足音はもう止んでいた。
「ハァ…ハァ…もう追手は来てないわね」
私は全力で走っていた足を止め壁に寄りかかる。壁からはひんやりした感触がする。足音はいつからだろうか…もう聞こえなくなっていた。
「…ふぅ、ツヴァイの回復しないとね。ツヴァイ出てきなさい」
呼吸を整えた私はボールのスイッチを押すと中から光と共に萌えもんであるワニノコのツヴァイが現れた。
「…もう大丈夫なの?ねーちゃん」
ボールから出てきたツヴァイは震えた声で私に語りかけてくる。やはりまだ不安なのだろう。そんな彼女を不安にさせないように優しく話す。
「…多分ね。ほら、回復してあげるから」
ツヴァイはそんな私の姿を見て疑問に思ったのだろう。そのまま浮かんだ疑問を私に投げかけてくる。
「…ねーちゃん、その格好どうしたの?いつものは?」
「…いつものはね、もう着ないわ。これからはこの服装でいるわ。…どう?似合うしら?」
「…うん」
今の私は活動的なピクニックガールの服装をしていた。これは普段からは考えられない服装だからツヴァイはこのことを聞いてきたのだろう。幸いなのはこの服装が非常に動きやすいものであったということか。見た目も悪くない。
私はポケットに入っていた傷薬をツヴァイに使った。これでとりあえずは大丈夫だろう。傷の治療が終わるとツヴァイはおずおずとした調子で私に聞いてくる。
「ねーちゃん、ここ何処?」
「ごめんね。私もよく分からないの。新しく出来た洞窟…?だったかしら」
こんなよく分からない所まで逃げなければいけなかったのか。ふと私はそう考える。…まぁ結果として追手を撒くことが出来たのだ。上々だろう。私は頭の中で考えを自己完結させる。それよりもここからだ。ここから進まなければならない。
「恐らくここには野生の萌えもんも出るでしょね。でも私達はここを進むしかないわ。ツヴァイ…付いてきてね」
「…うん。ねーちゃんは私は守るよ、ツヴァイ頑張る!」
ツヴァイはぴょんぴょん跳ねている。その無邪気さに私は思わず微笑む。
「ありがと。でも無理はしないでね。よくある洞窟の萌えもんの中なら…イシツブテとかはあんたには危険だわ。あまり戦わずにね…?」
「うーん、電気効かないからね。いないと良いけど…」
ツヴァイは手からパチパチと電気を出す。
…一般的なワニノコからは考えられない光景だ。
ツヴァイ…このワニノコはデルタ種と言われているホロン地方特有の個体なのだ。デルタ種は一般的な萌えもんと異なるタイプを持つことが多い。…しかし最近ではある理由でデルタ種は減少を続けており、デルタ種はかなり希少な個体であると言えるだろう。
………まぁその理由が原因で私達は追手から逃げることになり、こんな得体の知れない洞窟へと逃げ込むことになったのだが…
「逃げてばかりじゃ駄目よね。何処で落ち着いたらまた…」
「?ねーちゃんどうしたの?行かないの?」
私が考え込んでいるとツヴァイがこちらを見上げて私に聞いてくる。あ、そうね。今はとりあえず行動しないと…
「ん、あんた達の仲間にも会わないとねって。ツヴァイ、ちょっと我慢してね。またきっと一緒に…ね?」
私はそう言い、ツヴァイの頭を撫でる。するとツヴァイは元気良く返事をしてくれる。
「うん!」
「じゃ行きましょうか。行き先が分からないこの洞窟をね」
行き先が分からなくても進むしかない。今は進むこと…
それが私…ホロの目的であるかつて一緒にいたデルタ種の萌えもん達とまた暮らすという目標の第一歩になるのだから。
ツヴァイ(ワニノコ)
性格:さみしがりや
ホロン地方特有のデルタ種の萌えもん。デルタ種の萌えもんは一般的な萌えもんとはタイプが異なることが多く、ワニノコは水タイプではなく電気タイプである。甘えん坊であり、トレーナーのホロに甘えることが多い。ビジュアルとしては青髪の中に赤のメッシュが入ったロングヘアー、青と少し赤が混じった服を着ている。