側とは思えない態度だ。
にしても…
またあのよく分からない丸薬とルーキーと呼ぶには不相応な今の戦法…
毒々に守る………随分と完成された戦法だ。
そして挨拶も終り、姫さんがこちらに気付いたのか席がガラガラの観客席側に来る。そして俺の隣に座った。
「………負けちゃいました」
彼女は空笑いしてそう言った。それに対し俺は慰めの言葉をかける。
「ま、でも嬢さんは予選通過圏内だろ。5勝1敗なら上々だ」
「あの子もね…」
姫さんはフィールドを離れる少年の方を見る。確かにあの少年もそれくらいだ。彼も本戦に駒を進めるだろう。
「………なぁ、嬢さん」
「…何ですか?」
「あれともう一回戦いたい?」
俺の問いに対して彼女は苦虫を噛み潰した様な顔をしてこう言った。
「…もう懲り懲りです。出来れば本戦でも戦いたくないです」
「…だな」
その後、俺は懐からメモ帳を取り出してペンを走らせた。