会場が沸き立つ中、何度聞いたであろうか…実況の音声が緊張している僕の耳に入る。
『さぁーて!!いよいよ始まります!!』
機材越しでも分かる元気で活発な声が聞こえてくる。第一回戦からこの調子だがよくテンションが落ちないなぁ…
『コガネルーキーカップ準決勝!!実況は私、クルミちゃんがなんぼのもんじゃい!!ジツキとぉー!!』
『………』
『ヨウちゃん!!ほら、いつもの!!』
『…ヨウがお送りします』
今度は反対に静かながら良く響く綺麗な声が聞こえる。彼女の口調からは呆れも感じられた。
まぁそうだよな、だって…
『…ジツキちゃん、この挨拶何回目よ?もういいでしょ………』
『回数?数えてないです!!私達の名をとことん売り出すチャンスだからねぇ!!このラジオ視聴率も鰻登りらしいですよぉ!!ヨウちゃん!!』
自己紹介何回するんだって感じだもんなぁ。テレビやラジオとかって大変なんだなぁ…
『…はい。そろそろ始まります。準決勝第一回戦、ドラ選手対セーレ選手の試合です』
『あっー!!この子私の台詞取りましたよ!!この女狐がぁ!!………痛い!!ヨウちゃん!!マイクで殴るのは良くない!!………』
何か漫才始めてるし…僕の視界の端に見えるジャッジと正面に見える女性………セーレさんも苦笑いしている。
確かこの女性…セーレさんは虫取り大会の際に見覚えのある顔だ。まさか僕自身もだが彼女もこの場まで上がってくるとは…凄いトレーナーなのだろう。
「…では準決勝第一回戦、ドラ選手対セーレ選手の試合を始めます」
ジャッジも呆れながら試合開始の合図をする。
「………では試合開始!」
『では試合開始です。………ねぇ、ジツキちゃん起きて。殴り過ぎたのは悪かったからさ』
「行けっ!ろすろす!」
僕はボールをフィールドに投げ、ろすろすを繰り出す。ボールから光が放たれ、ろすろすが姿を現す。…やる気充分だ。
「いざ…!」
「行きなさい!ヤド!」
同じタイミング辺りで彼女もボールからヤドンを繰り出していた。相手のヤドンは落ち着いてろすろすを見据えている。
「おぉー。これがライ殿のライバルー」
相手の先発はヤドン。既に何試合かしてきたから分かってることだ。…岩タイプを含むつーを出すのは危険。ろすろすで相手をする必要がある。
そして相手の控えはストライク。…どうやらろすろすの知り合いらしい。ろすろすはトレーナーの手持ちになっている彼女に驚いていた。そのストライクはろすろすの話だと私と互角…いや、それ以上かという力量みたいだ。
………基本に忠実に行くか。ろすろすでヤドンの対処。ストライクにつーを当てる。これが安定か。
『ドラ選手はカイロス。セーレ選手はヤドンです。どちらも先程の試合で力を奮って来た萌えもん達です』
『………はっ!!私の出世街道がっ!!…って試合始まってますねぇー!!これは私ジツキ、減給が怖い所です!!』
「…よし、ろすろす………」
「…ヤド、あれお願い」
そして…
実況の音声と観客の視線を背に僕と彼女から萌えもんへの指示が下された。
「…地球投げ!」
「了解した!」
ろすろすが僕の指示を受け、ヤドンに向かい走り出す。一方、ヤドンの方は動く気配を見せない…大部両者の距離は縮まっていた。
相手は水鉄砲か念力。先程の試合で見てきた技だ。この距離とろすろすの速度なら水鉄砲は避けて地球投げへと組み付くことが出来る。
念力でも恐らく同じ…大丈夫だ。ヤドンの動きに注意しつつ技を入れていけばいい。
…まぁ仮に水鉄砲、念力なら致命傷にならず僕の薬で回復は可能だ。
なのに…
彼女とヤドンは動こうとしない。
距離が縮まり、ろすろすが地球投げの構えを取る。…この距離なら水鉄砲、念力が当たろうと地球投げまで持ち込めると僕は判断した。ここでまず一発、技を入れる…
その時…
彼女の指示と…
ヤドンの口から…
恐るべきものが飛び出した。
「…ヤド、火炎放射!!」「ではさよならー」
ヤドンの口から赤く燃える火が放たれる。それは掴みかかろうとしていたろすろすを怯ませ、そのまま火がろすろすを包みこもうと………って不味い!!
『おおーっと!!ここで火炎放射だー!!まさかの火炎放射です!!火炎放射!!』
『ジツキちゃん、うるさい…。でもこれは良い奇襲手ですね。ここまで温存してたのも素晴らしい』
「…ろすろす!」
僕はろすろすを呼ぶ。…すると火の中から体の節々を火傷しつつも僕の用意した丸薬を口にするろすろすが現れ、僕の近くまで戻ってきた。
「…舐めすぎたか。炎技だとっ…」
「ごめん…ろすろす」
「主が謝るな。さて、どうする…」
ろすろすがヤドンとトレーナーの彼女を見る。すると………
ヤドンを何回か叩くセーレさんの姿があった。
「…何で本当に使えるの!あんたは!?虫取り大会の時にも言いなさいよ!!」
「やー、言おうとはしましたぞ。大会の時も本当に使えるって言いましたのにー。痛いですぞー」
ヤドンも叩かれながらも満更ではなさそうな様子だ。
「まぁ、でもー」
彼女と戯れていたヤドンがゆっくりと此方を向く。
「その火傷ではキツいでしょうな、カイロスさん………あら?でも傷が少し治ってますぞ、やはり何かありますな」
『…確かにあのカイロス火傷してますね。火炎放射の当たり所が悪かったのでしょうか』
『ねぇ、ヨウちゃん!!』
『何ですか?ジツキ実況』
『私の家計も大火傷らしいです!!上からしっかり実況しろって!!』
『そのまま瀕死になって下さい』
漫才実況を耳にしつつ僕達の方を見てヤドンが少し笑う。その様子にろすろすが角を震わせた。
「…っ、主」
「ど、どうした?」
「まだ薬の効果がある内に仕掛けるぞ。あのヤドン、許せん」
ろすろすは闘志を燃やしている。その様子に火炎放射により引け腰だった僕も勇気付けられる。
「分かった。でも…」
火傷。
萌えもんの物理的な技の攻撃力が下がる状態異常だ。参ったな…
つーなら状態異常は問題なしだがろすろすには治す手段は…ない。地球投げなら安定したダメージを与えられるが…
僕の不安を読み取られてしまったのかろすろすが僕の方を向き、励ましてきた。
「主、大丈夫だ。…ハサミギロチンで行く」
「必ずや戦果を持ち帰ろう。つー殿に水タイプのヤドンは危険だ………ここで仕留めるか或いは…」
そうだ。
火傷でも関係無い技があった。ハサミギロチン。…一撃必殺と呼ばれる技だ。
「…大丈夫なのか?確か一撃必殺になるように当てるのは至難の技って話だけど…」
「ふっ、私のハサミギロチンは実戦に強く調整されていてな…大丈夫だ」
そう言うとろすろすがこちらに背を向け、ヤドンを見据える。
「期待しておけ、主よ」