「何だったのかしら、あれ…」
大会準決勝が終わり、無事決勝戦へと駒を進めた私は萌えもんセンターへの帰り道で呟く。私の準決勝の相手は過去に自然公園にて戦ったあの男だった。手持ちはガーディにヘラクロス。恐らくヘラクロスがケイブさんが言っていた虫取り大会で捕まえた萌えもんなのだろう。
試合に関しては危うい所もあったけれど無事勝利を収めた。しかし今の呟きの中身はその事ではない。
その前の準決勝第一試合…後の話だ。予選で戦った少年のツボツボと次に決勝戦で当たる女性のストライクの喧嘩だ。
…実況も煽るわ、会場席のケイブさんは腹抱えて笑うし、それを見てたツヴァイは何故か目を輝かせてたし、ドライは冷ややかな目でストライクの方を見ていた。
「凄かったね!あれ!」
私の足元のツヴァイが私に話してくる。ツヴァイの言うあれとは今私が考えていたことと同じだろう。
「ツヴァイ、あんたは真似しちゃ駄目だからね」
「し、しないよ!」
ツヴァイは慌てて否定している。…なら良いんだけどこれ以上面倒事は御免よ。
そう思い、私は帰り道を進みながら対戦相手の女性とその萌えもんについて考え始めた…
~
そして翌日、熱気に包まれる会場の中心のバトルフィールドに私は立っていた。…何か昨日より人数が多くないかしら?そう考えていると昨日と変わらない実況の音声が聞こえる。実況はまたあの人達なのね…
『さていよいよ決勝戦です。セーレ選手対ホロ選手。…両者がバトルフィールドに立ちました。試合開始はもうすぐです』
『いやー!!どちらも頑張って欲しい!!私の名前を売るために!!私ジツキとヨウちゃんの実況でお送りしております!!コガネルーキーカップです!!』
『…すみません、私も巻き込むの止めてください。昨日散々上から怒られたのに懲りてないですね』
『…ふっ!!上からのバッシングがなんぼのもんじゃい!!私は私だー!!』
…相変わらずね。そう思いながら私は呆れながら正面に立つ女性…今回の対戦相手のセーレさんを見る。結局ケイブさんが気にしてくて良いと言ったこの人が決勝戦の相手だとは…
「よろしくね!」
彼女は明るい笑顔で私に挨拶してくる。昨日のことなど気にしてないのではないかと思える感じだ。私も挨拶を返す。
「よろしくお願いします」
そう言葉を交わし、お互いに試合開始地点に戻る。その様子を確認したジャッジが一拍置いて試合開始の合図をした。
「ではこれよりセーレ選手対ホロ選手の試合を始めます!………試合開始!」
~
私の指示を受けたツヴァイが相手のヤドンの尻尾に噛み付いている。恐らくヤドンには結構ダメージが入っているだろう。…開幕は悪くないといった所か。
「がぶー!」
「あたた!痛いですぞー!」
『おおっとー!!噛み付くが炸裂しているー!!これは効いてるぞー!!私も上司に噛み付いていきたいー!!』
『ジツキちゃん、実況が何時にも増してワイルドですね。首にならないか心配です』
…痛そうに聞こえないのはあのヤドンだからだろうか。まぁ恐らくツヴァイに噛み付かれたヤドンが走り回っているし、相手はエスパータイプ。噛み付くは良いダメージになってそうだ。
「ヤド!念力よ!」
「…むぅ!」
相手のヤドンが走り回っていた足を止めた。…すると尻尾に噛み付いていたツヴァイが宙を浮き、離れた場所の地面に叩き付けられる。
だがまだ大丈夫だ。…先程と同じ形を取る。噛み付くはヤドンに効いてる筈なのだ。その為ツヴァイに指示を出す。
「ツヴァイ、もう一回噛み付くよ」
指示を受けツヴァイが走り出す。
…ツヴァイ?
何処に向かってるの!?
『あら、これは…』
ツヴァイが走り出した方向には観客席への壁しかない。…そっちはヤドンがいる方向ではないというのに。その様子を見て私は止まってとツヴァイに指示を出すが止まる気配もなく…
ゴツーン!!
『混乱してますね』
『…これは痛そうだー!!思わずタマがひゅんってなりました!!私無いですけど!!』
…壁にぶつかった。ツヴァイがその場に倒れる。ぶつかったツヴァイは体を震わせながら起き上がろうとはしている。まだ瀕死ではなさそうだが…
「ツヴァイ、一旦落ち着いて…」
しかしそんな状況を見逃す相手では無かった。状況を見た彼女は必死に尻尾を守っていたヤドンに指示を出した。その指示を受けヤドンは尻尾への警戒を解き、足を止めた。
「念力よ!」
「…ツヴァイ!」
私はツヴァイに呼び掛けるがその甲斐はなく、ふらふらしているツヴァイが念力を食らい、宙に浮き再び地面に叩き付けられる。…そしてツヴァイが目を回している。あぁ…
ジャッジのワニノコが戦闘不能の宣言が聞こえる。それに沸き上がる歓声と実況もだ。まさか混乱していたとはね。落ち着いてツヴァイの状態を確認するべきだった…
ツヴァイに心の中で感謝の言葉を述べ、私は次のボールを投げる。…ドライ、頼むわよ!
『ホロ選手二体目の萌えもん、ジュプトルの登場だー!!静かながら溢れんばかりの闘志を感じます!!』
『ですね。気合充分です。ジツキちゃん、その調子で…』
『まるで私を叱るべく目を光らせるヨウちゃんみたいです!!私、震えが止まりません!!』
ゴンッ!…実況音声から鈍器で殴ったような音が聞こえた。そして実況が静かになった。大丈夫かしら、色々な意味で。
「お嬢、指示を」
そんな中、ボールから出たドライは実況など気にせずに落ち着いて周りと対戦相手の萌えもんを見据えている。一方、対戦相手のヤドンとトレーナーは何か話しているようだ。私達には聞き取れないが…一応…
「ドライ、一応あの準備を…違うなら違うで良いわ」
「了解です」
ドライがヤドンに向かっていく。その動きは素早く火炎放射もタイミング次第では避けることも可能だろう。
さて相手の次の手は火炎放射か…
「ヤド、戻りなさい!」
「了解ー」
これだ。
私は読みが当たり、思わず口角が上がる。相手のヤドンがボールの光に吸い込まれようとするその瞬間ドライは更に加速する。その様子にヤドンは疑問を持った様だが…もう遅い。
「…あらら?」
「おい、貴様…」
「家のツヴァイを倒しておいて只で逃げれると思うなよ?」
「…まさか!」
直前にトレーナーの方も気付いた様だが…甘い。ドライの目にも止まらない鋭い手刀がボールに戻るヤドンに襲い掛かる。それを無防備に受けたヤドンは目を回しながらボールへと戻っていった。
『追い討ち、決まりましたね。これはホロ選手一枚上手でした』
目を回して倒れていたヤドンの状況を見たからかヤドン戦闘不能の宣言がジャッジから行われる。
「あらら…まぁライなら大丈夫でしょ」
彼女は二体目をボールから出す。昨日の問題児、ストライクだ。
『さて、セーレ選手の二体目ストライクです。相性は良いですが先程から見えるジュプトルの技量。まだ侮れませんね』
『…うーん、追い討ちがぁ…上司やヨウちゃんやクレームのぉ…』
うっすらとだが先程から静かだったうるさい方の実況の声が聞こえた。まぁそれはどうでもいい。私はストライクの方を見る。
…だが様子がおかしい。相手のストライクはドライを見ると少し怯えているようだ。そしてゆっくりと口を開けた。
「う、ウチがあのジュプトルですかぁ…。まさか…」
「………久し振りだな。あの時のストライク」
ドライがそう応えた。するとストライクの怯えが明確なものに変わった。…あら、知り合いなの?
「…ひいっ!!やっぱりー!マスター、あいつヤバいですって!」
「…強いのは分かってるわよ!でも後貴女だけなんだから頑張りなさい!」
ストライクがトレーナーに泣きついているが、彼女は戦わせる気らしい。するとストライクは渋々だがこちらを向いてくる。…暫くこちらを見るとストライクは話し出す。
「…ん?相手のトレーナーは髭面のおっさんじゃないし…何であのジュプトルが?」
「…あら?知り合いなのあんた達?あんた、交流関係広いわねー」
髭面のおっさん…ケイブさんのことか。その時の知り合いなのね。彼女達の会話を聞きながら私はそんなことを考えていた。ストライクはまだ話を続ける。
「もしかして捨てられた…とか?あんなに仲良さそうだったのに」
「………お嬢、無茶を承知で進言します。サイコカッター、いいですか?」
…ストライクの話を聞き顔に青筋を立てたドライが小声で私に話している。いや、流石に駄目でしょ。怒ってるのは分かるけど…。そんなドライ私は宥めようとするが…
「今度はまな板少女か…まぁあのおっさんよりマシか。マスター、指示を…」
………
「あっ、うん…じゃあ翼で打つを…」
………
………
………
「ドライ、サイコカッターの使用を許可します」
「徹底的に潰しなさい」
私がそう言うとドライは返事もせずに目にも止まらぬスピードでストライクに駆け出し、交差した。…その急な展開に会場に静寂が訪れる。
『………ん?』
『…うーん、もうファンレターはお腹一杯だよぉ…』
そして…
会場の静寂が破られたのは…
ドライ渾身のサイコカッターが急所に当り、ストライクが地に伏せた瞬間だった。