「ねぇ、ライ」
私は段々道の中腹辺りでライに話を振る。今、話を振るのはライだけだ。何故なら…
「何?マスター?」
「貴女一人だけで下のトレーナー達と戦えるかしら?」
「…キツいねー」
ライは段差の下のトレーナー達の方を一瞥するとそう言った。
そうよねー。でも今戦えるのはライだけなのよ。………エレ?エレはね…
「…んー。むにゃむにゃ…モーモーミルク天国だぁ…」
横で地面に寝そべっている眠り状態のエレを見る。何度か顔を叩いたが起きる気配は無い。…私は諦めてエレをボールに戻す。
「何で最後に催眠術食らっちゃうかなぁ…。まぁ私にも問題はあるんだけど」
先程のバトルを思い出す。エレは相手を倒す直前に油断し相手のニョロゾから催眠術を食らってしまった。絶対水タイプ相手だからって調子に乗ったわね。エレと…多分私も。そんなことを考えていると後ろから人の声がする。
「すみません。通りますね」
「あ、すみません…」
後ろからの声に私は横に動く。その声の主は薄い紺色の髪に頭から大きな一本の角を生やしていた。それに続き、赤ジャージの男と豪勢な赤服にロングのブロンド髪の女性が通る。
ってあの子は萌えもんか。普通の人間には角生えてないもんね。あら、でもどっかで…そう私が考えていると突然ライは前方の集団の紺髪の子に声をかける。
「…あ、ヘラちゃん!」
「ん?げっ…ストライク…」
声を掛けられた彼女は露骨に嫌そうな表情をする。………あ、思い出した。この人達はあれだ。
ドラ君と同じコガネルーキーカップ三位のトレーナーとその萌えもんだ。以前私は彼と一度コガネルーキーカップの予選で戦い、無事勝利したが結局本選では戦うことは無かった。
そしてこのライに声をかけられ、露骨に嫌そうな表情をしている萌えもん…
ヘラクロスは彼…赤ジャージの男の虫取り大会優勝の証だ。
~
「…で何?まだ私は怒ってるんだけど」
「いやー、ヘラちゃん。そんなカリカリしないでよー。あの時のオボンは悪かったって。あの勝ち誇った顔からのオボン盗られた時の顔の変わり様は…ププッ」
「…よし、お前をこの段差から突き落としてやる」
ライがヘラクロスと話をしている。話の内容は予選での試合のことだろうか。そして二人は話が終わった様でお互いに戦闘態勢に入っている。そんな様子を私とヘラクロスのトレーナーは苦笑して見ていた。
「…あの時はすみませんでした」
私は深々と目の前の男に頭を下げる。それに対し男は全く気にしていない様子だ。
「大丈夫ですよ。でも泥棒の技とは驚きました。結局本選でも活躍してた技ですから僕の読み不足でした」
彼は爽やかな顔でそう言う。別に狙ってやった訳じゃないのよね。
「…落ちろっ!」「…見切りー」「ちっ、相変わらずちょこまかと…」
戦うライとヘラクロスを尻目に私は男の方を見る。…何かが足りない。ふと私はそう思った。前に予選で会った時に比べて何かが足りないのだ。んー…
「…御主人様、そろそろお止めになった方が宜しいのでは?」
「…うん、そうだね」
男の後ろにいた萌えもんが男に声を掛ける。この子は………赤服にブロンド…いや、でも予選の時と大違いよ。予選の時はヤドに怯えて男にくっついてたあの子とは。でも一応聞いてみるか。私は自分の中の予想を男に話す。
「…もしかしてあのガーディ?」
そう言うとその萌えもんが優雅に笑い、私の言葉を訂正した。
「あら、あの頃の私はお忘れ下さいな」
「今の私はウインディですわ」
ウインディ…ガーディから進化したのか。…しかし進化すると外面はともかく内面までこうも変わるのか。彼のウインディを見るとそう思う。
「おっ、分かってくれたか!コイツも全然変わってしまってなー。ガーディの頃は俺に噛み付いたりしてたのになぁ…」
「…ふふ、あの頃の事はお忘れ下さい。御主人様」
ウインディは優雅に笑い話を聞いている。確かに彼に噛み付いたりしたわね。あ…それだ。さっき何かが足りないと思ったのは。
「前みたいに水タイプに怯えて引っ付いたりや構って欲しくて噛み付いたりもしなくなってな…」
「ご、御主人様…?そろそろ…」
彼の話にウインディの優雅な表情が崩れ始める。
「昔は風呂を嫌がって一緒に入らないと嫌だとか言ったり、寂しいから一緒のベットで寝たりとかもしなくなったなー………」
「お、お戯れはその程度にっ…!」
『結構変わるんだな、進化ってのは』と言う彼の言葉は私の耳に僅かに届いたくらいだ。僅かにした聞こえなかったのは…
「ああっ…御主人様!すみません!御無事でしょうか!?」
彼がウインディに突き飛ばされて段差の下に落ちてからだろう。彼に対して下のトレーナーとその萌えもん達が近付いていく。…無事じゃなさそうよ、ウインディさん。
落ちた彼はその様子に困惑するも、周りにこう言い出す。
「あ、すみません。今萌えもん手元にいなくて…」
それを聞いた下のトレーナーは周りに集まるのを止めて近くにいた一人がアサギの方を指差して何かを彼に話している様だ。…何だ、こうすればバトルにならないのね。私もそれで…
「燕返しっ!」「…おっと」「燕返しっ!!…また見切りとは卑怯な!」「ふふーん」
そう思っていると横で戦っていたライとヘラクロスも段差の下に落ちる。…落ちた際に付近の萌えもんを巻き込んで。その様子に下のトレーナー達は目の色を変えて下に落ちた彼に詰め寄る。
「テメェ、よくも俺のクラブを!バトルじゃコラぁ!」「あぁ、ピカチュウちゃん!…貴方卑怯ですわよ!」「ニャース!大丈夫!?…バトルよ!容赦しないわ!」
あーあ。
無茶苦茶ね。…私は下に落ちた彼に呼びかける。
「ねぇ!えっと…名前何だっけ?」
その周囲に困惑する彼を呼ぶ。その近くには様子を察したのか青ざめるヘラクロスと何処か余裕のあるライがいる。そしてそこに向かう為上から周りの萌えもんを薙ぎ倒しながら近付くウインディが見える。それにより更に状況は悪化する。
「ぼ、僕!?エリトだ!」
「ありがと!私はセーレ!で、エリト君…」
「私と一緒にコイツら倒しましょ!」
その言葉がこの39番道路全体を巻き込んだ乱戦の始まりのゴングになった。
そして…
~
「ふぁぁ…」
「ん?何で皆寝ているのですか?」
薄れゆく私の意識の中、ボールの中のエレの呟きが聞こえる。『あ、あんたは…!』と少し怒りそうになるがそんな余力も今の私には無い。
あー…
…あんたは知らなくて良いのよ。うん。